第45話 白蛾の森

  白蛾の森―。
  それは秋月王国から西の方角、つまり龍麻が外れ村から桜井のいたほのぼの村を通過してやってきたルート上に位置していた。
「 来た時はそれらしい森の存在になんか全然気がつかなかったけど」
「 OH、それは当然ネ、アミーゴ!」
  つぶやいた龍麻にすぐ横を歩いていたアランが陽気な声で言った。
「 白蛾の森はモンスター爺さんの特別な結界に護られてるネ。人間に懐いているモンスターを連れた人にしか入れない場所」
「 へえ、そうなんだ」
「 ウゴ〜」
  龍麻と龍麻の肩先に乗ってふよふよと蠢いているウゴーがアランの言葉に感心したように頷く。
  アランはにっこりと笑って続けた。
「 モンスター爺さんは道心センセのお友達ネ。ボクは直接お会いした事ないケド、知恵にも武術にも長けた素晴らしい人と聞いてル。会うのトテモ楽しみヨ!」
「 ど、道心先生の? ……またヘンないやらしい人じゃないよな?」
「 OH、アミーゴ。道心センセにイヤラシイ事されたノ?」
「 さっ…されてないよっ!!」
「 ソウ? ナラ安心」
  いたずらっぽく笑ってから、アランはすっと前方を見やり、「OH、きっとアレネ!」と鬱蒼と茂る深き緑の森を指差した。
「 わあ…っ」
  龍麻はそのあまりの美しい光景に思わずはあ〜とため息をついた。


×××


  白蛾の森はくねくねと入り組んだ細い獣道や、行く手を阻む茨、大樹などが所狭しと立ちはだかっていたが、何故か前を進む龍麻たちはするすると何かに誘われるようにして歩いて行く事ができた。
「 既にモンスター爺さんの魔法にかかっているネ」
  アランは龍麻を先導するように自ら先を行きながらそう言った。
  モンスターは一匹も出てこない。それも何かの力のせいだろうかと龍麻は思った。
「 あ…」
  しばらく歩き、そして龍麻たちはあっという間にその目的地に着く事ができた。
  長く立ち並んでいた木々が消え、ぱっと開けた視界の先にその小屋はあった。

《 ウェルカム! モンスター爺さんの小屋♪》


「 自分で言ってるし…」
  小屋の前にちょこんと立つ木造りポスト。その手紙入れの横には同じく木造の垣根があり、そこの上部にくくりつけられていた看板には可愛らしい丸文字でそんな言葉が書かれていた。龍麻は丁寧に書かれたそれを見やってから、既にドアの前にまで行っているアランの後に慌ててついた。
「 スミマセンネ! モンスター爺さん、イマスカ?」
「 ウゴ〜!!」
  アランとウゴーが家の中にいるだろう家人に声をかける。
「 すみません!」
  一歩遅れて龍麻も声を出した。
「 ………」
  しかし留守なのだろうか、返事はない。
「 いないのかな?」
「 OH、おかしいデスネ…」
  アランは首をかしげてから、「裏を見てきマス」と言って1人裏手へ回って行った。
  龍麻はそんなアランの後ろ姿を見やってから、傍でふよふよと浮いているウゴーと目を合わせ、もう一度閉ざされた扉を見つめた。
  部屋の奥の気配を感じ取ってみる。
  しんとしている。誰もいないようだ。
「 買い物にでも行ってるのかな?」
  しかし龍麻がそうつぶやいた時だった。
「 ウゴ〜ッ【突】!!!」
「 わあっ!?」
  突然ウゴーが龍麻をど突いた!!
  龍麻は転んで1のダメージを受けた!!
「 な、何するんだよ、ウゴー!!」
「 ウゴー!!!」
「 あ…っ」


「 ククク…クチビル〜〜〜!!!」


  リビングデッド佐久間が現れた!!
「 な…!?」
「 ウゴーウゴー!!」(「逃げて、龍麻!!」と言っているらしい)
「 グググ…クチビル〜!! ハアハア…ッ!!」
「 あ…あわわわわ……!」
  ウゴーの忠告(?)にもかかわらず、龍麻は腰を抜かしたままその場から動けない!!
  龍麻はすくんでいる!!
「 グ…ググググチビル……!!」
  佐久間がじりじりとにじり寄ってくる!!
「 ウゴ〜【怒】!!!」
  ウゴーの攻撃!!
「 ジャマッハー【怒】!!」
  ミス!! 久しぶり過ぎ、怒りの佐久間は軽やかにウゴーの攻撃を避けた!!
  ウゴーのあらゆる攻撃は今の佐久間には効かない!!
「 グフフフフ…クチビル……!!」
  じりじりじりっ!!
  佐久間は真っ直ぐに龍麻に近寄ってきている!! 
  しかし!!
「ググ…?」
  しかし、どうした事か佐久間の動きは鈍い!!
「 ………?」
  どうやらモンスター爺さんの結界内である程度動きを制限されているようだ!!
「 ウ、ウゴ〜……」
「 ウ、ウゴー!?」
  しかしそれはウゴーも同じようだ!! 最初こそ龍麻を護る為に必死で気づかなかったが、ここはモンスターにとっては戦いに不向きな場所らしい!!
  自動的に、佐久間、ウゴーにそれぞれ10のダメージ!!
「 ウゴー、大丈夫!?」
「 ウゴ〜……」
  弱ってしまったようなウゴーを見て、龍麻が奮い立った!! 龍麻は立ち上がった!!
「 そ、そうだ…! 何で突然コイツがこんな所に現れたのかは分からないけど、今こそ目的を果たす時!! やい、佐久間!! お前、醍醐たちの鍵を返せよ!!」
「 グハ……?」
「 鍵だよ鍵!! そしたら命だけは助けてやるぞ!!」(ってーかリビングデッドなんですけど…)
「 グ……」
  佐久間は立ち止まったまま何やら首をかしげている!! 龍麻の言葉の意味を考えているようだ!!
「 クチビル……」
  佐久間は言いながら、何やらごそりと破れた服の中に手を差し込み光る物を取り出した!!
  それは紛れもなく、4神の鍵…白虎、朱雀、青龍の3つの鍵だった!!
「 そ、それ!! それだそれ! 返せこの盗人め!!」
「 …………」
「 返…!!」
「 …………」
「 …あ、あの、良かったら、それ返してもらえませんか…?」(恐る恐る)
「 グ…グググググ………!!」
  何やら佐久間は混乱しているようだ!! 佐久間は龍麻を見つめたまま、どことなく苦しそうである!!
「 ど、どうかしたか…?」
「 グググ……」
「 お、おい…?」(にじりより)←命知らず
  しかし、龍麻が話しかけながら佐久間に近づこうとしたその時である!!


「 4神の鍵は俺たちが貰った〜!!!」


「 グハアッ!?」
「 あ?!」
  佐久間、背後からジャンピングキックをされて50のダメージ!!
  佐久間はもんどり打って倒れた!!
「 わははははは!! 青龍を追跡して大収穫だぜ、炎角!!」
「 おう、イエ! まさかまさかで朱雀と白虎の鍵まで手に入っちゃうぜラッキ〜イエ!!」
「 お、お前らは…!?」
「 おう、ひーちゃん様! しばらく【愛】!!」
「 ひーちゃん様久しぶり過ぎだぜイエ【愛】! 実際はそんなじゃないけど、でも久しぶりって気がするぜ〜イエイエ!!」
  何と鬼道衆の風角と炎角が現れた!!
  風角はうつ伏せに倒れた佐久間の背中を足で押さえ、勝利のポーズ。炎角もその傍で意味不明のダンスを龍麻に披露している!!
「 い、いつの間にこの森に…?!」
「 へへへ、俺たち、青龍のアランを追ってたからさッ!! ひーちゃん様たちが秋月を出た所からずっと後をつけていたぜ? 俺らの完璧な尾行じゃ気づかないのも無理ないよ!!」
「 ないない、しょうが〜ないぜイエ!」
「 ………ググ」
「 お? こいつ、まだ死んでないぜ? しぶいといな」
「 レベルの高いリビングデッドだな、イエ!!」
「 よし、もいっちょ攻撃【蹴】!!」
  風角の容赦ない冷酷攻撃!!
「 グハアッ!!」
  佐久間はさらに30のダメージを受けた!!
「 ぐぐぐぐ……」
「 まだ死なない、イエ〜。俺も攻撃するぜイエ【蹴】!!」
  炎角の更なる冷酷攻撃!!
「 グハアッ!!」
  佐久間はさらに30のダメージを受けた!!
「 おい、やめろよ!!」
  龍麻は思わず声をあげた。風角と炎角はぴたりと動きを止め、不思議そうな顔をしてみせた。
「 どした、ひーちゃん様? こいつに襲われかけてたんだろ? こんな害虫はさっさと始末するに限るって」
「 そうだぜイエ! ひーちゃん様のクチビルが危ないぜイエ!」
「 そ、それはそうなんだけど…。な、何かもう攻撃できそうもないし…」
  ぼそぼそと龍麻はそんな事を言い、苦しそうに呻いている佐久間を見やった。
  自分でも分からなかった。あんなに恐ろしい目に遭っていたのに、何故今思わず制止の声を出してしまったのか。
「 ………だって」
  何だか、かわいそうな気がしたのだ。
  それに、鍵を返せと言った時、少しだけ何かを考えようとしていた佐久間にも。
  龍麻は引っかかるものを感じていた。
「 ……まあ、俺らはこんな奴に興味ないから、鍵さえ手に入ればどうでもいいよ」
  風角が黙りこくる龍麻に依然として不思議そうな様子を示しながらそう言った。
  それから風角は佐久間が身に着けていた3つの鍵を奪い取り、炎角と顔を見合わせ肩を揺らした。仮面で表情は分からないが、その面の下で喜びの笑顔を浮かべているだろう事は間違いなかった。
「 ふう〜。炎角〜これで胸張って御屋形様の所へ戻れるな!」
「 オウ! 長い任務だったぜイエ!」
「 ちょ、ちょっと待てよ!!」
「 ん、何だいひーちゃん様?」
「 そ、その鍵を…どうする気だ?」
「 どうするって…」
  龍麻の質問に2人は再度顔を見合わせ、それからゆっくりと首を左右に振った。
「 それは如何なひーちゃん様の頼みといえども言えないぜ。俺らの活動はトップシークレットだからな!」
「 おう! 御屋形様に殺されるぜイエ〜」
「 御屋形様って…一体何者なんだよ?」
「 それも言えないよ。ひーちゃん様が俺らの仲間になってくれるんなら、喜んで連れて行くけど?」
「 え……」
  風角のその突然の言葉に龍麻は驚いて絶句した。
  炎角も嬉しそうにステップをする。
「 そうだぜ、行こうぜひーちゃん様〜。俺たちの御屋形様が造る理想の国で一緒に暮らそうイエ〜」
「 理想の国…?」
「 こら炎角! それ以上口滑らすんじゃねーよ【蹴】!!」
「 痛ェイエ〜」
「 ま、ともかく。どうだいひーちゃん様? 何でひーちゃん様が青龍の野郎なんかと一緒してたのかは知らないけどさ、特にやる事ないなら一緒に来ないか? 悪いようにはしないぜ?」
「 しないしないイエ〜」
「 …………」
  悪者なのか良い奴なのか微妙に分からない鬼道衆。しかし危ない事はなさそうだ。それにここで彼らと一緒に行けば、何かが分かるかもしれない。そう思った。
「 …………」
  しかし頭の隅でそう思いつつも、龍麻は無意識にだろうか、じりりと後ずさりをした。
  どうしてだろう、そうする事は何故か「危険だ」と感じた。
「 ?? ひーちゃん様??」


「 龍麻はキミたちとは一緒しないヨ!!」


「 !?」
「 イエ!?」
  その時だった。
「 アラン!?」
  龍麻がその名前を呼んだ瞬間、小屋の周辺が物凄い地響きと共に地割れを起こし、その底から炎が湧き上がった!!
「 ぐ、ぐああああ〜!」
「 うおうお〜イエ!」
  丁度その場所に立っていた風角と炎角、それにリビングデッド佐久間はアランが作り上げたその炎の結界に囲まれ、動きを封じられた!!
  風角は45のダメージを受けた!!
  炎角は15のダメージを受けた!!
「 グハッ!!」
  佐久間は50のダメージを受けた!!
  リビングデッド佐久間を倒した!! 1の経験値を獲得、1ゴールドを手に入れた!!
「 あ…!!」
「 ク…チビル……」
  消滅する寸前、佐久間が一瞬こちらを見たのを龍麻は感じた。
「 佐久……」
  その顔は。
「 佐久間……?」

  その顔は、何だかとても寂しげだと龍麻は思った。



  《現在の龍麻…Lv13/HP65/MP50/GOLD5755》


【つづく。】
44へ46へ