(8)




  ふと目が覚めると、辺りは暗くて。
  如月の寝室にいるのだなということは分かった。自分で着た覚えはないが、如月の寝間着を身に着けていて、身体にはタオルケットを当てていて。
  けれど、当の家主の姿はなかった。

「 如月…?」
  妙に心細かった。
  そして次に、どうしてそばにいないのだろうと腹立たしさを覚えて、龍麻は如月を呼んだ。

  『翡翠』と呼べよ…

  けれど瞬間、行為の最中にそう言った如月の声が頭に響いた。まさか名前で呼ばなければきてくれないのだろうかといぶかしくなってきて、龍麻は悩んだ末に今度は下の名前を小さく口にした。
「 翡翠…」
  もっとも、先刻は嫌というほど呼んでいた名前だ。呼んでみても、今はそれほど抵抗もなかった。
「 翡翠」
  もう一度呼んだ。
  けれど、相変わらず部屋の中は自分の声しか反射しない。
「 ち…くしょ…」
  身体を動かすと、腰に鈍い痛みが走った。顔を歪めて不平の言葉をもらしたが、そのまま寝ている気もせずに、無理に上体を起こした。身体にかかっていたタオルケットがずるりと床に落ちる。
  長い廊下を歩き、龍麻は如月を探した。

『 あっ…や、ああっ…!』
  己の身体がじくじくと熱くなるのを感じた。
『 い、た…っ! やめ…ああっ…!』
  あの時叫んだ声が聞こえる。耳が痛い。
『 龍麻… 』
  あの時呼ばれた。その声も聞こえる。
  嫌だった。やめてほしいと言ったのに。
  如月の熱は徐々に自らの内に侵入してきて、それはひどい痛みを伴って。
  あいつは、ひどい。そう思った。

  それなのに。



『 ひ、すい…っ!』
  あんなに、名前を呼んだ。
『 龍麻…っ 』
  あんなに、呼ばれた。そして、何度も唇を重ねられた。
  ただきつく抱きしめられて、如月に導かれるまま己の身体を揺らした。



「 ……っ」
  思い出しただけで、全身が紅潮するのを龍麻は感じた。うつむきながらただ機械的に足を前へ進めていたから、自分がどこをどう歩いているのかも分からなかった。
「 龍麻」
  呼ばれた時に、やっとはっとして我に返った。
  縁側で、着流し姿の如月がこちらを見ていた。
  月の明かりと向かいの部屋から漏れる明かりとが交錯して、目の前の男はひどく神秘的に見えた。
  また、ずきりと胸が痛む。
「 目が覚めてしまったのか」
「 ……うん」
  如月はどうしていたんだろう。ちらと部屋の中を盗み見ると、読みかけの本が無造作に転がっていた。
  あんな後に読書していたのか? 自分だけがこんな痛みを引きずっていたのだろうか?
  ――そう考えると腹が立った。
「 …何か飲むかい」
  如月がそんな龍麻の心根を読んでいるのかいないのか、そっと訊ねてきた。
  また先んじられて、龍麻は少々居心地が悪くなる。
「 …飲む」
「 じゃあ、待っていてくれ」
  如月はそう言うとすっと立ち上がり、台所の方へと歩いて行ってしまった。
  確かに喉は渇いていたが、頼むつもりはなかった。それよりやっと見つけた本人だったから、そばにいてもらった方が良かったはずなのに。
「 ……もう、めちゃくちゃだ」
  自分が分からなくなってきて、龍麻は泣きたい気持ちになってきた。何て一日だ。男にキスされて、また違う男に、今度は抱かれてしまうなんて。
「 龍麻…これを」
  けれど涙が出そうになった瞬間、如月はもう隣に来ていた。
  透明のグラスに注がれた綺麗な液体を黙って見つめる。
「 レモネードだよ」
「 ……」
  それから如月が差し出すグラスを受け取り、それをこくりと飲み干す。喉に心地良い刺激が当てられ、龍麻はやっとここでほっと息をついた。
  縁側に座りこみ、隣に如月の視線を感じながら、龍麻はグラスにだけ視線を集中させた。月の光にキラキラと反射するその色は、実際美しかった。
「 龍麻。身体は大丈夫か」
「 え…」
  けれど、唐突にそんなことを訊ねられて龍麻は思わず如月を見てしまった。
「 つらくないか。…痛みはあるか」
  同時にさらりと優しく前髪に触れられて、龍麻は瞬時自分が赤面するのが分かった。慌ててその手を払い、視線を逸らした。
「 だ、大丈夫なわけ、ない…っ…」
「 ……」
「 平気なわけないだろっ…。いきなりあんな事、されて」
  そう言った途端、意識していなかったのに涙がこぼれた。ぎくっとして、慌てて新しい言葉を捜した。
「 平然と言うなよ! そんな顔で訊くなよっ! 何なんだよ、お前…!」
「 …すまない」
  如月は龍麻の涙を見たからか心底困ったような顔をして、そっと指で龍麻の涙を掬ってきた。それすらも龍麻は振り払ったのだが。
「 あ、謝ればいいってもんじゃないだろ! 俺は―」
「 だが、君を抱いたことに関して謝るつもりはない」
「 え…」
「 乱暴にしたことは謝る。君の気に入る態度が取れないことにも謝る。でも、龍麻。君を抱いたことは…後悔していない」
「 ……」
「 僕は君を愛しているから。ずっとこれが僕の望みだった。君を抱いて、身体を繋げることが」
「 ろ、露骨に言うな…っ」
  精一杯虚勢を張ってそれだけ言ったが、相手は動じなかった。
「 でもそれが事実だ」
「 ……」
「 君が壬生のことを話す度に、蓬莱寺のことを話す度に…どうにも腹立たしくてね。自分でもどうかしていると思ったよ。でも、己の気持ちに嘘はつけない。たとえ、そんな感情を持つことで飛水の一族として不適格という烙印を押されたとしても」
「 翡翠…」
「 名前で呼んでくれたね」
  如月はここで初めて嬉しそうに笑った。
「 知らなかっただろう? 僕は君が蓬莱寺のことを『京一』と呼ぶことにすら、嫉妬していたんだ。何故僕のことは名前で呼んでくれないんだろうってね」
「 そ、そんなこと…」
「 まったく、情けない話だ…」
  自分にはそんな面をちっとも見せなかったじゃないか。
  龍麻は心の中でそう独りごちながら、改めて目の前の男を見やった。すぐそばにいるこいつは、でもやっぱりカッコ良くて潔くて。
  自分には良いところしか見せない。すごいところしか見せない。
「 …俺は、お前のことそんな風に考えたことなんかない」
  やっと言葉を見つけてそう言った。
「 京一だって、壬生だって。こんな風になりたいなんて思ったことない。俺は、ただ―」
  龍麻は一瞬だけ考えるような仕草をした。
「 ただ…仲間になりたかっただけだ…」
「 分かってる」
「 分かってない…分かってないよ、お前は…っ」
  龍麻は下を向いたまま、搾り出すような声で言った。
「 本当に俺のこと考えていたんなら、あんな風に俺のこと…したりしない。俺は、俺は、お前のことなんか…絶対に好きにならない!」
  そう言った後、自分の中でまた何かが痛むのを感じたが、それを無理に抑え込んで、龍麻は如月の反応を待った。
「 …分かった」
  一間隔置いてから如月はそう答えた。
  龍麻はきっとなって顔を上げた。
「 何だよ…。何だよ、そのセリフは…っ! そんな平気な顔も…するなよ! 俺、俺、お前のことが嫌いだ!」
「 ああ」
「 大嫌いだ!」
「 ……ああ」
「 それは俺のせいかよ? 全部俺が悪いのかよ!」
「 そんなことはない。君は悪くないよ」
  子供をあやすように、如月は淡々と言葉を出した。
「 そうだろ!? ひどい目に遭ったのは、かわいそうなのは俺だろ? 全部お前が悪いんだろ!?」
「 ああ。僕が悪い」
「 本当にそう思っているのかよっ!」
「 思っているよ」
「 本当に!?」
「 ああ」
「 大体…」
  龍麻はちらりと向かいの部屋を眺めて先ほど思っていたことを口にした。
「 よく無理やり人を抱いた後に本なんか読むよな! それに本当に俺のことが好きなら、何で俺が呼んだ時にそばにいなかったんだよ!」
「 呼んだ…? いつ?」
  初めて驚いたような顔を見せて、如月は静かに訊ねた。
「 さっきだよ! 起きたらお前がいなくて…すげーむかついた!」
「 それは…すまなかった」
「 本なんか読んでるからだよ!」
「 いや、形だけだよ。何を書いてあるかなんて、さっぱり分からなかったんだから。龍麻のことばかり考えていたから」
「 ……!」
  困らせるつもりで言った言葉だったのに、結局如月の科白に面食らって一番困ってしまったのは当の龍麻だった。
  どうして良いのか分からず、ただモヤモヤした気持ちだけが空回りをして。
  龍麻は自らの気持ちを鼓舞するかのように、手にしていたグラスを庭に向けて投げつけた。がりん、という鈍い音がして、グラスはまだ中に液体を残したまま、地面の上で粉々になった。
「 もうお前の顔なんか…みたくもない…」
  龍麻は如月の返事を待たずに立ち上がって顔を背けた。身体は熱いままだった。





  一学期を締めくくる期末試験は最悪だった。
  当たり前といえば当たり前だが、身体が重い上に頭もまったく回転してくれない。大体、試験なんてあったのかという程、学校なんてどうでも良いと思っていたのだ。
  ただ、頭に残るのは如月の困ったような顔。それから、揺ぎ無い意思を持った眼で。
「 おい、ひーちゃん」
  放課後になってクラスメイトに呼ばれて顔を上げると、廊下の所にあいつの顔が見えた。
「 京一が話があるんだってよー」
「 ……何」
  席から立たずに龍麻がそう言うと、京一の方は焦ったようになりながら、けれど威張って言った。
「 こっちに来いよ」
「 何の用だよ」
  今はこいつに構っていられるほど、余裕はない。正直、龍麻はそう思っていた。顔も上げずに素っ気無い態度をとった。
  けれども当の京一も負けていない。教室に入ってこようとはしないのだが、ムキになって声を張り上げた。
「 いいのか!? ホントに? ここで言うぞ!」
「 何をだよ…」
「 あーそーかよ! じゃ、言ってやる! 来ないならホントに言うぞ!」
「 ……」
「 ホントのホントに言うぞ、このやろー!」
「 …馬鹿やろう…」
「 おーれーはー、きーのーおー!」
「 ああ行くよ、このアホ猿! 待ってろ!」
  負けて、龍麻は椅子を蹴って立ち上がっていた。
  途端、京一の大声と叫ぶ龍麻にあっけにとられたようなA組の生徒たちの顔が視界に映った。龍麻は少しだけ赤面しながら、京一と連れ立って外へ出て行った。





「 何の用だよ、ホモ野郎」
「 な、何だとー!」
  校舎裏でまず龍麻がそう切り出したことに、京一は面食らいながらもとりあえずは抗議の声を上げた。
「 違うのか、え? いきなり人にキスしといてよ!」
「 ば、馬鹿野郎! 俺はホモじゃねえ! 俺のオネェチャン好きは周囲も認めるほどのだな…っ!」
「 じゃ、お前は目が悪いのか。俺がそのオネェチャンに見えて、間違ってちゅーしちまったって?」
「 …おい、緋勇。お前ってそんな性格だったっけ…?」
「 うるさいな、俺は今日はイライラしてんだよ!」
  それは「今日も」と言った方が正確ではあったのだが。
  とにかく、確かに、こんな自分はいつもの自分と違うことくらいは分かっていた。胸のもやもやをただこの目の前の京一に当たっているだけだ。そんなことは分かっている。
  だが、そもそもの発端はこいつにもあるような気がして、龍麻は自分の怒りを引っ込めようとはしなかった。
「 話って何なんだよ! くだらない事なら俺は帰るぞ」
「 …やっぱ、いい…」
「 はあ?」
  突然テンションが下がった京一に、龍麻は戸惑って聞き返した。
  京一は京一で、やや茫然としながら龍麻のことを見つめたままあっさりと言った。
「 やっぱ、俺、ホモでもいいわ。お前のことが好きだからよ…」
「 …なっ!」
「 別にいいって言ってんだよ。お前に何言われようと」
「 な、何いきなり真面目な顔してんだよ」
「 昨日だな、その…。お前の唇を貰ってだな。まあ、分かったっつーか…」
「 や、やめろ、そういう言い方をするのは!」
  京一と一緒になって赤面した龍麻が手で自分の口を抑えながら言った。
「 ば、馬鹿! お前も赤くなってんじゃねー! 言ってる俺の方が恥ずかしいんだから!」
  京一は焦ったように龍麻を叱咤してから、尚も続けた。
「 けど、気づいちまったもんは仕方ねえ! 俺も男だ。俺は俺の気持ちを認めてやることにした。緋勇、俺はお前のことが好きだ」
「 ……」
「 お前が如月とか、他の奴と仲良くしてると腹が立ってよ…。どうにもイラつくんだな」
「 そ、そんな事……」
「 でよ。俺、お前の近くにいたいんだよ。これからは。だからってわけでもねーけど、俺、お前に話さなきゃならないことがある。だから呼んだ」
「 ……?」
「 俺、お前にずっと隠してたことがあんだよ」
「 え…?」
  京一の言葉に、龍麻はどきんとした。
「 本当はずっと言いたかった。言って、だからお前に『危ないことはするな』ってちゃんと言ってやりたかった。けど、できなかった。悪かった」
「 な、何言ってるんだ…?」
「 俺の近くにいれば間違いなくお前は傷つくことになるから、本当は何もかも片付けてから言おうかとも思ったんだが、それだとそれまでお前をそばに置いておけねえし。そんなの我慢できねえし。だから言う!」
「 ……」
「 あ、けど安心しろ! お前のことは俺がちゃんと護ってやるから!」
  京一が自分の《力》のことを言おうとしていることは明白だった。
  ずっと待っていた言葉。龍麻は声を出せなかった。
  けれど、先走った京一は、いきなり「その話」を飛ばした。
「 …それでだな。そういう俺のことを何もかも分かった上で、お前に言いたい! 緋勇、俺と付き合ってくれ!」
「 ……え?」
「 だから! 俺はこれからはお前には一切隠し事をしねえ! 何でも話す! だから、お前もそういう俺を丸ごと好きになって、付き合ってくれ」
「 付き合う…って」
  訳が分からなくなって龍麻はただ京一の言葉を反復した。京一はそんな龍麻の様子にまったく気づいていない。
「 そうだ! フツーにいつも一緒にいんだよ。できれば昨日みたいに、キスとかもしてえ! 昨日、あの後よっく考えたんだけどよ。あん時俺は、嫌どころか、かなり良かったと感じた!」

  その…お前とのキスがよ…。

  ぽりぽりと鼻の頭を掻いて、京一は決まりが悪そうにそう言った。
  龍麻は京一のあまりの言い様に一瞬ぽかんとしてしまったのだが、その後すぐに浮かんだ言葉が身体中に染み渡って、何やらおかしな気分になってきた。
  馬鹿だ。こいつは、本当の馬鹿だ。
「 ぷっ…」
「 んん?」
「 ……京一って、周りから『馬鹿』って言われない?」
「 は、はあ〜!?」
「 そ、んな告白の仕方があるかよ…。全然話がつながってないじゃん…。頭に浮かんだこと、そのまま言ってるだけだろ」
「 わ、悪いかよ!」
「 だって俺に隠してた事ってやつを言わないうちに、いきなり『付き合え』だぜ?」
「 あっ! あ、そ、そか! 言うの忘れてたな!」
  京一ははっとしたようになって慌てたようになった。けれど、突然あははと笑い出す龍麻に、京一も一瞬はぽかんとしたのだが、やがて合わせるように、意味も分からずへへへと笑い返した。
「 …俺も、さ。お前に言いたいこと、ある」
  そしてしばらくしてから、龍麻は笑いを収めて京一に言った。
  さらに、背後からずっとこちらの様子を伺っていた男にも声をかけた。
「 なあ、醍醐にもさ。聞いてほしいんだ」
  突然親友の名前が出たことで、京一はすっかり狼狽した。見ると、いつからいたのだろう、醍醐が校舎の陰から所在なげに出てくるのが見えた。
「 あ、ああ! 醍醐、てめー!」
「 すっ! すまない、別に盗み聞きするつもりは…いや、お前が俺たちのこの《力》のことをどうしても緋勇に話すというから心配になってな」
「 だ、だからって、お前ってそういう奴かよー!」
「 まあ、いいじゃない」
  龍麻がなだめるように京一の肩をぽんと叩いた。
「 それよりさ。これから俺にちょっと付き合わない? 一緒に下りようよ」
「 え…? いや、どこへだ?」
「 あそこ」
  龍麻はそう言って、旧校舎のある方向を指で指し示した。





「 ねえねえ葵ー? 醍醐君たちは? もう帰っちゃったのかな?」
「 いいえ、鞄が置いてあるからまだだと思うわ。多分、男の子たちだけで遊びに行ったんじゃないかしら」
「 えー? どこへー? ズッルーイ! ボクたちも誘ってくれればいいのにさ」
  ふてくされたように頬を膨らませる小蒔に、美里はやんわりと笑んだ。
「 そうね。でも…これで私たちにまた新しい仲間が…ううん、本来そうなるべきだった人が加わることになると思うわ」
「 えー? それってもしかして緋勇クンのこと?」
「 まあ、小蒔…あなた、知っていたの?」
「 っていうかさ。京一ってば、うるっさいじゃん、緋勇クンのことになると。あいつ絶対前世とかで緋勇クンのおっかけとかやってたに違いないよ」
「 うふふ、小蒔ったら」
「 それにあの馬鹿のことはともかく、彼はボクたちとは深いつながりがある人なんじゃないかってことは、前から思ってたし…。緋勇クンがボクたちみたいな《力》があることも、何となくだけど分かってたよ。でも、何だか訊くのが怖かったんだ。もし違っていて、緋勇クンが普通の高校生だったら、ボクたちの戦いに巻き込むわけにはいかないだろ? それにもし彼が自ら自分の力を隠しているのなら、尚更だったし」
「 そうね…」
「 でも、京一だけじゃなくて、葵まで彼のこと気にしているからさ。何か他の人たちみたいに…雨紋君とか舞子さんみたいに、いつか緋勇クンもボクたちの仲間になるんじゃないかって予感はあったんだ」
「 私もよ。彼を見た時から…私、何かとても強い絆みたいなものを感じていたもの。それこそ、京一君なんかとは比べ物にならないほどの絆をね」
「 へ? あ、葵?」
「 ミサちゃんの占いでも出ていたの。私と彼は運命の相手だって…。なのにきっと愛の障害よね、こんなに彼との出会いが遅れてしまったのは。多くの壁があってこその恋だものね…」
「 あの、もしもし?」
「 まず共に戦う仲間になったら、うんとお近づきになって優秀な者同士、お勉強の話なんかもして…。うふふ。もうすぐ夏休みだから、プールにでも行って、私の可愛らしい水着姿を見せるなんていうのも素敵よね…」
  ぶつぶつと自分モードに入り始めた学園のアイドル・美里葵を、小蒔は半ば慣れたような目で見つめつつも、呆れたようにつぶやいた。
「 ボクたちが、何で緋勇クンと同じクラスになれなかったのか…分かったような気がするよ」
  多分、多くの過酷な宿命を背負っているのであろう龍麻に、これ以上の負担をかけないため、神さまが考慮してくださったのではないだろうか。
  しかし、そんな考えは親友には口が裂けても言えない小蒔なのであった。



To be contunued…



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