第20話 ローゼンクロイツ攻略2

  ここはローゼンクロイツ城、最下層。
  龍麻たちは大国秋月の各所に呪いをかけ人々を惑わす魔術師ジルを倒す為、その城に潜入した。
  ……はず、なのであるが。


「 出た〜! くらえ、村雨!! ストレートフラッシュだ〜!!」
「 ふ…甘いな先生。俺はコイツだ。ロイヤルストレートフラッシュ」
「 う、ううう嘘だあああ!? またかよー!?」
  村雨がぱらりと床に落とした5枚のカードを見つめ、龍麻はその場に倒れ伏した。
「 何でお前、いっつもそんないいカードばっかくるんだよっ。俺はいっつもワンペアが揃えばいい方なのにさ」
「 普段の行いがいいからかねえ」
「 うーくそー! よし、もう1回だ!!」
「 た、龍麻様…っ」
  しかし龍麻が床に散らばったカードをかき集めながらそう言うと、傍にいた芙蓉が思い切ったようになって口を開いた。
「 あの…そろそろ龍麻様の体力も回復したかと思うのですが…」
「 え、うん、分かってる。もうちょっと待ってもうちょっと」
「 ……村雨」
  ぎりぎりと歯軋りするかのようになって、芙蓉は今度は村雨をぎっと睨んだ。
  村雨はまったく平気な顔をしてとぼけている。
「 しょーがねえだろ。先へ進みたくとも、前に進めねーんだから」
  苦笑する村雨に、必死な顔でカードをシャッフルする龍麻。
  芙蓉はハーと深くため息をついた。


  突然だが、龍麻たちは落とされた四角い部屋に閉じ込められていた。


  腐ったリンゴを食べ、とりあえずHPを回復した龍麻が、さあそれではとりあえず上を目指して進もうとした時である。
  ガシャン、と。
  四方の角にあった上へ向かう入口が不意に降りてきた重い石の扉によって閉ざされてしまったのである。
  何か特殊な物質か魔法で作られた扉のようだ。
  閉ざされた入口は壬生の魔法を持ってしてもびくりともしなかった。

  で、今の状況。

「 しかしいつまでもこのままでいるわけには参りません」
  芙蓉がしびれを切らせたように言った。
「 …………」
  龍麻はそんな芙蓉をちらと見てから、今度は先刻からずっと黙ったまま壁に寄りかかって座っている壬生を見つめた。壬生は村雨と龍麻のカードゲームにはとんと興味がないのだろう、何処かぼんやりとした視線のまま、黙りこくっている。
「 ……ねえ壬生」
  そこで龍麻は壬生に声をかけた。
「 壬生もやる? ポーカー」
「 龍麻様!」
  いよいよ芙蓉が困ったように声を上げた。
  けれど龍麻はそんな芙蓉に少しだけ笑いかけてから、もう一度壬生を見やった。
「 みんなでさ、ふざけて遊んでれば敵も怒って出てくるかもしれないじゃん。城の入口で出会った女の子も勝手に中に入った俺たちに怒ってたみたいだし。このまま放っておかれるって事はないと思うんだ」
「 だからと言って…」
「 それでこそ俺の先生だ。こんな時は慌てず騒がず、のんびりするのが1番さ」
  村雨が芙蓉を見て挑発するようにそう言った。
  芙蓉はそんな村雨にはまた鋭い眼光を向けたものの、やがて深いため息をつくと、「出口がないか探してきます」と言って離れて行った。
「 ……俺って駄目な勇者だよなあ」
  芙蓉の後ろ姿を見て龍麻は小さく笑った。
「 どうして」
  その時、ようやく壬生が口を開いた。
「 龍麻。どうして君はこの城へ来たんだい?」
「 え?」
「 何のためにここにいるんだい?」
「 またこの男は小難しい顔をしてつまんない事言いやがる」
  村雨がぽつりとそんな事を言ったが、壬生はただ龍麻だけをじっと横目で見やっていた。
「 何の為…。それは、街の人に呪いをかけてるジルを倒す為かな…」
「 何故そんな事を?」
「 何故…うーん、まあ成り行き上…」
「 また先生は、バカくさい答え方するな」
「 だ、だって…っ」
  村雨に呆れた笑いをされて、龍麻は恥ずかしそうに俯いた。
「 龍麻」
  すると今度はまた壬生が毅然とした声で言った。
「 成り行きで自分よりも遥かに力量のある敵を相手に、君は御門さんの式神と2人だけでここに来て、本当に勝てると思ってたのかい?」
「 いや…それは…無理かもって思ったけど…」
「 けど? けど、どうしてこんな無謀な事を? そして今現に奴らの罠にはまって身動きが取れず、君はどうともできないでいるよね。それなのにどうしてそんな涼しい顔でくだらないカード遊びなんてしているんだい」
「 壬生…もしかして、怒ってる…?」
  恐る恐る伺い見るような顔をした龍麻に、壬生はふいと視線を前方へ戻した。
「 別に怒ってなんかいないよ。ただ…龍麻の事が分からないから」
「 俺? 俺…ただ閉じ込められちゃったし、村雨が暇つぶしなら持ってるって言ったし…。それに俺もそうだけど、HPが全開になってたって皆が疲れているのは間違いないと思ったし…。だったら、ちょっとこうやって待ってみるのもいいかなって…」
「 …………」
「 俺、それに秋月の王様に信頼されているみたいだし、本当は父さんの言う事なんて全然信用してなかったけど、でも父さんが俺に何か期待して何かさせるってこれが初めてだったし…それに…」
「 先生は話をするのが下手だねえ」
「 ご、ごめんっ」
  村雨の横槍に龍麻はカァッと赤面したが、ちらちらと壬生の方を見てから再度付け足した。
「 それに俺、皆と一緒ならどうにかなるかなって思ったから…」
「 …………」
「 だから今の状況も全然怖くなくてさ。壬生、強いし」
「 僕は……」
「 ごめん。でも俺のノーテンキな態度で芙蓉さんも壬生も、もしかして村雨にも迷惑かけたよな」
「 一緒に遊んでた俺が迷惑してるわけねーだろがよ、先生〜?」
「 …………」
  今やすっかり落ち込んだ風になってしまっている龍麻の頭を村雨はよしよしと子供をあやすようにして撫でた。
  壬生はそんな龍麻と村雨をじっと見てから、はっと息を吐いた。
「 ……不思議だな」
「 壬生?」
「 僕は…戦いの時に、息を抜いた事なんてないから……」
「 え……」
「 僕は…いつだって…誰も信じずに1人でやってきたから」
「 み、壬生……」
「 僕は、呪われているから」
  壬生のそう言った言葉に龍麻は「あっ」となってから口を閉じた。
  そう言えば初めて会った時に壬生は確かに自分も呪われた身だと言っていた。
  教会でも解けない呪い。
  そして今、人々を混乱に陥れようとしている魔術師ジルの呪いを解こうとしている壬生。
「 ……壬生は何の呪いにかかってるの?」
「 ………」
「 あっ…。ご、ごめん…余計な事訊いて…」
「 ………龍麻には関係ないよ」
  壬生は素っ気無くそう言ってからすっと立ち上がった。それからしきりに部屋の隅を調べている芙蓉の方へと歩いて行ってしまった。
「 ……壬生を怒らせたかな」
  しょんぼりとしてそう言う龍麻に、村雨はフーとため息をついてから苦笑した。
「 んな事ねえさ。奴は素直じゃないだけだ。ありゃ、先生のことは相当気に入ってるぜ?」
「 …何でそんな事分かるんだよ…」
「 分かるさ。奴とは結構付き合いが長いんでね」
「 ……へー。壬生って秋月の出身なの?」
「 いや。奴の師匠ってのが以前よく秋月に来ててな。それに奴もよくくっついて来てたんだよ。まあ今は…師匠からも独立してアイツもいっちょ前の賢者気取りだがね」
「 でも呪いって…」
  龍麻が訊きかけた事を、しかし村雨はすっと片手を出して首を振った。
「 おっと、これ以上の事は俺の口からは言えないぜ。アイツを本当の仲間にしたきゃ、アイツ自身に話させる事だな。こういう事は他人から聞くもんじゃねーよ」
「 あ…うん、そうだね。ありがとう、村雨」
  自分の言った事に対してすぐに素直に頷いた龍麻を見て、村雨は目を細めた。
「 へっ…。しかし、先生はそうやってどんだけの人間を虜にしていくのかねえ…」
「 な、何訳分からない事言ってんだよ…っ?」
「 今頃赤髪の剣士もやきもきしてんじゃねーか?」
「 あ…京一、心配してるかなあ…」
  せめて京一にだけは言っておけば良かったと思う。1人で東の洞窟へ行こうと決めた事。
  あの時はただ皆から離れて1人にならなければと気が急いていたせいで、1番に仲間になってくれた京一にすら何も言わず街を出てきてしまった。
  しかも今は東の洞窟とは正反対のローゼンクロイツ城などにいるわけで…。(しかも閉じ込められてるし)
「 帰ったら1番に京一に会いに行こう!」
  しかし龍麻がそう言ってうんと頷いた時だった。


  《ククク…貴様らが生きてこの城を出る事など、叶わぬわ…!》


「 誰だ!?」
  突然、天井全体に不気味なしゃがれた声が響き渡った!!
「 ジルか…ッ!?」


  《ククク…愚かな秋月よりの使者めが…。私の野望を邪魔する者には死の裁きを…!》


「 龍麻!!」
  その時、遠くにいた壬生が叫んだ。
「 はっ!?」
  その声に呼応するかのように龍麻はその場を飛び退った。村雨が半分衣服を掴んで移動させてくれたからだが。


  ドサリッ!! 


「 ………ッ!?」
  天井から「何か」が降ってきた!! 
  ミス!! しかし龍麻は避けた!! 龍麻はダメージを受けない!!
「 な…っ」
「 このガキは……」
  落ちてきたのは、トニーだった!!
「 お、おい、しっかりしろ…!」
  龍麻は焦りながら気絶しているかのようなトニーを抱き起こす。
  芙蓉と壬生が慌てて駆け寄り、そんな龍麻に声を荒げた。
「 龍麻様、離れてください!」
「 龍麻! そいつは敵だよ!」
「 何言ってんだよ、傷ついてるじゃないか…! お、おい、しっかりしろよ!」
  しかし龍麻は芙蓉たちの声を振り切り、尚もトニーの身体を揺すった。
  その瞬間。


  カチリ。


  何かのボタンが押される音と同時に――。


  ドドドドドーッ!!!!


  床の一角から不意に大量の水が溢れ出してきた!!
「 な…!?」
「 ち…水攻めかよ…!」
  もの凄い勢いで水の勢いは増していく…!
  既に足首を覆う程の量が龍麻たちの周りに渦を巻きながら襲ってきた。
  壬生は依然座ったままトニーを抱きかかえている龍麻に声を掛けた。
「 龍麻、脱出できる場所を探すんだ、立って!!」
「 う、うん…。でも、この子…!」
「 龍麻…!」
「 放っておけないだろっ!? 気絶してるんだから…!」
「 ………ッ」
  龍麻の強い口調に壬生は開きかけていた口を閉ざした。
「 おい、ヤベエぜ!」
  水かさは増すばかりだ。既に芙蓉の膝元にまでかかってきている!!


  ドドドドドーッ!!!!


「 ……くそ、味方まで一緒に殺そうとするなんて…!」
  龍麻は悔しそうに唇を噛み、ぐっと天井を見つめた。



  《現在の龍麻…Lv11/HP65/MP34/GOLD6382》


【つづく。】
19へ21へ