第32話 Hなハーレムタウン

  秋月国の隣に位置するメキシコ領…。
  雨降りの徳川国とはうってかわってハーレムタウンのあるこの土地は、ギラギラとした太陽がさんさんと降り注ぐ熱帯の気候。
「 あつい…バテる……(汗)」
  徳川国から秋月国をスルーして一気にここまで来た龍麻たちである。
  レベルの低い龍麻は、皆に護られながら旅をしてきた割に1番ひーひー言っていた。
「 大丈夫、ひーちゃん? もう町が見えてきてるからさ、頑張ろうね!」
  桜井が掌をひらひらと振って龍麻に慰み程度の風を送る。
  すると傍の雨紋がにやりと笑って言った。
「 何なら俺サマ、宿屋まで龍麻サンをおぶって連れて行ってもいいぜ?」
「 え……」
「 雨紋クン! 何だよそれは!」
「 そ、そうだぞ、雨紋。ならば俺が龍麻を背負おう…(照)!!」←1人で赤面醍醐
「 もう何言ってんのさ、二人とも!! それならボクがひーちゃんをおぶるよ!!」
「 い、嫌だよ、女の子の小蒔ちゃんにおんぶされるなんて…(汗)」
「 ならやっぱり俺サマが…」
  しかし雨紋がそう言って龍麻に近づこうとした時だった。
「 バカ、やめろ」
  先を歩いていた京一がくるりと振り返り、背後にいた雨紋の頭を鞘の部分でこずいた。
「 いって! 何すんだ、京一!」
  雨紋が当然の抗議をすると、京一はやや厳しい目をしてからきっぱりと言った。
「 お前ら、ひーちゃんを甘やかし過ぎなんだよ。んなの、本人の為になんねーだろが」
「 はぁ〜?」
「 だろ? ひーちゃん」
「 え……」
  不意に自分に視線を向けそう言ってきた京一を龍麻は最初こそ途惑った目で見返したものの。
「 ……うんっ!!」
  やがて嬉しそうになって京一の傍に駆けより、笑った。

  面白くない3人……。

「 こらこらお前たち!!」
  その時である。
  丁度、町の入り口付近にまで近寄った時、門の前に立っていたグレーの制服を着た衛兵が龍麻たちに声をかけた。
「 お前たち、旅の者か?」
「 ああ、そうだが?」
  京一が代表して答えると、衛兵はじろじろと伺い見るような目をしてから、最後に手にしていた剣先で小蒔のことを指し示しながら言った。
「 我が町長にお声がけを希望する者はこの娘か」
「 ……は?」
  京一が怪訝な顔をして眉をひそめるのにも構わず衛兵は苦虫を噛み潰した顔で首を振った。
「 うーむ、もう少しこう…町長は胸の大きい娘っ子が好みなのだ。年齢ももう少し上が良かろう。残念だが、この程度の娘では我が国への入国はまかりならぬな」
「 ちょ…! な、ななな何なんだ、コイツはー!!」
  この突然の無礼発言に対し真っ赤になって大声をあげたのは、当然当の桜井である。
「 ボ、ボクの胸が何だって!? ボクが『この程度の娘』!? 何それ何それ、一体何の話さー!!」
「 お、落ち着け、桜井…!」
  醍醐の制止の声にも桜井は聞く耳を持たない。
  衛兵の胸倉をぐいと掴むと、殺気立った声で更に追撃をかける。
「 おい、こらお前!! 一体何の話をしてるんだっ!! ボクが駄目だと入国も駄目っ!? もっと分かるように説明しろー!!」
「 ひ、ひー!! わ、我が町長は乱暴な娘っ子は更に興味の対象外…ッ!!」
「 まだ言うかー!!」
「 ちょ、ちょっと待って…! 小蒔ちゃん…!」
  不意に龍麻がぴたりと動きを止め、さああっと蒼褪めた。
  そして1人何事か考え込むような顔をしてから、ぼそりとつぶやいた。
「 ここって…ここって…ハーレムタウンって…。もしかして、アラン町長の町なの…?」
「 ひーちゃん…?」
  龍麻の様子に気がついて桜井が衛兵の首を締める力を弱めた。
  げほげほと衛兵は咳き込み、それからようやく声を出す。
「 そ、そうだ…! ここハーレムタウンは、偉大なる青き龍の血を引く、アラン蔵人様の治める土地…! 可憐で清楚な女性たちの憩いの地…!」


「 ………わあああああー!!!!!」


「 ひ、ひーちゃん…!?」
「 た、龍麻サ―」
「 龍麻ッ!?」
  桜井、雨紋、醍醐が呼ぶ中、しかし龍麻はパニックになったようになって叫び声をあげると、後は一目散にだだだっと駆けて何処かへと行ってしまった。
「 ちっ、お前らそこで待ってろ!!」
  それを京一が追いかけて行く。
  龍麻がパーティから離脱した!!
  京一がパーティから離脱した!!
「 ……主役がいなくなってどうすんだよ(汗)」
  雨紋がぽかんとしたようにつぶやいたが、はたと気づいたようになった桜井が衛兵に再び意識を戻す。
「 おいっ、一体何なんだ、この町は!!」
「 な、何なんだ、とは…?」
「 先ほど、入国できないとか何とか言ったな。入国には何か条件があるのか?」
  醍醐が訊く。
  衛兵は1人まともそうな醍醐に安堵の顔を見せ、自分を拘束する桜井からだっと離れてから咳き込み、口を開いた。
「 ここハーレムタウンは町長アラン様の意向により、美しき女性、またはそういった女性を同伴している者たちにしか町へ入る事を許していないのだ。この先に簡易の審査会場があるのだが、お前たちのパーティにいる女性はこの娘だけだから、審査対象はこの娘となる」
「 は、はあ…? 何だよ、それは…」
  胡散臭そうな顔をする桜井の代わりに雨紋が呆れたようになって言った。
「 つまり何かい? ここの町長は自分の気に入ったカワイイ女の子だけを街に入れ、後の奴らは中に入れる事すらしないってわけかい?」
「 いや、勿論長旅で疲れた者たちが休む場所くらいは提供している。しかし、審査を通過し認められた者しか通れない場所、入れない店などがこの町には至る所にあるのだ。だから、この町を真に探求したくば、我が町に認められるような美しくおしとやかな女性をパーティに入れるが得策だ」
「 こ、こ、この…!」←怒りの限界マックスの桜井小蒔
「 ふう〜。しかし参ったな…。俺らの仲間内で、可愛くておしとやかな女なんていたっけ?」
  雨紋が桜井を無視して言う。
  醍醐も首をかしげる。
「 そうだな…。ふむ、皆ルックス的には問題ないと思うが、おしとやかという点では…」
「 ………醍醐クン?」
「 はっ!! いいいいや!! さ、桜井も十分おしとやかで綺麗な女子だと思うぞ、俺は!! うむ!! し、しかしだな、ほれ、町の権力者というのはただ見た目だけで人を判断しがちというかだな!!」
「 全然フォローになってないぜ、醍醐のダンナ」
「 はっ!!!」
  雨紋が苦笑し、醍醐が焦る中、桜井はぴくぴくと怒りを抑えつつ俯いている。
「 むむ、そうだ。しかしだな、例外がある……」
  その時、いつの間にか1人蚊屋の外になっていた衛兵が思い出したようになってパンと手を叩いた。
「 勿論、我が町長は美しい女性に目がないのだが…。以前に一度だけ、美しい少年に胸を射抜かれたと仰られて数日間、病に臥せっていた事があったのだ」
「 ………?」
  3人が不思議そうな顔をしているのに構わず衛兵は続けた。
「 確か…偶々旅先で訪れた名もない外れ村でその少年を見たそうだ。今まで見たどの女性よりも美しく、彼ならば男だろうと妻にしたいと言っていたな」
「 はあ…。女好きで美少年好きね…。ヘビーな奴だぜ」
「 え…でも、ちょっと待って。は、外れ村って言った…?」
「 む…。確か龍麻の生まれ故郷は何処だったか…?」
  桜井と醍醐が同時にそんな事を言い、雨紋がそんな2人に首をかしげた時。
  衛兵が笑って言った。
「 何でも町長はその時その一目惚れの少年にプロポーズまでしたらしいぞ。襲い掛かってがばあっ!!とやって、で、泣いて暴れられたそうだ。わっはっは!!」
「 わっはっはって…。それって一つ間違えりゃ強○じゃねえかよ…」
「 ちょ、ちょっと待ってよ、ねえ醍醐君…!」
「 う、うむ。もしその少年が…!」
「 おう、そうそう。それから我がハーレムタウンには入国者に守ってもらうべき特別の法があってな。ズバリ、Hな格好をすること!」
「 …………は?」
「 お前たちは別にいい。そこの娘っ子。もしここに入るなら…審査の際にはHな格好をしないとまず受からないぞ。ただでさえ審査に通る確率が低いのだから、せいぜい色っぽい格好をしてくるのだな」
「 火龍ッ!!」
「 ぎゃああっ!!」
  桜井の不意打ち攻撃!!
  衛兵を倒した!!
  しかし衛兵は敵ではないので経験値にはならない!!
  しかしポケットから5ゴールドを入手した!!(ひでえ)


「 ……やれやれ、大変な事になったな」


  殺気立つ桜井。
  「Hな格好の女性がたくさん」に興奮する雨紋。
  醍醐の先のつぶやきを聞いている者はいなかった。



  現在、龍麻はパーティから離脱している!!
  京一が追いかけている!!
  ハーレムタウンに入国する為には、パーティの誰かが入国審査において「可愛い、または美しい女性」と判定されなければならない!!その為にはHな格好が不可欠である!!
  ちなみに町長のお眼鏡に適うくらいの美少年でも可らしい……??



  《現在の龍麻…Lv12/HP55/MP27/GOLD6636》


【つづく。】
31へ33へ