第18話 真夜中の攻防

  元々が魔術師・御門の家に辿り着いたのが夕陽の沈む時刻である。
  龍麻は一時的に仲間になってくれた御門の従者・芙蓉と共に、夜の平原をローゼンクロイツ城目指して歩いていた。
「 龍麻様。お休みになられなくとも大丈夫なのですか」
  背後につき従いながら芙蓉が控えめな声を出した。
  龍麻はうん、と答えてから申し訳なさそうな顔をして芙蓉に振り返った。
「 俺、この後東の洞窟にも行かなくちゃいけないから。なるべく早くこっちの件は片付けたいんだ」
「 マサキ様との約束を果たす為ですね」
「 え…? いや、約束って言うか…。うん、でもそうなのかな。王様には何だか期待されているみたいだし」
  龍麻は秋月王の何やら寂し気な顔を思い出して眉をひそめた。
  けれどその思いを振り払うように首を振ると、龍麻は改めて芙蓉を見た。
「 それより本当ごめん。俺、勝手に1人でどんどん進んで来ちゃってるけど…。その、芙蓉さんは大丈夫? 俺、貴女の事全然気遣ってあげられてなかった」
「 私の事はご心配には及びません」
「 でも…やっぱり、近くの町か村が見えたらそこで宿を取ろうか?」
「 この辺りはもうローゼンクロイツ城まで人家などはありません。それに、私は龍麻さまとは違い、疲れを感じる事はありません。ですから大丈夫です」
「 え…?」
  芙蓉の言い様に龍麻は驚いて足を止めた。
  真っ暗な平原、頼りになるのは空に浮かぶ月の光だけである。
  獣の気配もない静かなその場所で、龍麻は芙蓉をまじまじと見やった。
「 芙蓉さんは…まるで人間じゃないみたいな言い方をするね?」
「 はい」
「 ……人間じゃないの?」
「 はい」
「 …………」
  無機的に返事をする芙蓉に龍麻は何と言ってよいか分からなかった。
  あの魔術師が作った「何か」なのだろうか、芙蓉は。
  しかし、こんなに。
「 でも芙蓉さんは…とても優しいよね」
  龍麻は思っていた事を口にした。
「 御門の命令があるからって事と関係なくさ。弱い俺のこと心配して後ろを守って歩いてくれているし、身体のことも気遣ってくれた」
「 ……ご主人様にそうするよう、仰せつかっているからです」
「 言われた事をちゃんとやるって難しいでしょう」
「 どんなことであろうとも、ご主人様が望む事は何でもやります。それが私の存在意義…」
「 ……難しい話は俺には分かんないよ。でも、芙蓉さんが何を言っても、俺が芙蓉さんをスゴイって思う気持ちは変わらないから」
「 …………」
  芙蓉は少しだけ困ったような顔をして口をつぐんだ。
  そして、その後はもう何も言おうとはしなかった。
  龍麻も黙ってただ歩き続けた。


  そしてそれから小1時間ほどして――。


「 あそこに見えるのがローゼンクロイツ城です」
  暗闇の中、小高い丘にそびえ立つ荘厳とした雰囲気の古城を指差して芙蓉は言った。
「 元々あの城は500年ほど前に没落した貴族の所有物だったのですが、ここ最近になって突然ジル・ローゼスと名乗る魔法使いがあそこに住み着くようになったのです。以来、彼の幻術によってあの城は姿を消したり現したりを繰り返していました。ですから、今まで中へ侵入する事も思うようにいかなかったのです」
「 そうなんだ。でも今は行けるんだね?」
「 はい。マリィという魔術師の力がなくなったからでしょう。叩くなら今です」
「 よ、よーし…! それじゃあ、早速侵入だ…っ」


「 ソウハイカナイ」


「 !!」
  その時、不意に龍麻と芙蓉の前に2人の敵、イワンとトニーが現れた!!
「 お、お前たちは…!?」
  龍麻が身構えつつそう言うと、背の高い白人の少年が腕組みをしたまま素っ気無く言った。
「 よくも我等の邪魔をしてくれたな。おまけに出来損ないとは言え、あのガキまで手懐けて」
「 ガキ…!? マ、マリィのことか…っ」
「 ハハハッ! マリィって誰のことダ!?」
  今度は小さい黒人の少年がバカにするように高らかな声で笑った。
  それから不意にギンと目を光らせると、何やら前傾姿勢になって「ハッ!」と声をあげた。
  すると。
「 わっ…!?」
  龍麻は身体全身に原因不明の衝撃を受け、思わず後ずさりした。
  背後にいた芙蓉がそんな龍麻の両肩を後ろからがっしりと押さえつける。
「 大丈夫ですか、龍麻様」
「 う、うん…。い、今のは…?」
「 ハハハッ! ヘイ、こんな奴、2人でかかるまでもナイなッ! 俺に殺らせろヨッ!」
「 駄目だ」
  しかしそう持ちかけた少年の言葉を、白人の少年がきっぱりと断ち切った。
「 ジル様には2人で始末しろと言われている。油断はするな」
「 ……チッ。分かったぜ」
「 龍麻さま、来ます!」
「 う、うん…!」


  戦闘開始である!!
  イワンとトニーが現れた!!
  ちなみにどっちがどっちでもいいと思うが、イワンが大きい方、トニーが小さい方である!!(ひどい扱い…)
「 まずは手始めにこいつでドウダッ!! PKスティングッ!!」
  トニーの超能力魔法攻撃!!
「 う…わっ…!?」
  龍麻に向けられた攻撃…だがしかし、芙蓉が龍麻をかばった!!
  芙蓉は15のダメージを受けた!!
「 ふ、芙蓉さん…!?」
「 私のことはお気になさらず。龍麻さまは攻撃に専念して下さい」
「 で、でも…!」
  龍麻が躊躇している間にも敵の攻撃はやまない!!
  イワンの攻撃!!
「 フンッ! ウヴィストヴァ、ロージィッ!!」
「 はっ!?」
「 龍麻様!!」
  芙蓉が龍麻をかばった!!
  芙蓉は30のダメージを受けた!!
「 !!!!」
  龍麻は精神的ダメージを受けた!! 体力に影響、10のダメージを受けた!!(おいおい折角庇ってもらってんのによ)
「 た、龍麻様…!」
「 こ、こんなのやだよ!!」
  龍麻はホイミをかけた!!
  芙蓉のHPが30回復した!!(ってか、ホイミってどんくらい回復すんだっけ…汗)
「 龍麻様、攻撃を…!」
「 くくく、バカめ…! ハッハア! Go to hell!!」
  トニーの攻撃!!
「 龍麻様、下がって下さいませ…!」
  芙蓉が龍麻をかばった!!
「 嫌だ!!」
  しかし龍麻は芙蓉を押しのけ、自分が攻撃を喰らおうと前に出た!!
「 龍麻様…っ!?」
「 そういうの迷惑!! 芙蓉さんは女の子なのにっ!!」
「 ………!!」
「 くくく、死ねー!!」
  しかし、その攻撃が当たろうという、まさにその時!!


「 クククク……クチビルー!!!」


「「「「な……っ!!!????」」」」
  何と!! 
  突然バトルにリビングデッド佐久間が介入してきた!!
「 グハアーッ!!」
  リビングデッド佐久間はトニーの攻撃を喰らった!!
  佐久間は50のダメージを受けた!!
「 ななな…何なんだ、あのゾンビ野郎…っ!」
  トニーは精神的ショックを受けた!! 体力にも影響、20のダメージを受けた!!
「 グググ……クチビルーッ!!」
  リビングデッド佐久間はくじけない!!
  佐久間の攻撃!!
  佐久間はやっぱり龍麻のクチビルを狙った!!
「 ぎゃー!!!」
  ミス!! 龍麻はクチビルを守った!!
「 たたた…龍麻様……!?」
  芙蓉は精神的ショックを受けた!! 
  芙蓉はすくんでしまった!! 芙蓉は動けない!!
「 邪魔なゾンビめ…!」
  イワンの怒りの攻撃!!
「 グハ? ジャマッハー!!」
  ミス!! リビングデッド佐久間はダメージを受けない!!
「 何…っ!?」
「 クチビルクチビルー!!」
  佐久間の攻撃!!
  佐久間はやっぱり龍麻のクチビルを狙った!!
「 や、やられてたまるか…!」
  龍麻はだっとの如く逃げ出した!!
「 ニゲラレンハー!!」
  しかし回り込まれてしまった!!
「 へ…! 違うよ、逃げたんじゃないよーだ!」
「 な、何を…!?」
  何と龍麻は逃げるフリをして、イワンの後ろに回りこんだだけだった!!
「 クチビルー!!」
  佐久間は龍麻を狙っている!!
  佐久間はイワンめがけて襲いかかってきた!!
「 な…ななな…!?」
  イワンは避けられない!!
  佐久間のクチビル攻撃!!


「 ブッチュー!!!!!!」


  佐久間は(誤って)イワンのクチビルを奪った!!
「 ………!!!!!」
「 やった…ッ!!」
  龍麻はガッツポーズ!!
  イワンとリビングデッド佐久間は濃厚なキスをした!!
「 …………………………」
  イワンは動けない!!
  イワンは精神に大ダメージを受けた!! 体力にも影響、350のダメージを受けた!!
「 ………………(ばたり)」
  イワンはぐらりとその場に倒れ伏した!!
  イワンを倒した!!
  100の経験値を獲得、750ゴールドを手に入れた!!
「 ぐ…ぐぐぐぐぐ…………!」
「 あ…!? リビングデッド佐久間も…!?」
  リビングデッド佐久間も精神的ダメージを受けた!! 体力にも影響、350のダメージを受けた!!
「 グハー!!!」
  リビングデッド佐久間を倒した!!
  1の経験値を獲得、1ゴールドを手に入れた!!
「 く…くそ、何なんだ…! 覚えていろよ…!!」
  トニーは逃げ出した!!
  戦闘終了。


+++


「 芙蓉さん、大丈夫…?」
  すっかり静かになった平原で、龍麻は固まってしまった芙蓉を心配そうに見やった。
「 は、はい…。申し訳ございません、私としたことが…!」
  間もなくして芙蓉ははっと我に返ると、慌てて立ち上がった。
「 何という失態…。龍麻様をお守りするとご主人様から仰せつかっていましたのに、お役に立つ事ができませんでした」
「 芙蓉さん」
  けれど龍麻は頭を下げる芙蓉の肩にそっと触れると、少しだけ笑った。
「 芙蓉さんは、やっぱり優しいね」
「 は……?」
「 それに、可愛い。だってさ、リビングデッド佐久間を怖がってすくんじゃうんだもん」
「 あ、あれは怖がったのではなく…(汗)」
「 だけど、もう二度とあんな戦いしないでよ。したら許さないからね」
  芙蓉の言葉を制して龍麻は言った。
「 龍麻様…?」
  芙蓉が怪訝な顔をすると龍麻はにっこり笑って言った。
「 俺、女の子に庇われるなんて絶対嫌だから!!」
「 ………私は女ではありません」
「 また! 人間じゃないからとか言うの? どっちでもいいよ、そんなの。じゃあ、俺は! 芙蓉さんに庇われるのが嫌なの!」
「 ……龍麻様」
「 大体、俺1人であんな強い人たちを攻撃するなんて作戦、絶対やばいって! 芙蓉さんも一緒に攻撃に参加してくれなきゃ!」
「 ……はい、分かりました」
「 良かった。あ、ホイミ、かけてあげるね!」
  龍麻は芙蓉にホイミをかけた!
  芙蓉の体力が回復した!!
「 これで良しと。それじゃあ、行こうか?」
「 ……はい。けれど、その前に」
「 え?」
「 村雨」
「 え!?」
  芙蓉の言葉に龍麻が驚いて振り返ると。
「 へっ。バレていたかい?」
「 ……お前という男は。龍麻様の危機にただ傍観を決め込んでいましたね」
「 そう言うな。なかなか楽しい見世物だったぜ? すくむお前の姿なんぞ見たのは初めてだしな」
「 くっ…!」
「 む、村雨…!?」
「 よう、先生」
  ただ唖然としている龍麻に、村雨は涼しい顔で片手を挙げた。
  それから傍に近づくと、帽子の縁をくいとあげてにやりと笑った。
「 こっから先は親玉もいんだろ。……手を貸そうか」
「 え…だ、だって」
  龍麻がオロオロすると、村雨は笑った。
「 賭けはな、先生の勝ちだ。先生が望むなら……俺は俺の《力》を先生に貸すぜ」
「 か、賭けって……?」
  自分は村雨を仲間にする為の賭けを何もしていないはずなのに。
  きょとんとしていると、村雨は龍麻をあやすようにぐしゃぐしゃと頭を撫ぜまわした。
「 わっ…!」
「 先生はな。俺の予想を違えてこの芙蓉に頼らず前へ出て戦った。だから賭けは、俺の負けさ」
「 ……そんなの、当たり前だよ」
「 はっ、そうかい?」
  龍麻の答えに村雨は楽しそうに笑い、もう一度龍麻の頭を優しく撫でた。
  そうして背後にちらと視線をやり、言った。
「 とは言うものの、先生とパーティを組むと今のままじゃ俺は戦闘の度にダメージを受けちまう。――おい、壬生」
「 え……」
  村雨が振り返った先、暗闇の向こうからすっと現れた人影。
  それはあの本屋で出会った壬生紅葉だった。
「 み、壬生…っ」
「 こんばんは、龍麻」
  壬生は静かにそう挨拶をし、やや首をかしげ苦笑した。
「 また違う呪いにかかっちゃったんだね」
「 あ…う、うん」
「 解いてあげる」
「 え…あ……!」
  言うや否や、壬生の差し出した手から光が漏れた!
  壬生は龍麻に呪い解除の魔法をかけた!!
「 …………」
  龍麻の身体から「嫉妬の炎」の呪いが消えた!!
「 これでもう大丈夫。村雨さんが龍麻と組んでも問題はありません」
「 サンキュー」
  村雨が仲間になった!!
「 ……で、お前は?」
「 …………」
  村雨の言葉に対し壬生は黙りこんだ。
  龍麻は慌てて口を切った。
「 み、壬生も来てくれる…?」
「 僕が……」
  龍麻の誘いに壬生は俯いてつぶやいた。
「 壬生が…め、迷惑じゃなければ、だけど…」
「 …………」
  しかし壬生は龍麻のその恐る恐る発した言葉に誘われるように顔を上げ、やがてぽつりと言った。
「 ジルの放つ呪いを解放する目的は一緒だ。今回は共に行くよ」
「 !!」
  壬生が一時的だが仲間になった!!

  こうして龍麻のローゼンクロイツ城攻略のパーティは4人になった!!

「 ククク…クチビル……!!」



  村雨と壬生が仲間になった!ただし、壬生はまだ完全な仲間ではない!!
  《現在の龍麻…Lv11/HP65/MP34/GOLD6042》
  《状態異常…龍麻は「嫉妬の炎」の呪いを解いた!!》


【つづく。】
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