(27)



  鍛錬を開始した当初こそ物珍しさから「今日は何階まで行った」などと数えていた京一も、ここ最近では自分がどれほど深い位置まで潜ったかをいちいち考えたりはしなかった。奥へ奥へと突き進むにつれ増してゆく異形の数や強さが面白くて、ただその事にのみ夢中だった。まるでゲーム感覚だ。一つ間違えれば命を失いかねない場所だというのに、京一は己の限界が一体何処にあるのか、それを探る事が楽しくて仕方なかったのだ。
  龍麻といる時間が増え始めたあたりからはあまり無茶な潜り方もしなくなったが、力をつけると旧校舎の地下階段もニ段或いは三段飛ばしで落ちて行く事にも躊躇いがなくなった。
  龍麻からはいつも「潜る時は一階ずつゆっくり下りるんだよ」などと言われていたのに。
「 あいつは……どこまで潜って行ったんだ」
  もう大分深い所まで下りてきたはずなのに、京一のその視界に龍麻らしき姿は見当たらなかった。
  常人ならばこの広大な暗闇の中で人一人探すのは大変だろう。けれど京一には龍麻の氣を探し当てる自信があったし、また龍麻も自分の氣に気づけば姿を現してくれるだろうという想いがあった。
  だから「ここは違う」と思えばまたどんどんと下へ向かって落ちて行く。他には何も目に入らない、他の事などどうでも良かった。
「 ……妙だな」
  それでもやがてその異変に気づいた時、京一はさすがにぴたりと足を止めた。
  いつもならここまで深部に到達すれば強大な異形が現れたり薄気味の悪い咆哮があちこちから聞こえてくるはずだ。
  しかし周りは恐ろしい程に静かだった。
  強大な異形どころか小さな羽虫一匹の姿とて見当たらない。
「 何でだ……」
  美里は龍麻が旧校舎へ潜る度に異形の数は増えると言っていたし、実際龍麻がそれらを引き寄せるものを持っているというのも何となく分かる。
  けれど今のこれは全く逆の状況だ。辺りはあまりに無声で、無風で。そしてそれが余計に京一の不安を煽った。
「 龍麻!」
  堪らずに声をあげたが、京一のそれは虚しく周辺の岩壁に吸い込まれ消えていくだけだった。
「 龍麻! いるんだろうが! 出て来いよ!」
  それでも堪らずに京一は何度か声を張り上げ、龍麻の名を呼んだ。犬神の言う事など信じられない。龍麻がもういないとか、自分と戦わない為に自らここへ落ちていったとか、そんな事。
「 龍麻!」
  そんな事をしなくてもどうにかなるはずだ。何をどうして良いかは分からないけれど、「何も出来ない」という事など絶対にない。何故なら自分たちはこんなにも想いあっていて戦う事など望んでいないから。…京一と龍麻の互いに対する「想い」は全く別のものではあるが、それでも「戦いたくない」というそれだけは間違いのない事実なのだから。
  何故龍麻が姿を消さなければならない? 絶対に納得がいかない。
「 …くそっ! もっと下へ潜るか…!」
  けれど京一がそう舌を打って他へ移動しようと踵を返した時だ。

『 カエレ………』

  誰かの声が聞こえた。
「 誰だ!?」
『 カエレ……クル……コナイデ……シンデ…シ…ウ……』
「 な…!? 何だ!? 誰だ、おい!?」
  龍麻の声ではない。
  それでも明らかに「人語」を発しているその声の主は、京一の耳と言うよりは脳に直接語り掛けてくるようなシグナルを発し、しきりに「帰れ」と繰り返していた。
  辺りを見回しても人の姿も異形の姿も見えないのに。
「 チィッ…! おいッ!」
  焦れた想いがして京一は持っていた木刀をブンと一振りした。
「 誰だか知らねェが言いたい事あんならはっきり言えや! 俺はなぁ、今すげえ急いでんだよ! それとも、テメエが龍麻の居所を知ってるのか!?」
『 ボクハ……ボクハ……ボクガ……ツマ……』
「 あ!? 聞こえねえ、何だっ……」
  けれど京一がぼうとする雑音混じりのような声に耳を澄まそうと両手を己の耳に当てた直後、だ。

『 コナイデ……クルナ………ジャマ、ダ…!!』

「 がっ!?」
  突然京一の胃に激しい衝撃が襲った。と、同時に姿の見えない何ものかに思い切り殴られたかのように身体を吹っ飛ばされ、後方の岩壁に全身をしこたま激突させた。
「 ぐはっ…」
  幸いすぐに身体に力を入れてその衝撃を和らげたものの、攻撃の出所が分からないのは厄介だった。どこから警戒して良いか分からないまま、京一はとりあえず受身の姿勢を取り、上体を整えた。
「 !?」
  そうして辺りに目を配りかけた直後、京一は前方に見えたそれに驚愕で固まった。
  何も誰もいなかった、そのはずなのに。
「 な……?」
  目の前には10人近くの人影がずらりとあり、そしてそれは皆が皆、京一のよく知る者たちだった。
  しかもその中央で膝をついている男は。
「 龍麻、大丈夫!?」
「 ひーちゃん!!」
「 うん。俺は平気…。みんなは?」
  京一が唖然としている中、前方にいた人間たちはひどく心配したような声を出してその中心人物―龍麻―の顔色を窺い、しきりに声を掛けていた。
  美里、桜井、それに醍醐。如月や壬生、村雨らもいる。見知った仲間たちがどこか疲弊したような龍麻の周りに群がって、龍麻が立ち上がるのをハラハラしたような表情で見守っているのだ。
  その期待に沿うように、やがて龍麻は立ち上がってゆっくりと笑った。
  それを見つめている京一の存在にはまるで気づいていない風だ。
「 もう大丈夫だね。みんな、怪我はない?」
  その言葉に桜井が一番に龍麻の腕に縋りついて答えた。
「 ボクたちは全然大丈夫だよッ! 今回もひーちゃんが全部やっつけちゃったね。凄いよひーちゃん!」
「 いや…皆の援護があったから」
「 やーん、舞子もダーリンに抱きつく〜!」
  岩山病院の看護師である高見沢が桜井に負けじと反対側の龍麻の手を取って甘えている。そうして彼女もしきりと龍麻が倒したらしい敵の事を話し、皆が無事である事を喜んでいた。そして後の仲間たちも皆口々に龍麻の活躍を讃え、けれど一方で「あまり無茶をするな」と声を掛けていた。
  龍麻はそんな彼らの労わりの言葉に微笑し、頷いていた。
「 うん。でも俺は大丈夫だから。皆こそあんまり無理をして前方に出ないでよ? 危険なんだから」

  ……ジャマ、ナンダヨ。

「 !?」
  不意に聞こえたその声に京一はハッとして息を呑んだ。
「 何だ…?」
  けれど、その台詞に反応した者はいない。龍麻の仲間たち…桜井や高見沢らは依然として龍麻にくっついたままで、そして当の龍麻も笑っている。本当に優し気な表情だ。
  とても「そんな事」を言ったとは思えない。

  オマエラナンカ、イナクテイイ。

「 な…っ」
  けれど今度ははっきりと聞こえた。
  そして誰の声かもはっきりと分かった。
「 た…龍麻…?」
  思わずその名を口にし、京一は一歩二歩と彼らのいる場所へと近づいた。確かに今の台詞は龍麻が発したものだ。仲間たちには聞こえていないようだが、そうするとこれは龍麻の思念なのだろうか?
( 俺にだけ聞こえた…?)

  「オマエラ」って誰だ?
  「ジャマダ」って一体誰の事を言ってる?

「 龍麻……」
  遂に京一は龍麻のすぐ傍に立ち尽くし、今度は確実に相手に向けて声を発した。どうやら京一の姿は周りの者には見えていないらしい。こんな至近距離にいるのに誰も京一を見ようとしない。皆、龍麻にだけ気を取られている。

  そして龍麻もまた―――。

「 俺は大丈夫だから。皆、もう行こう。あまり騒ぎになる前にここを退かなくちゃ」
「 龍…」
  龍麻も京一の姿には気づいていないようだった。ゆっくりと歩を進めると仲間を伴って京一から背を向ける。
「 お、おい…」
  焦って何処へ行くのだというように京一が片手を挙げかけると、しかしその直後、再び先刻のようなドンという衝撃が背中を襲った。
「 く…!」
  ただ幸い、今度の攻撃は弱かった。京一は怯む事なく振り返り、その意味不明な風圧に立ち向かおうと剣を向けた。
  けれどそこには……。
「 あ…」
「 見えるわけないよ」

  そこには龍麻が立っていた。

「 龍……うっ!?」
  声を上げ近寄ろうとした瞬間、龍麻がさっとそんな京一の胸を指差した。
「 な…」
  すると京一はそのまま金縛りにあったように身体を動かせなくなった。
「 くっ……んだよ…!」
「 京一が見えるわけないよ」
  途惑う京一に構わず龍麻は静かな声で繰り返した。
「 今のは、過去の映像だよ。俺たちが柳生と戦っていた過去の。京一がいなかった頃の」
「 過去…?」
「 俺はいつも思ってた。仲間なんていらない、邪魔なだけだし余計に神経使うだけだから、どっか行っててくれって」
  そう言う龍麻の表情には何も映ってはいなかった。それどころか存在が希薄だ。まるで身体が透けて…否、実際に透けているのだ。龍麻の幻影を見ているのだろうかと京一は何度か瞬きをしたが、身体が麻痺して言う事を利かないせいか、視界もあまりはっきりとは定まらなかった。腕も全く上がらない。木刀だけは意地でも離さなかったが。
「 京一」
  龍麻はそんな京一を見つめながら続けた。
「 皆は俺を助けてるつもりだったのかもしれないけど、本当鬱陶しいもんだよ。強い敵の時は特にそう。力の足りない奴が傍にいたって、足を引っ張られるだけだろう? そいつらを護りながら強い敵も倒すなんて…。やってられないよ、何で俺ばっかりそんな荷物背負わなくちゃいけないんだよ?」
「 龍麻……」
「 陰の氣に囚われた奴だってそうだよ。そんなの自業自得じゃないか。弱いからそんな事になるんだ。だから悪霊に取り憑かれて自分失くして鬼みたいになっちゃったわけだろ。そんなの俺の知った事じゃないよ。勝手に死ねばいい。何で俺が助けてやらなくちゃならないんだよ。何でそいつから出してやった悪霊、全部俺が引き受けなくちゃなんないんだよ。全部俺が取り込んでやったから、あいつら助かったんだ。俺ばっかりどんどん身体重くなってきつくなってさ。やってらんないよ」
「 おい…龍麻……」
「 京一が憎い」
  掠れた声で必死に呼ぶ京一の声は届いていないのだろうか。龍麻はただ一方的に喋っていた。
「 今頃お前みたいなのが現れて、遅いんだよ。あの時…さっき見せたあの場面…なあ、もしお前がいてくれたら? 俺と一緒に戦ってくれてたら、凄く楽だったろうな。俺ばっかり背負わなくて良かった。お前にも半分持ってもらえたもん。俺はお前を待ってたんだ。なのにお前は…今頃来るなよ、今頃来るくらいなら来るなよ。こんなになっちゃった俺を笑いに来たんだろ」
「 おいって…呼んでんだよ…。龍麻……」
「 俺、柳生に斬られた時、もう死ぬのかなって思った。でも全然怖くなかった。だって俺はその前にとっくに死んでたからさ」
  俺はもうとっくに死んでるんだよ……そう言っていた龍麻の顔が瞬時京一の脳裏に蘇った。ぎりと唇を噛む。金縛りになどあっている場合ではない。
  もう絶対にあんな顔はさせないと誓ったのに。
「 どうでもいいって思ってた」
  龍麻はまだ喋っている。
「 何もかもどうでもいいって。そう思いながら身体だけ動かしてて、がむしゃらに暴れて戦って。身体…辛くて。でも、誰にも言えなくて」
「 おい…龍麻」
「 そしたらさ…そんなのやってたら、知らない間に救世主だよ。笑っちゃうだろ? 本当、何なんだそれ。俺の意思はもうそこにはなかったのに」
「 龍麻ァーッ! テメエ、いい加減にしろッ!」
  めいっぱい叫んだ京一は気づけば無理矢理に腕を振り上げていた。
「 ぐおおお!!」
  握っていた木刀も強引に頭上にかざす。金縛りが解けたという感覚はなかったが、いつだったかまだ《力》に目醒めていなかった頃に力任せに異形を倒した、あの時の感覚によく似ていた。
「 ごちゃごちゃ言ってねえで、俺んとこ来い、龍麻!」
「 ………」
「 遅くなんかねェ! お前は俺が助けてやる!」
「 京一」
  言いながらもう走り出していた京一に、しかし目の前の龍麻はやはり静かだった。
「 京一」
  龍麻の姿がどんどん薄くなっていく。消えてしまう、そう思った瞬間、京一の耳に大好きだと思っていた龍麻の綺麗な声が響いた。

「 俺がやった事は単なる人殺しだよ」

「 うっ…!?」
  龍麻を捕まえた――そう思った途端、その細い身体はパリンと割れるように飛散し、消えた。
  そうして京一がその事に衝撃を受ける間もなく、突如としてゴゴゴゴという重い地鳴りと共に地面が揺れ始め、周囲の岩壁が一斉に崩れ始めた。
「 なっ…」


《 グオオォォ―――――》 


  そしてそこから現れたのは漆黒の巨大な異形だ。否、竜…と言った方が良いだろう。勿論京一も現物を見たのは初めてだが、それはおとぎ話に出てくるそれそのものだった。
  鋭い鉤爪に牙、角。大蛇のように長い身体には硬い鱗がびっしりと生え揃っている。鬼のように爛々とした眼はそれに見つめられているだけで力を奪われてしまいそうだ。そしてここは奥まった地下だというのに、その竜の周りにだけ暗雲が生まれ、雷のようなものが発生している。
「 ……ッ」
  腹の底にまで響き渡る咆哮にさすがの京一も冷たい汗が流れた。 
「 冗談きついぜ……」
  あれが龍麻とは思えない。けれど、たった今龍麻が立っていたそこからコイツは現れた。無関係とも思えない。犬神の「このまま行っても竜に喰われるだけ」という言葉も脳裏を過ぎる。
「 おい…龍麻。…何なんだよ」
  呼びかけても答えなどないのは分かっていた。けれど黙っているのも耐えられそうになかった。ともすれば沈黙した瞬間、目の前の生物に襲い掛かられ終わってしまうような予感もあった。こんな巨大な相手に間合いも何もあったものではないし、今はただ恐れを捨て、隙を作らず、不敵に毒づいて。
  そう振る舞っていなければ心が折れてしまいそうだった。
「 こいつを斬らなきゃ…さすがに俺は死ぬよな」
  そもそも斬れるのかも怪しいが、と思いながら京一は強がった笑みを浮かべた。

《 グオオオォォォ……》

  竜がまた啼いた。京一を見つめている。勿論友好的なそれではない。禍々しいと感じられるものがありとあらゆるところから発せられているようだ。そして気づけばその竜の周りには先ほどからちっとも見当たらないと思っていた異形が獣に群がる蚤か蛭のように纏わりついていた。竜があまりに巨大な為、異形は豆粒ほどの大きさに見えた…が、その姿はとても正視できるものではなかった。
「 こんな世界……普通じゃ、ねェよな」
  カラカラになった喉を無理矢理ごくりと鳴らしてから京一は言った。
「 普通じゃねえ…」


  けど、龍麻はずっと「それ」を観ていたのだろう。


「 ……ハッ」
  そう思った瞬間、何故か京一の身体からは力が抜けた。張り詰めていたものを自分から抜いたのだったが、しかしその事を京一自身自覚してはいなかった。
  そして京一は腹を決めた。
  竜が龍麻なのかは分からない。けれどそれならば戦ってみるだけだ。そうすれば分かる。どんな姿になっていようが龍麻なら自分は分かるし、龍麻も自分に気づくだろう。根拠はないがそれは確信だった。
「 おい竜さんよ…。ちっと痛ェが覚悟しろよ?」

《 グオオオォォ…ッ!》
 
  竜の眼が赤く煌いた。
  京一から殺気が放たれたのを感じ取ったようだ。初めて鋭い動きを見せ、竜は腕を振り上げるとカッと大きな口を開けて青白い炎を出してきた。
「 うおっ…」
  京一は高く飛んでその攻撃を避けたが、竜に纏わり憑いていた異形は全て霧散し消滅した。竜が発した氣だけで蒸発してしまったようだ。
「 何てむちゃくちゃな氣だよ…。だが、俺も行くぜ!」
  京一は飛んだ状態のまま剣を振り上げると竜の頭目掛けてその剣を閃かせた。
「 剣掌、旋!」
《 ガアアアアァァ!!》
「 かってぇ!!」
  一度は頭の上に着地したものの、手ごたえを感じずに京一はすぐさま地面に飛び降りた。竜は怒っているようだが、京一自身はその攻撃に大したダメージを与えた感覚を得られなかった。
「 とんでもねェぜ…」
  弱点を探るならまずは頭部かとも思ったが、空振りのようだ。竜が激しく炎を吐き出すのを再び忙しなく避けながら、京一は次に腕、足、尾と手当たり次第に攻撃を仕掛けてみた。
  しかしどれもほんの少しのダメージを与えているだけに過ぎない。
「 こりゃ本気でやべェかもな」
  が、京一はそう呟きつつも「やはりこの竜は龍麻ではないだろう」という確信を強めていた。こうして何度も攻撃を仕掛け、また向こうも向かってきているのに、そこには何も感じ入るところはない。また、竜は確かに脅威だが、本当に思考があるのかという点については疑わしい。京一を敵とは見なしているようだが、何をどうしたら相手を殺せるのかといった事を考えながら炎を吐いているとはとても思えなかった。
  ただ本能に任せて動いている木偶人形のようにすら見える。
「 そんな相手を倒せない俺も情けないけどな…」
  次第に息を上げていきながら京一はそれでも尚独りの場所で強がって見せた。集中力を欠いている。相手が狡猾でない分、つい龍麻の事を考えてしまい気が乱れた。
  龍麻は一体何処にいるのか。こうしている間にも「陰の器」とやらになってしまっているのではないか…その事が堪らなく不安だった。
「 くそ……ん…?」
  しかしそんな不毛な戦いをどれだけ続けていたのか。
  不意に竜と自分の間に立つ1人の人間の姿に京一はハッとなった。
「 龍麻!?」
  竜が発する稲光や炎があるといっても辺りは暗い。おまけに相手は京一から背中を向けていた。慌てて駆け寄るまで京一はその者を認識する事は出来なかった。
「 龍……あ…?」
  けれどその者は龍麻ではなかった。
  京一の声掛けに応じるように振り返ったその人物は、確かに自分たちと同じ高校生のような姿をしていたが、龍麻とは似ても似つかない長い黒髪を有していて、更に言えばこちらを見る眼には生気が宿っていなかった。
「 お前は…」
「 僕は……渦王須」
  ともすれば少年のような声がその者から発せられた。薄く赤い唇が綺麗にすうっと上げられる。笑っているのだろうか、それは感情のある人間の表情には見えなかったが、笑顔に見えない事もなかった。
  その「渦王須」と名乗った少年は背後に竜がいる事にもまるで無頓着な様子で、悠々と己の胸に白い手を当てると言った。
「 龍麻はここにいる…僕が取り込んだ。彼はもう、僕のもの」



To be continued…



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