第41話 佐久間を捕獲せよ! |
秋月王国・浜離宮酒場―ルイダン―。 「 あら、龍麻。お帰り」 カランと軽快な鈴の音を響かせて店内に入ると、カウンターでグラスを磨いていた女店主の藤咲が龍麻を認めて嬉しそうに笑った。 「 お疲れ様。ハーレムタウンに入ったからにはもう2、3日は向こうかと思っていたけど?」 「 あ…うん。でも目的は果たしたし」 龍麻はカウンター席に腰を下ろしてから、きょろきょろと辺りを見渡した。 昼間とは言え、客の姿が1人も見えない。仲間の姿もそこにはなかった。 「 桜井たちはどうしたんだ?」 龍麻のその思いを先に代弁したのは醍醐だった。龍麻の隣の席に腰を下ろし、やや気にしたように表情を曇らせる。 「 その…何だ。桜井は少しは怒りを鎮めてくれただろうか」 「 鎮めるわきゃないでしょ」 藤咲はあっさりとそう言い放ってからふうとため息をついて苦笑した。 「 あたしらにしたってそうよ。もう女のプライドズタボロって感じ? あたし達皆あの町に入国できる自信あったのにさ、カードに駄目扱いされてそのままトンボ帰りだもんねえ。あれには参ったわ、ホント」 「 ご、ごめん…!」 龍麻が慌てて頭を下げると、藤咲は目を細めてそんな自分の勇者を見やった。 それからケラケラと笑う。 「 うっそよ、嘘。龍麻、そんな気にしないでよ。別にあんたに拒否られたわけでもなし。そーねえ、そりゃ小蒔は落ち込んでたけど、後の連中はもう皆開き直ってまた町で仕事するなり何なりしてるわよ」 「 小蒔ちゃんは…?」 「 あの子は…多分また色々な土地で情報集めでもしてるんじゃないの。仲間にしたければあたしがいつでも呼んであげるけど?」 「 いや、その……」 「 俺たちが探しているのは…」 しかし龍麻と醍醐が同時に藤咲に事の経緯を説明しようとした時だった。 「 OH! ビューティフル! ワンダホー!! 美人さん多い街ネ、最高ネー!!」 街に入った途端、姿を消していたアランが勢いこんで店の中に入ってきた。 藤咲が思い切り胡散臭そうな目を向ける。 「 ワオ、龍麻! ボク、この街すっかり気に入りましたネ! やっぱり世界は広いネー。まだまだボクの知らないタイプのレディがたっくさんネ!」 「 そ、そうだろね…」 「 デモ、アミーゴほどの美人さんってナルト、これマタ難しいケドネ♪」 「 はは……」 「 こらアラン! そう言いつつ龍麻に妙に近づくんじゃない!!」(しっしと虫を払うように手を振る醍醐) 「 ……ちょっと。何なのコイツ? もしかしてコイツが青龍…?」 藤咲が信じられないというような顔で龍麻に訊く。 龍麻は「うん」と頷いてから自分の隣に座るアランを認め、先を続けた。 「 そうなんだ。このアランがハーレムタウンの町長で4神の1人のアラン。それで、4神もあと玄武だけ…って言いたいところなんだけど、マリィがいないだろ。それでマリィと美里を探しに来たんだ」 「 こちらに戻ってきてはいないか?」 尚もアランの動向を気にしつつ醍醐が訊く。 すると藤咲は実にあっさりとその質問に答えた。 「 来てるわよ」 「 ホント…!?」 しかし喜ぶ龍麻に藤咲はすかさず言った。 「 いるのはマリィだけだけどね。美里はいないわよ?」 「 え……?」 「 どういう事だ、それは?」 醍醐も不可解そうに訊く。藤咲は軽く肩を上下に揺らした。 「 つい昨日よ。マリィだけがうちの店に来て、『龍麻パパがもうすぐマリィを必要とするはずダカラ』なんて言ってうちの2階に上がりこんでね。美里がそう言っていたからって事なんだけど…。そう言ってあの子をここへ来させた美里本人は何処にもいない。マリィも行方を知らないらしいし」 「 そ、そうなんだ…」 「 それでマリィは何処に?」 「 外で遊んでるわ。暗くなったら帰ってくるでしょ」 藤咲はそう言い、それからふと思い出したようになって懐からある物を取り出し、龍麻の目の前に差し出した。 「 あ…!」 それは金の鍵だった。 龍麻は「青龍の鍵」を手に入れた!! 「 OH! それボクがアオイにあげたものデース! それドシタデスカー?」 アランがその鍵を手に取って驚いたように言う。 藤咲は首を横に振ってから素っ気無く答えた。 「 マリィから自分じゃ失くしそうだからって言われて預かったのよ。美里があの子に託したものらしいわ。龍麻、あんたがこれを欲しがるはずだからって言ってね」 「 美里が…」 「 美里もこの鍵の使い道を何処かで知ったという事か…?」 醍醐が考え込むように龍麻の言葉を補足した。 龍麻はそんな醍醐には答えず、しばらくしてからがたりと席を立った。そして意表をつかれたようになっている皆に言う。 「 じゃあ俺、とりあえずマリィを探してくるよ」 「 え? でもホント、すぐ帰ってくると思うわよ?」 「 うん…。でも、早く会いたいからさ」 「 なら龍麻、俺も…!」 「 あ、いいよ、1人で。アランと醍醐はそこにいて」 「 OH、アミーゴ、ホントに1人で大丈夫?」 「 うん」 そうして龍麻はやたらと自分を心配する2人に何度も大丈夫だと言ってから藤咲に挨拶し、店を出ようとした。 「 ねえ龍麻」 しかしその時、藤咲が急に真面目な声でそんな龍麻を呼び止めた。 「 どうでもいいけど、京一は何処へ行ったわけ?」 龍麻はそう訊いた藤咲にすぐに答える事ができなかった。 +++ 久しぶりの浜離宮は、相変わらず賑やかで活気に満ちていた。 「 本当にこの国に呪いなんかかけられているのかって思うほどだ…」 龍麻はぽつりとつぶやきつつ、とりあえず歩を進める。 マリィがこの広い街中の何処を遊び場にしているのかは分からないが、とりあえずは初めて出会った教会へ行ってみようと思った。 武器屋、防具屋、道具屋…。 行った事のある道を通り抜け、そして教会へ。 しかしふと、龍麻は自分の背中に走った悪寒にぎくりとして足を止めた。 「 何だ……?」 辺りは相変わらず大勢の人間が行き交っている。 晴れやかな空。清清しい風。 それなのに、今の悪寒は一体何だというのだろう。 「 気のせいか…な?」 龍麻は自らに言い聞かせるようにして、再び足を動かし始めた。 そして浜離宮・教会前―。 マリィは思いの他すぐに見つける事ができた。 マリィは教会の入口近くの階段付近に花を抱えて立っていた!! 「 マリ…」 しかし龍麻は手を挙げて声をかけようとしたその口を思わず途中で閉じてしまった。 マリィは1人ではなかった。 「 ふっ、どうだ娘。この花はな、我が領内でしか手に入らぬ藤の花の一種で、とても高価なものなのだぞ」 「 キレイキレイ! マリィ、嬉シイ!」 「 ふふふ…そうだろそうだろ。どれ、娘。この飴玉もくれてやろう…」 「 わあい、ホント!? マリィ嬉シイ!!」 「 ふふふ…そうだろそうだろ…」 「 な、何なんだあいつ…?」 マリィに花やらお菓子やらを与えている人物。 それは怪しい鬼面を被った黒装束の…男…?(声がしゃがれた男のものだ) 「 き、鬼面…。まさか……」 龍麻は相手に気づかれないようにそっと前進した。身を屈めながら近くの大木の陰に隠れ、耳をすます――と、2人の会話がより大きく聞こえてきた。 鬼面の男はマリィにくぐもった低い声で何やら話しかけている。 「 それで…どうだ、思い出したか。お前は持っていたはずだ、金の鍵を…」 「 ウーン。マリィ、分からナイ! 葵ママが持っていたのなら知ってるケド」 「 ……そのアオイと言う者は今何処に?」 「 分からナイ! ちょっとお出かけしてくるっテ。マリィ、今は龍麻パパがお迎えに来るの待ってるカラ」 「 そうか…ならばお前だけでも攫って行くしかないようだな……」 「 !!」 鬼面の男の邪悪な声に龍麻はぎくりとして身体を揺らした。 当のマリィは何も分かっていないようで、きょとんとしたままなのだが。 鬼面はそんな無防備なマリィを相手にくくっと低い声で笑った。 「 ふっ、朱雀の娘よ。おぬしはまだ己の存在意義を知らぬ…。我らが教えてやろうではないか。我が鬼道衆がな…」 「 キドーシュー?」 「 ……ローゼンクロイツ城から何処へ隠れたかと思いきや、こんな近くの街に身を潜めていたとは…。ジルなどという使えぬ魔術師が与えていたよりもよほど良い暮らしをお前にくれてやろう。だから来るのだ、我と共に」 「 ナニ? マリィ、何処にも行かナイ! マリィ、龍麻パパを待つんダモン! 葵ママと約束シタ!!」 「 逆らうと力づくで連れて行くぞ…!」 マリィの言葉に鬼面の気配が変わった。 龍麻はどきりとし、瞬間にはもうばっと飛び出し声を出していた。 「 こら待て、鬼道衆!!」 「 !! 龍麻パパ!!」 「 ……何だ貴様は……」 「 マリィを何処へ連れて行く気だ!! マリィ、こっちへ!!」 「 おっと」 「 !! 何!? 放シテ!!」 鬼面はすかさずマリィをがんじがらめにし、首筋に鋭いクナイを突きつけた。 龍麻がぐっと足を止める。 鬼面の男はくくくと低く笑い、そして言った。 「 貴様、我らの事を知るか。何者だ」 「 俺は緋勇龍麻だ!!」 「 緋勇とな…? ふん、生意気な名を持つ……」 「 お前こそ何なんだ!! マリィを放せ!!」 「 そうはいかぬな…。我はこの朱雀に用があるのだ…。我らが大願を成就させるために…」 「 龍麻パパ!!」 「 マリィ、じっとしてろ! 今助けてやるからな!!」 龍麻の言葉に鬼面の男は尚も甲高い笑声をあげた。 「 わははは、この状況でどうしようと言うのだ、非力な少年よ。この鬼道衆…雷角と互角に渡り合えるとでも思うておるのか?」 「 ……お前が欲しいのはこれだろう?」 「 む…」 龍麻は懐から先ほど藤咲から預かった鍵を取り出した。 それから、もう一つ。 鬼面が明らかに動揺するのが分かった。 「 これは…そこにいるマリィ…朱雀の鍵と、それから青龍の鍵だ」 「 貴様…それを何処で…!」 「 マリィを放せ! そうすれば教えてやるさ」 「 ………ふっ」 雷角と名乗った鬼道衆は龍麻のその言葉であっさりとマリィを解放した。 そうしてすっと両手を構えると何やら呪文を唱え始める…。 すると……。 ピカッ! ゴロゴロゴロ……! 「 な……?」 辺りは急激に暗くなり、黒い雲がもくもくと上空を覆い始めた。 「 これは……」 「 龍麻パパ!!」 「 マリィ、怪我ないか!?」 だっと自分に抱きついて来るマリィを抱え、龍麻はもう一度目の前の雷角に視線をやった。 雷角はすっと印を解くと静かな声で言った。 「 我こそは稲光を操る鬼道衆が1人…雷角。貴様ごとき、今ここで相手をし…そして娘も鍵も奪ってやるわ…!」 「 そうは行くか…!」 戦闘である!! 雷角が現れた!! 「 龍麻パパ、マリィも戦う!!」 マリィが仲間に加わった!! 龍麻は身構え、そうして雷角に立ち向かった!! 「 俺だって…強くなっているんだ…!!」 龍麻の攻撃!! 「 ふ…このようななまくら拳など…!」 ミス!! 雷角はダメージを受けない!! 「 な…!?」 「 くくく…では今度はこちらが行くぞ…! 良いか…!」 「 く…!」 しかし雷角が龍麻たちに向かって攻撃しようとした、その時である…!! 「 クククク……クチビルー!!!」 「 ぐはあっ!?」 雷角は30のダメージを受けた!! 「 !!!!!」 なんとリビングデッド佐久間が現れた!! リビングデッド佐久間は雷角の背後から突然現れ、そうして彼を押し潰すようにして龍麻に向かって急接近してきた!! 「 ぎゃああああ!!!」 龍麻は思わずすくんでしまった!!あまりにも久々だったので!! 「 龍麻パパ、アブナイ!!」 マリィの勇気ある攻撃!! 「 グハアッ!!」 佐久間は12のダメージを受けた!! しかし佐久間のすばやさが上がっている!! 佐久間はマリィには構わず、更に龍麻に接近!! 「 うわあうわあ、何なんだコイツはー!!」 ミス!! 龍麻はダメージを受けない!! 「 アマイッハー!!」 しかし!! 「 ググググチビルー!!!」 佐久間は反則技の2連続攻撃を行った!! ドッシーン!! 「 うわあ…っ!!」 龍麻は佐久間に押し倒された!! 心と身体に20のダメージを受けた!! 「 ぎゅうう……ぐふ…クチビ…ル……」 佐久間はじりじり…っと龍麻の上を這い、そして唇を近づけた……!! 「 ………っ」 龍麻は硬直している!! 龍麻は動けない!! 「 この…化け物があっ【怒】!!」 その時、復活してきた雷角が立ち上がって佐久間に向かって攻撃をした!! バシーン!! 「 グハッ!?」 佐久間の背中にクリーンヒット!! 佐久間は25のダメージを受けた!! しかし佐久間のHPと防御は上がっている!! 佐久間はじろりと雷角を振り返り、そうしてフンと鼻で笑った!! 「 ななな…!」 雷角はとんでもない屈辱を受けた!! 精神にダメージ!! 10のダメージを受けた!! そしてその瞬間、雷角は見てしまった…!! 「 や、だ…。助け…っ」 ヤられる寸前、涙目になりつつ、佐久間に押し倒されている龍麻の姿!! 「 ………!!」 ピカ!! ゴロゴロゴロ…!! 雷角に恋の雷が落ちた!! 雷角は龍麻に魅了された!! 「 な、何と愛らしい…可愛らしいお姿…ッ!!」(ぷるぷる…) 「 くくく…クチビル……」 「 キャー!! 龍麻パパの貞操ガ!!!」 マリィの悲鳴!! 雷角ははっとした!! 「 おのれ化け物、そのお方に何をするー!! くらえ、我が奥義―!!」 しかし雷角が佐久間をやっつけようとした時である!!(もう何が何やら……) 「 ………カギ………」 リビングデッド佐久間は何を思ったのか、龍麻から離れ、俊敏な動作で飛び退った!! そして。 「 ………ア!!」 マリィが声をあげた!! 「 カギ……」 リビングデッド佐久間は龍麻から朱雀、そして青龍の鍵を奪っていた!! 「 カギ……」 佐久間はそれを掲げてしばらく見た後、龍麻を一瞬だけ物惜しげに眺め、しかしそのまま去って行った!! 「 ………は!! しまった鍵が!!」 しばらく何が起こったのか分からず茫然としていた雷角は、しかしすぐに我に返ると佐久間を追う為にだだっと駆け出した。 その時一瞬だけぴたりと足を止め、雷角はくるりと龍麻を振り返るとぽっと頬を染めていたのだが…。 「 龍麻パパ、龍麻パパ…!」 恐怖のあまり気絶している龍麻には、必死に自分を揺さぶるマリィの声が微かに聞こえるのみだった……。 龍麻はマリィを仲間にした!! 龍麻は変な鬼道衆の1人、雷角と知り合った!! しかし彼は仲間対象者ではなかった!! 龍麻はリビングデッド佐久間によって朱雀と青龍の鍵を奪われた!! 《現在の龍麻…Lv13/HP60/MP50/GOLD5555》 |
【つづく。】 |
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