「う…」
「やべえ…まっとうな人間が住む所じゃねぇ…」
龍麻は青ざめ、京一は引き気味。
「う〜ふ〜ふ〜。2人ともどうしたの〜。早く入っておいでよ〜」
先ほどパーティーに加わったばかりのミサちゃんこと裏密ミサがゆっくりと手招きする。
2人はそれだけでブルッと妙な寒気がした!
しかしそれも道理、裏密の「(自称)スイートホーム」は、その外観からして何やら異様。
そもそもマガミ街の裏路地を出た少し先。真っ直ぐ伸びる細い道をどんどん進んで、3人はいつの間にやら鬱蒼と繁る木々の闇に出迎えられた。
裏密の家はまさにその森の中にぽつねんと建っていた。
そしてその家は、屋根から壁から真っ黒黒の黒。
同じく黒色の窓には如何にも廃墟的なヒビが入り、そのヒビからは血だまりのような赤が…。
おまけに軒にはコウモリの群れがびっしりとまっているし、扉や玄関先の柱には意味不明な不気味ワラ人形が釘で打ち付けられていた!
要は、小さな子どもが見たらトラウマにでもなりそうな見た目なのだ。
「どうせ中もロクなもんじゃねぇ…。こいつん家に泊まるくらいなら野宿の方がマシじゃねーか…」
「でも折角招待してくれたのに断るのは悪いよ…。せめて今晩はお世話になろう?」
「はぁ…。ひーちゃんは人が良過ぎだからなー。分かったよ。けど、絶対1人になるなよ? こいつは仲間っつっても美里と同じくらい得体が知れねーんだから。ひーちゃんを良からぬ呪いに掛ける気かもしれねぇし」
「そんな、まさか」
「そ〜よ〜。ひど〜い京一く〜ん」
「うおっ!? 知らねぇ間に背後に回んな!」
「だって2人が〜いつまでもモタモタしてる〜から〜」
「ごめん裏密さ…じゃなかった、ミサちゃん! その、あんまり変わった家だからびっくりしちゃって」
龍麻がすかさず申し訳なさそうに謝ると、裏密はいつものニタリ顔とは異なる微笑みをちらりと見せた。
そうして手持ちの人形をさらにキュッと胸に抱き呟く。
「優しい勇者に星は集う〜。ひーちゃん、お腹が空いたでしょう〜? ミサちゃんが特製ディナーを出してあげる〜」
「えっ、本当?」
「ひーちゃんの飯に眠り薬混ぜて、何かしようとか企んでねーだろな!」
「薬を盛〜るな〜ら、京一君に盛る〜」
「いっ!?」
「ヒヒヒのヒ〜。それ〜に、今のひーちゃんには手出し不可能〜。ひーちゃんに〜は〜聖女の呪いがかかってる〜」
「何!?」
「呪い? あ…そう言えば…」
「ひーちゃん、テメーで自覚あんのか!? ったく、何でひーちゃんはこう毎度…」
「とにかく早くお入りなさい〜。話はディナーを食べながら〜」
「うん、そうだね! 京一、お邪魔しようよ、俺ホントに腹ぺこだよ」
「はあぁ〜。何か先が思いやられるぜ…」
京一の心配をよそに、龍麻たちは裏密の家に入りこんだ!
「う…」
「こんなこったろうとは思ったけどな…」
食卓に並んだ料理を見て龍麻は青ざめ、京一は引き気味。
それも道理、大皿にのった料理は見るからに「ゲテモノ」。それに毒々しい色!見ているだけで食欲を失いそうな物ばかりである。
「でも匂いはいいんだよな…そっか! 目ぇつむって食べる!?」
「待てひーちゃん早まるなッ! おい裏密! テメエ、ひーちゃんの胃袋が限界なのをいい事に調子づきやがって、これらの原材料ちゃんと教えろ!」
「もぉ〜京一く〜んは細かいね〜」
「お前がフツーじゃねえからだろ!? 大体再登場したばっかで、いきなりきついツッコミさせんじゃねぇ!」
「そうねぇ、2枚目キャラを維持していないと、京一君もピンチだし〜」
「はぁ?」
「それってどういう意味?」
京一と龍麻はそれぞれ怪訝な顔で裏密を見た。
裏密はテーブルの1番端の席でカードをぺらりぺらりとめくりながら、ある1枚のカードを出したところでぴたりと止まり――、そのカードの絵柄を2人に示した。
「何だそりゃ?」
「黒い…竜?」
龍麻がその絵のものを口に出すと、裏密は再度にたりと笑い、再びカードをテーブルに戻した。
「黒き竜は闇をもたらし〜人々に永遠の眠りを〜。これ安寧の眠りとは異なるもの〜」
「え…」
「おい裏密! お前な、暗号みたいな喋り方してねーで、ちゃんとした言語を話せ、ちゃんとした言語を! 俺らはんな頭良い方じゃねーんだからよ、きっちり説明してもらわねーと何の話か見えねーんだよ!」
「きししし〜。だから京一く〜ん、そんな〜2枚目らしからぬこと〜駄目よ〜。黒き竜にひーちゃんをとられる〜」
「はあ!?」
「竜にっ…て?」
「黒き竜は大いなる呪いを持ち〜」
2人を無視して裏密はさらにカードをめくった。
次に現れたその絵には白い竜が出てきたけれど。
「自らも含め、この世を暗澹たる淵へ落としこむ〜」
不吉な予言のようなそれに、龍麻はごくりと唾をのみ込んだ…。
《現在の龍麻…Lv22/HP160/MP120/GOLD1》
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