第105話 壇上門攻略3

  たった一人で、龍麻は異形と闘っていた。

「はあっ!」

  龍麻の拳による攻撃!!

《グボボオオオオオオオォ!!!》

  モンスターは35のダメージを受けた!

「たあっ!」

  龍麻の拳による連続攻撃!!

《グオオオオオオオォォォォ!!!》

  モンスターは40のダメージを受けた!!しかしモンスターの身体に弱ったところは見られない!!

「はあはあ……。何だか…焼け石に水って感じだな……」

《ギヤアアアアァオオオオオォォォォ……!!》

  モンスターの地を引き裂かんばかりの痛烈な攻撃!!

「うっ…!?」

  龍麻は防御の姿勢を取った!!しかし龍麻は50のダメージを受けた!!

《グオオオオオオォォォォ!!!!》

  更にモンスターは怒りの声をあげ、龍麻に連続の触手攻撃を仕掛けてきた!!

「な…っ」

  龍麻はそれを咄嗟に両手でガードし、無意識の氣によるガード壁を作り上げた!
  それでもダメージを0には出来ない!!龍麻は30のダメージを受けた!!

「あ…?」

  その時、龍麻は体勢をぐらつかせながらも、モンスターから弾いた攻撃の余波にヒトの声を聞いた。


『へっへっへ……おいおい、本当にこんなボロ城にお宝が山と隠されてんのかぁ!?』
『間違いねえッス。何でも今この城の周辺じゃあ不穏な事件が相次いでるってんで、王も貴族どもも兵士連れて遠くへトンズラしちまったとか! 城のお宝はそのまま放置らしいんでさ!』
『確かに警備兵の気配はまるで感じられねえ。楽勝だな……くくくっ』


「な…何だ今のは……?」
「龍麻様、来ます!!」
「はっ!?」

  雛乃の切羽詰まったような声が耳につんざき、龍麻はハッとして瞬間的に身体をその場から引いた。

《ギャアアアアアァ!!!》

  攻撃を当てられると思って当ての外れたモンスターの怒声が木霊する。龍麻はモンスターからの攻撃を避けた!!

「何をぼんやりしているのです、龍麻様!!」
「ひ、雛乃さん…っ」
「龍麻! 早くここから退くんだ、こいつは俺たち3人だけの手に負えるモンじゃねえ!」
「紫暮さんも…! 2人は退いてって言ったでしょう!?」
「そんな事をわたくし達がそのまま受け入れると思いまして?」
「その通りだ!」

  雛乃と紫暮が言いながらそれぞれ異形に攻撃をぶつける!!

《グオオオオオオォォ!!!》

  モンスターに合計190のダメージを与えた!!
  それでもモンスターの動きに未だ生彩を欠く様子は見られない。

「あれは…?」

  けれど龍麻は2人が攻撃をしてくれたお陰で、より客観的に怒り狂って暴れる異形を冷静に観察する事が出来た。しきりに蠢き、緩慢な動作ながらこちらへ攻撃を仕掛けてくるモンスターは無数の触手を振り仰ぎながら、異様な色を発する氣の波動を発している。
  そこからは、確かにヒトの声が聞こえてくるのだ。今度は遠くからでもそれはよく聞こえた。


《借金まみれでお先は真っ暗……。それなら、詩人さんが言ってた神様の作る新しい世界とやらへ旅立つのも悪くはない……》
《新しい世界なら幸せが簡単に手に入るのね。凄い力を手に入れて、あたしを捨てたあのヒトに復讐してやることだって…!》
《もっともっと、儲けたい…! その為には新しい世界とやらから珍しい物を取って帰ってくるのも一興……ケケケケ》
《ふふふふ……!》
《ハハハハハ!!》
《金が欲しい! 名誉が! 地位が! 全ての物を手に入れたい!!》


  それは欲や憎しみ、そうして無気力によって他人に依存するような負の感情を抱いた人間の心の叫び。

「ひどい……」

  思わず龍麻は口許を手で覆った。それは一見、ヒトならば誰しもが抱く感情であったかもしれない。けれど異形に一度取り込まれ、より「悪いモノ」の形を取ってしまったそれらの声=波動は、本来目に見えないものであるはずなのにドロリとした毒液のようなものとなり、とんでもない異臭を発して辺りにもうもうと広がっていた。

「これ……」

  龍麻はその空気に酔いそうになりながら、思わず胸元から小瓶を取り出した。それは城に入る前、犬神がくれた聖水だ。正直、龍麻にはこれをいつどのようなタイミングで使ったら良い物かまるで分からなかった。聖水の効能くらいは何となくでも分かる。ただ、あまりに淀み切ってしまったこの空気を、人々の「怨念」とでも言うべきものを、このたった数滴ほどの水があったところで浄化出来るとは思えない。それこそ焼け石に水ではないかと思った。

「それでも……」

  けれど、と。
  龍麻は意を決したようになり、瓶の蓋を取って異形を見上げた。
  救えるとは思えない。水岐によって誘導され、とっくにあの異形に取り込まれたであろう人々がどうなったのか、本当は考えるだに恐ろしい。もうきっと間に合っていないと思う。
  それでも、龍麻は悪意ある言葉を、強欲に塗れた声で笑う人々を愚かだとは思わなかった。

「助けたい…!」
「龍麻様…!?」
「お、おい、龍麻…!?」

  さっと2人を通り越して異形の前に立ちはだかった龍麻に、雛乃と紫暮がぎょっとしたような声を出した。

「ひーちゃん!!」
「龍麻パパ!!」

  ちょうどその時、奥の道から桜井小蒔、四神の1人である朱雀マリィも現れた!!

「おい、モンスター!!」

  それでも龍麻は彼女たちが来た事にも気づかずに大きな声で言い放った。

「みんなを、返せ!!」

《グ……グオオオオオオオォォォォ!!!》

「これ以上大きくなるな…ッ!!」

  言って龍麻は、瓶の中の聖水全てをモンスターに向けて振りかけた!!

《グ……ギギギギギギィィィィィィ……ギャアアアアアアアアア!!!》

  モンスターがこれまでにない絶叫を上げる。
  そうしてじゅうじゅうと肉の焦げる音、更なる異臭が辺りを猛烈な黒煙と共に深く濃く覆っていく。

「あ……」
「くっ……龍……」
「ひーちゃ……」
「龍麻パパ……」
「みんな!?」

  その空気をもろに浴びたせいだろうか、龍麻を覗くその場のメンバー…―雛乃、紫暮、小蒔、そしてマリィまでもがバタリバタリと倒れ伏した。

《ギオオオオォォォォォ!!!》

  そして黒煙の中からぴかりと赤黒い光が数十にも光って揺らめく。異形の怒りの眼光だ。

「もしかして……全然……効いて、なかったり、して……?」

  龍麻はハアハアと息を荒くしつつも何とか拳を構えながら失望したようにそう呟いた。
  聖水を浴びても異形の大きさに変化はない。そうしてそのモンスターは怪しく光る無数の瞳で龍麻を憎々しげに睨みつけているようだった。



  《現在の龍麻…Lv21/HP50/MP100/GOLD118050》


【つづく。】
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