第139話 反省中&芽生えかけ…? |
龍麻が目を覚まして最初に目に入ったのは、白くて広い天井だ。 それからふわふわとした気持ちの良い感触がして、大きくて柔らかい羽布団にくるまれているのが分かった。 「ここ…どこ?」 「龍麻、良かった。目が覚めたかい」 「……壬生?」 すぐ真横に頼もしい仲間の姿があり、龍麻は一気に安心した。と同時に、頭がみるみる冴えてくる。慌てて起き上がろうとして、しかし龍麻は急にズキンとした痛みに襲われて頭を抱えた。 「いった…!」 「無理しないで、龍麻。まだ横になっていた方がいい」 「で、でも俺…。ここどこ? 一体どうなってるの、確か俺、風呂場みたいな所で―」 「ごめん龍麻…」 「!? え、何で壬生が謝るの? え、何で?」 突然しゅんと項垂れる壬生に龍麻は慌てた。それで一瞬頭痛を忘れたが、それでもやっぱり身体が重い。龍麻は無理に起こした状態を素直にベッドに戻すことにして、一度大きく息を吐いた後、改めて壬生を見つめた。 「何で壬生が謝るの? 壬生、落ち込んでいるのか?」 「僕のせいで龍麻を危険な目に遭わせてしまった。コンテストに単身でエントリーして欲しいと言ったのも僕だし、解ける呪いを放置していたのも僕だ」 「そんなこと。俺、無事だし? でも、あれは夢だったのか? あの風呂場でのことって…」 「夢じゃないよ。君は城内の浴槽で倒れたんだ。それを僕たちに知らせてきたのは当の城にいた女王付きの女官たちだけど…。君の許しさえ得られれば、人間とて僕は彼女たちを許さない。君を傷つけたそれ相応の報いを受けさせるつもりだ」 「えっ。何、よく分かんないけど、そんなの駄目だよ!? み、壬生、もしかして怒ってるのか、落ち込んでたんじゃなくて!?」 「……どちらもだよ」 はあとため息をついた壬生は、おもむろに横たわる龍麻の左手を両手でぎゅっと握った。ひどく真面目な顔だ。龍麻はそんな壬生をまじまじと見やり、「どうやらとても心配させてしまったらしい」ことだけは分かって、自分もしょんぼりとした気持ちになった。自分がもっとしっかりしていれば、壬生をこんな気持ちにさせずに済んだのではと思ったのだ。 「壬生。俺は大丈夫だから」 「………」 「本当だよ? さっきまでは何だか頭もぼーっとしていたし、ちょっと痛いかなって思ったけど、今はもう大丈夫。段々冴えてきて、あの時のことも思い出してきたよ。俺が大会にエントリーして、申し込み会場からあのお風呂場で倒れてから、どれくらい経った?」 「半日くらいかな…。君はずっと眠っていたんだ。呪いが大きく発動した影響だろう」 「呪いって、美里が俺にかけたってやつ?」 「ああ…。龍麻にかかった呪いは、君に不埒なことをしようとする相手に攻撃を仕掛ける、いわば君にとって強力な防御魔法なんだ。しかも術者がよほどの実力者なのか、かなり強大な防御魔法だ。…だから、解かなくても良いと思った。でもその僕の誤った判断のせいで、今、龍麻がこうして寝込む羽目に…」 「何で? 防御魔法なのに」 「小さな火花程度ならともかく、魔法が大きく発動し過ぎて、呪いをかけられた龍麻にも大きな負荷がかかったんだ。暫くは誰も触れられないくらいの障壁が出続けて、女王の魔法に能力を無力化された君を介抱することもできなかった」 「女王…? やっぱりあのモンスターみたいな人、女王だったの? 自分のこと女王って言っていたけど、とても信じられなくて…」 「残念だけど本当のことだよ、龍麻。それで君が目覚めたらすぐに会いたいと言っているんだけど」 「えっ、あのモンスター…じゃない、女王…さま、が?」 「ああ。正直、君にやられたことを考えると、僕は二度と君とあの王とを会わせたくはないけれど…。そういうわけにもいかないことも分かっている」 「う、うん」 「だから、謁見の際は勿論僕もついていくよ。君のことは必ず僕が守るから」 「あ、ありがと…。あ…? そ、そういえば、京一は? 京一はいないの?」 不意に相棒の顔を思い出し、龍麻はもう一度がばりと起き上がると、きょろきょろと辺りを見回した。なるほど、確かにここは城内なのかもしれない。豪華過ぎるベッドの周囲には、さらに豪華な調度品がずらりと並び、龍麻自身が身に着けている服装も、それは見たこともない煌びやかなものに変わっていた。 それにしても、壬生はここには女官の案内で来たと言うが、それなら一緒にいた京一がいないのはおかしい。 しかしその疑問に壬生はすぐに答えた。 「彼も一度はここに来たんだけど、女王と対面するなり、急用ができたとかで外へ飛び出して行ったよ」 「え?」 「僕たちも最初は訳が分からないままここへ連れてこられたんだけど、事情を聴いて、君をこんな目に遭わせた女王は許せないと言って、先んじて謁見の間へ向かったのに、何故か…随分と顔色が悪くなっていたけど、彼はここの女王とは知り合いみたいだった」 「え!? 京一があのモンスター…じゃなかった、女王…さま、と!?」 「確かなことは分からないけどね…。君の護衛を僕だけに任せるなんて、僕は構わないけど、彼らしくないとは思ったよ。……気になるかい、彼のこと」 壬生の探るような問いかけに、しかし龍麻は気づかず素直に頷いた。 「うん…そりゃあ。知らなかったけど、京一は元々ここの出身らしいし、それに京一って…本当は凄く大切な人がいるらしいんだ。それなのに、俺のこと心配してくれて、無理に付き合ってくれているから…」 「彼が? 君以上に大切な人が?」 あり得ないという風に壬生は目を丸くしたが、これにも龍麻は気づかなかった。 「まさかその大切な人があのモンスター…じゃない、女王様に何かされたのかな…。ねえ、壬生。本当にあの人が女王様なの? だってあのお風呂場で…俺だけじゃなくて、大会にエントリーした男の人たちが皆玩具みたいに片手で掴まれてベロンベロン舐められて…ウッ、思い出したらまた頭痛が…」 「龍麻。そのおぞましい記憶はすぐに闇に葬った方がいい」 「そうしたいけど…。何で女王様があんなことを…?」 「それを説明したいから、君が目覚めたら会って話したいと。どうする?」 「そ、それなら…行くしかないよ」 龍麻がげんなりしながら何とか言うと、壬生は暫し黙っていたものの、再び龍麻の、今度は両手を握って「龍麻」と至極真面目な顔で呼んだ。 龍麻はそれにびっくりして、思わず「はいっ!?」などと答えてしまった。 そんな龍麻に、壬生は変わらず真摯に続ける。 「大丈夫。君のことは僕が守るから」 「壬生?」 「もう君をこんな目には遭わせないよ。だって君は……」 「うん…?」 「……いや、何でもない。ごめん。今、この時だけは、君と僕は目的を同じにした仲間だ。だから協力し合うのは当然だろう」 「う、うん…。そうだよ、だから今回のことだって作戦の一環なんだから。壬生が反省する必要なんてないんだからね? 全然。割りきって、これからも俺のことどんどん使ってよ? 頼りにならないかもしれないけど」 「……そんなことはないよ」 「あと美里の呪いなんだけど、それならやっぱり解いてもらった方がいいよね」 龍麻が頭をかきながら苦笑してそう言うと、壬生は苦虫を噛み潰した顔を見せた。 「そうしたいし、必ずそうするつもりだけど、これから女王に会うわけだし、一応まだ解かない方がいいと思う…」 「あ、そ、そうだね」 「でも、君の仲間のその美里さんって…何者なんだろうね。あの女王すら揺らぐ呪いをかけられるなんて」 「うん、確かに。思えば、美里の呪いのお陰で、俺、あの女王様に舐められずに済んだんだもんな。今度会ったら御礼を言わなきゃ!」 「……龍麻。それは違うと思うよ」 「え?」 壬生はますます苦い顔をしたが、龍麻には訳が分からない。鈍い勇者の護衛は並大抵の精神では務まらないのである。 以下次号…!! 《現在の龍麻…Lv22/HP170/MP120/GOLD0》 |
【つづく。】 |
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