「雨」
〜本日の訪問?・犬神杜人〜


犬神「……そこにいるのは、緋勇か?」
龍麻「…………先生」
犬神「どうした。こんな道端に突っ立って」
龍麻「……別に」(ふいと犬神から視線を逸らす龍麻)
犬神「……風邪を引くぞ。いくらお前だとてな…この雨は良くない」
龍麻「…………」
犬神「それに外に出ていていいのか。連中がまた騒ぐぞ」
龍麻「……そんなの」

犬神「知った事じゃない…か?」
龍麻「……うるさいな…ッ。先生には関係ないだろっ!?」
犬神「…………」
龍麻「うるさいよ…ッ。俺の事なんか…もう、放っておいてくれよ…!」
犬神「たまらず家を飛び出たか」
龍麻「……違うよ。そんなんじゃない。気晴らしにたまには外に出てみろって」

犬神「仲間の誰かが言ったか? それでソイツは?
龍麻「もう別れたよ。俺は家に帰るとこ…・・・」
犬神「…………」
龍麻「だからいいでしょう。大人しく帰るんだから…。みんなもまた来るだろうし…

犬神「その割には、お前の家はここから大分遠いな」
龍麻「!」
犬神「…………」
龍麻「………先生は」
犬神「ん…?」

龍麻「……何でもありません」
犬神「……とにかく、傘に入れ」(自分がさしていた傘を龍麻の方に掲げる犬神)
龍麻「い、いいです…。先生が濡れるから…」
犬神「そう思うなら早く来い。お前が入ってこないならずっとこのままだ」
龍麻「…………」(そろそろと犬神の傘に入る龍麻)

犬神「ずぶ濡れだな」
龍麻「……どうでもいい……」
犬神「……俺の家に来るか。このすぐ先だ」
龍麻「…………」
犬神「嫌ならこの傘をやる。さっさと帰るんだな」
龍麻「どうして…どうしてそんな優しい事言うんです」
犬神「……お前は俺の生徒だからな」
龍麻「こんな生徒……まともじゃないのに……」
犬神「そう思うのか」
龍麻「…………」
犬神「……それで。どうするんだ、来るのか、来ないのか」
龍麻「行く……」
犬神「…………」
【移動後:犬神の家】
犬神「コーヒーでいいか?」
龍麻「紅茶がいいって言ったらそれを出してくれるんですか」
犬神「紅茶か。それはないな」
龍麻「じゃあコーラは」
犬神「ないな」
龍麻「オレンジジュース。ホットミルク。はちみつレモン。ジンジャーエール」
犬神「欲しいならそこのコンビニで買ってこい」
龍麻「………別に欲しくなんかない」
犬神「なら大人しくそのコーヒーを飲め。一応身体は温まるだろう」
龍麻「……ねえ、先生……。先生もこの雨の事は聞いたんでしょう」
犬神「ああ…。遠野の奴がまたやたらと興奮してわざわざ報告に来たからな」
龍麻「どう思った…?」
犬神「ん……」
龍麻「俺…本当に病気に見える? それに…」
犬神「……何だ」
龍麻「何処へ行くのか知らないけど…。俺の失った心を探しに行くってさ…心なんて…そんなもん、何処かにあるものなのかよ…。俺の中から消えたものなら、そんなものがどっかにおっこちてるわけないじゃないか」
犬神「…………」
龍麻「先生だってそう思うでしょ?」
犬神「……さあな。案外落ちているかもしれんぞ」
龍麻「…ふざけてんの、先生?」
犬神「確かに向こうには、今のこの街が失ってしまったものがたくさん存在しているしな」
龍麻「は……?」
犬神「だからお前が見失ったものがあっても…何ら不思議はないという事だ」
龍麻「……先生の言っている意味…分からない。先生はそこへ行った事があるの?」
犬神「………そうだな。居たな」
龍麻「え……?」
犬神「だが逆に言えば、緋勇。今のお前にはあって、当時の連中には持ち得なかったものだって確実にある。だからお前があそこを旅する事は…有意義な事だろうよ。お前が病気だろうが…そうじゃなかろうがな」
龍麻「……俺の持っているものって何? 俺、何も持ってない。この嫌な悪い気持ちだけ…今の俺が持っているものって」
犬神「緋勇。そう思う気持ちがあるのなら、お前は病気なんかじゃないさ」
龍麻「………先生。もし、もしもだよ? 俺が…俺自身の事を探す旅に先生も一緒に来てって言ったら…先生は一緒に来てくれる…?」

犬神「緋勇。俺は対象外だ。俺はここを離れられん。俺に出来る事は……お前をここで待ってやる事くらいだ」
龍麻「……やっぱりね…冷たいな、先生は…。でも…そう言ってくれるんだね」



以下、次号…







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