第117話 さよならしないで

「翡翠…俺……」

  龍麻は頭の中をぐるぐるさせながら、それでもそれを口にした。

「俺……翡翠に、一緒にいて欲しい」

  龍麻は如月を引きとめた!!!



×××××


  そのほぼ同時刻、徳川国入口付近では――。

「霧島君、早く早く! 見て! 秋月の王様の仰った通り、徳川国が!」
「本当だ…。あの時とはまるで別の国みたいだ。呪いの痕跡が一切ない…」

  徳川国に、龍麻の仲間・鳳銘国の舞園さやかと霧島諸刃が到着した!

「呪いを防御するアイテムこ〜んなに買い占めて身に着けまくったけど、もうなくても大丈夫よねっ! やっぱり龍麻さんは凄い正義の勇者なのよ! そうでしょ霧島君!」
「さやかちゃん、はしゃぐ気持ちは分かるけど、アイテムはまだ取ったらダメだから。君の消耗した身体はまだ万全じゃないんだ、すぐに油断するのは悪い癖だよ」
「ふん、何よ偉そーに! 霧島君、龍麻さんのこと、散々危険だ何だ言って、結局龍麻さんの力でこの国が救われたから、龍麻さんにどんな顔して会えばいいか分からなくて困ってるんでしょ! 霧島君のせいなんだからね、私たちがこんなに出遅れたのって!」
「なっ…! 何言ってるんだよ、僕はさやかちゃんの為を想って…! だ、大体、僕は別に龍麻さんに対して後ろ暗いことなんて何もないんだから! 僕が龍麻さんを守りたいと思っている気持ちに嘘偽りはないし!」
「でも、警戒していた時もあったじゃなーい」
「さやかちゃん! それ以上言うと、如何な君でも本気で怒るよ!?」
「ふふーん、ムキになっているところが余計図星って感じ〜!」
「〜〜〜!!!」
「おい、ガキ共」

  その時、2人の姉弟(?)喧嘩に偶然割って入ったような声が――。

「あれ!? 貴方は……えっと、確か」
「天童さん! ですよね!? あの時、龍麻さんと一緒にいらした怪しい方!!」
「あ、怪しいって、さやかちゃん、失礼だろっ。す、すみません、礼儀の知らない子で…」
「龍麻さんは? あ、そうか王宮ですか? 国を救った救世主として感謝のパーティ真っ最中とか!?」
「……お前ら、龍麻に会いに行くんだろう。俺は帰るから、これを奴に渡しておけ」
「え? 帰るって……ご自宅にですか? でも貴方は、龍麻さんの仲間じゃ…」
「龍麻さんのお仲間さんで自らパーティ離脱する方って珍しいですよね。皆、龍麻さんと一緒にいたいって方ばかりなのに。あ、分かった! それで逆に気を引こう作戦ってわけですね!? いったん離れてご自分の印象をより強くさせる、みたいな!! すごーい、やれそうでやれない高等技術〜」
「さ、さやかちゃんっ。ちょっと、冗談は相手を見て言うようにっていつも言っているだろう! この人、どう見てもそういうの嫌いな人なんだからっ!!」←一応さやかよりは空気を読めるらしい霧島
「え〜。確かに危険な香りのする方だけど、でも、龍麻さんのお仲間さんなら悪い人じゃないんじゃ」
「…………」←天童ピキピキときているものの、幸い鬼道衆らのテンションのお陰で耐性はある。まだ大丈夫な模様
「そ、それより、これは何ですか? 何か大事なアイテムなら、貴方が直接龍麻さんにお渡しすれば…」
「俺がこんな胸糞悪ィ国にいつまでも居られるか。それにそれは、そう大した代物でもねェ。龍麻が要らねェってようなら捨てても構わない。……ただの貰いもんだしな」
「貰い物………これが?」
「すごーい、キラキラしてる…。龍麻さんが要らないようならさやかが欲しいくらい」
「お前らガキにゃつけらんねェよ。――じゃあな」

  天童が徳川国から離脱した!
  天童は龍麻に何も言うことなく、その場から立ち去った!!

「ちょっ……そういえばさっきもさやか達のことガキって言ってー! 失礼しちゃう! 何よカッコつけちゃってー。ほら、霧島君も何とか言ってよ! って、もういないけど!!」
「……あの人」
「ちょっと、霧島君!?」
「この間会った時と明らかに何かが違う…。これも龍麻さんの≪力≫、なのかな……」



××××××


  そして場面は再び如月&龍麻の緊迫場面(?)に戻る。

「俺、翡翠に仲間になって欲しいんだ」

  龍麻の言葉に如月は一瞬眉をひそめた。
  龍麻は慌てて付け足した。

「翡翠はもう仲間だって思ってるけど! 俺が、俺たちが本当に翡翠の≪力≫を必要としている時はまた今回みたいに力を貸してくれるだろうとも思ってる。信じてる。けど…けど、そういうんじゃなくて、何ていうか、俺、自分の望んでいることが我が侭だって分かっているけど、この国に翡翠が必要なのも分かっているけど…でも――……でもまだ、≪さよなら≫しないで欲しいんだ」
「……さよなら?」
「うん…。うまく言えないけど…。翡翠は、この国に残るって宣言することで、俺と距離を取ろうとしているでしょう? なるべく、俺とは近くにいないようにしたいって……思っているでしょう?」
「………」
「俺、それが凄く嫌なんだ。翡翠はたぶん、俺のダメなところをいっぱい分かっていて、だから俺にきつい事もたくさん言う。翡翠は、そういう自分は傍にいない方がいいって思っているでしょう? でも俺は違うんだ。そういう翡翠だからこそ、俺には翡翠が必要なんだ」
「……僕が君から離れた方がいいと思ったのは、そういう事じゃない」
「え、何? 声が小さくてよく聞こえなかった」
「……いや。何でもない。とにかく、龍麻の気持ちは嬉しいが、僕には無理だ。君はもうすぐにでも次の場所へ旅立つべきだろう。だが僕は――」
「一緒に来てよ、翡翠」
「………」
「一緒に来て欲しいよ、翡翠」
「何故」
「何故って……だから、今言ったじゃないか、俺には翡翠が――」
「きゃー!!」(どっすーん)
「うわっ!?」
「すみませーん、ぶつかっちゃいましたー!!!」
「ひ、比良坂さん!?」(一緒に尻もちをつきながら目をちかちかさせる龍麻)
「ひーちゃーん!!」(がしいっ)
「きゃうーん、ダーリーン!!」(だきいっ)
「ダメー! 龍麻パパハ、マリィノ!! アト、葵ママノ!!」(上からドッスーンと覆いかぶさり!!)
「ちょっ……ぐふ……」

  龍麻は小蒔、舞子、マリィに突然羽交い絞めにされた!!
  龍麻は5のダメージを受けた!!

「先生、話は聞かせてもらったぜ? 感心しねェなぁ、こんなところで誰か特定の奴をナンパするなんざ」
「村雨! 龍麻様に失礼な口をきくでない!」
「む、村雨と芙蓉さんまで…?」

  押しかかられたままの格好で龍麻は顔を上げた。
  見ると村雨、芙蓉だけではない。醍醐やアラン、雨紋、紫暮。それに、ぎりぎりと歯軋りしているコスモレンジャー、さらにその背後には、どこか呆れたような顔の雛乃に、その双子の姉、雪乃もいる。

「み、みんな、どうしたの…?」
「どうしたじゃねーっての。お前が王様に呼ばれてからなかなか戻ってこないもんで、こいつらがギャーギャー騒ぎ出してよ」
「あら姉様。そういう姉様こそ、病み上がりの龍麻様をすぐに召し上げるなんてけしからんと国王様を非難なさっていたじゃありませんか」
「ひ、雛! お前は黙れよ!」
「でも、今回のことは翡翠様の方に非がおありのようですね。龍麻様のお心を煩わせているのは、どうやら翡翠様のようですから」
「え!? い、いや、そんな事ないよ? 俺はただ、翡翠に仲間になってもらいたくて……」
「ひーちゃん! だからって、そうやって誰彼構わずほいほいその可愛い過ぎるオーラ出すのやめてって言ってるでしょっ。これだからひーちゃんは1人に出来ないんだよ! もう、仲間だって既にこんなにいるんだからいいじゃん! 如月クン1人くらい逃したっていいじゃん! ボクたちだけじゃ不満なのー!?」
「そうだよダーリーン! 舞子、今度こそダーリンのパーティに入りたいのにぃ、如月クンが入っちゃったら、また舞子補欠になっちゃうよう!」
「マリィモ龍麻パパト一緒ニイタイ!」
「龍麻サン、俺サマもいますよ!!」
「OHアミーゴ、ボクもイマース♪」
「「「俺(私)たちコスモレンジャーもいるぜ(いるわよ)!!!」」」←またしても面倒なので一緒くた
「あ、あの……」

  わらわらと一斉に龍麻に歩み寄る大勢の仲間たち。
  因みに龍麻は依然として女性陣によってハグハグされたまま地べたにうつ伏せ状態である。
  如月はその様子を眉間に皺を寄せまくりで睨み据えている……。
  するとそんな如月の前にすうっと織部姉妹が歩み寄った。

「翡翠様。貴方様の仰る通り、龍麻様にはこんなにも頼りになるお仲間がいらっしゃるのですから、翡翠様は安心してこの国の守護を務められるのが宜しいと思いますわ」
「だな。それに俺ら織部姉妹っていう強力な巫女も仲間に入るしな」
「え? あ、あの…?」
「龍麻、そういうわけだ。俺らは、これまでお前が本当の勇者たりえるか、その≪力≫を見定めさせてもらう為に敢えてきつい事も言ってきた。だが、お前は俺らの期待以上のことをしてくれた。だから俺たちはこれから俺たちの≪力≫をお前の為に振るう事にした」
「雪乃さん…。で、でも俺、雛乃さんにもいっぱい嫌な想いさせちゃったし」
「あら何の事ですの?」
「え?」
「わたくしも姉様と同じです、龍麻様。確かに少し耳の痛いことも言わせて頂きましたけれど、それも全ては勇者様である龍麻様、貴方の御為……敢えて鬼になっただけです。それは翡翠様もそうなのでしょうけれど――」
「あ……」

  龍麻がちらりと如月を見やる。
  如月は依然として龍麻に抱き着く女性陣にだけ目が言っているようだが。
  そんな2人を見ながら雛乃がにっこりと笑った。

「龍麻様。これからはわたくしが翡翠様の代わりをさせて頂きますわ。翡翠様がいらっしゃらずとも、我ら姉妹を使って下さいませ」
「そうだぜ龍麻、俺らがいればこんな亀いらねーって」
「――黙れ」

  けれど、ようやく。
  如月が2人の巫女の声を掻き消すようにして口を開いた。
  龍麻がハッとしてそんな如月を見上げる。
  お互いの目があった。

「龍麻。……よく分かったよ。君が警戒すべきは、何も魔王だけじゃないって事がね」
「え?」
「龍麻。――僕が、必要なんだね?」
「う…うんっ!!」
「ならば共にいるよ。君が僕を必要だと言ってくれる限りはね」
「あ、ありがとう翡翠! ありがとな【喜】!!!」
「「「「「「「「「「「「「「「え〜〜〜〜〜…………」」」」」」」」」」」」」」←仲間たちのブーイング

  龍麻の喜びに反し、思いっきり不服そうな仲間たち。
  しかしそんな彼らのお陰で如月の腹も決まったらしい。龍麻の貞操を守る為に(え)。

  如月翡翠が改めて仲間に、しかも【固定パーティ】になった!!!
  そして新たに、織部雪乃、雛乃姉妹が仲間になった!!!!!
  龍麻は仲間たちを魅了する、さらなる≪力≫を手に入れた!!!



※【固定パーティ】とは、≪最後の戦い≫時に必ずパーティとなる、龍麻が「最重要の仲間」として位置付けた人物である。固定パーティに選ばれたメンバーはよほどのことがない限り龍麻から離れることはない。現時点で固定パーティになっているのは【如月翡翠】1人のみである。この権利を持てる人数は、残り3人である…。

  《現在の龍麻…Lv21/HP125/MP100/GOLD118050》


【つづく。】
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