第24話 京主でいたいのに |
ぐうぅぅぅ……。 龍麻は空腹で目が覚めた。 「 ん〜…」 うつろな目で横になったまま天井を眺める。それはどことなく柔らかい紅色をしていた。 「 あー…夕方?」 仄かに赤い天井を眺めながら龍麻はぽつりとつぶやいた。 部屋の窓から差し入ってきた夕陽が部屋全体を赤く染め、ゆらゆらと揺れている。 「 ひーちゃん」 「 あ……」 呼ばれてくるんと首を動かすと、窓際に置いた椅子に腰を下ろし、そこから外の景色を眺めている京一の姿が目に入った。 京一は頬杖をついたままこちらを見ている。龍麻同様、何となく眠そうな顔をしていた。 「 おっす」 「 うん…」 「 よく眠れたか?」 やはり眠いのだろう、聞きながらも京一はふわあと大きなあくびをした。 するとそれが伝染して、龍麻もふわあとあくびをした。涙が滲む。龍麻はごしごしと目をこすった。 「 ふわあ…まだ眠いけど…でも、すごく熟睡できたよ。京一、ここの宿屋、いいな」 未だ目をこすりながら、けれども龍麻はゆっくりと上体を起こしてから京一にそう言って笑いかけた。 するとその発言に京一も目が覚めたようになり、得意気な顔でにやりと笑った。 「 だろ? 何せアイツ等に知られていない、秘密の場所だからな!」 街の入口で京一と出会った龍麻は、「とにかく睡眠!」とばかりに早速泊まっていた宿屋へ向かおうとした。 が、それを「あいつらがいると何だかんだ言われて眠れないだろ」と、言って引き止めたのは京一だった。 そうして京一は龍麻を町外れにある小さな、しかし以前の所よりも数段静かで綺麗な宿屋へと連れていってくれたのだった。 お陰で龍麻はそこのベッドで安眠を貪る事ができたというわけである。 もっとも、その前に京一とは一悶着あったのだが…。 「 ハラ減ったな。ひーちゃん、メシ食いに行かねえ?」 「 行く行く! ……あ、でも」 「 何だよ?」 乗り気の返事をした直後、不意に困惑したようになった龍麻を見て、京一は怪訝な顔をした。 「 どうした、ひーちゃん?」 「 うん…。やっぱり、一旦皆の所へ戻って俺の無事を伝えに行った方がいいよな」 「 …………そうか?」 「 みんな心配してるだろ?」 龍麻の恐る恐るというような言いように、京一は小さくため息を漏らした。 「 そりゃな…。中には一足先に東の洞窟へ行った奴もいるぜ。ひーちゃんがそっちへ行ったと思ってな」 「 えっ」 龍麻が驚いて目を見開くと、京一はつまらなそうに窓の外へ視線をやった。 「 まあ、あそこはそんな強いモンスターがいるわけでもないし、大丈夫だろ。あいつら、皆何気にレベル高いからな……」 「 そ、そうなんだ。それなら…って、あれ? 何で京一はそこに強いモンスターはいないって事を知ってるんだ?」 「 …………」 龍麻のきょとんとした質問に、突然ぶすりと黙り込む京一。 龍麻は瞬時はっとした。 「 ま、まさか…。京一、お前も東の洞窟へ俺を探しに行ってくれたのか…?」 「 …………」 「 そ、そうなのか、きょ…!」 「 まさかって何だよ。行っちゃ悪いか?」 「 えっ」 ぐるんと龍麻の方に身体ごと向き直り、京一は町の入口で会った時のような…この宿屋で眠る前に揉めた時のような怒り顔になった。 「 大体なあ…」 目覚めてすぐに、その時の再現である。龍麻はううっと心の中だけでうめき声をあげた。 そんな龍麻には一切構わず、京一は自分が座っている椅子ごとベッドの前に移動してきた。そうして、そこに座る龍麻の真正面からじろりと鋭い眼光を向けてきて。 「 ひーちゃんが悩んでいたのは知ってるぜ。けどな、黙って1人で行くなんて勝手なんだよ。俺って男はそんなにひーちゃんにとって負担な存在なのか?」 「 だ…な、何でそんな事言うんだよ、京一…?」 「 しかも何だ? 1人で洞窟に行ってきてたのかと思いきや、まるっきり反対方向の城へ行って魔術師と戦ってきただ? おまけに俺ら以外のパーティで」 「 うう…だ、だからそれは……」 眠る前に「何処に行っていたのか、何をしていたのか」だけはきっちり説明させられていた龍麻である。 京一は龍麻が眠った後、自分が参加できなかった龍麻たちの「冒険」に思いを馳せ、更に面白くない気持ちを増大させていたに違いない。 その思い切り不機嫌そうな顔に龍麻はびくびくとしながら下を向き、ぼそぼそと言った。 「 だから朝も言っただろ…? 俺だって京一には言ってから行こうって思ってたよ…。け、けど成り行きで何となくそういう展開になっちゃったんだから仕方な…」 「 仕方ない!? 俺がすっげー心配してたって事は話したよなあ?」 「 だからごめんってば!! もう! さっきも何回も謝ったのに!!」 「 ……分かった」 しつこく絡んだ割に、京一は必死になった龍麻の顔を見るとすぐに引き下がった。 けれど今度はひどく真面目な顔になってきっぱりと言った。 「 んじゃ反省してる証見せろ。今度はちゃんと俺も連れてけ」 「 え。だ、だって俺…」 「 1人なんて無理だ」 「 むっ! 京一、そんな強いモンスターいないって言ったじゃないかっ。俺だって結構今回の戦いでレベル上がったんだぞ…!」←他の人のお陰で 「 知らねーよ。とにかく連れてけったら連れてけ」 「 な、ななな何で京一、そんな偉そうに言うんだよ!!」 「 ひーちゃんが頼りねー勇者だからいけないんだろが!」 「 うううっ、何だ何だその言い方はー! 京一だって俺が持ち帰ってきたエロ写真集ににやりにやりしたふやけ戦士のくせしやがってー!!」 「 んなっ!? そ、そんな話は今関係ねーだろーがー!!」 「 関係あるっ。このエロ剣士エロ剣士エロ剣士ー!!」 「 そ、それならひーちゃんは弱々勇者だ!! このへぼへぼへぼ!!」 「 ななな、何をー!!!」 ………子供の喧嘩。 「 やるかっ!?」 「 の、望むところ―!」 しかしその喧嘩も長くは続かなかった。 ぐうぅぅぅ……。 「 あ……」 「 お……」 力を入れたら余計ハラが空いたらしい。龍麻は途端にハアと身体の力を抜いて、実に情けない顔をした。 「 怒ったら…腹減った…」 「 だな……」 それで京一もすっかり静かになった。 龍麻はそんな京一を恨めしそうに見つめる。 「 京一のせいだぞ……」 「 俺だけのせいかよ?」 「 だって…だって俺、ハラ減ったんだ…」 「 それ俺の質問の答えになってないから」 「 ………」 「 ………」 けれど、しんとした一瞬の沈黙の後、2人はそっと顔を合わせるとそのまま「ぶはっ」と噴き出して笑い始めた。 何だか分からないが可笑しい気持ちになっていた。 「 わはは、もう何かくだらなーい!」 「 だな! へへへっ!」 龍麻は再びベッドにころんと横になり、京一もふざけたようにそこに飛び込んで自分も寝転んだ。 拍子、京一が龍麻に抱きつく格好になって、2人はそのままじゃれつきあった。 「 うわっ、きつい〜! 京一、どけよー!」 「 ひーちゃんがどけよっ。散々占拠して寝てたんだろっ」 「 やーだやだ。わあっ、もうくっつくなよー」 しかし龍麻がそう言った瞬間、京一ははたと思い立ったような顔をすると、にっと笑って言い返した。 「 離れて欲しかったら連れてけ」 「 え?」 「 東の洞窟。俺も連れてけよ」 「 ……もう〜しつこいなあ……」 「 ヘヘへ…今頃気づいたのかよ?」 そうして2人が再び互いに見つめ合い、笑い合った時だった。 「 そうよ、龍麻。気づくのが遅過ぎよ?」 ドカンっ。 「 うぎゃっ!!」 「 きょ、きょきょきょ京一!?」 もの凄い音が聞こえたと思うや否や、自分を抱きしめるようにしてベッドにいた京一が悲鳴と共にバタンと床に転がり落ちた。 龍麻がぎょっとして倒れ伏した京一に目をやると、その視界の隅には。 「 あ……!」 「 うふふふふ…。探したわよ、龍麻」 「 み、美里…!?」 そこには世にも恐ろ…じゃなかった、美しい美里葵さまがにこにことしたボサツの笑みをたたえて立っていらっしゃった。←ヘンな日本語 「 み、美里…? 何で? あ、そ、それより京一…!」 「 …………うぐぐ、くっそー…」 「 あらあら京一君、どうしたの? そんな所で寝ていると風邪を引くわよ?」 美里はしらっとそんな事を言ってからベッドにいる龍麻の傍に歩み寄り、絶やさぬ笑みを向けたまま言った。 「 龍麻。とっても心配したわ。私を置いて何処かへ行ってしまうのだもの…」 「 あ…ご、ごめんね、美里。俺……」 龍麻が言いかけた言葉を、しかし美里は自らの言葉で遮った。 「 いいえ、いいのよ。あんなに煩い人たちがウザウザって貴方に群がっていたのですもの。たまには何処かへ行って休憩したいって思うわよね」 「 は、はあ……」 「 それにしても京一君たら、こんな所で龍麻を独り占めしようだなんてお茶目な人…。ここまでされるとさすがに犯罪ね。うふふ…でも、そんな姑息な抜け駆けで私と龍麻の赤い糸を切る事なんてできっこないけれど…」 「 あ、あの…?」 ぺらぺらと喋る美里に茫然の龍麻。 京一はうめいたまま未だ立ち上がらない。瀕死? そんな2人には構わず美里は続けた。 「 あら龍麻。そんな事より、何だか顔色が良くないわ。私と離れていた丸1日、ちゃんと良い物食べていたの? 駄目よ、龍麻は育ちざかりなんだから、きちんと栄養摂らなくちゃ。私がこの下のレストランで御馳走してあげる。さ、行きましょう?」 「 あ、じゃあ京一も…」 「 まあ、龍麻。駄目よ」 龍麻の言いように美里は悲しそうに首を振った。 「 京一君には龍麻が無事だって小蒔たちにお知らせに行ってもらわなきゃならないんだから。あの子たち、全く頭が良くないから無闇やたらにあっちこっち動き回って…うふふ、きっと今頃隣の国にまで行っちゃってるかも」 「 え、ええええ!? そんな遠くまで俺を探しに!?」 「 裏密ミサちゃん…彼女、京一クンの味方でしょう? 偽の占いで皆に誤った情報を流したのよ…。全く人が悪いわ」 美里ははあとため息をついた後、しかし「うふふふふ…」と何やら意味あり気な笑いを浮かべた。 「 それから龍麻。東の洞窟へは勿論私も連れて行ってくれるのよね?」 「 え、だって俺…」 「 連れて行ってくれるのよね?」 「 あの……」 「 ね?」 「 あ……」 「 龍麻?」 「 ………うん。分かった」 龍麻、根負け。 「 うふふ…」 「 じゃ、京一も一緒だよ…? 皆にはルイダンに伝言を残しておこう?」 「 …………」←笑顔のままの美里様 こうして。 何だかとっても怖い感じの3人組パーティが編成された!! 龍麻たちは夕食を摂った後、《東の洞窟》へ【勇者の証】を取りに行く!!(また夜にかよ) 龍麻は京一と美里を仲間にした!! 龍麻は《離れ難い糸》という呪いにかかった!!しかし龍麻はまだこの呪いの存在に気づいていない!! 《現在の龍麻…Lv12/HP73/MP40/GOLD6382》 |
【つづく。】 |
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