その森には、姫がいた |
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―外庭で休んでいる人々― 「 おい、お前たち」 「 は、はい王子…!」 荒く息を継ぎながら切羽詰った顔をしている王子に、その場にいた者たちは皆一斉に緊張した面持ちを見せました。どうにも、ダンスの相手を探しているようには見えない様子でしたから。 「 ……ど、どなたかお探しでしょうか?」 一番近くにいた貴族の男が王子に歩み寄り言いました。王子はその者を一瞥した後、周りを見渡しながら言いました。 「 この中でお前たちが普段見かけないような人間がいたら教えてくれ。どうだ、顔見知り以外の者はどれほどいる」 「 ………」 周囲の貴族たちは互いの顔を見合いながら一様に沈黙しています。お喋り好き、噂好きの貴族たちはこの周辺の人間の事なら皆大概の事は知っています。 しかし、その周辺に「見たことのない人間」の姿はないようでした。 「 くそ…っ。外れか!」 ボーンボーンボーン……。 「 はっ!」 その時、0時の刻を示す鐘の音がどこからともなく聞こえてきました。 「 ゆ、雪…!」 『 うふふふふ…あはははは…王子…王子、我がまま王子…!』 「 お、お前…!」 すると遥か上空からあの雪也の母親という女魔法使いの笑い声が王子の耳に届いてきました。 『 残念でしたわね…! タイムリミットよ。あの子の事は、元々縁がなかったと思って忘れる事ね』 「 ふ、ふざけるな! 雪を、雪を出せ…!」 『 王子。勘違いなさっては困る』 姿を隠したまま魔法使いは言いました。 『 私は、王子にもあの子にもちゃんとチャンスを与えてあげた。しかし王子はあの子を見出せず、あの子も王子の前に出る勇気を持てなかった。結ばれる運命にはなかったという事…!』 「 ま、待て…!」 『 私たち親子はあの森を出て、何処か遠くへ行く事にしますわ…。ほほほほ…』 「 ………ッ!」 そうして、それきり女魔法使いの声が聞こえる事はありませんでした。 「 何故…。何故、出てきてくれなかったんだ…」 王子は暫くの間、ただ夜の闇に浮かぶ月の光を眺めたまま、もう何処にもいないであろうあの青年の姿を思って唇を噛みました。 どうやらバッドエンドのようです…。 過去に遡り、他の場所を探してみますか? |
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【おわり】 |