第129話 84話ぶり |
京一はあっという間に悪者たちを一掃した!! 「ちくしょう、親分さえいればお前なんざ…! 覚えていやがれ〜!!」 フラフラな悪者の一人が、負け惜しみのような捨て台詞を吐いて去って行く。 「へっ、親玉呼ぶなら呼んでみろってんだ。俺ら相手じゃ、どんな野郎だろうが相手になるかって、なぁひーちゃ――」 「京一ッ!!」 「うおっ!?」 龍麻が京一に突進して抱きついた!! 物凄い体当たりである!! 京一のライフポイントが3上がった!!(ヲイ) 「ちょっ…ひーちゃん、ちょい待て。ちょっと落ち着けっ」 「京一、何でいるんだ!? うぅ〜…本当にお前は京一なのか?」 「はぁ…? はは…当たり前じゃねーか、こんな色男がそう何人もいてたまるかっての」 「じゃあじゃあ! 何でいるんだよ! ここはアランのあの街と凄い離れてるし! 秋月からだって! それで、俺、俺たちも、いろいろあって、それで…!」 「分かった、分かった。ひーちゃん、話あるなら全部聞くから。とりあえず、こっち向け。な?」 「……うん」 京一に優しく抱きとめられ、ぽんぽん慰められるように頭を叩かれたことで、龍麻はようやく静かになった。 そろりと顔を上げ、もう一度相手の顔を確認する。 間違いなく京一である。龍麻は胸にこみあげるものを感じてまた泣きそうになった。 「京一…さっきからいたんなら、何ですぐに声を掛けてくれなかったんだよ…」 「あん? そっからかよ。いや悪ィ。けど俺だって、こう見えてスゲーびっくりしてるんだぜ? 何せ秋月とはまるっきり真逆の場所にひーちゃんがいるんだもんよ。俺こそ、これは夢なんじゃねーのかって何度も思った。さっきまで爆睡してたしな」 「木の上で寝てたの?」 「ああ、そうだよ。腹減って寝るしかねーって感じで。けど、あんまり下が騒がしいもんで目が覚めたら…この通りってわけだ」 京一が大袈裟に両手を広げて説明した。 と、突然2人のお腹が「ぐ〜…」と悲しい音を立てた。 龍麻は慌てて自分の腹を押さえながらも、不思議そうに京一に訊ねた。 「京一もお腹空いてるの?」 「まぁなあ。何せ、この街に来たはいいが、来た早々カネが一銭もねえ。俺としたことがどっかでバクられちまったみてーでよ。まぁ着の身着のまま来たようなもんだから、有り金っても、そんな持ってなかったんだが」 「お、俺も! 俺も、お金全部盗られちゃったんだ! それで、今お金が1ゴールドもなくて…」 「げっ、マジかよ。何だよ〜、折角ひーちゃんにラーメン驕ってもらおうと思ってたのによ〜」 「それはこっちの台詞だよ! 俺も、京一にラーメン驕ってもらおうと思ってたのに!」 「……はは」 「……へへ」 悲惨な状況のはずなのに、何故か2人からは笑みが消えない。 そうして龍麻たちは、結局そのまま、今晩だけはこの木の下で野宿をしようと決めたのだった。 ××××× 「へえ…。何か、ひーちゃんの方もいろいろあったんだなぁ」 夜が明けたらモンスター討伐をしてお金を稼ごうと決めた2人だが、何せ久々の再会である。 お互い何だか眠れなくて、2人は夜通し、これまでのことを語り合うことにした。 今は龍麻が京一と別れてからの戦いの数々について話し終えたところだ。 「いろいろあったなんてもんじゃないよ。本当に大変だったんだから」 「まぁそうだろうが…。けど何か…」 「ん?」 何やら言いにくそうにする京一に、龍麻は首をかしげた。 すると京一はますます言いにくそうになりながらも、不意に不貞腐れたような顔で視線を逸らした。 「何だかんだで、ひーちゃんはモテまくりだからな」 「え?」 「俺がいなくても、いろんな奴らに助けてもらえてたんだろ? その如月とか…九角なんて奴までよ」 「ええ? そりゃ…皆に助けてもらわなかったら、俺なんか今頃生きてなかったと思うよ」 「だから、それがむかつくっての」 「何で!? 京一、俺が死んじゃっても良かったのか?」 「バカ、そういう事じゃねーよ。だからぁ……ひーちゃんを助けるのは俺の仕事だろ? それを、俺がいない間に他の奴らに譲ってたってのが我慢できねーって言ってんの! ……そりゃあそんなこと、重々予測した上で別れてたんだけどな」 「仕事とか…。そういうのは嫌だ。俺だって京一のこと助けたいし。皆のことも助けたい。俺、翡翠やアランが俺の為に死のうとした時、本当に辛かったんだ。だから…強くなりたいって思った」 「……分かってるよ。あぁ〜、けど、そういう話聞くと、理屈じゃなくモヤモヤすんの! だから俺も負けてらんねーって思うんだよ! そこんところは理解しとけよ!」 「ええ…? よく分かんないよ…」 「はぁ〜。これだからひーちゃんは…」 仕方がないなという風に首を振る京一に、龍麻はやや混乱しながらもバカにされたように感じて唇を尖らせた。 「何だよ、京一ばっかり分かってるって顔してさ。じゃあ、今度は京一の番だよ。道心先生について剣の修行してたんだろ? これまでどうしてたんだ?」 「あのジジイは何もしてねーよ。殆ど放置だな」 「え、そうなの?」 「そ。その代わり、奴の弟子の劉って奴と一緒に……ん?」 しかし京一は言いかけて、不意にぴたりと動きを止めた。 「? どうしたの?」 「シッ…。何かいるな…」 龍麻を黙らせて京一が前方に目を見据え、剣に手を取った。 それで忽ち龍麻も緊張する。 「何かって…?」 ここは町外れとは言え、頑強な壁に囲まれた一国家の領域である。外のモンスターたちが容易に入ってこられるわけもなく、だからこそ龍麻たちもここでの野宿を決めたのだが。 もしや、最初に出会った時のようなヤクザがまた徒党を組んでやってきたのだろうか。 しかし見通しの良いこの場所で、とりあえず怪しい影は何もない。 それで京一もややあって剣から手を放した。 「……気のせいか? 確かに何かの気配があったんだが」 「俺には何も分からなかったけど」 「ああ…モンスターでも、人でもねえ。何か……けど、あの気配を俺は知っていたような」 「え?」 「いいもんじゃねえな。そんな強い氣でもねーが。思い出せねえ。何だったか…」 「あ。そういえば、俺もこの街に来た時、あのヤクザさん達が何か凄く懐かしい言葉を口にしたんだよね」 「懐かしい言葉?」 「うん。でも何だったか思い出せなくて、ほんのちょっとだけ気になってたんだけど、忘れてた」 「何なんだ?」 「うーん、何だったかなぁ。そうだ、組の名前だ! 組の名前を言われた時に、何か――」 《…………ビル》 そよそよと風が吹いた。生温い、じめっとした感じの風だ。 先刻までは心地の良い季候だったはずなのに。 《ク……クチビル……》 そして粘っこい、そのしゃがれた声は。 「……あれ? 京一、何この声――」 「!!! あー!!! 思い出したぁッ!!!」 《ククク……クチビルーッ!!!!》 「ぎゃああああっ!!」 「ひーちゃんっっ!!!」 しかし京一が「その存在」を記憶から呼び戻した時には、もうそいつは現れていた!!! 《グハアア!! クチビルクチビルー!!》 「うわあああ! 俺も思い出したよー!!!」 龍麻が悲鳴を上げた!! そしてショックにより、10のダメージを受けた!! そう、このモンスターは。 もうずっと出ていなかったけれど、実は24時間、虎視眈々と、いつでも龍麻の唇を狙っていたリビング・デッド。呪われた存在。 《ヨコセッハー!!! クク……クチビルーッ!!!》 リビングデッド・佐久間が現れた!!! 《現在の龍麻…Lv22/HP160/MP120/GOLD0》 |
【つづく。】 |
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