第13話 城門にて

「 あのー、王様に会いたいんですけど」
「 何だ、お前たちは?」
  いきなり城門前に現れそう言った龍麻に、城門を守る兵士は胡散臭そうな顔を向けた。
「 勇者希望の者か? それならば王は明日大広間でお会いすると仰っているのを聞いただろう。明日また来るといい」
「 いえ…でも早急にお伝えしたい事があるんです」
「 何だ、それは?」
「 直接王様に言わなきゃいけない事なんだよ!」
  仏頂面の兵士にイラ立ったのか、京一が荒っぽく言った。
  しかしその態度は兵士をより頑なにさせただけだった。
「 むむむ…何なのだその態度は! お前らのような荒くれ者を城に通すわけにはいかん! さあ、帰った帰った!」
  龍麻たちは城の入り口から追い出された!



「 あーもう、どうするんだよ。京一があんな言い方するから」
「 だってムカついたからさ」
「 あれくらいで頭にくんなよ。京一って短気なんだ」
「 そういうひーちゃんは鈍感なんだな。俺はさ、ああいう輩はどうも好きになれねェんだ」
「 ああいう輩って?」
「 分かんねえ? あいつ、俺らのことを身分の低い異国人って目でしか見てなかったよ。金だけが目当てでこの国に来たんだろうって顔でよ」
「 そ、そうだったかな…」
「 まあ…そんだけロクでもねえのがこの国に集まっちまったって事だろうけど。けど、俺はあんな奴にぺこぺこすんのは嫌なの!」
「 ………でも」
  京一の言いようにしょんぼりとする龍麻。
「 あ…っ」
  それで京一もはっとして途端に困ったような顔をした。言い過ぎたかと、龍麻から視線を逸らして参ったというようにぽりぽりと頭をかく。
  他人にへつらうのは嫌だけれど、それで龍麻まで巻き込んで困らせてしまう事は、勿論京一の本意ではなかったから。
「 ……し、心配すんなって、ひーちゃん!」
  だから京一は明るい声を出して言った。
「 そ、そういえばよ! 初日に別行動した日、ヘンな情報屋の女から面白い話を仕入れてあんだよ」
「 情報屋…? あ、もしかして遠野さん?」
「 へ…? あーひーちゃんも会ったんだっけ? そういやそんな名前だったな。ああ、でな。その女が言うには、謁見日以外で王に会う方法もないわけじゃないらしいんだよ」
「 えっ、それは…?」
「 それはな…」
  しかし京一がその先の言葉を言おうとした時、急に背後からぬっと大きな影が迫ってきた。
「 はっ!?」
「 何だ!?」
  龍麻と京一が驚いて同時にそちらへ身体を向けると。
「 へっ…。その方法ってのは、俺が握ってるぜ?」
「 あ…! 貴方は…!」
「 よう、龍麻。やっぱりまた会ったな」
「 村雨さん…?」
  龍麻が首をかしげてそう呼ぶと、村雨と呼ばれた白い服の男は途端に破顔した。
  そうして龍麻の頭を大きな掌でぐしゃぐしゃと撫でつける。
「 よせよ、センセ。アンタにそんな風に言われるとくすぐったくていけねえ」
「 お、おい、ひーちゃんに気安く触んな!」
  むっとして京一が村雨に言うと、当の村雨の方は涼しい顔をしてそう言った京一を見やった。
「 龍麻。コイツだけかい、今のアンタのお仲間は?」
「 う、ううん…。他にもいるけど…」
「 そうかい、安心したぜ」
「 そりゃどういう意味だ!?」
「 こういう意味だ」
  村雨はそう言うや否や、あの龍麻と出会ったときのようにコインをぴんと指で弾いて掌で隠した。
  そしてにやりと笑って京一に言った。
「 賭けな。表か、裏か」
「 何ィ…?」
「 賭ける物は、ここにいる先生こと緋勇龍麻だ」
「 え、俺…?」
  龍麻がびっくりして村雨を見ると、その不敵なギャンブラーはまた口の端を上げて笑った。
「 俺が勝ったらこっから先の先生の案内人はこの俺、村雨祇孔がやらせてもらうぜ。お前が勝ったら…まァ、無条件でお前もこの城の中に入れてやるよ」
「 何でお前が…」
「 俺はここの王とは知り合いでね」
  しれっと村雨は言ってから、ちらと龍麻を見た。
  けれどすぐに京一を鋭い眼で見つめると尚も言った。
「 さあ、さっさと賭けな」
「 ………裏だ」
「 京一!」
「 ひーちゃん、城には入らないといけないだろ」
「 う、うん……」
「 俺が負けたらこいつと中に入れよ」
「 え…でも……」
「 じゃあ、開けるぜ?」
  2人の話を聞いてから村雨はぴしゃりとそう言い、そっと握っていた手を開いた。
「 表、だな」
「 え…」
  龍麻がショックを受けた顔をしていると、京一は最初こそ悔しそうな顔をしていたものの、すぐに気を取り直したようになって明るく言った。
「 へっ…。俺ってつくずくギャンブル運、ねえな」
「 そのようだ」
「 な、なあ村雨さん…っ」
「 だからその呼び方やめてくれって」
「 じゃ、じゃあ……む、村雨! な、京一も一緒に中に入れてもらうわけにはいかないかな」
「 ひーちゃん?」
「 俺、1人で入るより、京一にいてもらった方がいいんだ。だから」
「 ほう。先生はこの赤髪の剣士がお気に入りなのかい。俺も髪を赤く染めるかな?」
「 く、くだらない事言ってないでさ! お、俺がお前と勝負してもいいぞ!」
「 ……はっ」
  ムキになったような龍麻に、村雨は楽しそうに笑うとすっと指を差して言った。
「 じゃあ賭けな。あいつは、男か女か」
「 え…?」
  村雨が指を差した方向を龍麻はそのまま流されるように見やった。
「 あ……」
「 誰だ…?」
  京一も不審の声を上げた。
  いつからそこに立っていたのだろうか。
  城の表門から出てきたらしい立派な身なりの「青年」が真摯な眼でじっとこちらを見つめていた。
「 賭けるって…あの人を…?」
  龍麻が困ったように言って村雨を見る。
  村雨は飄々とした顔で「ああ」と言ったきり、もう何も言わない。
  龍麻は改めてその人物を見つめた。
  見たこともない格好。けれどそれが高貴な人の正装である事は容易に分かる。
  そしてそれが男性の正装であることも。
  普通に言えば、あの人は男だろう。
「 ………あ」
  けれど、そのどこからどう見ても青年であるはずのその人物の瞳が。
( 何だか…寂しそうだ……)
  龍麻にはその人の瞳がひどく儚く、そして弱々し気に見えた。
「 女の人……?」
  龍麻がぽつりと言うと、村雨は静かに笑った。
  そして目の前の青年に目だけで何事かを訴える。
「 あ…・・?」
  するとその青年はすっとした足取りで龍麻たちの元へ歩み寄ると黙って一礼した。
「 あの…?」
  どうして良いか分からずにオロオロする龍麻に、京一が言った。
「 あんた…この国の王様かい?」
「 えっ!?」
「 はい」
  龍麻の驚きの声の後、京一の問いにその「青年」は答えた。
  そして。
「 秋月国へようこそいらっしゃいました。勇者龍麻」
「 お、俺……?」
  ただ動転して固まる龍麻に、秋月の大国を統べる王は静かに頷いた。
「 待っていました。貴方がこの国にいらして下さるのを」



  龍麻は秋月王国・国王、秋月マサキと知り合った!
  旅の仲間に、村雨が一時的に加わった!
  《現在の龍麻…Lv10/HP65/MP35/GOLD5291》
  《状態異常…龍麻は「嫉妬の炎」という呪いにかかった!! しかし龍麻はこの呪いの存在にまだ気づいていない!! この呪いは教会か、レベルの高い魔法使いにしか解く事ができない!!》


【つづく。】
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