第133話 両手に花 |
裏密が新たに淹れてくれたオドロオドロしいお茶(血みどろ色)を前に、龍麻はにこにこして京一に壬生を紹介した。 「京一、この人は壬生紅葉。前に秋月で俺にかかっていた呪いを解いてくれたり、ローゼンクロイツ攻略の時にも手助けしてくれた賢者なんだ。凄く強いんだよ!」 「はあ…」 「どうも…」 お互いにしら〜とした雰囲気の中で、京一と壬生は儀礼的に微か頭を下げた。 龍麻だけが分からず、にこにこしている。 「で、壬生。こっちが蓬莱寺京一! 俺が冒険を始めた時、最初に出会って、最初に仲間になってくれたんだ! 最近まで離れ離れだったけど、ここサクラ王国で偶然再会したんだよ!」 「偶然…?」 「まあ…な。ちっとこの国に用があってよ」 「え? そうなの? あ、そういえば、何でシンジュク山にいるはずの京一がここにいるのか、ちゃんと訊くの忘れてたね」 龍麻が今さらのように言うと、京一は面倒くさそうに片手を振って「俺のことはいいんだよ」とぞんざいに返した。 「それより、こいつだよ。壬生…って言ったか? 何だってお前はこの国に?」 「初対面の君にわざわざ僕の目的を告げる義理はない」 「んだとぉ…?」 「え、み、壬生…? 何か聞いたらまずいことだったか? それなら無理にとは言わないけど」 「龍麻は別だよ。僕がこの国に来たのは他でもない、この国に懸けられた呪いを調べる為さ」 「てんめ…! ひーちゃんにはペラペラと…!」 「龍麻は他人ではないのでね」 「他人でないなら何だってんだよッ!?」 「ちょっ…京一、やめろってば。何なんだよ急に怒って」 「べっ…つに!!」 京一としては激しく面白くない。 京一自身とて、龍麻とは久しぶりの再会である。というか、この魔人なDQの更新自体が実に3年半以上ぶりの再開である(……コエー)。 そんなわけで、本当ならばこんな不気味な屋敷でごちゃごちゃと数人でいるより、龍麻と2人きりでもっといろいろ語り合いたいし、美里の呪いさえなければ、龍麻が望むままに一緒に寝たい(ドストレートな願望)。 しかし今の龍麻はどうだろう、同じく久しぶりの再会を果たしたこの壬生紅葉なる色男(悔しいが、京一も壬生のことは二枚目と認めざるを得ない)に、めちゃめちゃ嬉しそうである。以前にもローゼンクロイツでのエピソードは聞いているが、あの時は置いてきぼりを喰って龍麻を護れなかったという悔いがある分、いろいろと複雑な京一なのである。 それでも龍麻の手前、ここは大人しく黙りこむほかない。京一はむっつりと不貞腐れたように頬杖をついた。 「ところで龍麻」 そんな京一を後目に、壬生は眼前に座る龍麻へ話しかけた。 「また呪いにかかっちゃったんだね」 「え? あー、そうなんだよ…へへ。何か壬生に会う度、俺、呪いにかかってるよな? いつもかけてくる相手一緒なんだけど」 「! 呪いをかけた相手を知っているのかい?」 「うん。最初の時は分からなかったけど、今は知っているよ。俺の仲間で、美里葵って、凄く強い人がいるんだけどね。何ていうか、俺に対して凄く過保護って言うか、それでいろいろ何かしてくるみたい」 「あいつのアレをそんな解釈で済ませられるのは世界中でひーちゃんだけだぞ…」 「キシシシシ……それは〜ミサちゃんも〜同〜感〜」 「…? よく状況が見えないが」 3人の様子を一通り眺めた後、壬生は不思議そうに首をかしげた。 「仲間がかけた呪いなら、その人に解かせるわけにはいかないのかい?」 「うん、多分無理だよ。それに今、美里が何処にいるか俺分からないし…。そもそも色々あって、今は仲間たちがいる秋月から凄く離れたこの土地まで来てしまっているから…。それで俺、ちょうど裏…じゃなかった、ここにいる占い師のミサちゃんに教えてもらって、賢者を探しに行こうとしていたんだ。賢者ならこの呪いが解けるからって」 「……そうか」 「そしたら! まさに目の前に壬生が現れるから、俺本当にびっくりしたよ!」 「僕もだよ。まさか龍麻に会えるなんて思っていなかったから」 「で? お前はひーちゃんの呪いを解けるのかよ?」 京一が値踏みするように意地悪く訊いた。壬生はそんな京一の質問を軽くスルーした後、ただ龍麻だけを見つめて言った。 「でも龍麻。確かに見たところ、今の君には嫉妬深い女性の怨念とも言うべき呪いがかけられているけど、ある意味それは最強の守護魔法とも言える。本当に解いてしまってもいいのかい」 「え?」 「その女性がどんな人かは知らないけど、ここにいる蓬莱寺君の態度を見ていると、あながちその人が何を持ってその呪いをかけたのか、僕にも何となくだけど察せられるところがある」 「ハァ!? どういう意味だよ、テメエ!」 「キシシシシ〜それは勿論〜ミサちゃんにもよく分かる〜」 「裏…裏密っ! テメエ!」 「???え??? 俺にはよく分からないけど…。ただ、この呪いがあると、今晩京一と一緒に寝られないし…だから呪いがあると不便だなって」 「……一緒に寝る?」 壬生がぴくりと眉を動かしてその言葉に反応した。 龍麻はまるで含むところなくにこりと笑って頷いた。 「うん。京一と会うの久しぶりだし、この部屋いろいろ不気味でさ…あ! こ、こんな言い方、ミサちゃんには悪いけどっ! でも、呪いがあると京一に害が及ぶって言うし、何とかできないかなって」 「……なるほど」 「おい…何で俺をそんな害虫みたいな目で見やがるんだよ…!」 「別に」 壬生は顎先に手を当てて暫く考えた末、ふと顔を上げてさらりと答えた。 「裏密さん。今晩は僕もここへ泊めさせてもらうわけにはいかないだろうか。宿賃なら払う」 「何!」 「くふふふ…ミサちゃんは構わないよ〜。どっちかって言うと、ミサちゃんは京一君の味方だけどね〜」 「……そんな君なら尚のこと、僕は龍麻から離れるわけにいかないな。そして――呪いも解こうという気にはなれない」 「何っ!?」 「え!? 壬生? 駄目なのか? 呪い、解いてくれない?」 「龍麻」 至極残念そうな顔をする龍麻の手をさり気なくとると、壬生は実に優しげな笑みを向けて答えた。 「勿論、呪いは解いてあげるよ。それが僕の仕事だしね。でも、今それをやるのは君にとって必ずしも得策とは言えない。来るべき時が来たら、その時は必ず解いてあげるよ」 「でも京一が」 「心配要らない。今晩は僕が君と一緒にいる。君の安全は僕が守るから」 「え?」 「おいテメエ!? 何勝手に決めてんだ!?」 京一が冗談じゃないとばかりに目を剥いて立ち上がる。しかし壬生はそんな京一にもまるで動じる風もなく、当たり前だと言わんばかりの顔で平然と返した。 「龍麻たちもこの国に来たからには、きっとこの国の呪いと対峙することになるんだろう? …ならその間は目的が一緒だ。だから僕も龍麻と行動を共にするよ」 「え? いいのか壬生?」 「……むしろ僕が君に訊きたい。龍麻は僕が一緒にいても迷惑じゃない?」 「ぜ…全然っ! 全く迷惑なんかじゃないよ! 嬉しいよ!!」 「ひーちゃん!?」 「だって京一! 壬生は本当に強くてスゴイから! 心強いよ、一緒にいてくれたら!」 龍麻は目をキラキラさせて笑顔全開でそう応えた。京一がそれによってかなり「ガーン」となっていることにも気づかずに…。 「じゃあ、これからよろしく壬生!」 「うん。よろしく龍麻」 壬生紅葉が仲間になった!! 龍麻は『最後の扉』という呪いにかかっている。この呪いは賢者等ごく限られた高い魔力を持つ者にしか解除することができない。しかし龍麻は呪いを解く確約を壬生から与えられた!壬生が「龍麻の安全」を確信した時に呪いは解除してもらえる! 壬生は龍麻に対してかなり好感度が高いが、まだ正式な仲間ではない!壬生がどうしたら仲間になるのかは、まだ分からない…! 《現在の龍麻…Lv22/HP170/MP120/GOLD0》 |
【つづく。】 |
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