第103話 壇上門攻略1 |
紫暮と織部雛乃は次々と襲い来るモンスターの討伐を。 「よし…っ。これで10個め…!」 そして龍麻はそんな彼らに保護されながら地下のそちこちに転がっている球の破壊に努めた。 「前来た時はこんなになかったのに…」 龍麻が触るだけで球は壊れる。だから疲れることなどありえないはずだった。 「はあ…」 けれど龍麻はその禍々しい光に当てられているだけで自らの力が吸い取られ、疲弊していくのを感じた。恐らくは球から発せられる陰の氣にさすがの龍麻もその《力》を奪われているせいであろう。 「龍麻様」 「え…あ」 しかしその様子に気づいた雛乃がすっと近づき、龍麻の手をおもむろに取った。 「べホイミ」 龍麻のさり気なく減少していたHPが回復した! 「あ、ありがとう」 「当然のことですわ。龍麻様、先はまだ長いのですから、御身体に異変が起きていると感じましたらすぐに私に仰って下さい。黙っていられるのは却って迷惑ですから」 「う、うん。ごめん」 「うーむ、しかしシスターというのはやはり尊い者だな! 俺は回復系の…いや、そもそも魔法全般全く使えんのでな。やはり回復系の呪文を持つ人間がパーティにいると違う!」 城の付近で知り合ったばかりの紫暮はひどく感心したように目を細めた。 しかしそういう紫暮も相当の戦力である。怪しく光る球同様、やはり以前潜った時はこんなにもたくさんのモンスターは出現しなかったのに、今は次から次へと沸いて出てきてキリがない。けれども紫暮はそれをいとも簡単に腕力だけで潰していってくれているのだ。 (それに…紫暮の言う通りだったな…) 龍麻は前方を行く2人を見ながら唇を噛んだ。 恐らく1人でここへ潜ったら早々にリタイアだったろう。ホイミが使えると言っても龍麻にはそれ以外の回復呪文は未だ扱えないし、多少レベルが上がったとはいえ紫暮のようなタフさもない。2人がいるからこそ、球の破壊に専念出来るのであり、先へ進むことも出来るのだ。 (何が1人で、だよ…。俺は結局誰かの力を借りないと何もできない役立たずだ…) 新たな自己嫌悪を覚えながら、龍麻はそれでも今自分が出来る事をしなければと腹だけは括った。 そうこうしているうちに3人はどんどんと壇上門がある最下層へと近づいていき……。 「うっ…」 あるポイントにまで達して自然揃って足を止めた。 「な、何だこの氣…?」 思わず口に手を当てて龍麻は一歩後退した。 何という異臭。そして圧迫感。咄嗟に2人を見ると、紫暮も雛乃も同じことを感じたのだろう、眉をひそめてその先を厳しい様子で見据えている。 明らかにこの向こうにあのモンスターがいるのだ。人々の邪念を取り込み、より巨大になった恐ろしい異世界の魔物。 「おかしいですわ…」 その時、雛乃がぽつりと呟いた。 「まだこの辺りはこうまで酷くないはずです。4神の方たちや姉様が張った結界があるはずですし…」 「あ…」 そういえば雛乃と入れ替わりで城へ行ったはずの醍醐たちは何処へ行ったのだろう? 龍麻もはっとして辺りを見回した。 誰かがいる気配はない。 休憩用に作られたのだろう、見張り役の者が落ち着けるような小さいスペースや水を湛えた樽、あとは恐らく武器が入っているのだろう箱などは辺りに整然と置かれたままなのだが。 「雛乃さん…。あの、醍醐やアランたちは? 何処で結界を張ってるんですか?」 「地上の城周辺じゃないのか? 俺が来た時には、既にこの国の民や不埒な盗賊あたりが簡単に入れないような防御壁が何らかの魔法線で張られているのを見たしな」 紫暮が言うと、雛乃はかぶりを振った。 「それは魔に誘われてやってくる人々をこの城へ近づけない為の結界であって、モンスターを抑える魔法とは別のものです。壇上門の怪物を食い止める為の結界はこの少し先に張ったのですが…」 雛乃は言い淀み、さっと厳しい顔をした。 「皆さまの気配がありません」 「えっ」 「………」 「それって…どういうこと?」 「………」 龍麻の問いに雛乃はすぐ答えなかった。 その代わり、ふっと視線を向けると雛乃は言った。 「龍麻様。ここは一旦退いた方が宜しいかもしれませんわ」 「えっ、何で?」 「私たちだけでは手に負えません。一度戻り、翡翠様やマリィちゃんの援護がなければ…」 「あ…」 「何だ? やはり戻るのか?」 俺は元からそうした方が良いとは思っていたが、とは紫暮が付け足した。 けれど龍麻は一瞬は躊躇ったものの、すぐに首を振った。 「駄目だよ。俺は戻る事はできない。それにもし醍醐やアランに何かあったっていうなら…」 「だからこそですわ」 雛乃は強い口調で言い切り、龍麻を睨み据えた。 「私も翡翠様たちは後からきっと追ってきて下さると思っていましたし、ここには白虎と青龍のお2方もいる…。4神の力はありませんが、我ら姉妹とて何らかお役には立てるでしょう。龍麻様が折角決心してここへ来る決断をしてくれたわけですから、このまま進むのも良しとお供致しました。ですが…」 「……何?」 「………」 「雛乃さん」 「姉様たちが魔に打ち滅ぼされていた場合、ここに私たちだけでいるのは危険です」 「!! な、何言ってるんだよ!? みんながやられるわけないだろう!?」 雛乃のいっそ冷淡なまでの言い振りに龍麻はムキになって声を荒げた。傍にいる紫暮はさっと眉をひそめただけだ。 龍麻は構わずに続けた。 「今まで俺がいない間、みんなはここでちゃんと踏みとどまってこの国を守ってくれていたじゃないか! それがどうして急に…やられているなんて、あるわけないよ。そ、それに…もし何かあったのなら、尚更引き返してる暇なんかない! 俺は行く!」 「龍麻様」 「それなら雛乃さんが戻って翡翠たちを呼んできてよ。俺は行くから―」 「龍麻様!」 ぴしゃり、と。 雛乃は突然龍麻の頬を平手打ちした。今まで冷静に言葉を運んでいた雛乃が、今はひどく真っ赤になった顔をして憤慨している。 「貴方様を御守りするのは織部家の務め。みすみす貴方様を危険な所へ行かせるわけには参りません」 「な…に、言ってるんだよ!? そんな事どうでもいいっ。君だって、姉さんが危ないかもしれないんだぞ!?」 「己の使命に殉じて逝ったのなら姉も後悔はしていませんでしょう」 「バカなこと言うな! だから……俺は、俺は、そういうのが嫌いなんだっ!」 「……おい」 しかし龍麻が地面に叩きつけるようにそう声を張り上げた時だった。 紫暮が半ばボー然としたような声で2人に声を掛けた。 「どうやら、手遅れのようだ」 『グ…グォォオオオオ………!!』 「な、何てこと…!」 思わず声を発した雛乃が慌てて片手を口にやった。そして殆ど無意識にだろう、2、3歩よろりと後退してそのまま動かなくなる。 「………ッ!」 龍麻もその腹の底からビリビリと響いてくる咆哮に身体を震わせ、絶句した。 けれど視線だけは逸らさない。否、逸らせば殺られる。 『グオオオオオオオオォォオボォオオ……』 「何という大きさだ…」 そう呟いたのは紫暮だ。彼はさすがに退くという事をしなかったが、力がある分、本当は瞬時に分かっただろう。 これは手に負えない、と。 「ここまで巨大になっていたのか…」 それは壇上門から出て来た目的のモンスター。 しかし以前見たそれとは明らかに異なっていた。その大きさ、パワー、絶対的な存在感。 「紫暮…」 龍麻はぼそりと呟き、同時に自分が一歩、二歩と前へ進んだ。 「紫暮」 そして仲間を呼びながら拳を構える。ぎゅうっと握り締めたそこには微かに魔法を込めたが、勿論そんなものが役に立たないことは分かっていた。 それでも龍麻は怯まずに背後に立つ紫暮に言った。 「パーティは解消だ。雛乃さんを連れてすぐに地上へ出て」 「な…何を言っている、龍麻?」 「いいから行ってっ! こいつは俺が…相手をする!!」 不思議と恐怖は感じなかった。 本当はここへ下りてまたこれの姿を見たら恐れ慄いてすぐにでも逃げ出したくなるかと思っていた。自分の力量くらい、天童のもとで修行したこともあってよく分かっている。己の弱さ、力不足はよく分かっているのだ。 でも不思議と、今は逃げようなんてこれっぽっちも思えない。 「大丈夫。俺は、こいつに勝つから…!」 雛乃に叩かれた頬がじんと痛んでいた。 けれど今は、その痛みは逆に勇気に変わっているような気がした。 龍麻は紫暮と雛乃をパーティから外し、単独になった!! 《現在の龍麻…Lv21/HP130/MP100/GOLD118050》 |
【つづく。】 |
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