第121話 魔法使いの贈り物

  村雨はルーラを唱えた!!
  龍麻たちはあっという間に秋月国に舞い戻った!!!

「……………」
「どうしたい先生、ぽけっとした面してよ? まぁそんな顔もカワイイがな」
「村雨、龍麻様に不埒な顔を向けるでない【怒】!」
「俺は元からこの顔だぜ?」
「いいや、龍麻様を良からぬ邪な想いで見つめておったであろう! この芙蓉の眼は誤魔化せぬぞ!」
「ヨコシマな目ってナアニ、如月ノお兄チャン?」
「ああいう輩の目のことだ。朱雀、いくら龍麻を慕っていても、あれを真似てはいけない」
「ハアイ♪」
「おい如月、俺を指して幼気なお嬢に間違ったことを教えるんじゃねェよ」
「僕は事実しか述べていないが【冷】」
「あっ、え、えーっと、ごめんっ。俺がぼーっとしていたのがいけない!」

  険悪なムードになりそうだったパーティメンバーを宥めるべく、龍麻は慌てて両手を振った。

「いや、ちょっとびっくりしちゃって。だってあっという間に秋月に着いちゃうんだもんな。そういえば、そういう便利な魔法があったんだよな」
「先生自身はまだルーラは使えないのかい?」
「うん…。よく分かんないんだけど、俺って覚える魔法の順番めちゃくちゃみたいだから」
「そうみたいだな。だが、仲間でこの魔法を使える奴がいれば、先生が以前に行ったことのある国や村にはこうやって簡単に戻ることが出来るんだぜ」
「そうかぁ…。あ! じゃあ俺の村にもすぐ帰れる!?」
「あー……それが、何故かそこへは行けねェみたいだな。少なくとも、俺の魔法力じゃ無理だ」
「え、何で…?」
「龍麻の故郷は確か≪外れ村≫だね」

  村雨と龍麻の会話に如月が入ってきてそう訊いた。龍麻が頷くと、如月は龍麻に≪最新の世界地図≫を渡した。

「以前、偶然そこに立ち寄ったというアランにも聞いて、僕もすでに大体の場所は特定してあるんだが、この地図を見ても分かるように、君の故郷は恐らくどの地図にもその場所が記されていない≪隠れ里≫だ。そういう所は、大体強い結界か魔法が掛かっていて、ルーラのような魔力は弾かれるんだ。だからアイテム【キメラの翼】でも村へ戻るのは難しいだろう」
「そうなんだ…隠れ里…? だったの? 俺の村って。確かに凄く小さな村だったし、外から来る人も限られていたように思うけど…」
「恐らくその≪外れ村≫自体、お父上が貴方という存在を隠す為に作ったものなのでしょう」
「あ!」

  不意に現れたその人物に龍麻は声をあげた。
  そこには秋月の専属魔法使いである御門晴明が立っていた。

「随分遅いお帰りでしたね」
「う…会った瞬間、厭味(汗)」

  龍麻がぼそりと呟くと、傍にいた村雨はぷっと吹き出し、芙蓉は困ったようなオロオロした顔を見せた。
  しかし当の御門は細い眉をすうっと上げただけだ。
  そしてゆっくりと口を開く。

「龍麻さん」
「はいっ」
「……そのように無駄に怯えなくても宜しい。折角こちらへ戻られたのです、私の館で休息を…」
「え?」
「――と、言いたいところですが、今の貴方に休息している暇などありませんね」
「あ、はい…」
「そもそも貴方は、この国で1つのイベントを放置したままでいるのでは?」
「え? ……えーっと。何だっけ?」
「………」
「わ、わ! そんな睨まなくても! 今考えるから待って【焦】!」

  どうも御門の仏頂面は如月のそれよりも怖いし、慣れない…。
  龍麻はそんなことを考えながら、あせあせとしつつ急いでこの国での出来事を思い返した。
  そもそもは、この国が始まりと言っても良い。
  父・鳴瀧から「勇者になる為に旅立て」といきなり無茶振りされ、親友の焚実から、「それなら、今勇者の募集をしているアキツキーに行ったらどうか?」と提案してもらった。道中、京一や小蒔、美里、醍醐と知り合って、この「秋月」に到着したら、あれよあれよという間にもっと沢山の仲間たちと知り合った。そこでこの国に呪いを掛けていたローゼンクロイツ城のジルと戦ったり、四神を集める為に徳川へ向かったり。

「……ん? そもそも、どうして四神の話になったかというと……あっ! そういえば!」
「やっと思い出しましたか」
「そうだ! そもそも、勇者として認められる為に、≪東の洞窟≫へ行くよう言われて、そこで四神を集めろってメッセージを見たんだった! それで鍵を集めなくちゃならなくて…」
「そういやそんなこと言っていたっけなぁ。もう何年も前の話って気がするが」←実際2年前に書いた話…
「マリィもアノドウクツでお留守番シタネ!!」
「うん、そうだった…! そういえば、結局≪勇者の証≫って貰ってないけど…。あれって貰いに行かないといけないの?」
「…龍麻さん。貴方は、我が秋月王が人々にあそこまで公に触れを出した勇者認定のイベントを蔑ろにするおつもりですか【怒】?」
「いっ!? い、いや、別にそんなつもりは…!!」

  御門のピキピキきたような態度に龍麻はもろにびびりまくって後退した。やはり御門という人物は怒ると如月より怖い。
  龍麻がそう思ってすっかり参っていると、小さく嘆息した如月が代わりに口を開いた。

「僕も大概だが、君も素直じゃないな。遠回しな言い方はやめて、はっきり言ったらどうだい。あのイベントはすでにクリア済みで、自分もここにいる勇者――龍麻の仲間になるとね」
「……へ?」

  きょとんとして事態を呑み込めない龍麻を前に、今度は御門が嘆息する番だった。
  実に嫌そうな顔をして如月を睨む。

「……偏屈で名の知れた飛水の忍が、随分と飼いならされた様ですね。ですが、私はそうはいきませんよ。未だに信じられないのですからね、このように頼りない方があの勇者の末裔とは」
「龍麻をそれ以上侮辱すると僕も君に容赦できないが?」
「こらこら待て、2人とも。勝手に話を進めてんじゃねーよ、先生が完全に固まっちまってんじゃねェか」
「晴明様…【困】」
「翡翠のオ兄チャンたち、何を怒ってるノ? 喧嘩は駄目ヨ! 龍麻パパが困っちゃうカラ!!」
「「………」」

  村雨、芙蓉、マリィそれぞれの言葉によって2人は同時に口を閉ざした。
  それからややあって村雨が龍麻の肩をぽんと叩く。

「あのな、先生。あそこの洞窟…まぁ祠と言ってもいいが。あそこに何てメッセージがあったか、覚えているかい?」
「え? あ、えっと確か……『守護者に、勇者の証を見せよ』って…」
「そうだな」
「勇者の証を取らなきゃいけないのに、勇者の証を見せよって変だなぁって思ってたんだけど」
「つまり、それが“答え”なのさ。あれは、ここにいる御門が真の勇者を見極める為に作った即席の祠で、あの鳥居の向こうにも別段≪勇者の証≫たる特別なアイテムが隠されているわけじゃねェ。四神たる守護者たちに勇者だと認められ、仲間にすることが出来た時点で―…、先生はれっきとした勇者様ってことが証明された。だから、あそこでのイベントはそれでクリアってわけさ」
「え? ……えーっと?」

  頭にハテナマークを浮かべる龍麻に御門が補足した。

「確かにあれは、王が世界へ勇者急募の触れを出す3日前に突貫工事で作ったハリボテです。ですからあそこのモンスターはレベルが低いし、宝箱の中身も適当。この飛水から守護者の鍵を借り受けて、その波動に反応し得る者――つまり、勇者にしか潜れぬ鳥居を作るという、あの作業だけは苦労しましたが…勇者の末裔と言えども、人には資質というものがありますからね。…数多の試練を乗り越え、四神に認められて彼らを仲間に出来た時こそが真の勇者を名乗れる時。……ですから彼らの鍵を集めるようにと、支柱にあの文字を刻んだのです」
「そう、なんだ……」
「そしてそのイベントを無事に終えられた時、こいつも先生の仲間になると決めていたのさ」
「え!?」

  龍麻がぱちぱちと瞬きしながら御門を見やると、目の前の魔法使いは実にバツの悪い顔をしてそっぽを向いた。

「不本意ですがそれは仕方がありません、私自身が決めていたことですから…。しかし、四神が集った後も、何故か貴方は待てど暮らせど一向にこちらへ戻ってあの祠を開こうとしない。いい加減頭にきましてね」
「え、そ、そんな(汗)。だっていろいろと大変で…」
「気にするなよ、先生。こいつはあんまり自分の出番が来ないもんで、むくれていただけだ。へっ…しかしどうだい、こいつにも可愛いところがあるだろう?」
「村雨、それは私に喧嘩を売っていると解釈しても良いのだろうな」
「誉めてんじゃねーかよ(苦笑)」
「いいや、明らかに私をバカにしている。そもそもお前は、また王の許可も得ずに勝手に徳川まで――」
「あ、あの! 御門…さん!」

  2人の言い争いを止めるように龍麻が口を挟んだ。
  御門はぴたりと動きを止めてそんな龍麻を見る。

「……何ですか。それと、さん付などやめて下さい。怖気がします」
「え、えっ。あ、えっと! じゃあ…御門…! その、仲間になってくれるっていうのは…本当に?」
「私では不服ですか」
「いやっ、そんなことは勿論ないよ! でも、じゃあさ……貴方も、俺を勇者と認めてくれるってこと?」
「は? ……今の話を聞いていなかったのですか、先ほどそう申し上げたつもりだったのですが」
「いや、でも……」
「龍麻は未だに自分に自信がないようだ」

  これには呆れたような如月が付け足した。
  龍麻がそれに恥ずかしそうに赤面すると、その様子をまじまじと見ていた御門はすうっと傍に近づき、そして、その前面で突然片膝をついた。
  龍麻はびっくりして目を見開いた。

「!? あ、あの、御門…?」
「当初、この話は、私が忠誠を誓う王の命でもありました…が、私はそれを素直に従う気にはなれなかった。私は忙しい。以前にも申し上げましたでしょう?」
「う、うん。それに、秋月だって大変だし」
「その通りです。ですが」

  御門は言った後、おもむろに龍麻の手を取って続けた。

「貴方の旅路は遠い秋月からもその大よそは拝見しておりました。確かに貴方は力不足だ。だが、この世界を救う可能性を秘めた者も貴方だけとお見受けした。――ですから私は貴方にお貸ししましょう、私のこの力を」
「あ、ありがとう…!!」

  御門晴明が仲間になった!!

「そして」

  御門は龍麻の手を放し立ち上がると、不意にどこか遠くを眺めるようにして呟いた。

「仲間になった記念に、一つ貴方には贈り物を差し上げます。私が作ったあの祠には何もないわけではありません。実は元々≪あるもの≫があった場所にあの鳥居を設けたので…今こそその封印を解く時でしょう」
「あるものって…?」

  龍麻の問いに御門は優雅な微笑を見せた。

「旅人の泉です」



  《現在の龍麻…Lv21/HP130/MP100/GOLD118550》


【つづく。】
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