第134話 69話の回収、はじめます

「…あれ。おはよう?」
「おはよう龍麻」
「ふわあ……おっす、ひ−ちゃん」
「2人とも、その顔…やっぱりちゃんと寝られなかったんじゃ? 俺だけベッド使っちゃったから…」

 龍麻から見て左右それぞれの場所に壬生と京一は陣取ってはいたが、昨晩はそのまま床に寝ると言ってきかなかった。毛布こそ裏密から与えられたものの、さぞ寝心地が悪かっただろうに、2人は「どちらが龍麻と同じ部屋にいるか」で一歩も譲らなかったため、そういうことになったのである。

「気にしなくとも良いよ、龍麻。野宿も慣れているしね」
「俺もだ。ひーちゃんこそ、爬虫類模様の悪趣味ベッドで眠れたかよ?」
「あ、うん。俺はぐっすり。2人がいてくれると思うと安心できた!」

 屈託のないにっこりとした笑顔に朝から癒やされる2人…。
 京一と壬生のスタミナがそれぞれ5上がった!!(ちょろ過ぎる)

 3人は朝の支度を整え、裏密から、またしても「匂いと味は素晴らしい」ながら、見た目が最悪な食事をふるまわれた後、ピカピカに晴れ渡る外へ出た。

「うわあ…来た時は夜だったせいか、鬱蒼とした森ってイメージだったけど、よく見ると綺麗な所だなぁ」
「意外に陽の光も多いしな…。裏密のダークオーラで陰気を纏ってただけじゃねえ?」
「う〜ふふ〜。京一く〜ん、何か〜言った〜??」
「べ……別に…何も…」

 後から出てきた裏密に気づかず、京一はぎょっとした顔を見せたが、努めて冷静さを保ちながら龍麻の傍へと移動する。
 龍麻は裏密の軽装を見て首をかしげた。

「あれ? これからサクラ王国へ行くのに…裏密さん、荷物は?」
「ミサちゃんは〜行かないよ〜」
「えっ、裏密さ…じゃなかった、ミサちゃん、一緒に行ってくれないの?」

 龍麻は驚いて声を上げた。京一や壬生が当然のようにパーティの一員になっていたため、裏密もそのノリで行動を共にしてくれるとばかり思っていた。何せここは裏密のホームタウンだと言う。案内に立ってくれたら心強い。
 同じことを思ったらしい京一が不満気に口を尖らせる。

「おい、お前ここの出身で、街のことにはいろいろ詳しいんだろ? だったら不慣れなひーちゃんを案内するのはフツーだろ、仲間なんだからよ」
「うふ〜。ミサちゃん今日はいろいろ用があるから〜。それに3人で行動した方が楽しいンじゃない〜?」
「な、何でだよ…!?」
「ふふふのふ〜。素敵な〜三角関係再び〜。あの時とは面子が違うけどね〜」
「な…にを、訳の分からないことを」
「それに〜。ホームタウンで言うなら、京一君もそれは同じ〜」
「え?」

 裏密が歌うように告げたその言葉に龍麻は驚いて振り返った。京一の方も言われて意表をつかれた顔をしているが…。

「京一? 京一の故郷もサクラ王国なの?」
「は!? いや……俺は……別に……」
「別にってどういう意味だい。そう言えば君こそ、この国へ来た理由は明かしていなかったね。何か隠し事があるなら話しておいてくれないか。龍麻の迷惑になるといけない」

 これまで黙っていた壬生がさらっと毒を吐いた。
 京一はそれに思い切りむっとして、「隠し事なんてねーよ!」と怒鳴ったものの、一方でどこかバツの悪そうな顔を見せた。

「ただまぁ…知り合いがな…。世話になった人がここに暫くいたから、俺も何年かはここで暮らしたことがあるっつーだけで、故郷ってほどのもんでもねェよ。基本的にはいろんな土地を旅して歩いてたしな」
「知り合いが? その人に会いに来たの?」
「え? ああ…まぁ…いるか分かんねェけどな。一応」
「一応って何だ。そんなあやふやな理由でわざわざここまで?」
「だからお前は煩ェんだよ!」

 壬生には強く出るものの、やはりどこか歯切れの悪い京一である。
 龍麻はそんな京一を不思議そうに見やったが、ふと「あっ…!」とあることを思い出した。その場にいた3人はそれで一斉に龍麻を見やり、どうかしたかという顔を向けたが、龍麻は慌てて「何でもない」と首を振った後、俯いた。
 そして、そうだった、こんな大事なことを忘れていたなんてと青ざめた。

(そうだった。霧島君やさやか姫が言っていたっけ。京一はもともと、凄く大事な人がいて、その人のために剣を磨く修業をしているって…。俺、自分のことばっかりですっかり忘れていたけど、今度京一に会ったら、俺のことはいいから、その大切な人のこと守りに行ってって言おうと思っていたんだ! だって…こんな世の中だし…いつその人に危険が来るかも分からないし…!)

 京一はいつでも龍麻を優先している。
 しかしそれは旅のはじめに偶然「会ってしまい」、何だかんだと「災厄に見舞われる自分を見捨てられなくなっただけ」…と、龍麻は解釈していた。
 だからあの時、京一には実は大切な人がいると知らされて衝撃を受けたのだ。

(再会できたのが嬉しくてすっかり忘れちゃってたよ。俺ってやっぱりダメだ…)

 独り勝手に勘違いな方向に落ち込む龍麻は、3人が全く予想できぬところでしょんぼりと落ち込んだ。
 しかし龍麻が慌てて「京一…」と声をかけかけた時、その京一が先に口火を切った。

「まぁとにかく、行こうぜひーちゃん。昨日はスリだ何だで、結局街の探索はできなかったしよ。サクラ王国の女王とやらにすぐ会えるかは分からねェが、それも情報集めていきゃ分かるだろ」
「情報収集には賛成だ。龍麻、大丈夫かい? 準備はいい?」
「あ、う、うん、俺は大丈夫。でも京一は…」
「よし、じゃあ行くぜ、ひーちゃん!」

 龍麻のしょぼくれた声は気合を入れた京一には届かなかった。
 裏密を除いた3人は、こうしてサクラ王国へと足を踏み入れることになる…!
 以下、次号!!



  《現在の龍麻…Lv22/HP170/MP120/GOLD0》


【つづく。】
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