第21話 ローゼンクロイツ攻略3

  ローゼンクロイツ城、内部―。
「 い、ててて…出る時、石壁に頭ぶつけた…!」
「 先生大丈夫かい?」
「 う、ん…。みんなは?」
  濡れた全身からぽたぽたと水滴が滴り落ちる。
  重くなった身体を押して、それでも龍麻は立ち上がった。
「 壬生、芙蓉さんも大丈夫?」
「 私は何ともありません」
「 僕もだよ。それより龍麻」
  壬生は言いながら、龍麻の背後に立っている少年…トニーを鋭い眼光で見つめた。
  トニーは自身も全身を先ほどの水攻めで濡らしながら、しかし今は意識もはっきりしているのだろう、ひどく悔しそうに唇を噛んだまま両の拳を握りしめ叫んだ。
「 何でダッ…。貴様ッ!」
「 え…?」
  龍麻が振り返ってトニーを見やる。トニーはそんな龍麻をギロリと睨みつけた。
「 何故敵である俺を助けタ…ッ!」
「 何でって…」
「 龍麻様」
  芙蓉がすっと2人の間に割って入り、警戒を込めた目でトニーを見やった。
  龍麻はそんな芙蓉の肩を抑え、苦笑いした。
「 何言ってんだよ、それならお前だって俺たちを助けてくれたじゃん」
「 違ウッ! 俺は俺を助ける為にあの秘密の入り口を開いたまでダッ!」
「 でも結果的に俺らはそれで救われたわけだし」
「 だな」
  龍麻の言葉に村雨がにやりと笑って頷く。
  トニーはぐっとなって俯いた。


  数分前。
  閉じ込められた地下で突然の水攻めに遭い、龍麻たちパーティは大変な危機に陥っていた。
  しかし顔面が天井にまでつこうかというその時、あくまでもトニーの身体を支え助けていた龍麻に、突然。
「 アソコの石壁……!」
「 え!?」
  不意に目を覚ましたトニーが朦朧とした声で壁の一角を指差したのだ。
  壬生がそこを調べると、不意に壁の一角がガコンとへこみ通路となり……。
「 よし! そこから脱出だ!!」
  龍麻たちはそちらへ流れ込んでいく水の流れに乗りながら、自分たちを閉じ込めていた地下から脱出する事ができたのである!!
  (しかし体力は消耗している!! 龍麻たちはそれぞれ体力20を消耗した!!)


「 しかしここはまたおかしな場所だな?」
  妙な沈黙が5人を襲った時、辺りを見渡していた村雨が声をあげた。
  地下なのか地上なのか分からない。
  しかしそこはだだっ広い部屋で。
  確かに村雨が言うように、「おかしな部屋」であった。
  秘密の入り口から脱出した龍麻たちはその後続けざまに襲ってくるモンスターたちを回避する為、城の一角に見えた大きな扉を開け、その部屋に飛び込んだ。
  で、その部屋は。
「 いい趣味してるねえ…」
  村雨はにやにや笑いながら「なあ?」などと壬生を伺う。
  壬生は無表情、龍麻はきょとんとしている。
  芙蓉は村雨を冷めた目で見ながら首を横に振った。
「 恐らくは、この城の元の持ち主である、王族の姫君が使用していた部屋なのでしょう」
「 へーこれがお姫さまの部屋なんだあ?」
  龍麻はそれを聞いて突然興味のある目をし始めた。
  広いその部屋には、中央に天幕の張られた豪奢なベッド、ふわふわとした高価な絨毯に調度品等が行儀よく部屋の隅に並べられていた。外に連なる大きなガラス窓はピカピカと光っており、突然の侵入者である龍麻たちの姿をくっきりと映し出している。
  ちなみに、中央に配置されているベッドにはまん丸の目が愛らしい大きな熊のぬいぐるみが置いてあった。
「 あれ可愛い。欲しいなあ」
「 龍麻様」
  芙蓉が不謹慎だというような目を向ける。そんな芙蓉に部屋の探索をしていた村雨が急に面白そうな声を出して振り返った。
「 おい。姫様の部屋の割にゃあ、こんなもんまであるぜ」
「 何それ?」
  龍麻は村雨の手に掲げられたそれを見て首をかしげた。
  それは全体に黒の色調、裾に白いひらひらのレースがついた……。
「 そ、そ、そ…それに触るナッ!!」
「 おお?」
  突然、トニーがだっと走って行って村雨からその服を取り返した。
「 何だよ、そりゃお前の物かい?」
「 黙レ!! コレは…コレはコレは…ゲームの勝者だけニ与えられル、最高ノ…!」
「 はあ…?」
  しかしトニーが興奮したように先の言葉を続けようとした時である。


「 侵入者……」


「 あ、君は…!」
  突然、何の前触れもなく部屋の中央に現れたのは、城に潜入した時に現れた黒髪の少女だった。
「 私ハ、サラ…。ジル様ノ忠実ナル僕……」
  少女は静かに名乗った。
「 お嬢ちゃん、そりゃあお嬢ちゃんの物だったかい?」
  龍麻たちと分断されるような形で部屋の隅にいた村雨が自分に背中を向けているサラに話しかけた。
  サラは、しかし村雨を振り返ろうとはしない。
「 く……!」
  けれどトニーがその隙を見てだっと窓から外へ逃げようとした時だった。
「 敗北者ハ、排除シマス」
  サラの強力な魔法攻撃!!
「 グハアッ!?」
  トニーは50のダメージを受けた!!
「 く、くそ…!」
  トニーの攻撃!!
「 ………効カナイ」
  ミス!! サラはダメージを受けない!!
「 ナ、何……!?」
「 死ニナサイ」
  サラの攻撃!!
「 ウッ……!}
  トニーは避けられない!! トニーは戦意を喪失している!!
  しかし。
「 危ないッ!!」
「 ハッ!?」
  龍麻が戦闘に加わった!!
  龍麻はトニーをどんと突き飛ばした!!
  トニーはダメージを受けない!! 龍麻もまんまと逃げおおせた!!
「 ………侵入者。排除シマス……」
  サラは目をつむったままだが、確実に龍麻の姿を捉えたようで、微かに眉間に皺を寄せた。
「 龍麻、君は無茶をする」
  壬生が戦闘に加わった!!
「 龍麻様、お怪我は!?」
  芙蓉が戦闘に加わった!!
「 やれやれ…。先生、こういう時は素早いねえ」
  村雨は笑っている!! 村雨は傍観者になりきっている!!
「 ちょっと待って!! 君、君はどうしてジルに仕えているの!? ジルは街の人に呪いをかけて…!」
「 無駄だよ龍麻」
「 でも…!」
「 排除シマス……」
  壬生の言葉の通り、サラに聞く耳はないようだ。
  何やらぶつぶつと呪文を唱え始めている。
  攻撃の始まりである!!
  しかし、まさに戦闘状態になろうという、その時!!


「 サラ、お前は下がっていなさい」


  魔術師・ジルが現れた!!
「 お、お前は……!?」
「 ようこそ、秋月よりの使者たちよ。私の放った水攻めはお気に召してくれたかな」
「 ふざけるな…!!」
「 サラ」
  ジルは龍麻の声は軽く流し、背後に従ったサラをちらと見て言った。
「 お前には別の仕事がある…。さあ、早く元の場所へ戻り、作業を続けろ」
「 ハイ…ジル様……」
「 ま……!」
  しかし龍麻が下がろうとするサラを呼び止めようとした時である。
「 龍麻」
  壬生がそれを制し、魔法を唱えた!!
「 ウグっ…!?」
  壬生はサラに拘束攻撃魔法を加えた!!
  サラは動けない!! サラはその場に留まった!!
「 む…貴様、高位の魔法術を…賢者か……」
「 壬生!?」
  ジルと龍麻の声をかき消し、壬生は魔法をかけたままつぶやいた。
「 君だね…。呪いをかけていたのは……」
  壬生の目はサラに注がれている。
「 えっ!?」
  龍麻と芙蓉も壬生のその言に驚き、一斉に動きを封じられたサラを見つめた。
「 ………!」
  サラは動けない!!
  壬生はさらに魔法を唱えた!!
「 ……ッ!!」
  壬生の攻撃!! サラは65のダメージを受けた!!
「 壬生っ!!」
「 龍麻。この少女だ。この少女が街の人…女性たちに強力な呪いをかけていたんだ。そこにいる少年らが街で起こしていた騒ぎなど、《そのこと》から目を逸らさせる為の単なる陽動に過ぎなかったのさ」
「 ど…それ、どういう事…っ?」
「 くくく……」
  壬生の言葉にジルは低い声で笑った。
  そして、ふと手を挙げそこから強力な電磁魔法を生み出した!!
「 何もかも…私の野望を成就させるためよ…。それを邪魔する貴様らは、ここで死ね…!」
  ジルが戦闘に加わった!!
  ボスの登場である!!

  次回は戦闘音楽も普段のものとは異なるイメージでご覧下さい!!



  《現在の龍麻…Lv11/HP45/MP34/GOLD6533》


【つづく。】
20へ22へ