第119話 旅立ちの前2

  龍麻は辺りをきょろきょろと見回し、めちゃくちゃ焦っていた!!
  心労により、龍麻のHPは5減った!!

「や、やばいよ村雨、まずいって(焦)!!」
「何言ってんだ、先生? DQ世界じゃこんなの常識だぜ? ほらよ、ここにも1個あったぜ」
「だからまずいってー(汗)!」

  村雨がお城の中にあった宝箱を勝手に開けた!!
  龍麻は≪銀の髪飾り≫を手に入れた!(ピロリロリ〜ン♪)

「しけた宝物庫だぜ。たぶん、前の官吏が盛大にちょろまかしちまったんだろうな」

  とか言いながら、村雨はさらにそこにあった新たな宝箱を勝手に開けた!!
  龍麻は500ゴールドを手に入れた!!(ピロリロリ〜ン♪)←しかし500Gとは確かにしょぼい…

「こ、これって泥棒じゃないか! 戻そう! 駄目だって、勝手にこんなこと!」
「1回手に入れたもんは返せねえなあ? それに先生、まだアイテム袋には余裕あんだろ?」
「う、うん…。この袋には何故か無限に物が入るんだ。前に美里がこの服に合わせるのにちょうどいいって一緒にくれたんだけど…」(四次元ポケットか?)
「なるほど。あの黒菩薩さんも、たまにゃあ役立つもんだ」
「口が悪いよ村雨…。芙蓉さん、芙蓉さんも村雨に何とか言ってあげて!」
「畏まりました龍麻様。村雨、龍麻様を困らせるような事を言うでない」
「けど、宝箱を開けることに関しちゃ、お前も反論はないようだな?」(ニヤリとする村雨)
「無論。龍麻様はこの城、もといこの国を救った勇者様。このくらいは当然の報酬」
「そ、そんな…」
「それに龍麻様、DQルールでは、見つけた宝箱やツボ、タンスの中に入っているアイテムは、見つけた者の所有物となるのは当然なのでございます」
「え、ツボやタンスの中? タンスの中って人んちのタンスなんかも開けるの!? 勝手に!?」
「左様でございます。何でしたら、今から城下へ向かい、1件1件民家を訪ねても宜しいかと」
「まぁ夜だから、鍵かけて入れなくしている所もあるだろうけどな」
「そ、そんなの! 絶対無理! 絶対できないよ、そんな、知らない人んち勝手に入ってタンス開けるなんて! ありえない!!」

  龍麻は当たり前のDQルールに未だ慣れてはいなかった。
  龍麻の心労がさらに増えた! 龍麻のHPは5減った!!(ヲイ)

「けど先生? そりゃあ欲しくなきゃ、特に漁らないってのもありだがよ。村人や町人の話なんかをマメに聞いていくのは旅するもんの常識だぜ? どうも先生はそういうところを分からないまま今まで来ちまったんだな」
「うんまあ…。序盤の旅は京一や美里や小蒔ちゃん、それに醍醐に頼りっぱなしだったし」
「あいつらが甘やかして何でも先んじてやっちまったってことか」
「で、でも、今だって村雨が先頭で、勝手にお城のアイテムゲットしまくってるじゃないか!」
「それもこれも愛しい先生の為ってやつだな」
「も、もう、何言ってんだよっ。それなら、もうこれ以上は宝箱開けるのはなし!……ん? あ、ここは…」

  龍麻たちが城の上階の一角、新たな部屋に入りこむと、そこには豪奢なベッドで上半身を起こした格好の青年がいた…。

「水岐さん!?」
「………だれ?」
「え……あ、そうか。記憶がないって翡翠言ってたっけ…」
「ああ、こいつが壇上門の騒乱を大きくした張本人ってやつかい?」
「始末しますか、龍麻様?」
「ふ、芙蓉さん、物騒なこと言わない(焦)! それに…もう水岐さんは、人を魚人に変えようなんて思っていないし」
「………? あなたは、旅の人?」
「あ…うん。そう、です」
「いいなぁ…。僕もいつか、ここではない、どこか遠くへ行きたいんだ。あのね、旅人さん。僕はいろいろなことを忘れてしまったんだって。でも、『それでいい』って、この国の王様は言うんだ」
「……王様が」
「うん。それで、好きなだけここにいて、好きな詩を書いていなさいって。確かに僕、歌を歌うのも、詩を書くのもとても好きみたい。でも……きっと、いろいろなことを忘れちゃったせいで、僕は凄く大切なものをなくしてしまったんだね」
「大切なもの?」
「うん…。でもそれも、きっと僕がいけないことをしたからだろうね」
「そ、そんなこと…」
「……不思議だな、旅人さん。旅人さんを見ていると、何だか胸がとても苦しい…。でも、凄く嬉しい気持ちにもなる。ねえ旅人さん、いろんなことを、僕自身のことすら忘れてしまった僕だけど、目覚めた時にたった1つだけ持っていた物があるんだ。それを受け取ってくれる?」
「え…? で、でも、君の宝物なら――」
「ううん、これは旅人さんのもの。きっと、旅人さんが持っていた方が良いもの。だから」
「……綺麗だね」
「それが旅人さんのこの先を守ってくれますように」

  記憶をなくした水岐はにっこり笑ってそう言った。
  龍麻は≪黒い石≫を手に入れた!!

「これ…何だろう」

  水岐の部屋を出てから龍麻は石を見つめながら呟いた。
  黒い石はちょうど龍麻の手のひらの中にすっぽりおさまるくらいの大きさで、どこまでも深い、不思議な闇の色を放っている……。

「……さあな。特別悪い氣は感じねェが……奴さんが倒れた時に持っていた物ってなら、あまり良い方に期待するのはやめた方がいいかもしれねェな」
「どう…いう、意味?」
「奴はいったん異形に取り込まれた身だ。それが魔界の物とも限らないってことさ」
「魔界の…」(ごくりと唾を飲み込む龍麻)
「或いは、元から持っていた物だとしても……あの赤い男とやらがあいつに渡した物って可能性もある」
「赤い……柳生」
「ああ、確かそういう名前だったな」
「龍麻様、わたくしが預かっておきましょうか?」

  心配そうに芙蓉が言った。

「……ううん」

  けれど龍麻は改めてその石を見つめた後、ぎゅっと手の中で握り直し、かぶりを振った。

「いいよ、これは俺が持ってる。俺もそんなに…悪い感じは受けないし」
「何なら秋月に寄った時、御門に見てもらってもいいかもな」
「御門?」
「あいつは魔術のエキスパートだ。ここの如月も相当なもんだが、奴の場合はマニアの部類に入る専門家だから、そういう不可解なモンにも精通しているかもしれねェ」
「そうなの? じゃあ訊いてみようかな…。でもさ、御門ってちょっと怖いんだよなぁ」
「フッ…。先生にそんな言われ方をするとは、奴も案外可哀想なこった」
「龍麻様、晴明様は素晴らしいお方ですから」
「あ、うん、ごめん! じゃあ秋月に寄ったら御門の所へも行くよ。その時は芙蓉さんも一緒に来てくれる?」
「喜んで」
「おや、先生。俺には言ってくれないのかい?」
「あ、いや…。じゃあ村雨も…」
「じゃあってなぁ、何だよ(笑)。けど…まぁ、そうだな。ここで一緒に動くくらいなら大した事ねぇが、先生はこれからパーティ編成の度に苦労しそうだなぁ。みんな先生と一緒に行きたがってるからよ」
「……何で4人しか選んじゃいけないのかな。みんなで一緒に移動できたらいいのに」
「ハッ……ったく、先生はお人よしだぜ。逆にそんなんで、よく如月を固定パーティに選んだもんだ」
「え? 固定パーティって……?」
「あん? ……無自覚で選択しちまったってか?」
「ん??」
「……まぁいいさ。それより先生、城の中は大体見て回ったようだな。あと行きたい所はあるかい?」
「あるよ。あのさ…壇上門。翡翠はもう心配ないからって言っていたけど、やっぱりあの後どうなったのかもう一度見ておきたいんだ。本当にあの玉はもう危険な力は発していない?」
「ああ、それは間違いねぇ、俺も見てきたからな。しかし、あそこまで行くとなると、戻ってくるのに少し時間がかかっちまうぜ。大丈夫かい?」
「え、体力の問題なら心配ないよ。何せ5日も寝続けたわけだからね」
「いや、そういう事じゃなく……あぁ、やっぱり駄目そうだな」
「ん?」


「あー!! いた!! ひーちゃん、いたー【喜】!!」(by小蒔)
「きゃうーん、だーりーん【愛】!!」(by舞子)
「龍麻パパ〜【抱】!!」(byマリィ)
「龍麻さん、探しましたよ〜! もうパーティの主役がこんなに長い間席を離れちゃ駄目ですよ〜。これからさやかが徳川オーケストラさんとコラボして歌いますから、早く行きましょう♪」(byさやか)
「龍麻さん、私も一生懸命歌って踊りますっ!!」(by紗夜)
「もう、龍麻クン、私たちのヒーローショーも中座したでしょ! 困るわ、もう1回やらなくちゃいけなくなるでしょ!!」(by桃香)
「み、みんな…」

  女性キャラが一斉に「わしゃ!!」っと現れたことで、龍麻は思い切りどん引いた。……しかしすでにマリィに足から抱き着かれているので、身動きが取れない。
  その様子を呆れたように眺めていた村雨は、興奮する仲間を見渡してからふと口を開いた。

「男共はどうしたい? あんたらと一緒に先生を探していると思ったが」
「見張りです」

  そう言ったのは、にこりと穏やかに笑う雛乃。

「あん?」

  それに訳が分からずぽかんとする村雨。
  すると雛乃の姉である雪乃が肩をすくめて後を続けた。

「野郎どもは如月がふざけた抜け駆けしねえようにってずっとあいつをマークしてるよ。どうせあいつがそのうち龍麻と接触するだろうからってな。けどありゃあ……男の嫉妬ってのはどうしてああも醜いかねえ?」
「……男の俺から言わせりゃ、その隙をついて先生に近づくあんたらも相当だと思うが」
「ま、とにかく。翡翠をこれ以上疲弊させたくなきゃ、龍麻も会場に戻った方がいいぜえ?」
「え? 翡翠がどうし……むぎゅ!」←今度は舞子に抱き着かれて潰された
「やれやれ……」(by村雨)
「た、龍麻様…っ」(by芙蓉)←止めるに止められずにオロオロ


  こうして龍麻はお城の中をぐるりと見ただけで、再び皆のいるパーティ会場でもみくちゃにされることが決定した。
  ……因みに、その間に如月のHPは半分以下にまで減らされていたとかいないとか……
  固定パーティも良いことばかりではないらしい。

  以下次号…!!



  《現在の龍麻…Lv21/HP120/MP100/GOLD118550》


【つづく。】
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