第34話 入国審査 

  ハーレムタウン、審査会場。
  広大なメキシコ領の一都市に過ぎないハーレムタウンではあるが、そこは太陽と風とおいしい水に恵まれた、人々の楽園の地である。
  その日も入国審査会場は多くの人でごった返していた。
「 本日の入国希望者は、呼ばれた順に速やかに壇上へ上がるように!!」
  審査は1日に1回。
  会場内の壇上横、幕内では、「いっそ裸の方がエロくないだろ」くらいの格好をしている女性たちが自分の番を今か今かと待っていた。

  その中には約1名、女性でない者もいたが……。

  待つ事数分。審査はすぐに始まった。
  まずは壇上横に設置されているマイクを使って官吏が審査委員長の紹介をする。
「 本日の審査委員長は〜。ハーレムタウンの生き字引、町長に気に入られ知らない間に町のご意見番になられた謎の老人、道心先生が特別に引き受けて下さった〜! 審査対象者はありがたく思うように!」←何気に失礼な紹介
「 よォー! よろしくな〜ぴちぴちギャルども〜ヒック」
  町の官吏の紹介で審査会場の中央の席に腰をおろしたのは、如何にもエロそうな爺さんであった。
  楢崎道心が現れた!!
「 ちょっとやだ〜あの目が怪しい〜」
「 町長に見初められる前にあの爺さんにテゴメにされそう〜」
  審査を受ける娘さんたちは現れた謎の老人・道心に対し、次々と自らの不安を口にしていた。
  しかし、その隅で決意に満ちた人物…そう、今回の審査を受ける唯一の男である緋勇龍麻は、そんな彼女たちの言葉は一切聞いていなかった!!
  龍麻は身につけているスカートの裾をぎゅっと握り締めた。←裾を握りしめられる位ミニなんか!?
「 静粛に〜!! では審査を開始する!! 端から順に氏名、年齢、職業、好きな食べ物をそれぞれ述べよ!」
「 1番。ビビアン、16才で〜す♪ 職業は〜ダンサで〜、好きな食べ物はプリンで〜す♪」
  審査は実にスムースに進められて行った。
  案外簡単である。その場で自己紹介をして、審査員から「合格」「不合格」どちらかが書かれた封書を受け取ってその場を退場。
  …要はその日の審査員の目から見て「可愛いか」「可愛くないか」だけで入国許可の判断を下されるわけだ。
  分かっていた事ではあるが、シビアである。
「 ひっひっひ〜。しっかし役得だよなぁ。若い娘っ子のHな格好ってのはたまんねえな、おい!」
  ……シビアな割に、壇上前に設置されている審査員席の道心はかなり不真面目な感じなのであるが。
  ただどちらにしろ、露出度の激しい会場内は熱気ムンムン、テンションは皆やや高めである。
  そして遂に…。
「 では5番〜。外れ村出身の緋勇龍麻! 壇上へ上がりなさい!」
  その官吏の声に、会場が一瞬ざわりと揺らいだ。
「 え、何、男…?」
「 わあ、珍しい。男が審査に来るなんて…!」
「 どこどこ!?」
  ざわざわと辺りがざわめく。


「 行くな、ひーちゃん!!」


  その時、そんな会場の人込みから切羽詰まったような声が聞こえた。
「 おい、ひーちゃん、聞いてんのか!? いいぞ、出なくて! やっぱりやめろ!」
「 お、落ち着け京一…!」
  何やら2人の争う声が聞こえる。
  人々が不審の眼でそちらを見ると、赤髪の戦士と屈強の大男がもみ合いならが言い合いをしていた。
  誰あろう、勿論京一と醍醐である。
「 テメエ、醍醐! テメエはあんな姿のひーちゃんを大勢の前に晒して平気だってのかよ!!」
  自分をがんじがらめにして止めに入る醍醐を、京一は鋭い視線を浴びせて怒鳴る。
「 俺は! ひーちゃんがどうしてもって言うから納得したが…けど、あんな姿を見たら…俺は…!」
「 お、俺だって平気なわけはないだろう…! うう、また鼻血が…!」
「 だったら邪魔すんな! おい、ひーちゃん!? ひーちゃん、何処だ…!?」


「 だ、大丈夫だよ、京一…!!」


  すると、京一のその声に呼応するように、壇上からそう言う龍麻の声が…。
  それが聞こえたと同時に、人々が壇上に上がったその人物―龍麻―に目をやると。



  ピッカー!!!!!



  【魔法のメイド服】が効力を発揮している!!
  人々は魔法のメイド服を来た龍麻に完全に魅了された!!
  人々は戦闘不能状態に陥った!!!←敵じゃないけど

  龍麻はメイド服姿で壇上に現れたのだ!!
  白いブラウスに黒いミニのタイトスカート。白い靴下、これまた黒のぴかぴかの靴。紺のリボン、首筋には何故か金色の鈴がついていたりして…。
「 ぐっはあーーー!!」
「 ぐああああ!!!」
「 きゃああああ!!!」
「 す、すすすすてきいぃ〜〜〜!!」
  人々はそれぞれ断末魔の声を上げつつ、その場にそのままよろよろと倒れこむ!!
  そんな光景に構わず、龍麻はただ必死になって言った。
「 ひ、緋勇龍麻、18歳です…っ。職業は…まだないです、けど、立派な勇者になるのが俺の使命です…! す、好きな食べ、食べものは…!」
  会場の誰もが硬直したまま魅了状態で動けない!!
  皆可愛らしい龍麻の姿にやられているのだが、しかし当の龍麻はただただ無我夢中だ。


「 好きな食べ物は…ラーメンですっ!!」


「 おめえ……」
  その時、誰1人声が出せない状況のはずの中、エロい審査委員長の爺さ…道心がぼそりと口を開いた。先刻までへらへらとしていた表情はいつの間にかすっかり消え去り、今や恐ろしい程に冷たい目つきになっている。
「 おい。お前。勇者って言ったか?」
「 は、はい…!」
  龍麻がはっとして目の前に座る道心に目をやる。
  道心は探るような目をしてはっと鼻で笑った。
「 フン、随分と分を弁えない発言だなぁ、おい? そんなふざけた格好してよ、ここにいる人間全員腑抜けにする事がテメエの能力の全てか? あ? それで勇者になりたいたあ、笑わせるな」
「 お、俺…! 俺、本当はこんな格好したくなかったけど、でも…!」
「 ………あん? 何だ」
  自分の悪意のある発言に構わず言葉を続ける龍麻に、道心は眉をひそめ低い声で訊き返した。
  龍麻は言った。
「 俺は…やらなきゃいけない事があるから! だから! 俺はこのイベントをクリアしなきゃならない! 俺自身の手で! だから!」
「 ……だから?」
  道心が先を促すと、龍麻はごくりと唾を飲み込んだ後、目一杯の声で叫んだ。
「 だから俺は! メイドにだって何にだってなってやるよー!!」



  ピッカー!!!



  【魔法のメイド服】が更に効力を発揮した!!
  龍麻は魅了している人々を安らかな眠りに誘った!!
  その代わり龍麻は10のダメージを受けた!!
「 ううう……何なんだ…この服〜……」
「 ………フフン」
  その時、椅子に座っていた道心が急にガタリと立ち上がり、体力を削られ苦しむ龍麻に向かって何か光る物を投げつけた。
「 ……ッ!?」
  龍麻は「ハーレムタウン通行証」を受け取った!!
「 あ……?」
「 合格だ。町の管理をする衛兵も役立たずにされちゃあ、通さないわけにはいかねえだろ」
「 お、俺……合格?」
「 ああ。合格者は町長に挨拶に行くのがしきたりだが…。まあ、テメエの好きにするさ。その前にこの町をぐるりと見て回るのも何するのもお前の自由だよ」
「 あ、俺…俺は、町長に会いに行きます…!」
「 ほう…? お前、その格好で言ったらまず襲われるぞ?」
「 き、着替えるよっ(焦)!!」
  龍麻は焦りながらも、更に10のダメージを受けた!!(死ぬ…)
  道心はへっへと笑ってから、何時の間に手にしていたのか、酒瓶を取り出してぐいと煽った。
  それから目を細めてにやりと笑う。
「 あと、別嬪な勇者にこれも教えておいてやろう。お前はこれからまだまだ仲間を増やさなきゃならねえ。来る戦いに備えてな…。テメエの魅了にやられてる頼りない仲間だけじゃあ、試練は越せねえよ」
「 え…? あ、醍醐…(汗)」
  気づくと眠りに入ってしまっている人々と寄り添うようにして、醍醐も龍麻のメイドパワーにやられて眠ってしまっていた。
  道心はそんな醍醐をちらと一瞥してから続ける。
「 俺の弟子が【シンジュク山】ってところで魔王の動向を探ってるが…。あそこに立ち寄った時にゃ、声かけとくんだな。割に使えるガキだからよ」
「 お、お爺さんの弟子、ですか…」
「 俺に似て硬派なイイ男なんだぜ、これが」
「 はあ……」←全然信用できない
  龍麻が茫然としている中、道心は話はこれで終わったとばかりにひらひらと片手を振った。
「 さあ、もう行け。町長は4神の血を引くやり手だがやらしい奴だぜ? 1人で平気か?」


「 誰が1人だ…このやろう…」


「 あ! 京一!!」
「 ほう…? メイド魔法攻撃を避けていたか」
  見ると、京一が倒れている人々の背後からよろりとしながら歩み寄ってきた。未だに魔力を発しているらしい龍麻のメイド姿にくらくらしてはいるようだが、何とか立ってはいる。
「 俺がひーちゃんを1人だけでそのエロ町長の所にやるわけねーだろが…! おい、爺ィ…! 頼りない仲間ってのは誰の事だ?」
「 へ、熱くなるなよ。そんなこっちゃあ、これからの試練に足元すくわれるぜ? 何せ…」
  何かを言いかけて、しかし道心はここで口を閉じた。
  そしてにっと笑って。
「 町長はこの会場を出て真っ直ぐ行った先の1番大きな屋敷に住んでる。マジで強ェからな、気をつけろよ」
  道心はそれだけを言うと再びくいと酒をあおり、あとはその場を去って行ってしまった。
「 変なお爺さんだな…」
  その背中を見送りながら龍麻がぽつりとつぶやく。
  するとそんな龍麻の目の前にまで来た京一がよろよろとしながら声をかけてきた。
「 お、おいひーちゃん…」
「 え? あ、京一、大丈夫か!?」
「 お前も体力減らしてるだろうが…。いいから、早く脱げよその服」
「 あ、うん。いそいそ……」
「 ばっ(焦)!! こ、ここで脱ぐなー!!」
「 だ、だって早く脱ぎたいんだ、これ!! どんどんHP減ってくしさあ〜(涙)」
「 ちょ…ひーちゃ…せめて俺が目を逸らすまで待…!」


  京一は20のダメージを受けた!!
  龍麻もメイド服を脱ぐのに更に10のダメージを受けた!!
  醍醐は魅了の魔法にかかって戦闘不能状態である!!


  龍麻たちは審査会場を抜け、ハーレムタウンに見事入国した……が。
  とりあえずは体力を回復する為、真っ直ぐに宿屋に向かう事にしたのだった。



  龍麻は「ハーレムタウン通行証」を手に入れた!!
  龍麻は旅の助言者・楢崎道心と知り合った!!
  《現在の龍麻…Lv12/HP15/MP27/GOLD6636》


【つづく。】
33へ35へ