「雨」
〜本日の登場者・蓬莱寺京一〜


真神学園旧校舎―。
龍麻「あ………」(旧校舎の入口近くに立ち尽くしている人物を見つけ、はたと立ち止まる龍麻)
京一「ん…?」
龍麻「きょ…う、いち…?」
京一「―あァ、何だひーちゃんか。暗くてよく見えなかった
龍麻「京一…ッ! お、お前、一体…どうし…ッ…」(京一の姿に驚き、思わず傘も放り投げて駆け寄る龍麻)
京一「へへへ…こんな時間に会うなんて奇遇だな、ひーちゃん。やっぱ俺たちって運命の赤い糸で―」
龍麻「いいから黙れっ! お前…ッ、お前、一体どうしたんだっ!? 何でこんな怪我してんだよッ!!」(京一のすぐ傍にまで歩み寄り、相手の両肩をぐっと掴む龍麻。京一はあらゆるところから血を流していた)

京一「んあ…? あ、ああ…こんなん、大した事ねえよ」
龍麻「傷口をこするな! 暗くて見えなかったんじゃないだろ、こんな…ッ! 目の端まで切って! 血が出てるじゃないかッ!」
京一「おいおいひーちゃん、血が出てるくらいでそんな大騒ぎすんなよ。こんなの見慣れているじゃねェか」
龍麻「見慣れてなんかないっ! お前のこんなボロボロな姿…見慣れてるわけないだろっ!」
京一「う……」
龍麻「いつもお前は……戦っていたって、こんなに怪我したりしないじゃないか…」(ズボンのポケットからハンカチを出して京一の瞼にそれを押し当てる龍麻)

京一「まァ……それ言われると…な。俺もまだまだ修行が足りないって事だろ」
龍麻「こんな………」
京一「いって! ひ、ひーちゃん、強く押さえつけるなって!」(龍麻からハンカチを取って大袈裟に顔を歪める京一)

龍麻「……独りで潜ってたのか」
京一「あ? あァ、まあな」
龍麻「そんな危ない事…っ! 大体、今は不安定な氣がそこら中に流れているんだぞ。こんな所、余計―!」(言いかけて突如はっとして口篭もる龍麻)

京一「わーかったって、ひーちゃん。今度からは早々勝手な事はしねェからよ。そんな怒るなよ〜?」(にへらと笑いながら能天気に応える京一)
龍麻「………………」
京一「今度からはひーちゃんやあのプロレスバカもちゃーんと誘うからよ? なァ、ひーちゃん、機嫌直せって」
龍麻「………………」
京一「ひーちゃん……?」

龍麻「……嘘だ」
京一「……嘘って…何だよひーちゃん?」
龍麻「お前、潜ってない……」
京一「おい、ひーちゃ
龍麻「お前…ずっとここにいたのかよ? ここは異形が表の世界に出やすい1番の場所だ…今はこんなだから…だからお前、ずっとここにいた…? ずっとここで独りで戦ってたのか…?」
京一「……………」
龍麻「そうなんだ…そうなんだろ……」(じりと一歩後退し、震えながら京一を見つめる龍麻)

京一「……バカな事言うな。いくら俺でもそんな事できるわけないだろ」
龍麻「でもずっと独りで戦ってたんだろ! こんなになるまで、お前…ッ」
京一「落ち着け、ひーちゃん。俺は大丈夫だって言ってンだろうが。それにずっとここにいたわけでもねェよ。今日はたまたま…特にここらが黒いモンに包まれていたから」
龍麻「…………」
京一「だから来てみたんだよ。ひーちゃんだってそうだろ?」
龍麻「………違う」
京一「違う?」
龍麻「違うよ。俺はお前なんかと、違う」
京一「……………」
龍麻「俺は! お前みたいな理由でここに出て来たんじゃない…っ。学校になんか来るつもりもなかったんだ! た、たまたま何か…」
京一「……………」
龍麻「何か……」

京一「何か? 何かって何だ」
龍麻「な、何か…を、感じた…から…」
京一「……不穏な陰の氣ってやつだろ」
龍麻「知らない……」
京一「ひーちゃんが自覚してようがしてまいが、ンな事は関係ねェよ。とにかくひーちゃんはその『何か』ってやつを感じてわざわざこんな夜中に外に出てきたわけだ? こんな冷てェ雨だって降ってンのによー」
龍麻「……………」
京一「だろ、ひーちゃん」
龍麻「知らない……」
京一「………。もし、ひーちゃんが俺より先にここに到着してたとしたら」
龍麻「……………」
京一「……………」

龍麻「………何だよ」
京一「……………」(わざと龍麻を覗き込むようにして沈黙する京一)
龍麻「何だよ!」

京一「きっとひーちゃんは同じ事したと思うぜ。俺とさ」
2人の間に沈黙が走る。雨が激しく降りしきり、2人はもうずぶ濡れだ。

龍麻「そんなの……」
京一「……………」
龍麻「そんなの勝手に決め付けんなよ」

京一「ひーちゃん、お前何怒ってンだ?」
龍麻「……………」(何かを堪えるようにぐっと唇を噛む龍麻)
京一「ひー……」

龍麻「お前の! そういう物の言い方がすっげームカつくんだよ…ッ! いつもいつも何でもかんでも俺のこと良いように解釈しやがって!! 俺は…俺は、お前のそういうとこが、大ッ嫌いなんだよッ!!」
京一「……………」
龍麻「俺はお前とは違う! 俺はお前みたいな正義の味方なんかじゃない! なれないんだよ、そんな風にはさ! どうしたって…なれない! 俺は自分が1番大事なんだから…ッ」
京一「……………」
龍麻「……そういう…奴なんだから……!」
京一「……………」
龍麻「…………ッ」(ぜえぜえと肩で荒く息を継ぐ龍麻)
京一「……ひーちゃん」
龍麻「近寄るな…ッ」(更に後退して京一から距離を取る龍麻)
京一「………………」
龍麻「軽蔑しろよ。したっていいんだぜ? お前、びっくりしただろ? 相棒だ何だって…自分の背中預けてた奴にこんな事言われてさ…ッ。お前は必死こいてこの街護ってるってのに…。あ、あはは、呆れるだろ!」
京一「………いや」
龍麻「……ッ! じゃ、じゃあ、腹立つだろっ! 俺の事なんか…ぶん殴ってやりたいだろっ!」
京一「別に」
龍麻「!! な、何でだよ、何でそんな平然としてんだよ!!」
京一「……何でって」(ぐしゃりと髪の毛をかき回して苦笑する京一)
龍麻「何で…何でそんな顔して俺の事見るんだよ…ッ!!」
京一「んー? 俺、どんな顔してんだよ」
龍麻「……知るか…ッ!」

京一「なァひーちゃん。俺、ひーちゃんの事、好きだぜ?」
龍麻「な……!」
京一「まあよ、そういうわけで俺は好きでこうやって剣振ってるわけだ。確かにこんなに血ィ流しちまったのは失敗だったけどよ。けど、これもひーちゃんの為に流したモンだと思えば気分いいしな!」
龍麻「な、何…何言ってンだよ…!」
京一「悪ィな、ひーちゃん」
龍麻「え…?」
京一「本当はひーちゃんが色々悩んでんの知ってたんだけどよ。俺はバカだし…お前のとこ行っても連中みたいにあんま気の利いた事言ってやれそうもなかった。だから俺は…こういうやり方でしかお前の事支えてやれねェ」

龍麻「京…京一……」
京一「でもその代わりよ…ここの事は俺に任せとけ! この街の為じゃねえさ。俺はひーちゃんの為に闘ってンだ。そう思えばよ・・・ちょっとばかしひーちゃんと離れ離れになってたとしても、俺は平気だぜ?」
龍麻「……………」
京一「近くにいなくても、お前の後ろはいつも俺が護っててやる」
龍麻「………何で」
京一「ん、だから俺はひーちゃんが好きなんだって」
龍麻「違う。京一……あの時は自分を選べって言ってたじゃないか……」
京一「あ、ああ、それか。まあな。けど、よく考えたら主力の俺らが2人ともここを空けたらさすがにマズイだろ? あいつらじゃあ、イマイチ頼りになんねェからな」
龍麻「……………」

京一「おっ、そうだ。これ、サンキューな、ひーちゃん。へへへ……それにしても自分の事しか考えてねェってひーちゃんの私物をこんな風に借りられるなんて、俺ってラッキー♪」(龍麻のハンカチにふざけたようにキスする京一)
龍麻「……………」
京一「はーひーちゃんの甘い香りがするぜー」
龍麻「……ちゃんと」
京一「ん?」

龍麻「ちゃんと洗濯してアイロン掛けして返せよ」
京一「げっ、マ、マジかよ、ひーちゃん。案外細かい事言うんだな(汗)」
龍麻「ちゃんと綺麗に返せよ…。許さないからな…もう、それをそれ以上汚したりしたら……」
京一「ひー……」
龍麻「絶対……許さないからな……」
京一「ひーちゃん……」(そっと龍麻に近寄る京一)
龍麻「絶対……」
京一「……泣くなよ、ひーちゃん」(困ったように頭をかく京一)
龍麻「………ッ」(俯いたまま、静かに嗚咽を漏らす龍麻)
京一「……泣くなよ……」(遠慮がちに龍麻に寄り添い、そっと抱きしめてやる京一)
龍麻「……ぃ…て、ない…ッ」(そんな京一の腕をぎゅっと掴む龍麻)
京一「……そのうち」
龍麻「…………ッ」
京一「そのうち止むんだからよ…こんな雨…。ひーちゃんがそんな苦しむ事なんかないんだぜ?」
龍麻「……………」
京一「な……ひーちゃん―」




以下、次号…







この続きがないなんて嘘だ〜!


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