第46話 忍び寄る闇の兆し |
白蛾の森―。モンスター爺さんの小屋の前。 「 ううう…何で俺たちがこんな野郎に…」 「 元々レベルが足りなかったぜ〜イエ」 鬼道衆の風角と炎角を縄で縛り上げ正座させて、龍麻とアランは2人の前に立ち尽くしていた。 「 ヘイ、君たちネ? この間からボクの屋敷の周辺をうろうろシテタのは?」 「 ふん、黙秘権を行使するぜ!」 「 するぜイエ」 アランの問いかけに鬼面の彼らはふいとそっぽを向いた。 龍麻はそんな2人を見てから、地割れを起こした周辺に視線を向け、佐久間が消えた辺りの場所にも目をやった。 「 ……あいつ、何か言おうとしてた……」 「 OH、どしたネ、アミーゴ?」 「 あ…っ。ううん、何でもないんだ」 「 それより、どうしまショーカ、この悪者タチ」 軽く肩を竦めて見せてアランが龍麻に訊いた。龍麻はそんなアランと「ぶうぶう」と意味不明なブーイングを繰り広げている風角たちを見てから途惑った風に言った。 「 アラン、この人たちって悪者なの?」 「 OH、アミーゴ。それどういう事デスカ? この怪しげな仮面の男タチが善良な一般市民に見えマスカ?」 「 そういうお前はエロエロ破廉恥町長だろが! な、炎角!?」 「 お〜そうだぜ! 俺たちはお前をずっと張ってから知ってるぜイエ! お前はかなりやらしい駄目駄目町長だぜイエ〜」 「 ………確かに」 「 OH、アミーゴ!?」 鬼道衆たちの言葉にぼそりと同意を示した龍麻にアランは大袈裟に両手を広げて首を左右に振った。 「 ひどいデス、アミーゴ! ボクとこの連中とどっちを信じるデスカ!?」 「 信じるも何も…。この人たちの事ってよく分からないんだよな。確かにアランの屋敷に忍び込んだり、俺たちの後つけたりして怪しいんだけど…。あんまり悪者って感じがしないし…」 「 さすがひーちゃん様【愛】! 見る目ある〜!」 「 ひーちゃん様ラブだぜイエ〜【愛】」 「 あ、でも信用はしてないから【冷】」(きっぱり) 「 ええ〜そんなひーちゃん様〜【悲】!!」 「 縄を解いてくれイエ〜【悲】!!」 ぎゃあぎゃあと言う風角たちに辟易しつつ、しかし龍麻はアランに向き直って首をかしげた。 「 そういえばアラン。やっぱりモンスター爺さんはいなかった? こんな騒ぎになっても出て来ないって事は…」 「 そうデスネ。裏手にも姿はナカッタ。それに、この森結界が崩れかけてマス」 「 え、それどういう事?」 アランの発言に龍麻は眉をひそめた。 「 本来ならこの森、仲間のモンスターを連れたパーティしか入れナイ。でもこの鬼面タチはボクたちの後ついてコレタ。それにウゴーの力が弱まっているのもおかしいネ。モンスター爺さんの《力》に護られたこの森では、仲間のモンスターの力は倍増するハズ。でもウゴーはどんどん弱ってル」 「 あ、そういえばウゴー!!」 「 ウゴ〜…。ダラ〜リ…(疲)」 「 ごめん、ウゴー! お前のこと忘れてた! 大丈夫か、すごい弱ってるみたいだけど!!」←何気にひどい龍麻 「 ウゴー…ゼエゼエ(汗)」 「 どうしよう…! じゃ、じゃあとりあえずこの森出た方がいいよな!?」 「 そうですネ。…っと、その前に。佐久間が持っていたボクたちの鍵、ここにイル彼らガ奪ったのでしたネ?」 「 あ、そうだった…」 アランに言われて龍麻は思い出したように目の前でわたわたしている風角たちを見た。 「 ねえ、あの鍵ってアランとか俺たちの仲間のなんだよ。返してよ」 「 ………」 龍麻の台詞に何やら2人で騒いでいた風角たちはぴたりと黙りこみ、顔を見合わせた。 それからふうとため息をついて首を振る。 「 如何なひーちゃん様の頼みでもそいつは聞けないな…」 「 そうだぜ〜。これはもう俺たちのだぜ〜」 「 お、俺たちのって…! 単に盗んだんじゃないか!」 「 ひーちゃん様、人聞きの悪い事言うなよ。この鍵は4神のものだろ」 「 そうだよ! だからここにいるアランの―!」 「 違うよ」 龍麻の声を掻き消して風角はきっぱりと言った。 「 4神はあくまでもこの大地を統べる王の代理人。王が留守の間だけ、この大地を守護する存在に過ぎない。って事は、この鍵やそこにいる4神の青龍は元々この世界の本来の主…俺らの御屋形様のモノなんだよ」 「 ……? 前も言ったよね。御屋形様って…」 龍麻がためらいながら先を訊こうとするのに対し、風角がそれを遮るようにして言葉を出した。 珍しく真摯な声で。 「 ひーちゃん様。今、この世界がどうなってるか知ってるか?」 「 どう…なってるって…?」 「 どうしようもない世界だぜ」 「 え……」 風角のその台詞に龍麻は一瞬息を飲んだ。 この世界が…どうなっているか? 「 あの…」 しかし龍麻が声を出そうとした、その時だった。 「 メシにありつけるのが〜!!!!!」 「 !?」 突然、ドドドドド!と物凄い地響きが鳴り渡ったかと思うと、森の向こうから猛烈ダッシュしてきたらしい、巨体の鬼面…岩角が現れた!! 「 あ…お前は…!?」 「 メメメメメシだど、早く帰るんだど〜!!」 「 遅いじゃねーか、岩角! さっきから早く来いって言ってたのによ!!」 勢いこんで現れた岩角に、風角が仮面の下からごうごうと文句を言う。炎角も座った体勢のまま腰をくねくねと振りつつ訊いた。 「 岩角〜お前一体何処をうろついてたんだイエ? 俺たちが連絡してから大分経つぜイエ」 「 連絡…?」 龍麻が不審な顔をすると、親切にも答えはすぐに返ってきた。 「 おう、ひーちゃん様。俺たち鬼道衆はテレパシーでお互いの状況を連絡しあえるんだぜ、イエ」 「 それはいいとして【怒】!」 炎角を嗜めるようにどしんとどつきながら、風角は岩角に「まったくトロイんだからよ!」と再度文句を言った。 すると岩角の方も2人の前でゼエゼエと息を吐きながら切羽詰ったような不平の声をもらした。何やら非常に焦った感じで。 「 おでだってすごく大変だっだんだど! 見失った白虎を追っていて、逆に追われかけて、腹減って。でもでも風角だちが鍵を手に入れたって分かって急いで走ってきたんだど!!」 「 やれやれ…。よく分かんねーけど、とにかく俺らの縄を解いてくれ」 「 おっと、そうはいきませんネ!」 一瞬茫然としていた龍麻とアラン、アランが先に我に返ってずいとそんな3人の前に進んだ。 岩角はそれで初めてアランたちに目をやり、ふと龍麻に視線をやって驚いたように指をさした。 「 ア〜!! うまそうな人!! この人が風角たちが言ってだひーちゃん様が!?」 「 何だよ岩角。お前が言ってた食いそうになった人ってのもひーちゃん様のことかよ」 「 おう、食われなくて良かったぜイエ」 「 全くだ」 「 ちょ、ちょっと…」 龍麻は混乱する頭を必死に回転させながら岩角たちを見やって言った。 「 何が何だかわからないけど! とにかく鬼道衆…だっけ。あんた達、アランたちの鍵を置いていけよ! そしたら見逃してやるからさ!」 「 ……見逃すって言われても」 「 OH、アミーゴ。ボクはこいつらを逃してはいけないと思いマス」 「 え、で、でも……」 しかし龍麻が躊躇している間に岩角はひょいひょいと風角と炎角を持ち上げた。 「 こら、縄を解けばいいんだっての!!」 「 面倒だからおぶって帰るど! 雷角が来てくれるど!」 「 ん……」 そして岩角がそう言った瞬間。 ピカ…!! ゴロゴロゴロ……!! 「 うわっ!?」 突然上空が黒い雲に覆われ、ざわざわと風が吹いた。 そうしてピカリと光る稲光に龍麻とアランが一瞬だけ目を眩ませた隙に―。 「 ひーちゃん様、また会いましょうぞ…!!」 そのどこか聞き覚えのある声と共に。 ピカ…!! ゴロゴロゴロ……!! 「 あ……」 龍麻が目を開いた時、そこに既に鬼道衆たちの姿はなかった。 「 な、何…」 「 OH…逃げられてしまいマシタ…」 アランがふうとため息をつき、悔しそうに眉をひそめた。しかし龍麻がそんなアランに困ったような視線を投げかけた、その時。 「 ひーちゃん! 無事!?」 森の向こうから切羽詰まったような、しかし元気で張りのある声が響いてきた。 龍麻はそちらに目をやり、驚いたようになって声をあげた。 「 小蒔ちゃん…! 醍醐とマリィも…!」 「 龍麻、無事か!? アランもいるのか?!」 「 龍麻パパ!!」 「 みんな…どうして…」 龍麻は次々と現れた仲間の名前を呼びながら、しかし一方で石のように硬直してしまった足をどうともできずにいた。 ぼうとする脳裏に、先刻の風角の言葉がキンと鳴り響いていた。 どうしようもない世界だぜ 「 今、世界は……」 龍麻たちは4神の鍵のうち、玄武以外の3つの鍵を鬼道衆たちに奪われた!! 《現在の龍麻…Lv13/HP65/MP50/GOLD5755》 |
【つづく。】 |
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