第108話 壇上門攻略6

「な、何の用だ、じゃないよッ!!」

  平然としている天童に龍麻はダンダンと苛立ったように地団太を踏んだ。←そんな所作もまたラブリーだと頬を赤らめている大男がいることを龍麻は知らない

「早く! 早く解いて! 雪乃さんたちの縄!」
「あぁ…? 何で折角縛ったもんを取ってやんなきゃなんねェ? それして俺に何の得がある?」
「と、得!? 得とか、損とかっ! そもそも、どうして皆を縛ったの!?」
「フン……これから面白いモンが見れそうだって時にそいつらがガーガーと喚いていたからな」

  だから、邪魔臭く思って縛ったのだと、天童はこの場にいる全員に意味の通じない事を話した。
  龍麻はじりじりとしながら天童を睨みつけ、「よく分かんないけどっ」と顔を近づける。

「とにかく、解いてよ! 早くしないと翡翠とマリィも危ないんだ! たった2人だけであのモンスターを抑えてて。ここにいる醍醐とアランを連れて行って四神で戦わないと勝てないって!!」
「あぁん…? 何だよ、こいつらが四神? その気配は……青龍と、白虎、か」
「む!? な、何だ貴様は一体!?」
「OH、アナタ……もしかして、ボクのコトしつこく見張ってタ、あのキドーシューさんたちと何か関わりアルネ?」
「はあ!? おい龍麻! そもそも何でお前がこんな如何にも悪者っぽいヤツと知り合いなんだッ!?」
「ちょっ……そんな、皆でいっぺんに喋らないで…っ」

  龍麻がオロッと狼狽する。望まぬうちに天童のことは雪乃の妹・雛乃や小蒔たちに知れてしまっている。だからここで正体を明かす事は、別段天童も構わないだろう。
  けれどそれを今するのは、龍麻が嫌だった。翡翠のことだけでなく、何だかとんでもない事になりそうだし…。

「と、とにかく! 早く、天童っ」
「タダじゃやれねえな」

  けれど天童は不意にニヤリとした企み顔をすると、自らも龍麻に顔を近づけてその顎先を指で摘んだ。
  しかしこれには側にいた大男2人だけでなく、雪乃の方までぎょっとして騒然となったが、当の天童はそんなギャラリーには全くもって無頓着だ。
  天童はただ龍麻を見つめながら唇の端を上げた。

「人を使う時には、それ相応の報酬ってもんを払わなけりゃな。上に立つ者の器量ってヤツだ」
「な……何あげればいいんだよ…。俺、今あんまりお金持ってないんだけど……」
「んなもん要らねーよ。キスしろ。お前からな」
「えっ」
「な、な、な、何ィ〜ッ!?」
「OH、ソレ駄目!! 絶対絶対駄目ネ、アミーゴ〜!!」
「こ…このエロ男は一体何をいきなり言ってやがんだ!?(赤面)」←案外初心な雪乃
「……るっせえな」

  苛立ったように初めて天童が3人を見やった。龍麻は途端ドキンとして気持ちが逸った。天童は今でこそどうした事か龍麻についてきてくれて、呼べばこうして側にも来てくれる。一応協力というか、手助けしてくれるのかなとも思っているが、だがしかし。
  彼の気性はあの城でずっと接してきただけに重々承知している。天童の逆鱗にちらとでも触れれば、如何な龍麻の仲間といえども、タダでは済まないかもしれない。

「て、天童っ」

  意識を自分の方に向かせようと龍麻はぐいと天童の胸倉を掴んだ。

「キスすればいいんだな!? そしたら、ちゃんと皆の縄を解いてくれる!?」
「フッ……あぁ、訳ないな。ソッコーで解いてやるよ」
「よ、よおし……」
「ぎゃああああ龍麻〜【悲】!!」
「それは駄目ねアミーゴ〜【悲】!!!」
「な、なななな………っ」←真っ赤になって絶句状態の雪乃

  3人は龍麻の決意に相当なダメージを受けた!!
  雪乃、醍醐、アランはそれぞれ50のダメージを受けた!!(多っ)

「ほらよ。そうと決まれば、とっととしろ」
「う、うん……」

  天童の胸元をぎゅっと両手で握ったままの龍麻は、恥ずかしそうに頬を赤らめながらちらと顔を上げた。当の天童の方は相変わらずニヤニヤとして楽しそうだ。

「龍麻あっ! 頼むからやめてくれ〜!!」

  まだ醍醐が叫んでいる。結構本気で泣きそうらしい。

「大丈夫! 皆、待ってて! だってたかがちゅーすればいいんだよ!? そんなの、楽勝だから!!」
「たかがじゃなーいっ!!」
「アミーゴ!! アミーゴのピュアな唇をソンナニ安売りしないデ!!」
「大丈夫だからってっ。行くぞ、天童!!」
「……ったく。色気も何もあったもんじゃねえなテメエは」

  天童が呆れたような顔をする。
  けれど龍麻が唇を寄せて天童にキスをしようとした、その瞬間だ。

「!?」
「わっ……」

  何を思ったのか天童が突然驚いた顔をして、ドンと龍麻の胸を押した。
  龍麻は訳が分からず後方へよろめいたのだが、すかさず目の前の天童を見やると、天童は一瞬警戒したような顔を見せていたものの、やがて顔半分を片手で隠しながら「……あの女」と呟いた。

「え?」
「チッ……。忘れてたぜ。テメエに掛けられた呪いのことを」
「え? え?」
「危く顔を焼かれるところだ。ったく、どうしようもねえ悪魔だ、あの女は」
「な…何??」

  龍麻は訳が分からない。折角決死の覚悟で天童にちゅーしようとしたのに、しかも向こうからやれと言ってきたくせに激しい拒絶。そんなに自分の息が臭かったのかと心配になるほどだ。←ひーちゃん、そんな心配か

「うおおおおおおお!!!」
「グオオオオオオ!!!」

  その時、だ。

「え?」

  ぶちん、と。
  何かが勢いよく切れる音がして、龍麻は驚き振り返った。見ると、先刻までがっちりと捕縛されていた醍醐とアランが自由の身となっている。何と自力で天童による拘束魔法を解いたらしい!!
  因みにアランは銃を使えば魔法もお手の物だが、基本的に醍醐ともども肉弾派なので、2人は龍麻同様魔法は駄目だ。つまり、本当に己の力(と龍麻への愛)だけで捕縛を解除したらしい。
  チャラララッチャッチャッチャ〜!!!
  醍醐のレベルが上がった!!
  アランのレベルが上がった!!
  2人は四神の力を本格的に覚醒させ、新たな《力》を手に入れた!!

「ふ、2人とも……?」
「ハッ、あきれたバカどもだ。俺の魔法を筋肉だけで破っちまうとはな」

  これには天童もさすがに驚嘆しているようだ。2人にしてみれば龍麻の唇の危機だ、今ここで全てのパワーを失っても縄を解かねばと必死だった。←今ここで使い果たすなよ

「龍麻っ!!」
「わっ!?」

  縄を解いた瞬間、醍醐が走り寄って龍麻の両肩をがくがくさせる。

「もうっ! 勝手にそういう真似はするんじゃない!!」
「え……?」
「ソウネ、アミーゴ!! ボク、寿命が50年くらい縮まったヨ!」
「アランまで……」
「どうでもいいが、それなら俺はもう用なしらしいな。行かせてもらうぜ」
「え? 天童、待ってよどこに……」
「龍麻!」

  天童の元へ走り寄ろうとした龍麻の手首を捕まえて醍醐は代わりに自分が天童の前に立ちはだかった。アランもまた同様だ。思い切り殺気立った様相を呈して天童を厳しく見据える。

「フン……」

  そのただならぬ気配に天童も改めて向き直り、面白そうに2人の大男を見やる。
  龍麻は不穏な空気を発する3人に途端焦って「ちょっと」と声を掛けようとした。

「貴様、一体龍麻の何なんだッ!」

  けれどそれを掻き消すように醍醐が言う。
  アランも己の霊銃を取り出してすっかり戦闘態勢だ。

「OH、幾ら龍麻がキミをフレンド言ってモ。ボクたちは認めないネ。嫌がる龍麻に無理矢理ナニさせようとするなんて、紳士の風上にもオケナイ!!」
「いやお前がそれを言うなよ」(by醍醐)
「だーっ!! テメエら、いい加減にしろ!!」

  しかしいよいよ本格的に揉めそうになった時、雪乃がこれまで堪えていた怒声を発した。

「今何処だここは!? お前らのやるべき事は何だ!? とっとと門の所行ってモンスター倒してこい!!」
「そ、そうだよっ!」

  それに押されて龍麻も叫んだ。

「喧嘩なんかしてる場合じゃないっ。翡翠とマリィが! もう、俺先に行くからね!!」
「お、おい! わ、悪かった龍麻、待ってくれ、一人じゃ危ない!!」
「アミーゴ!! そうヨ、一人で歩いちゃ危険ネ!!」

  走り去る龍麻に、醍醐・アランが慌てて走って追いかける。
  天童はほとほとあきれ果ててその後ろ姿を見やっていたが、絶えず響いている地下の震動と徐々に崩れ落ちてくる岩石にすうと上を見上げ、呟いた。

「脆いな徳川……こんなもんかよ」
「……そして俺は一人でもいいのか、あいつら〜【怒】!!」

  因みに、未だ一人捕縛状態の雪乃は置いてけぼりにされた事にキーッ!!とヒステリー状態だった。


  白虎の醍醐と青龍のアランがパーティに加わった!!



  《現在の龍麻…Lv21/HP50/MP100/GOLD118050》


【つづく。】
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