第136話 イヤミでなく、天然。

「まぁ可愛い旅人さん。サクラ王国へようこそ」

 王宮の門前には、美しい女性兵が2人、にこりとした微笑で龍麻たち3人を歓迎した。

「貴方たちも我が国の美少年コンテストに応募しに来たの? 貴方たちのビジュアルならきっとイイところまでいけると思うわよ、ウフフ…」
「美少年コンテスト?」

 龍麻がその耳慣れぬ言葉に首をかしげると、女性兵は「あらあら」と逆に不思議そうな顔をして肩をすくめた。

「知らないでここまで来たの? 珍しい旅人さんね。我がサクラ王国の女王様は美しいものに大変目がないの。特に可愛くて綺麗な十代後半の男の子が大好物よ。それで年に1回、世界中にお触れを出して、その年一番の美少年を決めるコンテストを行っているの」
「それだけでなく、月に1回はベストドレッサーショーや、ベストメイクアップ賞、マッチョな筋肉を競うベストマッスル賞、美しい瞳を競うベストアイズ賞や可愛い唇を競うベストマウス賞などなど……、他にもたくさんのコンテストが開催されているわ。そして、そのどのコンテストにもそれぞれ素晴らしい豪華賞品と賞金がつくのよ」
「へ、へえ…」
「とにかくイケメン漁りてぇって欲望丸出しのイベントだな…」

 京一が呆れたように呟くと、女性兵は「あら」と心外だと言わんばかりの顔で異を唱えた。

「でも、旅をする上で強力な武器や防具は必要でしょう? 我が国には珍しい装備やアイテムがたくさんあるから、コンテストに出て入賞するだけでそれらが貰えるとなれば、出るだけ出て損はないわよ」
「実際、貴方たちはかなりイイ線いくと思うわ。コンテストに参加するなら、その横の通用門を通った先に受付所があるから、参加費を払ってエントリー票を貰ってね」
「あ、あの…、俺は、コンテストじゃなくて女王様にお会いしたいんですけど」
「女王様に?」

 龍麻の申し出に女性兵は意表を喰らったような顔をして目を瞬かせたが、すぐに無碍もなく首を振った。

「我が国には毎日たくさんの旅人が訪れて、女王様との謁見を求めに来るけれど、そのどなたとも王はお会いにはならないわ。女王様はお忙しい身。何か他国の王や貴族からの推薦状があるなら別だけれど」
「そ、そういうものはないです…。でも、この国にあるかもしれない呪いのことで話したいので! とても重要なことなんです!」
「呪い? 呪いですって? 何て不吉なことを…!」
「無礼な! 我が国にそのようなもの、あるわけがない! これ見ての通り、平和を矜持する穏やかな国だ!」

 龍麻の言葉に兵たちは突然いきり立つと、虫を払うような仕草で「コンテスト参加者でないなら立ち去れ!」と3人を押しやってしまった。まさか女性を相手に強引に門を突破するわけにもいかない。龍麻らは仕方なく、門の外まで後退した。

「やっぱり、国の王様に会うって簡単じゃないね」
「秋月の王様ン時は、もうひーちゃんのことが分かっていて、すぐに通してくれたけどな。こっちの方じゃ、もしかするとまだ魔王の脅威は秋月や徳川ほどには届いてないのかもな」
「そうだね…。ヤクザ?みたいな荒っぽい人たちはいても、確かにこの国は、どこからどう見ても平和っぽいし」
「いや、そんなはずはない」

 京一や龍麻の言い様に壬生がぴしゃりと否定して、今は遠くにある、しかしはっきりとその姿を視認できる世界樹を指さした。

「呪いの影響を多分に受けていないのは、あの世界樹の力が作用しているからだ。あれは大いなる陽の力に支えられた魔を退ける聖樹だから」
「そ、そうなの?」
「何でンなこと、お前は知ってんだよ…」
「僕の師匠(せんせい)から聞いたんだ。ここはその昔、邪悪な魔を退けた勇者が戦いの拠点としていた土地で、平和を取り戻した後は、その勇者の仲間がサクラ王国を建国して、あの平和の象徴たる大樹を守ることにしたと」
「あ、それなら俺も翡翠から聞いたよ。世界には勇者と戦った仲間たちが作った国が4つあって、サクラ王国はそのうちの一つだって」
「翡翠ぃ…?」

 違う所で反応して呟いた京一の声を拾った者は、残念ながらその場には一人もいなかった。
 壬生が京一をスルーして続ける。

「とにかく女王には早急に会う必要があるね。その為には、その今度あるというコンテストに出るのが一番てっとり早いと思う。龍麻、エントリーしてきてくれるかい?」
「えっ!? 俺が!?」
「なっ、おい壬生! お前いきなり何言ってんだよ!?」

 京一の焦った様子をちらりと横目だけで見て、壬生は不可解だと言わんばかりの顔をした。

「君もさっき聞いただろ、このコンテストは美少年コンテストだ。ただエントリーだけして、すぐに落ちても意味がない。女王に近づく為には上位、少なくとも入賞できるくらいのルックスがなければダメなんだ。そう考えれば、この3人でその可能性があるのは龍麻だけだろ」
「俺、全然美少年じゃないよ!? 何言ってんの壬生!?」
「……? いや、意味が分からないんだけど…君こそ何を言っているの、龍麻?」
「え? ええ? 何それ? 何なのその真顔な反応は!?」
「……いや、ひーちゃん。残念ながら、これに関しちゃ、俺もそりゃ壬生と同じ意見なわけだが…。ひーちゃんのその謙虚さも可愛いと言えば可愛いが……」
「いや違うって! 2人とも、鏡見たことないの!? どう見ても俺より、2人の方がカッコイイし、ハンサムだし! 入賞どころか優勝だって狙えるよ! 俺より2人が出た方がいいって!」
「え〜? へへへ…ひーちゃん、俺のこと、そんな風に見てたのかよ、照れるなおい」
「龍麻。もしかして龍麻って、目が悪かったのかい?」
「〜〜ッ! おい壬生! そりゃ、どういう意味だッ!?」

 またまたクールにそんなことを言う壬生に、当然の如くキレそうになる京一。
 しかし壬生は至って大真面目である。

「どこからどう見ても、可愛くて綺麗で美しいのは君だよ、龍麻。僕はこれまで世界中を旅してきたけど、龍麻ほど輝いて見える人に会ったことはないから。そんな君と僕たちとを比べるなんて、冗談でも趣味が悪いと思うよ」
「み、み、壬生……」

 あわわわわと龍麻は口ごもり、あまりの恥ずかしさで顔は沸騰、ゆでダコ状態で卒倒しそうになった!
 龍麻の体力が1減った!(ヲイ)
 ちなみに京一も、壬生の天然発言にあ然として、すっかり出遅れてしまっている。
 そんな2人に気づく風もなく、壬生はさらに自嘲気味、唇の端を上げてぽつりと言った。

「さっきの女性兵も街の女性たちも…時々僕の外見を誉める人がいるけど、見当違いも甚だしいよ。僕ほど醜い男はそういないと思うから…」

 ……どうやら壬生は自己肯定感が著しく低い人物らしい(爆)。
 そのことに、赤面したりボー然としている龍麻と京一は気が付いていない!!

 以下、次号…!!



  《現在の龍麻…Lv22/HP169/MP120/GOLD0》


【つづく。】
135へ137へ