第113話 四神方陣、そして…。

  龍麻は目を見張った。
  こんな攻撃は今までに見た事がない。けれど「それら」が呼応し、一つの強大な《力》となって表に放出してきた時。
  明らかに己の身の内に眩い変化が起こった事を感じた。

「東に、少陽青龍」
「南に、老陽朱雀」
「西に、少陰白虎」
「北に、老陰玄武」
「陰陽五行の印もって相応の地の理(ことわり)を示さん…」
「四神方陣!!」

《グギャアアアアァァァ――――ッ!!!!!》

  アラン、マリィ、醍醐、そして如月が四方から印を結び発した光は、凄まじい威力を伴い、異形のモノに襲いかかった!!
  モンスターは4079のダメージを受けた!!
  檀上門のモンスターを倒した!!!

《グ……ググググオオオォォォォ―……!!》

「す、すごい……」

  龍麻の呟きも異形が崩れ落ちる轟音に全て掻き消される。

「あ…!?」

≪グ……グオオオオォォォ……!!!!≫

  そして異形はその形態を徐々に液体の如くドロドロと溶かし込みながら、洞の奥、檀上門の向こうへと、吸い込まれるように消えて行く。
  まるで本来のあるべき場所へ戻されるように。

「え!? ―――あ!!!」

  けれど、その異形が元の形を留めないままに消え去ろうとした瞬間、龍麻はもう咄嗟に走り出していた。仲間たちが一斉に「龍麻!?」と焦ったような声をあげたが、それに構う暇はない。龍麻の反射的に動いた身体は、一目散へその視認できたものに向かって走り出していた。
  確かに、そこには「彼」がいた。

「水岐さん!?」

  異形は檀上門へと吸い込まれて行く。けれど、その液体化しかけたモンスターから流れ落ちるようにずるりと落下してきたのは、確かにあの時、死んだと思われた水岐の身体だった。

「くっ…! 届か…!」
「バカ、触るな」
「ぐげっ!」

  精一杯手を伸ばして水岐の身体を掴みとろうとした瞬間、しかし突然龍麻の後頭部には鈍い痛みが走った。
  龍麻に受け留めてもらえず水岐の身体はそのままドサリと門の前へと投げ出された……が、幸い高い位置から落ちたわけではないので、然程の衝撃は受けずに済んだようだ。
  それでも龍麻はぴくりとも動かない水岐の身体をドキドキと見やった後、不意に自分を思い切り叩いてきた人物を振り返り見てぎょっとした。

「て、天童…ッ! 今殴ったのってお前かよ、何で――」
「バカ野郎。あんな毒物素手で掴んだら、今のお前なんざイチコロだぞ」

  いつの間にそこにいたのか。――否、彼が醍醐たちを捕縛したりと、ここへ来ていたことは龍麻も知っていたはずなのだ。ただものの見事に忘れていただけで…。
  恐らく、この闘いをずっと高みの見物と洒落れ込んでいたのだろう。自前の愛刀をぽんと肩にのせて揺らしながら、天童は殴られた拍子にその場にひざまづいていた龍麻を悠々と見下ろし、自らが先に水岐の傍へと行った。

「龍麻!」
「アミーゴ!!」
「龍麻パパ大丈夫!?」

  その少しのやり取りをぼーっと眺めていた四神こと醍醐たちは、やがて慌ててといった風に龍麻の元へと駆け寄る。

「龍麻、怪我はないか!?」
「あ、うん、大丈夫。それより水岐さんが……」

  龍麻は自分の肩を掴んで気遣う醍醐に礼を言いながら、よろりと立ち上がってすぐに天童の後を追った。
  目を瞑ったまま未だ微動だにしない水岐を見つめる。天童は彼を「毒」などと言ったけれど、見た感じどこにも外傷らしきものはない。それどころか、彼の美しい容姿はそのまま、いっそ輝いてすら見えた。とてもあの異形の体内に呑み込まれていたとは思えない。

「――ハッ、運のいい奴だ。浄化されてやがる」

  すると先に辿りつき、鞘の先でぞんざいに水岐の身体を検分していた天童が珍しく感心したような声を上げた。龍麻が「え」と口だけその形を作ると、天童は面白そうな眼光を閃かせながら、「聖水の力がうまく作用したようだ」と言った。

「聖水…?」

  龍麻が首をかしげながらその単語を繰り返すと、天童は「ああ」と頷いてから門の方を見やった。

「それとお前の≪力≫だろ。門に入っちまう前に吐き出されたことも幸運だったな」
「あ、あの門の向こうに……モンスターは、返ったの?」
「だろうな」
「……前にあの門へ行ってしまった人たちは……?」

  龍麻が恐る恐る訊ねると、天童はちらりとそんな龍麻を見下ろしてから、再びふいと視線を逸らして素っ気なく言った。

「つまんねェこと考えるな」

  龍麻は天童のその言葉を暫し頭の中だけで噛み砕いた後、くしゃりと相貌を崩して項垂れた。
  心配そうな仲間たちの視線が自分の背中に集まっているのが分かる。
  それでも顔が上げられない。

≪グウゥ……?≫

「え……!?」

  その時、低く重厚な、それでいてこちらを気遣うような獣の声が響いて龍麻ははっと顔を上げた。

≪グウ。グウウ……≫

「お、お前は……!?」

  いつの間にか龍麻のすぐ傍にいて身体を擦り着けんばかりに大きな身体を寄せていたのは、金の鬣も美しいキラーパンサーの成獣。
  しかし龍麻にはすぐに分かった。それがあの王の夢の中で出会った「ちび」だと言うことを。

「お、お前、何で…? ていうか、何でこんなおっきく……?」
「龍麻」
「!」

  そのキラーパンサーの頭を撫でかけた龍麻に、如月の声が掛かった。
  どきんとして龍麻がそちらへ目をやると、そこにはぐったりとしながらも自らの両足で身体を支えている徳川国の若き王と、その王を支えている如月翡翠の姿があった。

「ともかくはいったん外へ出よう。門の完全封印は後からでも大丈夫だ。――戦いは終わった」
「あ……」

  如月の言葉に龍麻は思わず頷いた。
  頷いて、そして――。
  そのまま、ぷっつりと意識を失ってしまった。


  龍麻は檀上門でのイベントをクリアした!!!



  《現在の龍麻…Lv21/HP1/MP0/GOLD118050》


【つづく。】
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