第137話 脱いだ先に… |
結局、壬生と京一の推薦で、コンテストには龍麻だけがエントリーすることになった。 「2人も出ればいいのに…。何で俺だけ…」 「そりゃひーちゃん、仲間同士でライバルになって票が割れても面倒だろ? 俺が出たら、カッコイイ男と可愛いひーちゃんとで、どっちを優勝させるか悩まれる――」 「さっきも言ったけど、龍麻。僕たちが出るだけ参加費の無駄だよ。それより僕たちは観客として会場の周辺を見ているから」 「わ、分かった…」 京一とは違い、壬生は本気で龍麻を誉めてくるので、龍麻はあわあわしてしまう。横で京一がその様子にギリギリしているとも知らず、龍麻は壬生から逃げるように一人、受付があるという城門の奥へ向かった。幸い、先ほど気分を害した女性兵たちは、「何だ、結局エントリーするのか」と苦笑しただけで通してくれた。 「う…わあぁ…」 門の奥へ通されると、龍麻は思わず声を上げた。 活気のあった城下町よりもさらに華やかな雰囲気がそこにはあった。城内とは思えぬ、否、城内だからこその煌びやかさなのか。そこにはたくさんの人間(見る限り全て女性だ)が、忙しなく野菜や果物を運んだり、武器の手入れをしたり、或いは壁の修繕をしたりと、それぞれの仕事をするためにせかせかと、しかし楽しそうに立ち回っていた。確かに呪いの雰囲気などどこにもない。また、城内の左方には龍麻のようなコンテスト参加者にも一目で分かるような横断幕がかけられており、「サクラ王国へようこそ!コンテスト参加者はこちら!」という文字と共に、大仰な天幕の張られた建物の入口が見え、そこで初めて男性の姿―数十名はいるだろうか―が列を成しているのが見えた。 龍麻がいそいそとそちらへ向かうと、列の最後尾で目印の看板らしきものを持った女性がにこりとした笑顔で迎えてくれた。 「コンテストにエントリーされる方ですね。ようこそサクラ王国へ。こちらに並んでお待ち下さいね。参加費はお持ちですか?」 「あ、はい、ここに…」 「受付でお出し下さいませ。そちらで参加票に記入もして頂きます。それから、コンテスト会場で武器の携行は認められておりませんので、一度こちらでお預かりすることになりますことも事前にご了承下さい」 「武器? と言っても俺は特に…」 「その手甲は立派な武器ですわ。お外し下さいね」 「……ああ、そうですね」 見た目鋭利なものではないが、確かに美里が見繕ってくれたそれは、龍麻の戦闘時に大いに役立つものだった。この町に入って全ての物を盗まれてしまったが、幸い、身に着けていたものだけは無事だ。 もっとも、だからこそ、それを外すと言うのには少し抵抗があった。 しかしまさか、王国が預かってくれるという物がスリにはあうまい…と、思い直す。 「ようこそサクラ王国へ。参加票はこちらです」 暫く並んで受付に辿り着くと、龍麻はそこで名前と年齢、出身地を書かされ、最後に「貴方のアピールポイントは何ですか?」と訊かれた。思い切り面喰らって暫し言葉を失っていると、「貴方が自慢できるこなら何でも結構ですよ」とつけ加えられたので、「頼りになる仲間がたくさんいることです」と答えた。すると受付嬢は「人望があること」などと気恥ずかしい言葉に変えるものだから、龍麻は「それは何か違う」と思ったのだが、うまく言えずに黙ってしまった。 「何か薄暗いな…」 まずはコンテストに参加する衣裳に着替えてもらいますと言われ、龍麻は受付を済ませた後、建物の中へ通されて、ずっと奥に続く一本の通路を進むよう言われた。 先ほど並んでいた人たちはもう行ってしまったのか、その道には龍麻しかいない。歩くとカツンカツンと靴音がいやに響いて心細くなった。周りにも仄かな灯りがぽつぽつとついているだけだ。 「あれ…?」 暫く進むと、やがて一つの小さな小机があり、そこにもまた大会関係者らしき女性がいて、「こちらの奥で着替えをして頂きます」と右手を指示された。ちらと見ると、木造りのドアが見える。着換えの為の部屋だろうか。そう思いながらそちらへ向かおうとすると、女性が「お待ち下さい」と人好きのする笑顔で呼び止めた。 「こちらで靴、アクセサリーの類はお預かり致します。上着も御脱ぎになって。どうぞ軽装でお入り下さい」 「え、ええ? 何でですか?」 「着換えの前に、まずは浴室で身体を清めて頂きます。そちらは大会参加者様に用意された大浴場となっております」 「浴場…お風呂…」 「ええ、そうです。中の浴室にはたくさんの衣服や小物を置く籠がございませんの。何なら、こちらで裸になって行かれても宜しいですよ」 「い!? 嫌ですよ、そんなの…!」 「くすくす…そうですわよね。では、軽装になってお進み下さい」 「服は武器と一緒に返してくれるのですか?」 「ええ、もちろん。大会が終わりましたら必ず。お身体を清めて頂きました後、こちらで貴方様にふさわしい衣装を選ばせて頂きます。でもその前に皆様必ずそちらで御身体を清めて頂くことになっておりますので…」 「は、はあ…」 以前に出場した美少女コンテストの時は、衣裳も審査の基準になるという感じで、参加者が自ら着飾るものを決めていた。―…が、ここではそうではないらしい。コンテストによって色々あるのは仕方がない…と、龍麻は身に着けていたものを取り、しかし気になってもう一度訊いた。 「あの…この指輪と靴は本当に大事だから…なくさないで下さいね?」 それは天童が託してくれた勇者の指輪と、翡翠から貰った勇者の石がついた勇者の靴だった。龍麻が心配そうに念を押すと、女性は再びにこりと笑って「ご安心を」と約束してくれた。 「不安だなあ」 それでもそんな言葉を口にしながら奥の部屋へ進むと…すでにもくもくとした湯煙が襲ってきて、龍麻は思わず「うわ」と声をもらした。ただ、いい匂いはする。そう、石鹸の香りだ。なるほど、確かにそこは浴場である。何故かこの小さな着換え用の場所までモクモクとして視界が定まらないことが気にならないではなかったが、龍麻は服を脱ぎ、さらに奥の浴場へ入ろうと目前の扉を開いた。 「………え?」 「ひひひっ……よく来たねえ。アンタが今日で37番目の大会参加者だよ…坊や…」 「ぎ……」 何も見えないはずだ。そのはずだった。 しかし。 「わあああっ!!!」 「何だい何だい、そんな突拍子もない声を出して…驚くじゃないか…」 「だ、だって俺裸なのに…!!」 「裸だから何だってんだい。人間は生まれた時は皆等しく裸なんだよ。気にするな。ひひひっ…」 「だ、誰…!? 貴女は…!?」 大事なものを必死に両手で隠しながら龍麻は後ずさりした。 その浴場には。 同じ人間なのか?と見紛うほどの大女。幸い(?)女は身体にバスタオルを巻きつけていて裸ではなかったが…恐らく、その布以外は何も身に着けていないだろう。 そして、その大女の両手には、それぞれ捻り上げられたように掴まれている痩身の男性が…。さらにその周囲にも他に、そう、先ほど龍麻の前を並んでいた男性たちがぐったりと横になって倒れている。当然のことながら、全員裸で。 そしてそんな男性陣を今にもぺろりと食べてしまいそうな大女は――。 「アタシはこのサクラ国の王女。タカコ・イワヤマさぁ…ひひ…ひひひっ…」 「モ、モンスター…!?」 そうとしか思えぬその恐ろしき体躯、容貌。 丸裸の状態で、龍麻はあらゆる意味で絶体絶命のピンチに陥った…! 以下次号!! 《現在の龍麻…Lv22/HP169/MP120/GOLD0》 |
【つづく。】 |
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