第15話 勇者の証

  この日の秋月王国はいつにも況して多くの人でごった返していた。
「 あれ、皆は何処へ行ったの?」
「 美里たちなら一足先に城へ行ったぜ。パーティを組めないからひーちゃんが行く所へ先回りするってな」
「 一緒に城に行くくらい、いいと思うんだけど(汗)」

「 だ〜め〜」
「 駄目よ」

「 わっ!?」
  龍麻のつぶやきに反応を返したのは、いつでも何処でも突然現れる占い師・裏密ミサと。
「 ふふ…おはよ、龍麻」
「 ……?」
  もう1人は背の高い女性だった。髪を背中まで垂らした色っぽい美人である。
「 おはよう、ひーちゃん〜」
「 あ…お、おはよう…」
「 相変わらず神出鬼没だな、お前…」
「 いや〜京一く〜ん。ミサちゃんって呼んで〜」
「 呼ぶかっ」
「 ちょっとミサ。どうでもいいけど、早くこの可愛い龍麻に紹介してくれない? アタシのこと」
「 可愛っ…て…!」
  その女性の言葉に龍麻は思わず鼻白んだ。
  同じ年程の女性に子供扱いされたような気がしたからである。
「 うふ〜。ひーちゃん〜。この人はね〜。藤咲亜里沙ちゃん〜。この街で〜ルイダンという名前の酒場を〜経営しているやり手さんなの〜」
「 ルイダンの酒場?」
「 ふふ、よろしく龍麻。アタシの事は亜里沙って呼んでくれていいわよ? あんたの事はここにいるミサからも王様からもよーく聞いていたわ」
  藤咲と名乗った酒場の女主人とやらの言葉に逸早く反応したのは京一だった。
「 アンタがここの国王と知り合いなのか?」
  それに対し藤咲は品定めするような目で京一を見ると、やがてゆったりとした口調で答えた。
「 アタシみたいな酒場の主人が王様と面識あるのが不思議? でもバカにしてもらっちゃ困るわね。アタシはこれからの龍麻の旅に絶対必要な存在なんだから」
「 それってどういう事ですか?」
「 ミサから聞いたと思うけど、龍麻が旅に連れて行ける仲間は最大4人まで。でもね、これから待ち受ける戦いによっては、色々な才能を持つ仲間をその時々で起用する必要があるわけよ。龍麻はその都度、連れて行く相手を選んだり外したりしなくちゃいけないの」
  藤咲のその言葉に龍麻は眉をひそめた。
「 今回みたいに美里たちを連れて行けなくて断ったりするの…俺、もう嫌だな」
「 ならずっと同じ面子で旅してもいいけど? でもそれこそ、アンタの仲間になってあげるって言ってる人たちがかわいそうじゃない?」
「 はあ…」
「 八方美人はね〜勇者に必要なスキルなんだよ、ひーちゃん〜」(にやり)
  裏密が藤咲の言葉を補助するようにそう言った。
  これに対して不快な顔をしたのは京一だった。
「 それでアンタが一体何の役に立つんだい?」
「 ……ふ、あんたイイ男なのにキツイじゃない。随分な言いようね。アタシはね、龍麻の仲間を龍麻が連れて行きたいと思った時に、アタシの酒場から呼んであげる事ができるのよ。勿論、その為にはうちの酒場の登録場で『龍麻が望む時にはいつでも駆けつける』って一筆書いてもらわないといけないんだけど」
「 登録された人〜ひーちゃんの仲間として〜ひーちゃんが好きな時に連れて行く事ができるんだよ〜。便利でしょ〜」
「 便利って…」
「 ………」
  龍麻の戸惑ったような顔を京一は黙って見つめている。
  しかしそんな2人に構わず、裏密と藤咲はそれぞれの言葉を続けた。
「 美里ちゃんたちは〜もう登録してあるよ〜」
「 既に他にも何人かが登録していったわ。詳しくはお城に行ってその人たちに会うといいわよ? ちなみに龍麻が必要とあれば、このアタシもいつでも酒場を閉めて戦いに参戦するからね?」
「 ………」
「 おい、ひーちゃん」
  その時、ようやく京一が口を開いた。
  龍麻が反射的に顔を向けると、そこにはひどく真面目な京一の顔があった。
「 京一…?」
「 大丈夫か? 展開についていってるか?」
「 あ…うん。大丈夫…」
「 ………」
「 それじゃあそろそろ出かけてちょうだい〜。あたし達も先に行ってるからね〜」
  京一と龍麻のやり取りをにたりにたりと見守ってから、裏密は最後にそれだけを言った。


+++


  秋月城・城内――。
  既に城の中央にある中庭には、我こそが選ばれし勇者だと名乗る者やその仲間たちで大いに賑わっていた。
  龍麻も京一と共にそこへ入る。
  どの者たちも龍麻よりも大きく強そうで、しかも高そうな武器を携帯していた。
「 へっ、しかしもう既に王様に認められた勇者がここにいるって知ったら…こいつらどうすんだろな?」
「 や、やな事言うなよ、京一…」
「 ひーちゃんもそんなびくびくすんなって! もっと堂々としてればいいんだから」
「 できないよ…。大体レベルだってまだ10だよ、俺!? 絶対周りのこの人たちの方が強そうだもん」
「 はあ〜。ひーちゃんは自分の事がホント分かってないなあ」
「 な、何だよ…っ」
  しかし龍麻が京一にくってかかろうとした、その時―。
「 秋月王国、国王様のおなーりー!!」←時代劇か
  大臣の声の後、オオオというどよめきが場内に溢れ、それと共に勇者候補たちの前に秋月王が現れた。
  正確に言えば、動く事の叶わない本当の王―現在は夢見として王国を守る秋月マサキ―彼の双子の弟か妹なのであるが。(まだ龍麻は代役の秋月マサキ王が男か女かわかっていない)
「 よくぞこれだけ集ってくれた。世界を守らんとする勇者たちよ」
  秋月王は威厳のこもった声で話し始めた。
「 我が国だけでなく、今や世界は魔王の出現によって暗き闇の底へ落とされんとしている。しかし希望がないわけではない。夢見が預言した通り、選ばれし勇者が我が国の門を叩いてくれたのだから」
  王の言葉におお、と再びどよめきが起こって龍麻はぎくりと身体を震わせた。
「 ま、まさかここで名前を呼ばれたりしないよね?」
  龍麻の言葉に訊かれた京一はあっさりと答えた。
「 されるんじゃねえ? だってエセ勇者たちにお前らは違うって言わなきゃいけねーし」
「 そんな! 俺困る! 絶対困る! それ絶対いやだ!」
「 嫌って…。けどよーひーちゃん」
「 やだやだ絶対冗談じゃないっ。まだ俺が勇者かどうかなんて分からないのにっ。大体、王様が俺を勇者だって言ったって、そんなのこの人たちが納得するわけないよ! 俺、襲われる!」
「 その時は戦ってひーちゃんの《力》を見せてやればいいわけだよ」
「 だから俺はレベル10なんだってー!!」


「 大丈夫。龍麻サン、俺様がついてるぜ?」


  その時、興奮する龍麻にそう背後から声を掛ける者がいた。
「 え…? って、ああ、君は!」
  龍麻は振り返ってから驚きの声を上げた。
  それは町に来た初日に偶然知り合ったロックシンガー雨紋雷人だった。
「 ひどいよなー、結局クロウに来てくんねーんだもん。俺様、アンタが来るのを首を長くして待っていたのによー」
「 あ、ご、ごめん。忘れてた」


「 大丈夫です、私、気にしてません!!」
「 わあっ!?」
「 ……どっからわいてきたんだ(汗)」


  再び飛び上がって驚く龍麻。そして呆れる京一に、その突然「わいてきた」少女はにこりと笑った。
  雨紋と同じ時に知り合った、謎の踊り子比良坂紗夜だ。
「 えへへ…。龍麻さん、また会えましたね。私、とっても嬉しいです!!」
「 あ、あの…」


「 きゃうーん!! ダーリーン!!」(背後から抱きつきっ)
「 どわああっ!?」(前につんのめる龍麻)


  次に現れたのは、ハイテンションナースの高見沢舞子だ。
「 会いたかったー!! えへへ〜ここに来ればダーリンに会えるって聞いて〜。舞子、お仕事サボって飛んできちゃったあ〜!!」
「 ちょ…お、重い…(汗)」
「 ダーリンって…。龍麻サン、俺様って人がありながら、いつの間にそのコとそういう関係になったんだ?」
「 お前こそさり気なくそういうい事言うのはよせ【怒】!」←展開についていけないまま焦る京一
「 龍麻さん、私、龍麻さんの為なら死ぬまで踊り続けられます!!」(脈略なし)


「 あー!! 声がすると思ったら、ひーちゃんそんなとこにいたのー!!」
  すると今度はまた違う方向から人込みをかきわけて桜井、醍醐、美里、マリィが現れた!!
「 ひーちゃん、ボクたち以外にもうこんなに仲間作っちゃったの〜(汗)?」
「 龍麻。その…俺は待っていたぞ、お前が来るのを…(照)」
「 うふふ…龍麻、その背後に張り付いているものは何かしら? 取ってあげましょうか?」
「 龍麻パパ! 今度はマリィたちを連れて行ってネ!!」


「 そこの者たち……(汗)。話を進めているんだが……」


  一種独特の空気を放ちまくっている龍麻の周辺に、さすがに秋月王が声を掛けた。
  龍麻たち周辺の仲間たちもそれではっとして呆けている王の顔を見る。
  舞子がようやく龍麻の背中から身体を離したところで、王は続けた。
「 ……というわけで、この中にいる本物の勇者を見つけ出す為にも、今私が言った物を取ってきてもらいたいのだ。1番先にそれをこの城に届けた物を、我は真に世界を救う勇者と認め、旅立つ為の協力をしよう」
「 へ…? お、王様、何の話してたの?」
  すっかり取り残された事に気づいた龍麻が皆に訊いた。
  国王の話はもう終わりのようで、勇者と名乗る者たちもそれぞれが鼻息荒く、何事か気合の言葉を放ちながら城を出て行く。
「 ど、どうしよ…。王様、何言ってたんだろ?」
「 知らなーい、舞子、ダーリンに抱きついてたからあ」
「 俺様もちーとも話を聞いてなかったゼ」
「 私もです、龍麻さん」
「 俺も」
「 もう、みんなしょーがないなあ。醍醐クン、君聞いていた?」
「 お、俺か!? いやその…東の洞窟がどうのと言っていたような気もするが…」
「 うふふ…全く使えないわね」
「 使えナイ!」
「 ………(汗)」


「 くく…。やれやれ、とんだ勇者様ご一行だぜ」
「 あ、村雨!」


  既にバラバラと城を散って行く他の勇者パーティを横目で見やりながら、村雨は龍麻の前にまで歩み寄ると目を細めて言った。
「 どうせあいつらには取ってこれやしない。アンタにしかできない事だよ、先生」
「 お、王様、何を言ってたんだ?」
「 この城から東に行った所に洞窟がある。そこで《勇者の証》を取ってきたものをホンモノと認めると…そう言ったのさ」
「 え…」
「 おい、昨日王はひーちゃんが勇者だって言ったじゃねーか。何でそんなメンドーなことしなきゃなんねーんだ?」
  くってかかるような京一に村雨は両肩を軽く上下に揺らした。
「 周りを納得させるには良い機会だと思うがな。今まで多くの勇者候補が王の言葉によって東へ旅立ったが…帰って来た者は1人もいねえ。ここで先生が無事その勇者の証を手に入れてくれば…」
「 それってどんな物なの?」
  桜井の質問に、村雨は苦笑した。
「 さあな。俺も見た事はねえから。行けば分かるさ」
「 …………」
  そして村雨はちらりと龍麻に視線をやった。
  龍麻は何も言う事ができなかった。
  その時。


「 それじゃあ〜ひーちゃん〜選んで〜」


「 出たな…」
  京一のウンザリしたような言葉にも構わず、裏密はキシシと笑って続けた。
「 東の洞窟へ旅立つ為の4人のパーティを選ぶのよ〜。ルイダンのお店に登録してある人の中から選ぶから、まずはルイダンへ〜」
  裏密のその言葉により、周囲にいる仲間候補たちは皆が皆いきり立った。
「 龍麻サン、俺様はもう登録済みっスから」
「 舞子も〜v」
「 私もです! 龍麻さんの為に、私、精一杯歌って踊ります!!」
「 ひーちゃん、勿論、ボクたちもだよ!」
「 …………」
  龍麻は自分の前に立ってそういう仲間たちを困惑したように見やった。
  裏密の横に藤咲がやって来て、そんな龍麻に微笑みかける。
「 それじゃあ、私は一足先に店に戻っているから。待ってるわね、龍麻」
「 …………」


全員「 それで誰を連れて行く??」


  皆の視線が龍麻に一斉に集まった。
  龍麻はそんな彼らを一通り見回した後、ぽつりと言った。
「 ごめん、ちょっと1人になって考えさせて…」
「 ………」
  そう言って俯く龍麻を京一は心配そうな顔で見やっていた。


  こうして、龍麻は本物の勇者だということを周囲の人々にも認めさせる為、まずは東の洞窟へ向かい、「勇者の証」を取りに行くという使命を与えられた!!
  そこへ行く為に連れて行ける仲間は4人以内である。


美里「 うふふふふ……私を選んでね、龍麻……」(ぎらり)



  京一がパーティから離れた! 龍麻は1人になった!
  龍麻は旅の仲間、藤咲亜里沙と知り合った!
  ルイダンの店に登録してある仲間は以下の者たちである!!
  登録者…蓬莱寺京一/桜井小蒔/美里葵/醍醐雄矢/比良坂紗夜/雨紋雷人/高見沢舞子/マリィ/藤咲亜里沙
  ちなみに既に知り合っているが登録されていない者もいる! 
  村雨を仲間にする為には彼の持ちかける賭けに勝つか、彼が龍麻に持ちかけた「ある事」をしなければならない! 
  壬生は仲間にする方法がまだ分からない!

  《現在の龍麻…Lv10/HP65/MP35/GOLD5291》
  《状態異常…龍麻は「嫉妬の炎」という呪いにかかった!! しかし龍麻はこの呪いの存在にまだ気づいていない!! この呪いは教会か、レベルの高い魔法使いにしか解く事ができない!!》


【つづく。】
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