第135話 経済力のある男

  龍麻たちがサクラ王国に足を踏み入れると、そこはとても「呪い」がかかっているとは思えないほどの、明るいお祭りムードで満ちていた。

「何だぁ…? 何かでかいイベントでもあるのか?」

 京一がどこか浮き足立つ街の人々を見回して言う。王国に至るまでの「マガミの街」も賑やかで明るかったが、サクラ王国は雰囲気からして何かが違う…。

「あ、分かった! この国は女性が多いんだ!」

 龍麻がぽんと手を叩いて声をあげた。京一も「あ〜」と納得する風に頷く。

「確かに! マガミの街も女が大切にされてて女優位な感じがしたが、そもそもこの国には男自体が少ないのか」
「そうだよ。そういえば昨日街の入口で会った女の人も、ここは女性の権利が世界一守られている国なんだって。女性が住みやすい国だから、女性が増えたのかな?」
「それにしては男性の姿がなさ過ぎる」

 壬生が冷静な意見を述べた。しかしその壬生の周囲には何故か見知らぬ女性が群がっている。
 龍麻はぎょっとして仰け反った。

「み、壬生…? その人たちは?! 知り合い…!?」
「いや。よくは分からないが、さっきから僕と話がしたいとついてくるんだ。歩くたびに人数が増える」
「まあ、こっちの子もカワイイ! そっちのお兄さんも! でも、コンテストに出るんなら、そっちの子がいいかしらね!」
「そうね! 女王様のお好みかも!」
「あら、でもこの2人もなかなかのものよ?」
「な、何だぁ…?」

 気づけば京一の側にも街の女性たちが取り囲んで嬉々とした眼差しを向けている。しかし京一は顔色ひとつ変えない壬生とは対照的に、うろたえつつもどこか嬉しそうだ。

「…………」

 何となく龍麻のテンションが下がった!!←

「ねえお兄さんたち、旅人さんでしょう? よく無事にマガミの街を通り抜けて来られたわね?」
「え? ぶ、無事にって…?」

 龍麻が訊ねると、壬生に縋り着くようにしていた綺麗な女性がにこりと笑って教えてくれた。

「最近、あの街には性質の悪いヤクザが大きな顔をしていてね。うちの世界樹を観光に来た旅行者さんからショバ代と称してお金を巻き上げたりするの」
「こっちは奴等って証拠はないけど、スリも横行しているしね」
「そうそう、だから一文無しになった旅人さんたちは、結局、王国へ寄らずに逃げ帰る…ってことも多くて」
「全く、私たちにしてみたら商売あがったりよ。迷惑な話よね」
「ホントよ。まぁその分、あいつらから酒代、ふんだくってやるけどね!」
「け、警察はそのヤクザ…?を捕まえないの?」
「警察なんて駄目よ〜。すっかりサクマ組に搾取されてしまっているもの。だからね、坊や達、よく文無しにならずに王国まで来られたわねって」
「あ…お、俺、お金も持ち物も盗まれちゃって…その文無しなんだ」
「え?」
「俺もだぜ。ったく、そんな治安悪い国なのかよ? 前に来た時はそんなことなかったと思うがな」

 龍麻と京一がそう言うと、先刻まできゃいきゃいしていた女性たちはぴたりと押し黙って顔を見合わせた。
 そうして、いきなり態度を豹変させる!

「ちっ、文無しかよ!」
「なら客になれねーじゃねーか使えねーな!」
「コンテスト見たさの単なる野次馬か? 参加するにも観覧するにもカネのいる大会だよ、文無しはさっさと帰りな!」
「はー、折角のイケメンなのにもったいな! いこいこ!」

 そうしてゾロゾロと去って行く女性衆……。
 どうやら彼女たちはそれぞれ飲食店や土産物を扱う店員で、龍麻たち旅人は久しぶりの新規客だと見込んでいたのに、お金がないと知って失望したらしい。
 それにしてもあまりの態度の違いにボー然である。龍麻はちょっとだけ女性不信になった!

「チッ、何なんだ。てっきり俺のモテ期が到来したのかと思ったぜ」
「そんなわけないだろう」
「んだと! おい壬生! テメエは、ひーちゃんの前だからって冷静さを装いやがって、ホントは心の中で鼻の下伸ばしてたんだろ? あんなに可愛いオネェチャン達がちやほやしてきて、何も感じないわけがねえからな!」
「君とは違うよ」
「あにぃ…!?」
「確かに京一は鼻の下伸ばしてたかも」
「な!? ひ、ひーちゃん!?」
「京一、もし俺と一緒にいるの負担なら、その知り合いのこと探しに行ってもいいんだよ…? 俺、お前の負担になりたくないし」
「は!? おいひーちゃん、何を―」
「それより龍麻。さっきマガミの街を通過する時に門番から買っておいたから、これをつけておくといい」
「何? これ…」

 龍麻は街と国との通行証を手に入れた!

「さっきの女性たちも言っていただろ。ここは何をするのも、道を通るのすら、性質の悪い連中がショバ代と称して旅人から金銭を巻き上げようとするんだ。本来はそれらを取り締まる警察や門番も、そいつらとグルだからね。だから、これ」
「壬生はショバ代を払ったの? 俺たちの分も? あ…だ、だから今日は何事もなく街を通過できたの!?」

 龍麻の驚きをよそに、壬生はあくまでも無表情である。

「でも龍麻、彼らを恨んではいけないよ。一般人は、或いはこの国を覆う呪いのせいで正常な判断ができなくなっているのかもしれない。だから当面はこんな形で避けて行くしかないさ。まさか僕たちの力で彼らを攻撃するわけにもいかないからね」
「でも…壬生、この証文のお金…」
「気にしなくていいよ」
「な、何でお前はスリに遭わないで済んだんだよ!」
「言っただろ。僕は君とは違うって」

 壬生は冷たい眼と声で返した後、しかしその京一にも通行証を投げて寄越した。
 京一は慌ててそれを胸でキャッチし、驚いたように壬生を見る。

「君にもあげないわけにはいかないだろ。…もし龍麻のパーティから抜けると言うのであれば、それは返してもらうけど」
「誰が抜けるか! そうだ、ひーちゃん、何だってそんなこと!」
「壬生! ありがとう! 本当に!」

 しかし龍麻は京一の声をかぶして壬生に礼を言った!
 京一は精神的ショックで1のダメージを受けた!←可哀想

「俺、絶対これを買った分のお金、後でちゃんと返すからな!」
「言っただろ、要らないよ。龍麻は優しいから勘違いしているのかもしれないけど、これは親切じゃないから。今は目的が同じだから一緒に行動しているだけ。その方が、僕にも都合がいいから。それだけなんだよ」
「壬生…。で、でも…」
「さぁ行こう、龍麻。この先が王宮だ」

 あくまでもクールな壬生に龍麻は少しさびしい気持ちがした。

 以下次号…!



  《現在の龍麻…Lv22/HP170/MP120/GOLD0》


【つづく。】
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