第30話 如月骨董品店

  龍麻たち新生パーティは秋月王の命により《勇者の証》を得る為、東の洞窟攻略に必要だとされる「守護者」の手掛かりを求めて徳川王国へやってきた。
  ちなみに道中多くのモンスターにも出くわしているが、皆が強いのでやっぱり楽勝である。(いいんかそれで…)
「 うわー…ホント、おっきいなあ」
  王国の入口、巨大な鉄門を前にして龍麻は驚嘆の声をもらした。
  雨紋が龍麻の横に来て笑う。
「 デカイだろ? 海に面している秋月は造船技術なんかが長けてるが、大陸の中心地であるここは何と言っても馬! 速くて馬力のあるヤツが多いってんで有名だな」
「 あ、それならボクも知ってる! ボクの村の悲願は、年に1回この国で開かれる【マガミカップ】で優勝する事なんだもん!」
「 マガミカップ?」
  龍麻が首をかしげると、桜井はフンと鼻を鳴らして興奮したように言った。
「 競馬だよ、競馬! 徳川や秋月、その他の国々からそれぞれ最強の俊足馬を集めてその中から世界一の馬を決めるレース! 燃えるんだよ〜!!」
「 へ、へえ…?」
「 ボクん所の馬はいっつも徳川の所の馬に負けて2着が多いんだ。ここさえ負かせば、世界一の牧畜村として有名になれるのにさ」
「 けっ、お前が育ててるわけじゃねーだろ」
  京一のバカにしたような言い方に桜井がキッとして言い返す。
「 バカだな京一は! 速い馬を作るにはね、良い空気、おいしい牧草、それにこれでもかってほどの愛情が必要なんだ! だからマガミカップに勝つって事は、自分たちの国がそれら全てを兼ね備えている最高の国って事の証明にもなるんだよ!」
「 はあはあ、そうですか」
「 このー!! 真面目に聞けー!!」
「 わあっ、ちょお、落ち着いて小蒔ちゃんっ!!」
  いつもよりテンション高めの桜井を必死になだめつつ、龍麻は気を取り直したように言った。
「 でもまあ、って事は、毎年そういういい馬を育ててる徳川王国はとっても良い国って事なのかな?」
「 ……の、はずだったんだがねえ……」
「 え?」
  苦笑して言葉を濁す雨紋に、龍麻が聞き返す。
  しかし桜井や醍醐も困ったようになって口を閉ざし、何も言おうとはしなかった。


  そうして龍麻たちが一歩門をくぐり、中へ入ると―。


  ザーザーザーザー……。
「 ……………」
  ザーザーザーザー……。
「 ………あれ? 雨?」
  一歩を踏み出した途端、激しい雨に降られて龍麻は一瞬茫然としてしまった。
  しかしこの事を察知していたらしい醍醐や桜井、それに雨紋は素早く持っていた傘をばっと開いた。
  桜井が龍麻に自分の傘を差しながら言った。
「 ひーちゃん、冷たい雨だからあんまり濡れると風邪引くよ?」
「 あ、あれえ…? おかしいな、さっきまでぴかぴかに晴れてたのに…??」
「 …へっくし!! うおー何なんだ急にィ!? おい、雨紋! お前の傘寄越せ!!」
  見事に濡れてしまったのは案の上京一だ。恨めしそうに悠々と傘を差している雨紋を睨む。
  しかし雨紋は知らぬフリだ。
「 へっ、それが人に物を頼む態度かい? 龍麻サンと相合傘するならともかく、お前となんてごめんだぜ」
「 バカ野郎! 俺だってお前なんかとンな事したくねーよッ! 俺はお前にお前の傘を寄越せと言ってんだよッ!」
「 こら京一、やめないか、みっともない」
  雨紋と京一が言い争いになりそうになったのをぴしゃりと止めたのはやはり醍醐だった。
  結局京一はその醍醐の傘に入れてもらった。
「 うう…しっかし冷てェ雨だぜ…。しかも何なんだ? 急に降り出したにしちゃあ、不自然すぎるぜ…」
「 不自然極まりないよ。だってこの国の外へ一歩出れば晴れてるんだもん」
「 はあ…?」
「 小蒔ちゃん、それって…」
  龍麻が戸惑いながら訊くと、桜井は真剣な顔で頷いた。


「 そうなんだ。ここ最近の話らしいんだけど…この国では、雨が意思を持っているって言うんだ」


  「守護者」について知っているらしい人物が経営する骨董品店。そこを目指しながら、龍麻は醍醐たちからこの原因不明の雨についてもう少し話を聞く事ができた。
  この不思議な雨が降るにはある一定の法則があるらしい。
  一つ。国内で殺人が行われた時。
  一つ。国内に龍麻たちのような初来訪者が入国してきた時。
  一つ。田畑の作物が潤っていない時。(要は殺人事件も入国者もなく、一月の降水量が不足気味と思われる時)
「 何でもこの国には水の神様がいるらしくってね。だから町の人も最初はそうやって水神様がこの国を見護ってくれてるんじゃないかって噂してたんだって」
「 へー。まあ確かにそんな感じはするよね」
「 でもね、やっぱり段々と気味悪がられて、最近ではその雨もヘンな風に言われているんだ。雨が降った次の日には必ず災厄が起きる、とか」
  桜井が言ったその台詞に龍麻は眉をひそめた。
「 何でそんな事…」
「 さあ。まあ、殺人の後には雨が降るって言うんだしね…。実際悪い事が重なったからなんだろうけど。でもそうやって悪い方に捉えちゃうのは、この国に良くない空気が蔓延している証拠かもね」
「 ………」
「 人はとかく自然現象を何かの前触れとして捉えてしまいがちだからな」
  醍醐はそう言いながら隣を歩く京一の背中をバンと叩いた。
「 コイツのように何でもかんでも明るく物事と向き合えるバカばかりならラクなのだろうがな」
「 ああ? おい醍醐何だそりゃ!? お前、俺をバカにしてんのか!?」
「 バカとは言ったがバカにはしてない。誉めてやってるんだ」
「 嘘つけ、引っかかる物の言い方しやがって。ったく、雨が降った次の日には悪い事が起きる? 悪い事なんざ、雨だろうが晴れだろうが、そう思った奴のところに舞い込むものなんだよ」
「 ほらみろ、バカだ」
「 ああ!?」
「 はいはい、あんたらいい加減うるさいよ。ほい、龍麻サン。あそこサ」
  醍醐と京一の言い合いを軽く流し、先を歩いていた雨紋が前方を指差した。


  如月骨董品店。


  通りの繁華街からは少々離れた一本道の桧の木の隣。
  その店はどことなく厳かな佇まいを見せていた。
「 わー…。何かカッコいいお店!」
  外観もそうだったが、古めかしい木の看板からして龍麻はその店の雰囲気に惹かれて浮かれた声を上げた。
  桜井の傘からぱっと飛び出し、1番にその引き戸を開ける。
  ガラガラ…。
  木枠のガラス戸が大きな音を立て、龍麻たちを店の中へと引き入れた。
「 ………骨董品店って」
  龍麻は一歩、二歩と中へ進み、つぶやいた。
  今まで見た事のない珍しい品物がたくさん陳列されている。また武器や防具は勿論、薬草や毒けし草など、道具屋で見かけたアイテムもたくさんあった。
  そして醍醐たちが言っていた書籍も。
「 すごいなすごいな! 俺、こういうお店好きだなー!」
「 あはは、ひーちゃんは好きだと思った!」
  桜井は嬉しそうにそう言ってから、龍麻に奥の棚に飾ってある大きな品を指差した。
「 ほらほらひーちゃん。ああいうのも好きでしょ?」
「 え? あ…!」
  桜井が差した物は、巨大な白い招き猫だった。金色の鈴がこれまたぴかぴかに光り輝いている。
「 招き猫!!」
「 ねー? 可愛いでしょー? でもあれ高いんだよねー(汗)」
「 同じだ…」
  龍麻はカバンから小さな招き猫を取り出し、見つめた。
  東の洞窟に旅立つ前、道具屋の前で知り合ったキサラギヒスイに貰ったのだ。
「 キサラギ…如月骨董品店…あれ??」


「 いらっしゃい」


  その時、店の奥から和装姿の人物がすっと音も立てずに現れた。
「 あ…!!」
「 何が入用だい」
  無表情、抑揚のない声でそう言う人物は、間違いなくあの時の謎の商人だった。
「 よう、如月サン。久しぶり!」
  驚いている龍麻に気づかず、雨紋が前に出てその如月に挨拶をする。
  しかし気さくな雨紋に対し、如月は相変わらず無表情のままだった。
  そうして。
「 雨紋。面倒事ならごめんだ」
  ひどく迷惑そうに、それだけを言ったのだった。
「 ははは…相変わらずっスね」
  そんな如月に慣れたような目を向けつつ雨紋は笑い、それから背後の龍麻に振り返った。
「 面倒事どころか、アンタにとっちゃあ運命の相手になる人を連れてきたんだ。感謝してくれよ? な、龍麻サン?」
「 え、え…?」
「 …………」
  妙な紹介の仕方をされて途惑う龍麻。
  そしてそんな龍麻に、如月は相変わらずの仏頂面を向けていただけだった。



  徳川王国に来るまでの間に、龍麻は新たに経験値等を稼いでいる! しかしまだレベルは上がっていない!
  《現在の龍麻…Lv12/HP65/MP35/GOLD5636》


【つづく。】
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