第31話 四神を探せ…!?

「 …なるほど。それで君たちは秋月王の命であの東の洞窟を攻略しようとしていると」
  皆を代表して雨紋がこれまでの経緯を説明すると、如月はつまらなそうにそう言った。
  醍醐が頷いて補足する。
「 ああ。だから俺たちがこの店で読んだあの書物…あそこにあった洞窟攻略の鍵を得る4人の守護者について何か知っている事があれば教えて欲しいんだ」
「 …………」
  如月はしばらく黙っていたが、やがて自分の目の前に立ち尽くしたままの龍麻にすっと視線を寄越した。
  その鋭く冷たい目線に龍麻はやや怯んでしまう。
「 ……あの」
  それでも皆にばかり頼っているわけにもいかない。
  龍麻は思い切って如月に声をかけた。
「 俺、自分が本当にその勇者なのかという確信はないけど…。でも、秋月の王様に言われた事はちゃんとやりたいと思うんだ。だから、もし何か…如月君が知っているなら…」
「 まあ、いいさ」
「 え?」
「 知っている事は教えよう。それくらいは構わない」
  意外にも如月はあっさりとそう言い、それからくるりと背を向けると奥の書棚から何やら一冊の本を取り出し、龍麻に見せた。
「 君はこの世の秩序を護るという4神の伝説を知っているか」
「 し、知らない…」
「 まあこの世を護るなどというと大袈裟だが…。この世を混沌の世に陥れるとされる暴れ龍を抑止する役目を負っている事は事実だ。あの洞窟の奥を開きたければ、その4神に認められ、彼らを仲間に引き入れなければならない」
「 ………?」
「 暴れ龍ってなぁ、何だ?」
  龍麻の背後から京一が眉をひそめて訊いた。
  如月は手にしていた本を数ページめくった後、その部分に描かれている黒龍の挿絵を示して言った。
「 この世界の何処かに眠っているという暗黒竜のことだ。実際にそんなものがこの世にいるのかは、僕も見た事がないから何とも言えないけどね。4神は…正確に言えばその4神の血を引く者は、仮にその竜が現れた時、自らの力を発揮すると言われている…」
  京一の問いに、如月は何処となく独り言めいた風に言ってから、やがて龍麻に再び視線を戻した。
「 4神の血を引く者は代々定められた土地にいて、その使命を果たす日を待っている。君が本当の勇者なら…それらの土地へ行く事だね。君が認められれば彼らは仲間になってくれる」
「 その土地を如月君は知っているのっ」
  桜井が目を輝かせて訊くと、如月は表情を消したまま頷いた。
「 知っているさ。ここに書いてあるからな。白虎はコウヤ国に、朱雀はコロンバス大陸のクレア国に、そして青龍は…秋月の隣国、メキシコ領ハーレムタウンに」
「 あと玄武は?」
「 …………」
  龍麻が訊くと如月はやや気分を害したような顔をして黙りこくった。
  何か悪い事を言ったのだろうかとびくつき口を閉ざす龍麻に、横から醍醐が驚いたような声をあげた。
「 コウヤと言ったのか…。これは驚いた」
「 どうしたの、醍醐クン?」
  桜井が訊くと、醍醐は苦笑して頭をかく。
「 俺の生まれ故郷だ」
「 へー! そうなんだ、偶然だねえ!」
「 へー醍醐のダンナはあそこの国の出身かい? しかし参ったね、大分遠いんじゃねえ? こっからコウヤと言うとよ…」
  雨紋が苦虫を噛み潰したような顔で言うと、醍醐も困惑したようになって頷いた。
「 そうなんだ。元々俺は自らの鍛錬の為にあの辺りの寺院に身を寄せていただけで、実際の故郷は…。ああ、しかしまさか俺の故郷にそんな大人物が住んでいたとはな」
「 それらしい奴っていなかったんスか?」
「 知らん。如月…と言ったか。その白虎という血を引きし人物の特徴などは分からないか」
「 分かるさ」
  如月は無表情のまま言った。
  そして。
「 君だよ」
  実に何でもない事のように如月は言ったのだった。
「 ………はあ?」
  最初に反応を返したのは京一。
「 えっ、本当!?」
「 マジっすか」
「 ……な、何?? 醍醐がそうなの??」
「 …………何だと?」
  それから順に、桜井、雨紋、龍麻、醍醐の順で各々の反応が返る。
  如月はそれらの態度をイライラとした顔で見つめた後、ため息をついた。
「 君が白虎だ。雨紋の口ききがあったからというのもあるが…君がこのパーティにいたから、僕もこの話をする気になった。間違いない。君は4神の1人、白虎の血を引きし者だ」
「 おいおい、何だってそんな事がお前に分かるんだよ?」
「 分かるからだ」
  京一の思い切り不審な声を掻き消して如月はそれだけを言い、詳しい理由を述べようとはしなかった。
「 俺が白虎? ……と、急に言われてもな……」
「 君は家の者から鍵を預かっているはずだ」
「 鍵?」
  醍醐が怪訝な顔をすると如月は更に本を数ページめくり、言った。
「 あの洞窟の扉を開く為の鍵だ。錠前が掛かっていただろう?」
「 あ! そうだよ、うん! 鍵が掛かってたんだ!」
  龍麻が思い出したように言うと如月は頷いた。
「 4神が持つ金の鍵が必要だ。実際は彼らが手にしているから、彼らさえ仲間にしてしまえばそれを手に入れる事は容易だが…」
「 ……金の鍵?」
  首を捻る醍醐に、龍麻は「あ」と言ってごそごそとカバンを探った。
  龍麻は持っていたアイテム《金の鍵》を取り出した!
「 これは?」
「 ………それをどこで?」
  如月が眉をひそめると、龍麻は得意気になって言った。
「 これ、ローゼンクロイツ攻略の時の戦闘で拾った鍵だよ! 村雨が持っていればいいって俺に渡してくれたんだ!」
「 ………」
  如月は龍麻からそれを受け取ると暫く眺め、やがて多少の驚きを込めて答えた。
「 これは朱雀が持つ金の鍵だ」
「 スザク?」
「 炎の鳥のことじゃない、ひーちゃん」
  桜井が子供らの絵に描いてあった鳥のことを思い出し龍麻に告げた。
  その時、不意に「あ」と京一が何かを思い出したように言った。
「 そういやあ…。金の鍵ってよお…。美里も持ってたよなぁ? どっからガメてきたのかは知らねーけど、じゃらじゃら色々持ってたじゃねーか」
「 あ、そういえば…」
「 あん時は使えなかったけどな」
「 鍵は4つあわせて初めて効力を発揮する」
  如月は言ってからふうとため息をついた。
  そうして改めて龍麻の事を眺めやった。
「 正直、僕は君が選ばれし勇者だとか…そういう話は信じていない。しかし現に君の傍には白虎がいて、その他に金の鍵を3つも所有しているとなると…」
「 ちょ、ちょっと待ってくれ」
  その時、ずっと考えこんでいた醍醐が口をついた。
「 俺はその鍵を持っていない」
「 えー醍醐クン、本当?」
「 実家にあるんじゃないすか」
  雨紋が軽く言ったが、醍醐は頭を抱えながら言いにくそうに口を開いた。
「 いや…実は思い出したが、それらしいものは確かに俺も持っていた。あれがそんなに重要な鍵とは知らなかったがな。祖母が旅に出る時に、護符代わりにと持たせてくれたのだ。だが、今それは…」
「 失くしちゃったの?」
  そんな大事な物をと、桜井がやや批難めいた口調で言った。
  しかし醍醐は首を横に振り、言った。
「 いや…それはリビングデッド佐久間が持っている」


「 ……………」


  一同、沈黙。
「 はああああ?」
  やがて1番大きな声をあげたのは京一だ。
「 お前、何であのおぞましい奴がお前の鍵を持ってんだよっ!?」
「 仕方ないだろうっ。通りがかりの娘さんを助ける時の戦闘で落としたんだっ。失くしたと思っていたが、その次の戦闘で奴に出会った時、奴の首にはあの鍵が…」
「 ぶら下がってたんスか…」
「 気に入ったんだろね…金ぴかで綺麗だから」
  桜井が茫然として言った。
  龍麻は過去のリビングデッド佐久間の所業を思い出して足がすくんで声が出なかった!
「 ……しかしそうか。あの鍵が…。いや! 今度奴が現れたら必ず取り戻す! そ、それで何とか…!」
「 ……じゃあ、まあ醍醐の奴の鍵は後回しにしてよ」
  京一が仕切り直したように言って如月に目をやった。
「 よく分かんねーけど、俺らはあと1つの鍵と3人の守護者を見つければいいわけだよな? そうだろ?」
「 ……鍵があるなら守護者は見つかっているはずだ」
  京一の言葉に如月は首を振り、龍麻に視線を戻した。
「 君が戦闘で手に入れたというその朱雀の鍵。ならばその周辺に朱雀の血を引く者はいたはずだ。思いあたることは?」
「 え、思い当たる事って言っても…。これ拾ったの村雨だし…」
「 村雨君って、どう見ても炎の鳥ってイメージじゃないなあ。いっつもコインで遊んでるし……あ!!」
  つぶやくように言っていた桜井が、しかしそこで急にはたと思い出したようになって声をあげた。
「 ああああ! そ、そーだ、ひーちゃん! カードだよ、カード!!」
「 カード?」
「 そうだよっ!! カードっ!! 占い師のミサちゃんがくれたカード見て見てっ。醍醐クンは白い虎っ! それに、マリィちゃんは炎の鳥だったよ! 絵柄がさ!!」
「 ………あ!」
  言われて龍麻も慌ててカバンからアイテム《不思議なカード》を取り出した!!
  確かに2人の絵柄はその4神のうちの2神、白虎と朱雀そのものだった!!
「 そうか…。それじゃあ、この鍵はマリィが持っていたものなんだ、きっと。だったらあそこに落ちていても不思議じゃないし…!」
「 やったね、ひーちゃん! 何もしないで既に2神も集めちゃってるよ! さすがひーちゃん! 選ばれし勇者!!」
「 いや桜井…(汗)。俺の鍵はリビングデッド佐久間が…」
  醍醐がぼそぼそ言う声を無視し、桜井は興奮したようになって続けた。
「 あとはその青龍と玄武って人だけだね! あれ、でも葵が鍵持ってたんだっけ? そうだよね、京一?」
「 ああ…。けど、あいつのカードの絵柄は何かすげえ怖い悪魔が描いてあったけどな」
「 それが玄武じゃないの?」
「 あれ…玄武ってそんな生き物じゃないと思うんだけど…」
  龍麻が考えこもうとしていた時、如月がそれらの言葉を切るようにして割って入ってきた。
「 話を聞く限り、君の周りには既に2神がいる。ならば青龍と会う事だ。彼はここから近いメキシコ領にいる」
「 え…あ、はい……?」
  さっさと話を進めようとする如月に龍麻は戸惑ったが、桜井が代わりに驚いたような声を上げた。
「 えっ、如月クンは青龍さんの事を知っているの!?」
「 ああ……。青龍の鍵が何故違う人物に渡っているのかも予想できる。大方、奴がその人にあげたんだ。あの愚か者め…」
「 え?」
  桜井はきょとんとして首をかしげ、京一と醍醐も不思議そうな顔をして黙っている。
  龍麻は展開についていけていない。
  雨紋はそんな彼らと、そして如月のことを1人物珍しそうに眺めていた…が、特には何も言わなかった。
「 ……3人集めてきたら、またここに来るといい。鍵の使い方を教える」
  そして如月はそう言い、後はもうくるりと踵を返すと店の奥へと引っ込んでしまった。
  龍麻はそんな如月の背中を見つめながら、やや寂しそうな顔をした。
「 うーむ、リビングデッド佐久間……」
  その隣では醍醐がうんうんと何やら苦悩したようになって腕組をしていた。

  何はともあれ、龍麻たちは3人目の守護者、青龍を探してメキシコ領へと旅立つことになる!



  現在、龍麻が探すべき4神のうち。
  白虎は仲間になっている!!
  朱雀は仲間になっている!!しかしマリィは現在パーティから外れている!!
  また4つ集めるべき金の鍵は、うち1つは既に龍麻が持っている!!それは朱雀の物である!!
  白虎の鍵はリビングデッド佐久間が持っている!!
  ??の鍵は何故か美里葵が持っているらしい???
  そして玄武は……。



  《現在の龍麻…Lv12/HP65/MP35/GOLD5636》


【つづく。】
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