第10話 夜の街 |
辺りはもうすっかり暗くなっていた。 酒場や賭場場、それに港の方には明るい光がちらほらとついており、人の通りも全くないわけではなかったが、龍麻は道の真ん中で途方に暮れていた。 「 宿屋…分からない」 「 龍麻」 「 あ!」 けれど迷子の龍麻に背後から声をかけてきた人物がいて。 「 京一!!」 「 わ…っ? な、何だよそんなデカイ声出して。びっくりするじゃねえか」 「 だって…良かったって思って…」 「 他の奴らは? 皆でメシ食ってたんじゃねえのか?」 龍麻が1人だけなのを見て、京一は訝しげな視線を辺りに向けた。 「 ううん、俺1人。ちょっと色々街の見物したかったし」 「 へえ…。よくあいつらがお前を1人にさせたな?」 「 え、何で?」 「 ……何でもない。ったく、お前は……」 京一はきょとんとしている龍麻に呆れたような目を向けた。 けれどすぐににかっと明るい笑顔になると、京一は龍麻の背中をぽんと叩いた。 「 なら俺らでこれからメシ食い行くか?」 「 えっ!? うん、行く行く! 俺、ハラ減ってたんだ!」 龍麻は嬉しそうに頷いた。 京一も嬉しそうに笑った。 +++ 「 京一。これすっごい美味いな!!」 京一が連れて来てくれた「中華料理」と書かれた店で、龍麻は初めて食べるその料理に感嘆の声を漏らした。 「 へへへ〜だろ!? これはな、東の国の名物でラーメンって言うんだよ。俺もこれを初めて口にした時は生きてて良かったって思ったぜ!」 「 最高〜。俺、今までずっと村の中で暮らしてたから、今日も町中を探索してて思ったけど、ホント知らない事いっぱいあったんだなあってさ。勿体無かった」 ずるずるとラーメンをすすりながら合間合間に龍麻は今日の出来事を京一に語った。 京一は黙ってそんな龍麻の話を聞いていたが、急に真面目な顔になったかと思うと、動かしていた箸を止めた。 それで龍麻も京一のその態度を不審に思い、手を止めた。 「 ?? どうかした、京一?」 「 何か…ヘンだな」 「 ヘンって…何が?」 「 いや…まるで今日お前が知り合った奴ら、皆が皆お前に会う為に突然現れたみたいでよ…」 「 えー? 何それ」 「 ………お前が引き寄せてんのかもな」 「 誰を?」 「 《力》のある奴らをだよ」 「 ???」 「 ホント、無自覚だから参るよなあ」 「 だから何が!」 「 何がじゃねーのっ!」 京一はそう言って突然龍麻をはたいた後、はっとため息をついた。 龍麻はそんな京一を不審に思いながらも、はたと思い立ったようになって口を開いた。 「 そういえば京一は今日何処へ行ってたんだ? 武器屋だけでこんなに時間潰れないだろ?」 「 あ? あ、ああ……」 「 俺みたいに散策? でも俺の方は全然買い物できなくて…まあ、呪いかけられてたんだから、しようとしなくて正解だったんだけど。あ、それで明日教会行かなくちゃなんだ! そういや場所何処だろ?」 「 俺が知ってる」 「 へ?」 「 俺が今日、行ってきたからよ」 「 え…? 京一が? 教会?」 こう見えて京一という男は信心深いのだろうか。 「こう見えて」などと思っているあたり、龍麻の京一への印象が量れると言うものだが。 龍麻の考えが容易に読めたのか、京一はウンザリしたように首を横に振った。 「 バカ、違ェよ。俺も…お前と同じ理由。呪いにかかってんのかと思ってよ…」 「 の、呪い!? 京一も!?」 「 ああ。けど、俺は正常だってよ。呪いになんかかかってなかった」 「 一体何の呪いにかかってると思ってたのさ?」 「 …………」 しかし京一はそれについては何も答えてくれなかった。 龍麻がますます首をかしげ、再度黙りこむ京一に声を掛けようとした、その時。 「 う〜ふ〜ふ〜」 「 !?」 突然、龍麻の背後から世にも不気味な声が聞こえた。 龍麻がぎょっとして振り返ると、そこには黒いフードを頭からすっぽりかぶった、ぐるぐる眼鏡をかけた少女がいた。 「 な、何…?」 「 何だ、テメエ」 龍麻と京一はほぼ同時に少女に怪しげな視線を送った。 すると表情の見えないその少女は胸にかき抱いていたボロボロの人形を更にぎゅっと握りしめると、龍麻に向かって言った。 「 君の周り〜には〜たくさんの〜宿星が集う〜」 「 は…?」 「 でも〜連れて行けるのは〜限られた人だけ〜。選ばないと〜駄目なのよ〜」 「 あの…何?」 訳が分からず龍麻が訝し気な目を向けると、少女はにたりと薄く笑った。 「 ミサちゃんは〜ひーちゃんの味方〜」 「 な…!?」 「 おい、テメエ! 何で龍麻のあだ名を知ってる!?」 これには京一が席を立って少女に向かって厳しく追及した。 けれども少女は臆さない。それどころか今度はそう言った京一を見つめ、びしりと指をさして言った。 「 既に〜辛き恋の〜歯車に〜引き込まれてしまった剣聖〜。少しでも〜躊躇したら〜別の星に〜取られるのよ〜」 「 ……はぁっ!?」 「 ミサちゃんは〜京一クンの味方〜」 「 こ、この人、京一の名前も知ってる…!?」 「 おい、お前……」 いよいよもって怪しいこの少女に龍麻は段々恐ろしい気持ちがしてきていた。 京一も警戒を解かない。 けれど、その刹那少女はけろりとして言った。 「 だって〜ミサちゃんの後ろで喋ってるの聞こえたんだも〜ん」 「 へ…?」 「 何…?」 「 2人とも〜名前呼び合ってたも〜ん」 「「…………」」 「 ミサちゃんは〜この街で星を導く占いをしているの〜。機会があったら遊びに来てね〜」 そうして「ミサちゃん」と名乗る少女は龍麻の手に問答無用で自分の名刺を渡すと、のそりのそりと店を出て行った。 2人はしばらく固まっていたが、やがて京一が気を取り直したようになって再びがたんと椅子に座った。 「 ……た、ったく。この街はヘンな奴ばかりだな」 「 う、うん…。何か怖いオーラがあったよね、あの子」 「 宿星が何とか…分からない話ばっかしてよ……」 「 うん」 「 …………」 「 京一?」 「 ん……」 「 何考えてんだ…?」 「 ………べっつに」 1拍後、京一は龍麻にそっけなく答え、それからすっかり延びてしまったラーメンをすすった。 それで龍麻も訊くのは諦め、京一の所作に倣って止めていた箸を動かした。 が、ふと。 「 そういえば…京一は俺を『ひーちゃん』とは呼んでないぞ…」 +++ 宿屋に帰ると、何やら異様に暗い空気が辺りに充満していた。 「 ひーちゃーん!!!」 一番に部屋を飛び出してきたのは元気娘・桜井である。 「 もうもう、何処へ行ってたのさ、こんな時間まで!? ボクたち、ひーちゃんが街のヘンなのに絡まれたんじゃないかってすっごく心配してたんだよ!!」 「 お、龍麻。帰ったか! 良かった、無事だったんだな!」 醍醐もすぐに部屋から出てきて、ほっとしたような顔を見せる。 「 大袈裟だなあ、みんな。外でモンスターに会ってるわけじゃないんだよ?」 「 ある意味モンスターより人間の方が危険だって、ひーちゃん!!」 「 おい、俺もいるんだけどよ…」 完全に自分は無視状態の京一が不服そうに声を出した。 するとギイイと桜井が出てきた部屋のドアが開き、中から美里が顔を出した。 「 京一君。貴方、龍麻と一緒だったの?」 にっこりとした穏やかな笑みだ。 しかしその笑顔を見て、龍麻以外の全員が何か背筋に寒いものを感じた。 京一はひきつりながら何とか頷いてみせた。 「 さっき偶然そこで会ったからよ。メシだけ一緒したんだよ」 「 まあ…そうなの。龍麻、疲れていない?」 「 え、俺? ううん、全然! 楽しかったよ! 美里たちは何してたの?」 「 うふふ…特に何も。龍麻の帰りを待っていたかったから、ここの宿屋でお食事したのよね…」 「 う、うんっ。ひ、ひーちゃん、ボク、すっごくすっごくひーちゃんの帰りを待ってたよ(泣)」 「 何というか…龍麻、俺も待っていたぞ(疲弊)」 「 ??? う、うん? ありがとう」 訳も分からず礼を言う龍麻。 京一だけは、どうやら龍麻に逃げられて不機嫌だったらしい美里のこれまでの様子を想像して、桜井たちに同情の目を向けていたが。 「 ひーちゃん、明日からはボクたちも一緒に連れて行ってよね!」 「 え? う、うん。分かったよ。一緒に遊ぼう!」 「 良かった!!」 「 うふふ…龍麻。絶対よ…?」 「 うん…?」 「「「はああ………」」」(桜井・醍醐・京一) 龍麻は何やら深くため息をつく3人と、にこにこしている美里を交互に見た後、とりあえず今夜は取っておいてもらった部屋に入って休むことにした。 ちなみに、例の如く、また自分だけ個室なのが寂しい龍麻である。 それにしてもさすがに1日中歩き回ってへとへとだった。龍麻はすとんとベッドに腰を下ろすと、はーと息をついて、「あ、酒場に行くの忘れた」とつぶやいた。←ひど そして、ふとおもむろにつっこんだポケットの中に何やら透明のケースに入った数十枚のカードがある事に気がついた。 「 な、何これ…?」 そこには見た事のない絵柄…一匹の竜が描かれたもの、炎の剣が描かれたもの、弓矢とリンゴが描かれたものなど…そのカード1枚1枚に様々な絵が記されてあった。 そしてケースの底には一枚のメモがあり、そこには「ミサちゃんより」という言葉と共にメッセージが添えてあった。 そこにはこんな事が書かれていた。 《竜を支配するもの、竜の愛を得られるもの。》 《その者、すべてを制する。》 龍麻は旅の助言者、裏密ミサと知り合った! 龍麻は不思議なカードを手に入れた! これは売却することはできない! 《現在の龍麻…Lv09/HP55/MP30/GOLD5290》 《状態異常:龍麻は「金銭感覚ゼロ」という呪いを受けている! この呪いは教会でしか解く事ができない! しかし龍麻は呪いの存在に気がついた!》 |
【つづく。】 |
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