第3話 ほのぼの村

  旅の仲間・戦士(剣士)の京一を得て大国アキツキーへ向かう事になった龍麻。
  道中様々な種類の恐ろしく凶暴なモンスターにも出くわしたが、京一の活躍によって龍麻は難を逃れていた。
「 蓬莱寺、本当にどうもありがとう…。俺、お前がいなかったら多分とっくに死んでた」
  広大な荒野の中、てくてくと歩きながらそう言って礼を言う龍麻。
  京一はそんな龍麻に相変わらずの軽い笑いで「気にするなって!」と返してくる。
「 俺は自分の腕を磨く為に旅しているわけだし。ま、たまにこうして目的持って歩くのも悪くねーよ」
「 で、でも俺…。蓬莱寺にお礼できる程のお金とかあんまりないんだ。お前くらい強かったらきっと大きな町のお金持ちの護衛なんかで儲ける事もできるんだろ?」
「 まぁそういうバイトもするけどな…。けど緋勇〜、ンな事マジで気にするなって! 俺はお前と一緒に歩いた方が楽しいと思ってやってんだから。大体、見るからに貧乏なお前から金貰おうなんて思ってねェよ!」
「 でも……。あ、そうだ! じゃあさ、今度通りかかった町では俺がメシ奢るな! 一応父さん、それくらいの資金だけはこの袋に入れてくれたみたいだし」
「 お、メシかよ! いいねえーサンキュな!」
「 あ。って言ってたら、早速あそこに町発見!」
「 ん…あー…まぁ、町っていうよりは村って感じだなぁ、ありゃ……」
  どれくらい歩き続けたのだろうか。
  そろそろ日が沈むだろう時刻。
  ようやく龍麻たちがたどり着いたそこは、民家よりも放牧場の数が目立つ、小さな牧歌的村だった。もっとも龍麻の「外れ村」に比べれば彼が「町」だと思ったのも無理はないが(外れ村は人口50人余りの過疎地)。
「 わー…何だかのんびりした感じの所だなぁ」
「 あら。旅の方ね。ようこそほのぼの村へ」
「 え…?」
  村に入った瞬間、入口の前に立っていた年若い女性がそう言って龍麻たちを招き入れた。
「 この村は何よりもほのぼのを愛する村よ。ほのぼのに反した事をすると大変だから気をつけてね」
「 は、はあ…?」
  龍麻は訳が分からず首をかしげていたが、さっさと村の中央へと向かっている京一に慌てて歩を進めた。
「 ほ、蓬莱寺、待ってよ!」
「 ん…あ、悪い。いや、宿屋はねェかなと思ってさ」
「 宿屋? あ、そうか、今夜泊まる所…。蓬莱寺、疲れてんの?」
「 あ? 俺は別に。たださ、お前を早く休ませてやりてェと思って」
「 え……」
  京一の思わぬ発言に龍麻はぴたりと動きを止めてぽけーっとした顔をした。
  するとそんな龍麻の様子に気づいたのだろうか、京一が苦笑いして首をかしげた。
「 お前、自分で気づいてないだろ。お前のHPはなーもう0に近いんだよ、0に。下手すると死んじまうぞ?」
「 えぇー…? あ…何かそういえば身体だるいかも」
「 あのなぁ…。その打たれ強さはどうにもタダ者じゃねえって気がするがな。ま、とにかく傷の手当てだって必要だろうしよ。早く落ち着く所を決めようぜ? ほら」
「 え…あ、蓬莱…っ」
  不意に自らの腰に自然に手を回されて、龍麻は面食らった声を上げた。
  京一は自分を心配してそうしてくれている。
  それは分かっているけれど、同じ年の男にそうやって庇ってもらうのは何だか今更ながらにとてつもなく恥ずかしい事のような気が龍麻にはした。
「 あの…蓬莱寺…俺、自分で……」
「 あのさ、それからその蓬莱寺ってのやめろな? 何か他人行儀みたいだし?」
「 え……んじゃあ…俺も……」
「 おお、龍麻。じゃ、行くぜ?」
「 うん……」
  けれど、そう言って龍麻が途惑いながら自分を支えてくれる京一に笑いかけた瞬間だった。

  ガッツーン!!

「 いってー!!」
「 ほ…蓬…じゃなかった、京一…?」
「 ………っててて……!」
  突然、京一の後頭部に何かがもの凄い勢いで当たり、京一はもんどり打って地面に倒れ伏した。
  龍麻は茫然として自分の足元に倒れた京一を見つめていたが、ふと傍に落ちているものを見て「あ」とする。
  それは大きな大きなリンゴだった。
「 ってえなあ…ったく、どこの悪ガキの仕業だよ!」
「 あ…だ、大丈夫か、京一?」
「 くっそー! おい、誰だこんなもん投げやがったのは!!」
「 ボクだよ!!」
「 あ…?」
  京一の叫びに堂々とそう答える声が聞こえ、龍麻はすぐにその声のした方へ視線をやった。
  見ると村の中央から少し外れた先に、弓を抱えた少女がむんとした顔をしてこちらを見やっていた。
  そうしてつかつかと歩み寄ると、京一が手にしたリンゴをばっと奪い返し、一言。
「 ここはほのぼの村だぞ! 不埒な行動は慎め、変態!!」
  少女はそう言い、それからくるりと龍麻にも視線を向けて言った。
「 ちょっと大丈夫、キミ? 腰だけじゃなくてお尻とか触られてない?」
「 え…? え、ええ…!? あ、あの…?」
  途惑う龍麻に、少女は更にダメ押し。
「 気をつけなくちゃダメだよッ。キミみたいに可愛い子は、こんな見るからにスケベそうな男と2人っきりでいたら何されるか分からないよ! 大丈夫、ホント? 道中何もされてない?」
「 あの…あの、何か勘違い…」
「 テメエ…人が黙ってれば好き勝手言いやがって…」
「 でも安心して! 少なくともここはほのぼの村! いやらしい事考えてたり、ヘンな事する輩は村人総出でやっつけるって掟があるんだ! だからキミもここにいる限りはヘンな事される恐れはないし!」
「 いや…あの、あのさ……」
「 あ、ところで宿を探しているの? だったらボクんちおいでよ! ボクんち、基本は酪農家だけど宿屋もやってるからさ! 夕飯と朝ご飯付きで一晩6ゴールド! お得でしょ!」
「 あ…うん…」
「 冗談じゃねえ! おい龍麻! こんな奴んとこじゃない、まともな宿屋を探すぞ!」
  我慢できなくなったように京一は立ち上がってそう言ったが、少女はすましている。
「 じゃ、キミは違うとこ泊まればいいだろッ。ね、タツマ…くん? キミはボクん所に泊まりなよ!」
「 こらー! さっきから一体テメエは、いきなり来て何なんだー!!」
「 ボクはテメエじゃないよ! 桜井小蒔って名前があるんだ!」
  少女はむっとした顔をして京一にそう言い、また龍麻にはくるりとした気持ちの良い笑顔を向けた。
「 宜しくね、タツマくん。あ、お知り合いになれた記念。これ、あげるね♪」
「 は、はあ…。どうも……」
  新しい村に入った途端、訳の分からない歓迎もあったものだ。
  思い切り不機嫌になっている京一の顔を眺めながら、龍麻はにこにこしている桜井から貰った赤いリンゴをまじまじと見つめた。



  龍麻はHP回復アイテム・リンゴを1つ手に入れた!
  《現在の龍麻…Lv(レベル)02/HP(生命数)05/MP(魔法力)10/GOLD(お金)300》



【つづく。】
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