第44話 仕切り直して出発 

  仲間たちが集う場所。酒場・ルイダンにて。その二階の寝室。
「 ん…ふわあ…」
  龍麻はぐんと両腕を伸ばし、窓から差し込む光に目を細めた。
「 あら龍麻、おはよう。夕べはよく眠れた?」
  まだ開店前の店へと降りて行くと、下準備をしている女主人の藤咲が髪を結った格好で龍麻を出迎えた。いつもは露出の高い格好ばかりの彼女だが、今は店内の掃除でもしていたのだろう、随分地味な姿をしている。
  それでも彼女の美貌に何ら変化はないわけだが。
「 まだ身体がぎしぎしするよ」
  龍麻が腰をとんとんと叩きながら言うと、藤咲は可笑しそうに身体を揺らした。
「 昨日はリビングデッド佐久間じゃなくて巨体の大男にのしかかられたんですもんね。そりゃあ龍麻の腰ももたないわけだわ」
「 ちょ…その言い方…っ」
「 なあに?」
「 ……何かむかつくからやめてくれ」
「 あははっ」
  苦虫を噛み潰したような顔をする龍麻に藤咲はからからと笑いながらもカウンター席を勧め、それから自分もゆったりとした動作でその中へ入った。
「 まあ何はともあれお座りなさいな。美味しい朝ごはん食べさせてあげるからさ」
「 あ…うん」
  そういえばお腹が空いた。
  昨日…何やら「メシをくれ!!」と絶叫していた岩角と名乗る「鬼道衆」のことをちらと思い出した後、龍麻ははっとなったようになって藤咲に声を投げた。
「 そういえば皆は? 帰ってきてないの?」
「 んー? 帰ってきてまた出掛けたのや、まだ帰ってきてないのや。それぞれね。村雨と芙蓉は一旦お城に帰ったわ」
「 醍醐たちは?」
「 醍醐と小蒔は帰ってきてないわねえ。リビングデッド佐久間の行きそうな所に一番心当たりがありそうなのは醍醐だし、何か良い手がかりでも掴んできてくれればいいんだけど」
「 大丈夫かな」
「 何よ、龍麻」
  藤咲はくるりと振り返り、龍麻に淹れたばかりのコーヒーとパンを差し出してから両腕を腰に当て首をかしげた。
「 あいつらの事信用してないわけ?」
「 そ、そんなことないよ!」
「 ならそんな事言わないの。大体、あたしらのパーティの中で一番弱いのは誰だと思ってるのよ」
「 う、それは…俺だけど…」
「 ふふっ」
  藤咲は素直にそう言う龍麻に再び嬉しそうになって笑った後、「嘘よ冗談」と言って手を振った。
「 どうにも龍麻と話していると調子が狂うわ。ホントに純なんだから」
「 は、はあ…?」
「 ねえ、そんな事より。今日は誰とパーティを組んで出掛ける気?」
「 え…?」
  藤咲の問いに龍麻は顔をしかめた。
「 醍醐と小蒔はいないわよ? あ、そうそうマリィもいないわね。あいつらと一緒に行ったはずだから。それからミサは、今日は疲れたから仲間にはならないって」
「 そ、そんなのアリなわけ?」
「 強引に呼ぶ手もあるけど、そういう時はあんまり乗り気じゃないから戦ってくれないわよ?」
「 裏密さん…昨日だって何もしてくれなかったけど…」
「 だったらミサにこだわる事ないじゃない? それでどう? 今日は誰を連れて行く? 今日だって佐久間捜索に出掛けるんでしょ?」
「 そりゃまあ…」
「 あっと、それから! あのヘンな異形。あれ駄目よ〜。ちゃんと繋いでおかなくちゃ。あれ、まだモンスター爺さんの所で鑑札貰ってないでしょ? そっちも早々に片付けないとね」
「 そういえばウゴーは…」
「 アタシん所の倉庫に閉じ込めてあるわよ。鳴いて煩かったから龍麻の荷物に入ってた美里の写真あげたらおとなしくなったわ」
「 はあ…」
  美里の写真なんて自分は持っていただろうか、などと考えながら龍麻は色々な事に思いを巡らせた。
  佐久間捜索、奪われた3つの鍵。そして4神。
  謎の鬼面を被った鬼道衆。そして「御屋形様」なる存在。
  それから手懐けた異形を登録する義務。モンスター爺さん。
「 ホント…頭がごちゃごちゃしそうだよ」
「 龍麻。RPGってのは色々なイベントがいっしょくたにやって来るものなのよ」
「 ええ?」
「 そのどれから片付けるか、それは勇者である龍麻が好きに決めていいわけ」
「 …………」
「 勿論、一緒に連れて行く相手もね」
「 うん…」
「 はい、追加!」
  言いながら藤咲は龍麻の目の前にほんわかと湯気の立ったオムレツを差し出した。龍麻はそのおいしそうな朝食を暫くじいっと眺めていたが、やがてにっこりと笑って藤咲に言った。
「 うん。とにかく動かなきゃ始まらないもんな。俺も皆にばっかり頼ってられないよ!」
  そうして龍麻は朝食をかっこみながら、今日出掛ける面子を藤咲に告げたのだった。


×××


「 まったく…あの子って…」
  町を出る龍麻を見送りながら、藤咲ははっとため息をついた。
「 分かってんのかしらね? 自分の魅力」
  誰を連れて行くと言うのかと思いきや…。藤咲は再び深いため息をついた。
「 今回のイベントに忠実になる気持ちは分かるけど、あんなのと一緒じゃ龍麻の貞操幾つあっても足りないわ。モンスター爺さんの所に行くまでは、まあウゴーがいるから平気だとは思うけど…」


「 ヘーイ、アミーゴ! 張り切って行きましょネ〜【愛】!!」
「 ア、アラン! そんなくっついたら歩けないだろっ!!」
「 ウゴ〜【怒】!!」
「 ヘイ何するネ、ウゴー!? またボクと戦いたいのデ〜スカ!?」
「 ウゴーウゴー!!」(「龍麻に手を出すなら戦う!」と言っているらしい)
「 もうお前ら煩い! 早く行くよ!」
「 待ってネ〜アミーゴ!!」
「 ウゴ〜!!」
  ……こうして龍麻は4神のうちの1人であるアランを連れ、まずはウゴーの鑑札を貰いにモンスター爺さんがいるという<白蛾の森>へと向かった。4神イベントを攻略する為、龍麻はアラン以外の仲間を醍醐とマリィにすると決め、藤咲らを連れて行く事を断ったのだ。


「 せっかく4人まで仲間にできるのにねえ…」
  藤咲は龍麻がアランに「がばあっ!!」とやられない事をただ祈るしかなかった。



  《現在の龍麻…Lv13/HP70/MP50/GOLD5555》


【つづく。】
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