第14話 あっさり認定 |
「 この国だけではありません。世界中が病んでいるのです」 王の間に通され、龍麻たちは若き国王の憂いた表情を黙って見つめた。 王様、という事はやはり男なのだろうか。しかし村雨は京一もここに来る事を許してくれたし。 ( うーん、結局この王様は男の人なんだろうか。それとも女の人??) 「 勇者龍麻」 ( でもどっちにしろ綺麗な人だな〜。しかもこんな、俺と同じ年でこんな大きな国を治めているなんて…) 「 ……ちゃん。おい、ひーちゃんって!」 「 えっ?」 京一に肩肘をつつかれて龍麻は考え込んでいた思考を一旦止めた。 「 えっ、じゃねーよ。王様、ひーちゃんの事呼んでるぜ?」 「 え! あ、はい! 何でしょうかっ」 「 ……勇者と呼ばれるのには慣れませんか」 薄く笑う王に龍麻は思わず赤面した。 「 は、はい…! だ、だって俺は小さな村で平凡に暮らしてたフツーの村人ですし…」 「 いいえ」 龍麻の言葉をすぐに否定すると秋月国・国王はきっぱりと言った。 「 貴方は選ばれた者です。それはもうずっと昔から…決まっていた事なのです」 「 は、はあ…?」 「 我が国が勇者を募れば貴方は必ずここに来る。それも夢見が預言していた事です」 「 あ…! い、色々な事を夢で見て当てる人ですね…?」 「 ええ。この国を治めるべき本来の国王…」 「 え!?」 「 そりゃ…どういう事だい!?」 王のその言葉には京一も鋭く反応を返した。 村雨は王の傍に立ったまま、黙っている。 人払いをしているせいか、広い空間に4人。 全員が黙ると一挙に辺りは冷たい空気に満たされる。 やがて王が口を開いた。 「 我が国がある者に呪いをかけられ、この大陸ごと闇に落とされかけた時…。当時この国の王だった私の兄は身を呈してそれを防ぎました。しかしその時の災厄が元で、彼はそれ以後身体の自由を奪われ、城から出る事も叶わなくなってしまったのです…。王が呪いに屈したとなれば国民は動揺するでしょう。幸い私と兄は顔も体型もウリ二つでしたから…それ以来、私が兄の代わりを演じ、こうして王の座についているのです。そして兄は…今も彼にしかない夢見の《力》で…この国とこの国の民を守ってくれているのです」 「 そ、そんな…」 「 ある者ってのは?」 京一の問いに国王はすぐに答えた。 「 魔王です」 「 魔王?」 「 この国だけでなく、世界の全てを支配せんとする闇の魔王がこの大陸の何処かに潜んでいるのです。そして奴は絶えず様々な呪いを生み出してはそれを各地に放ち…人々を苦しめているのです」 秋月の王はそう言ってからふっとため息を漏らした。 「 近年、その魔王の力は増すばかり…。恐らく奴の掛けた呪いに屈し、《力》を吸い取られた人間が多く闇に落ちているからでしょうが…。今までは兄の《力》でそういった呪いを跳ね除けてきた我が国も…そろそろ危険な状況になってきたかと…」 「 名前を変えたのは…まぁ、単純なようだが案外と保つ眼眩ましってとこか」 そう言ったのは村雨だった。 秋月王はそれに無言で頷いてから、改めて龍麻を見やった。 「 勇者龍麻。貴方には、我が国だけでなく、この世の全てを混沌の闇に落とそうとしている魔王を倒し…そして魔王が掛ける呪いの全てを粉砕して欲しいのです」 「 お、おおお俺が…?」 「 貴方にしかできない事です」 「 ちょ、ちょっと…」 「 勇者を募った事でこの国には報奨金目当ての力ない人間も多く集まってきてしまいましたが…同時に、貴方の戦いの役に立てる仲間も多く集った事と思います。明日の謁見の日にそれらの仲間たちを探し…どうか魔王を倒す為の旅に出て下さい」 「 な…ななな……」 龍麻が混乱している間に話はぽんぽんと進んでいく。最早問答無用って感じで。 「 我が国からもこの村雨と、魔術のエキスパートである者を1人、仲間として仕えさせましょう。その者は現在別件で動いており、今日は城内にいないのですが…」 「 …………」 「 ところで、この世界がヤバイって事は分かったけどよ」 呆然としている龍麻に代わって京一が口を開いた。 「 間近にも危険が迫ってるってのを知ってるか? この国に呪いをかけた奴ってのと繋がってるかは分かんねえが、民衆に直接呪いをかけてる奴がこの国の周辺をうろついているらしいんだよ。俺らは今日その事を言う為に来たんだ」 「 はい、それについての情報は得ています。実はそのことで御門は動いていまして」 「 御門?」 「 今お話した我が国の専属魔術師です」 秋月国王はそう言ってから、ちらと背後に控える村雨を見やった。 「 御門が戻るまでは、村雨。お前が勇者の手伝いをしなさい」 「 へ…どうするかな?」 「 村雨」 もったいぶる村雨に王は露骨に嫌な顔をした。 けれどため息をついたまま、龍麻を見やる。 「 申し訳ありません。この者には以前より貴方の事は話してあったのですが…自分よりも運気の強い者にしか手を貸さないと言い張るものですから…。ですが勇者龍麻ならばこの村雨を仲間にする事も可能でしょう。どうか彼の《力》が必要な時は、彼の持ちかける賭けに乗ってあげて下さい」 「 あの〜。それで俺は具体的に何をすればいいんですか?」 ようやくちょっと立ち直った龍麻がやっとそれだけを言った。 すると王はにっこりと笑って言った。 「 目の前の呪いを1つ1つ解いていくことから始めて下さい。そうすれば貴方は必ずや我々の敵である魔王の元に辿り着くはずです」 +++ 城を出て。 「 ひーちゃん、大丈夫か? 何かずっとぼけーっとしてたなあ」 「 うん……」 「 おい。本当に大丈夫か(汗)?」 「 うん…まあ…。ただ、何か本当に…勝手に話が進んでいくなあって思ってさ……」 いきなり勇者とか言われても困る。 それが龍麻の本音である。 この国や自分の村、それに他の大陸にある国や村にしてもそうだが、魔王とやらに呪いをかけられて苦しむのは嫌だと思う。しかしそんな強大で正体不明で如何にもめちゃくちゃ強そうで怖そうな奴と戦わなければならないなんて。 何だかとても理不尽な事のように感じてしまう龍麻であった。 「 選ばれた者ってのはな、そういう運命なんだよ。いつの世もさ」 すると龍麻の心根を読み取ったように京一があっさりとそんな事を言った。 「 分かったような口きくな、京一」 それに対して龍麻が多少恨みがましい声で言うと、京一は鼻で笑った。 「 分かんねえよ、俺は勇者じゃねえもん。けどさ、俺はひーちゃんの力になれるぜ? 面白い事になりそうだしな! 世界に呪いをかける魔王とやらを倒すなんて、遣り甲斐あるじゃねえの」 「 ……楽観的だなあ」 「 んで。これからどうする?」 「 とりあえず明日を待ちな」 「 わっ」 「 む、村雨! テメエは突然来るなよな!」 不意に2人の背後に立って声をかけた村雨に京一はやや飛び退って怒鳴った。 村雨は相変わらず平然としていたが。 「 ちょこちょこ動き回っているガキ2人については、明日御門が何か情報を持って帰ってくるだろうよ。だからとりあえずはマサキ王が言ったように、明日の謁見日にここにもう一度来な。そして使えそうな奴を探して仲間にするといいぜ。……勿論、俺を仲間にしたきゃ遠慮なく声かけてくれ。なあ、センセ?」 「 ……でも村雨は賭けをして勝たないと仲間になってくれないんだろ?」 龍麻が口を尖らせて不平を言うと、村雨は目を細めて可笑しそうに笑った。 「 先生なら俺を負かす事なんて簡単だろうが?」 「 どうかなあ」 「 ……ふ。俺を負かす以外にも、俺を仲間にする方法はあるんだぜ?」 「 え、何それ?」 「 聞きたいか?」 「 う、うん…?」 すると村雨はにやりと笑って龍麻に接近すると、その耳元にこっそりと何かを耳打ちした。 「 な…!!」 それを聞いた龍麻はみるみる赤面していった。 「 こら! 村雨、テメエ! 今ひーちゃんに何言った!? ってか、そんなに近づくんじゃねー!! 髪とかにもさり気なく触るんじゃねー【怒】!!」 怒りに燃える京一に、しかし村雨はやっぱり無視だった。 「 じゃあな、そういう事だ、センセ。また明日…な」 「 ……(赤面)」 「 ひーちゃん! おい、一体何言われたんだよー!!」 「 ……(赤面)」 「 ふ…」←余裕の村雨 こうして。 龍麻は予期せぬうちに勇者ということにさせられてしまい。 本格的に魔王討伐の為、準備を整えることになってしまったのであった。 龍麻は秋月王国・国王、秋月マサキから世界を救う《勇者》と認められた! 村雨が再びパーティから離れた! 村雨を仲間にする為には彼の持ちかける賭けに勝つか、彼が龍麻に持ちかけた「ある事」をしなければならない! 《現在の龍麻…Lv10/HP65/MP35/GOLD5291》 《状態異常…龍麻は「嫉妬の炎」という呪いにかかった!! しかし龍麻はこの呪いの存在にまだ気づいていない!! この呪いは教会か、レベルの高い魔法使いにしか解く事ができない!!》 |
【つづく。】 |
13へ/戻/15へ |