第25話 氷の商人

  浜離宮・道具屋。
「 いらっしゃい。何の御用ですか?」(買いor売り)
「 えーと。売るものはないから、【買い】!」
  龍麻は商人に道具屋リストを見せてもらった!!
「 えーとなになに…。《やくそう》と《どくけし草》と…。ん、京一。この《まんげつ草》って何?」
「 痺れを取るアイテムだよ」
「 ふうん。あ、じゃあこの《うつくし草》って?」
「 それはひーちゃんには必要ねえ」
「 何で?」
「 何でも」(きっぱり)
  京一は基本的に買い物には興味がないのか、熱心な龍麻とは裏腹に退屈そうだ。
  それでも隣の防具屋で自らの法衣を物色中の美里が気になるのか、龍麻の傍からは離れようとしない。←お互いに牽制中?
  龍麻、京一、それに美里という「東の洞窟へ勇者の証を取りに行く」パーティは、腹ごしらえの後、街を出る前に道具屋や武器屋に立ち寄った。普段からあまりアイテムを持たない龍麻に美里が提案したのだ(美里的にはボサツショップを利用してもらいたかったのだが、龍麻にやんわりと断られてしまった)。
  しかし浜離宮の武器屋には鉄の手甲以上の武器は見当たらず、防具も美里が調達してくれたカッコいい服以上に防御能力に優れたものは売っていなかった。
  それで龍麻は道具屋で必要そうなアイテムを探し始めたというわけである。
「 なあなあ。俺が友達の焚実から貰った薬草、何かすっかり萎れてしなしなになってんだけど、これって買い換えないと駄目なのか?」
「 別に使えなくもないだろ。持っているならそれ以上買う必要なんかないって」
「 うーん。じゃあ、俺、どくけし草とまんげつ草を10個ずつ買う!」
「 ありがとうございます」(チャリーン!!)
  龍麻はどくけし草とまんげつ草をそれぞれ10個購入した!!
「 ちょ…ひーちゃん! お前、そんなもんそんないらねえって!! 何してんだよー!?」
「 えーいいじゃん。もしもの時の為だよ」
「 もしもって…なあ。ひーちゃん、勇者なんだからキアリーくらい使えンだろ?」
「 キアリー? 何それ?」
「 毒を消す魔法だよ」
「 …………どくけし草、あと5個買う!」
「 ありがとうございます」(チャリーン!!)
  龍麻はどくけし草を5個購入した!!
「 な…!? ひ、ひーちゃん!!?」
「 えーと。あとあれとかこれとかそれとか……」
「 ここここら! そんなに何でもかんでも買……!!」
「 ありがとうございます、ありがとうございます」(チャリンチャリーン!!)
  龍麻はいろいろながらくたをたくさん購入した!!

  道具屋、退散。


+++


「 ったく、ひーちゃんの買い物依存症には参ったぜ…(汗)」
  がしがしと髪の毛をかきむしりながら、店の前で京一は毒づいた。
  ちなみに美里も何やら怪しげな笑みを浮かべならが両手いっぱいの買い物袋をぶら下げてご満悦だ。
「 まあ、備えあれば憂いなしって言うじゃん。俺の村はな、町の商人も1月に1回でも来てくれればマシなド田舎でさ。いっつも焚実とかが村を代表して色んな物をまとめて買ってきてくれてたんだ。俺、ずっと前病気で寝込んだ時、焚実がその時余分に買っておいてくれた薬で助かった事もあるんだ」
「 ……ふうん」
「 まあ龍麻。貴方が熱で寝込むなんて…私がその場にいてあげられたらすぐに治してあげたのに」
「 えへへ…平気だよ。焚実がずっと一緒にいてくれたもん」
「「………」」←京一と美里、複雑な表情
「 あっ、そうだ。ところで全部で幾ら使ったのか一応小遣い帳に記入しとこ!」
「 小遣い帳だあ…?」
「 あら龍麻。可愛いメモ帳ね。今の道具屋さんで買ったの?」
「 うん! えへへ…こうやって買った物をちゃんと書いておけば、美里のお店で無駄遣いしなくても良いからね!」
「 まあ…うふふ。龍麻ったら、そんなに警戒しなくても良いのに…」
  美里の何やら陰のこもった笑顔に龍麻は気づかない。
  龍麻は道具屋の前に置いてあるタルの前に座りこむと、そこにメモ帳を開いて熱心にかきかきし始めた。( おいおい…)
「 えーと、メモメモ…。どくけし草1個の値段が16ゴールドで〜それを15個買ったから〜」


「 どくけし草が16ゴールドだって!?」


  その時、不意に龍麻の背後からそんな震えた声が聞こえた。
「 え……?」
  龍麻が振り返ると、一体いつからそこにいたのだろうか。目の前にはすらりとした細身の青年が黒い艶やかな髪を乱れさせながら怒りの目で龍麻のことを見下ろしていた。
「 あの…?」
「 コイツ、いつの間に俺らに近づいた…!?」
  京一と美里は警戒のこもった目でその突如現れた青年のことを睨み据えた。
  しかし青年は2人には構う風もなく、龍麻の手から小遣い帳を奪い取ると、より驚愕の目をして吐き捨てるように言った。
「 何てバカな買い物をしているんだ。この辺りの店では、どくけし草の相場は8ゴールドと決まっているんだぞ」
「 え…?」
「 田舎者だからとナメられたな。しかし君は納得して金を払った。だから騙された君にも責任はある」
「 え、え?」
「 お、おいお前…!」
「 龍麻をお馬鹿さん呼ばわりするなんて笑って許せることではないわね…」
「 …だが同じ商売人としてこういう事を見逃すわけにはいかないな…。待っていたまえ」
  うろたえる龍麻、怒り心頭の京一、美里には構わずに、青年はさっさとそれだけを言うと1人先ほどの道具屋へと入って行った。
  それから間もなくして店から出てくると。
「 ほら、これを受け取れ」
「 え……?」
  青年からぽんと手渡されたそれは、掌サイズにちょこんと収まる、小さな白い招き猫の置物だった。
「 ……か、可愛い!!」
  龍麻は【幸運の招き猫】を手に入れた!!
「 余分に払った金でそれを買ったと思えばいい」
「 けっ、何だ、そりゃ。そんな玩具、これから戦いに行く俺らにはお荷物以外のなにものでも―」
「 可愛い可愛い可愛い!! どうもありがとう!! すっげー嬉しい!!」
「 ……おい、ひーちゃん(汗)」
「 龍麻…。そんな物で心惹かれるなんて…それなら私も何か……」(ごそごそと何かないか探る)
  龍麻は招き猫の頭をよしよしと撫でてから、それをくれた青年を改めて見上げた。
  鋭い眼差しからキツそうな印象を受けるが、端麗な美形である。
  気になるのは、何やらやたらとデカイ荷物を持っている事なのだが…。
「 えーと…。俺、緋勇龍麻! 君は?」
「 君なんかに名乗る名前は持たない」
「 え……」
  しかし青年はきっぱりとそう言うと、後はくるりと3人に背を向けた。
  すると、その瞬間。
「 あ……!?」
  不意に先刻まであった青年の大きな荷物がぱっと消えてなくなった!!
「 な、何だ…?」
  京一にも見えたようだ。ごしごしと目をこすり、今あった出来事に理解できない顔をしている。
  美里だけが涼しい顔をして答えた。
「 商人がよく使う魔法よ。あれだけの荷物、小さくたたんで持ち運ばなきゃ不便でしょ」
「 え…あ! だ、だから美里も普段は手ぶらみたいな格好なのにテントとか出せるんだ!」
「 うふふ、そうよ、龍麻。尊敬した?」
「 すごい! へーあの人、商人で魔法も使えるんだ! ホントすごいなー!!」
「 …………」
( 結構美里って哀れだな…)←京一、心の声
  わいわいと騒ぐ3人を青年は煩わしそうにちらとだけ振り返った。
  けれどやはり何も言う気はないのだろう、後は何も言わずに去って行ってしまった。
「 あ…名前。教えてもらえなかった…」
  しょんぼりと項垂れる龍麻。掌サイズの招き猫も気のせいか寂しそうに見えた。
「 う〜ふふ〜。ひ〜ちゃ〜ん」
「 わ!?」
「 ……だからお前は突然現れるなって」
「 うふふ〜ミサちゃん、登場〜」
  はーとため息をつく京一には構わず、突然現れた占い師裏密は、驚く龍麻にきししと笑って指さした。
「 ひーちゃん〜。ミサちゃんがあげたカード見てごらん〜?」
「 え…? カード?」
「 あのね〜。頑ななお仲間さんは〜すぐに正体を教えてくれない人もいるから〜。それで調べると便利だよ〜」
「 お、お仲間…って…?」
「 いやだわ…。多分そのテのキャラだと思ったのよ、あれは…」(ハアとため息をつく美里)
「 えーと、裏密さんがくれたカードカード…あ!」
  龍麻は何枚か既に見慣れているカードを次々とめくっていたが、ある最後の一枚になった時に思わず声をあげた。
  そこには今まで加わっていなかった、けれど他とは色の異なるカードがあった。
  それは背景の真っ黒なカード。
「 まだお仲間になってないのに出会っちゃって好感度が低い人のは〜。バックが黒なんだよ〜。でもほら、壬生君や魔術師の場合は灰色でしょ〜。これはまだ仲間じゃないけど好感度は低くない証拠〜」
「 ホントだ。御門のカード、魔術師の絵もいつの間にか追加されてる!」
「 村雨のはいつの間にか白いカードになってんのな…」
「 あら面白いアイテムね。私のはどんな絵柄なのかしら。慈悲に満ちた聖母の絵だったりして…うふふ」
「 美里のは黒い悪魔が笑ってる絵だぞ。ボサツガン・美里って描いてあるから間違いねえ」
「 …………メラ!」
「 ぎゃ!!」
  京一は10のダメージを受けた!!
「 ぐぐ…美里、お前なあ…」
「 ……それで龍麻。今の人のカードはどんな絵が描いてあるの?」
「 うん。亀と蛇の絵だよ」
「 まあ…それも不気味ね」
「 ………うん」
  しかし龍麻はそのカードを見つめ、そこに記されている名前を何となくつぶやいた。


「 キサラギ、ヒスイ」


  何だかまた、近いうちに会えるような気がした。



  龍麻は旅の仲間、如月翡翠と知り合った!! しかし如月が仲間になってくれるかはまだ分からない!
  龍麻は幸運の招き猫を手に入れた!! これを手にして買い物をすると詐欺に遭わずに済み、またその店にあるレアな商品と出会える確率が高くなる!! また戦いの時にアイテムを拾う確率が高くなる!! この商品は大変貴重なので売却は不可である!!
  龍麻は《離れ難い糸》という呪いにかかっている!!しかし龍麻はまだこの呪いの存在に気づいていない!!
  《現在の龍麻…Lv12/HP73/MP40/GOLD4822》


【つづく。】
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