第29話 徳川王国への潜入 |
ルイダンを出たところ。 「 なあ、ひーちゃん。これから何処へ行くんだ?」 「 ん…。とりあえず小蒔ちゃんたちが東の洞窟攻略のヒントを得たっていう隣の国へ行こうかと」 「 いい考えね、龍麻。でも…」 美里は微笑みながら、自分たちと一緒に恨めしそうな顔をしつつ外に出てきた桜井たちに視線をやった。 「 そんなまどろっこしい事しないで、今小蒔たちに教えてもらいましょうよ。そこでどんな情報を得たのか」 「 え…でも」 龍麻は戸惑いながら、依然捨てられた子猫のような顔をしている桜井を遠慮がちに見やった。 彼らからは、「一緒に連れて行く」事を条件に、その話を教えてもらう予定だった。 それが出来なかった今、そんな都合の良い事が許されるのだろうか。 「 いいよ、ひーちゃん。だってひーちゃんの為だもん…(涙)」 しかし龍麻の真意を読み取ったのだろう、桜井がぐっと握りこぶしを作りながら堪えるようにそう言った。 醍醐も不本意ながら頷く。 「 うむ…。俺たちが得てきた話で少しでも龍麻の東の洞窟イベント攻略が早まればそれに越した事はないからな」 「 醍醐…小蒔ちゃん…」 「 お前ら、案外イイ奴じゃねーか」 申し訳なさそうな顔をする背後で京一が感心したような声をあげる。 桜井はそんな京一を見て「やっぱり教えたくない」と思ったが、大好きな龍麻の為に苦汁を飲む事にした。 「 あのね、ひーちゃん。まずこの秋月王国から1番近くの国の名は…徳川王国って言うの」 「 徳川王国?」 龍麻が復唱すると、不意に隣に立っていた美里がぴくりと肩先を揺らした。 そして、表情こそ微笑を湛えたままだったが、桜井の先の言葉を遮って声を出した。 「 待って小蒔。徳川王国と言ったの? 確かあそこはここから西方にあるシヴァ大河を越えなくてはならないから、秋月から1番近くの国とは言えないはずよ」 「 あーそれがねー。ボクたちがこの国に来る数ヶ月前、すっごく大きな地震が起きて、あそこらへんの地形が今までと比べて大分変わっちゃったみたいなんだよね」 「 地震?」 京一が眉をひそめると、これには醍醐が腕を組んだまま神妙な顔を見せた。 「 ああ。俺は数年前にあの辺りに行った事があるから、あの変わり様には正直目を見張った。大河を挟んで差し向かいにあった秋月と徳川が、あの地殻変動によってその距離をこうも縮めてしまうとは…」 「 大河の形もぐにょって感じに曲がっててねー。船なしでも徳川王国へは行けちゃったんだよ」 「 ………そうなの」 桜井と醍醐の発言に、何故か美里が考え込むような仕草を見せた。 龍麻は気づかなかったが。 「 …まあ行けば分かるよね? それで、その徳川王国はどんな国なの?」 「 うーん、とにかくおっきい国だよ。秋月よりおっきいかもね」 「 へーすごいね!」 「 でもねえ…」 ここで桜井は何故か言葉を濁し、隣に立つ醍醐を見上げた。 代わりを受けて醍醐が口を開く。 「 どうにも…きな臭さを感じる国だな。国王も奇妙だし…」 「 奇妙?」 「 ありゃ、バカだな」 京一の疑問にそう答えたたのは、突然店から出て来た雨紋だった。手にした槍をいじりながら雨紋は苦笑した。 「 ああいうのをバカ殿様って言うんだろうぜ」 「 バカトノサマ?」 「 もっとも、数年前まではあんなじゃなかったはずだ。もっとこう…キリっとした、頼りがいのあるリーダーって感じがしたゼ? 少なくとも昔俺サマが会った印象はそうだったな」 「 雨紋って徳川の王様に会った事あるの?」 「 本当に昔、ちらっとだけな」 「 へーすごいな!」 龍麻が感心したように言うと、雨紋は照れたように笑った後、醍醐に「先を続けなよ」と言った。 醍醐が頷いて再び口を開く。 「 まあ、その国王のことは置いておくとして…。俺たちがそこで得た東の洞窟に関する情報はこうだ。『4人の守護者を集めよ。さすれば道は開かれん』」 「 4人の守護者?」 「 あの柱に書いてあった奴の事だな。1人じゃねえのか…」 京一がつぶやくと醍醐が頷いた。 「 何故かあの国には勇者のことを記した書物がたくさんあってな。まあ、勇者の証に関する情報はそれほど多くなかったんだが、それでもふらりと立ち寄った店には関連書籍が数冊置いてあった」 「 お金がなくて買えなかったんだけどね」 桜井がぽりぽりと頭をかいて申し訳なさそうに言った。 醍醐も「すまん」と謝り、再び話を続けた。 「 何でも徳川王の先祖は数百年前世に現れた暗黒の魔王を倒した勇者だとかで…。あの国にはその類の…所謂勇者伝説の話がわんさとあるらしい」 「 王宮の連中が適当にフイたデマカセだろうけどナ!」 雨紋が醍醐の言葉を補足して嘲るように笑った。 「 それで? とにかく話を進めろよ。その4人の守護者ってのは何処にいるどんな奴なんだ?」 「 む…それはよく分からないのだが、ただ」 醍醐は言った後、ごそりと懐から一枚の紙切れを取り出した。 「 これはあの町の子供らが描いていた落書きだ。勇者伝説には、いつも絶えず彼に付き従う4人の従者がいたという。1人は、虎のようにたくましく」 醍醐は言いながら紙きれに描かれた拙い動物の絵を指し示した。 そこには黒い線が縦にたくさん引かれた白い虎の絵があった。 「 1人は、不死鳥の如き炎の魔法を使い」 そして醍醐が言いながら次に指し示したのは、口から炎を吐いている大きな鳥。 「 1人は青き龍の如き鋭い牙を持ち、跳躍する」 青き鱗を持った、空を飛来する巨大な龍が紙面の上方に描かれている。 醍醐は次々にそれらを指し示し、最後に紙面の隅にちょこんと記されている見た事のない生き物を指差した。 「 そして1人は…それら3者を束ねる、勇者にとって最強の守護者――玄武」 「 ゲンブって何?」 「 伝説の幻獣だ。蛇と亀の姿をしている」 「 ……何か怖いな」 龍麻が素直な感想を漏らすと、雨紋が言った。 「 その勇者伝説に詳しい人を知ってるゼ? 徳川王国で骨董品屋をやってる人サ」 「 え、本当…っ?」 「 ああ。いつも商売であちこち旅しているようだから、今現在そこに本人がいるかは分からないけどな。あの人ならその手の伝説にも精通しているし、詳しい話を聞いてみるのもいいかもしれないぜ?」 「 何だ雨紋。お前もあの国に行った事があったのか」 「 それともボクたちと一緒の時期にひーちゃんを探しに行ってたの?」 醍醐と小蒔の質問に雨紋は「いや」と短く答え、不意に何事か思い出したようになって苦笑した。 「 以前、その国の依頼でちょいとした仕事をした事があってな。そこの店の人ともその時知り合ったのサ。まあ、ちょいと気難しい人ではあるが…きっと龍麻サンの力にはなってくれると思うぜ! 何てったって、あの人は筋金入りの勇者マニアだからな!」 「 勇者マニア??」 「 『本物の勇者を探している』って、口癖のように言っていたから」 「 ………俺本物の勇者じゃないかもしれないよ?」 「 またまたそんな事を」 龍麻のくぐもった台詞を軽く流して、雨紋は「行ってこい」とばかり片手をひらひらと振った。 「 とにかく行けば分かるさ。ってなとこで、そろそろ出発したらどうだい?」 「 ちょっと待って龍麻」 その時突然、先刻までずっと黙りこくっていた美里が口を開いた。 皆がそれで意表をつかれた顔をしているのも構わず、美里はにっこりと笑って龍麻を見た後、静かに言った。 「 ごめんなさい、龍麻。私、突然急用を思い出してしまったの」 「 え…?」 「 何だあ…?」 龍麻が驚き、京一が不審な声を上げると、美里はほうとため息をついた後続けた。 「 残念だけど、私とマリィは一旦ここでお別れするわ。徳川王国へは、やっぱりあの国へ行って大体の事情を得てきた小蒔たちと一緒に行くといいと思うの」 「 え…でも美里…」 「 葵ママ、マリィたち、龍麻パパと一緒に行けないの?」 寂しそうにそう言って表情を翳らすマリィを美里は優し気な瞳で見下ろした。 「 ええ、ごめんねマリィ。私たちはお留守番よ」 「 美里…? でも俺、お前たちから離れたくない…!」 龍麻は《離れ難い糸》という呪いにかかっているため、美里とマリィと離れるとなるとどうにも悲しい気持ちになってしまう。 龍麻は美里に縋りついた!! 「 まあ、龍麻…。うふふ、そんなに私のことを…? でも大丈夫よ。はい……」 「 あれ…?」 美里は突然呪い解除の魔法をかけた!! 「 な、何だろ……?」 龍麻から呪いの効力が消えた!! 「 ………あれあれ? 俺は一体…?」 「 名残惜しいけれど、また…。でも龍麻。私はいつでも貴方の傍にいるわ……」 そうして美里は突然ルーラ(移動魔法)を唱えた!! 美里はマリィと共に、何処かへと飛び立ってしまった!! 美里とマリィがパーティから離脱した!! ぽっかーん………。 あまりに突然の展開に唖然とする一同。 「 ご、ごほん…」 そんな状況に対し、1番に咳払いをして皆の目を覚まさせたのは醍醐だった。 「 何やら…龍麻とパーティを組むと思っても先ほどのようにダメージを感じないのだが…」 「 あ! そういえばボクも!!」 「 俺サマもだぜ!!」 「 俺も…美里がいなくなってもあの時みたいに寂しくない…」←結構ひどい 「 ひーちゃんっ【泣笑】!! もっかいルイダンに入ってパーティ組み直そう!! 葵とマリィちゃんがいなくなっちゃったからさ!!」 「 あ…う、うん……」 「 何だかよく分からねえが…。美里のやつ、呪いを解除できるならさっさと解けよな…(呆)」 京一のつぶやきをよそに、こうして新たな…といよりも、当初の予定メンバーが再び結集された!! 桜井小蒔が仲間になった!! 醍醐雄矢が仲間になった!! 雨紋雷人が仲間になった!! 龍麻と京一の2人を加え、このメンバーで徳川王国への潜入開始である。 目指すは、勇者伝説、4人の守護者について知っているらしいその骨董品店の主を訪ねて―。 龍麻は《離れ難い糸》という呪いを解いた!! 《現在の龍麻…Lv12/HP70/MP40/GOLD4822》 |
【つづく。】 |
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