第143話 ふたりに怒られて |
何年ぶりかの更新で、龍麻だけでなく、作者も戸惑っているが! 「俺…どちらかを選ぶなんてできないよ!!」 龍麻は相変わらずの優柔不断さ、もっと悪く言えば八方美人ぶりを発動して、京一と壬生の前で泣き言を述べた。 「2人とも一緒に俺と行くわけにはいかないの? 今はさ…その、くだらない喧嘩なんてしている場合じゃないだろ?」 「…悪いが、ひーちゃん。これはくだらない喧嘩なんかじゃねェ」 「え?」 「龍麻。この男と喧嘩をしているつもりはないよ。ただ僕としても、どのような状況でも譲れないことはある。これはそういう話なんだよ」 「そ、そういう話って、俺にはぜんぜん分からないよ!!」 龍麻はすっかり困惑してしまった。いつもなら大抵龍麻の要求を聴いてくれる彼らが、頑として動こうとしない。どうしてそんなにも3人で行動するのを嫌がるのか、龍麻にはさっぱり分からない。 しかし龍麻には、京一か壬生のどちらかを選ぶというのは、やはりどうしても出来なかった。どちらも大切な仲間だからだ。はあと大きなため息をもらし、龍麻はかぶりを振った。 「じゃ、じゃあいいよ…。俺、ひとりで行動するから」 「ひーちゃん…。そう言うと思ったがな。そりゃ駄目だ」 「何で!」 京一の先を見越したような顔と言葉に、龍麻はむっとして顔を上げた。 しかしこれには壬生も同意する。 「龍麻。それは僕も同感だ。いくら城内探索とは言え、ここは呪いに満ちた場所だ。龍麻ひとりで行動するという危険な真似を見過ごすことなんて僕には出来ない」 「じゃあ、一緒に来てよ! 京一も壬生も!」 「こいつとは嫌だ」 「この男とはごめんだ」 「〜〜〜〜っ!!」 仲が悪いそうなのに、こんな時だけ声を一緒にして同じことを言う。龍麻はさすがに呆れたし、むっときてしまった。早くこの国の呪いを解き、先へ進まねばならないのに。そして再び、あの荒廃した故郷へ戻らなければいけないのに。 「分かったよ。じゃあ俺、壬生と行くよ」 龍麻は壬生を選んだ! 「ひ、ひーちゃん!?」 京一は多大なショックを受けた!! 京一は10のダメージを受けた!!(この感じ久しぶり過ぎるな) 「何でだよ、ひーちゃん!! 折角会えたってのによ、何で俺じゃなくてそんな奴を!」 「呪いの事は壬生の方が詳しいと思ったからだよ。それにっ、京一は他に守らないといけない人がいるだろ! だから!!」 「は!? 一体何の話だ!?」 「とにかく、どっちか選べって言ったのは京一たちじゃないか! だから俺は壬生を選んだの! それだけ! じゃあな、京一! 解散!!」 「ひ…おい、龍麻!!」 急に本気で怒ったように龍麻の名前を呼ぶ京一に、龍麻は思い切りびくっとしてしまった。ちらと振り返ると、確かに京一は顔を赤くして怒った眼を向けている。 途端に、龍麻の身体がスーッと冷えるのを感じた。そしてとてつもない寂しさも。 「……っ」 それでも龍麻は逃げるようにその場を去った。壬生がそんな龍麻の後を黙って追う。 京一はついてこなかった。 龍麻は京一とのパーティを解除した!! 「……龍麻」 壬生が後ろから何度か声をかけてきていたが、龍麻はわざと無視し、ずんずんとあてもなく場内をさまよった。何を、どう探索して良いかも分からないまま、ただ足を動かす。 「龍麻」 めげずに壬生が声をかけてくるが、それでも龍麻は返事ができなかった。さきほどの京一の顔が脳裏から離れない。きっととても怒らせてしまった。折角戻ってきてくれた一番の仲間をないがしろにしたのだ。当然だ。 (でも…京一だって悪いんだ…) ぐっと唇をかみしめ、龍麻は言い聞かせるようにそれを思った。本当にむかむかする。どうしてこんな気持ちにならないといけないのか、分からない。全部自分だけが悪いのだろうか?いいや、そんなわけはない、でも…。 ぐるぐると埒もない考えに支配され、龍麻はさらに足を速めた。 「龍麻」 遂に壬生が龍麻の肩に触れた。と、龍麻の何かもそこでぷつんと切れて、壬生を強く睨みつけてその手を払う。 「俺はっ! 壬生にだって怒ってるんだからなっ!! 京一だけじゃなく!!!」 「……分かっているよ」 「分かってないよ! 分かっていたら、そんな冷静な態度とっていられないよ! 何で! どうして俺がっ、こんな気持ちにならないといけないんだよ!!」 「……本当は蓬莱寺と行きたかった?」 「そんな話してるんじゃないよっ」 「……そういう話だろ。蓬莱寺と喧嘩したような別れ方をしたから龍麻は気にしてる。今、龍麻の頭の中には蓬莱寺のことしかない。僕のことなんか、微塵もない」 「俺は、壬生にだって怒って―!! 龍麻が再度怒鳴ろうとしたところを壬生がすかさず制する。再び龍麻の、今度は手首をがつりと掴み、強い瞳で龍麻のことを見据える。 「……!」 その迫力に龍麻は思わず黙りこんでしまった。怖い。咄嗟にそうも思った。 「龍麻。君は蓬莱寺のことが好きなの?」 けれども壬生のその質問に、龍麻は「え」と言ったきり絶句してしまった。壬生は一体突然何を言い出すのだろう。京一のことを好きかって、勿論好きだ。だから喧嘩して気持ちも落ち込んだし、それに―。 「どうなの。答えて、龍麻」 いつも優しい壬生がそこにはいない。どうやら壬生も怒っているようだ。龍麻の気持ちは一気にしゅんと萎んでしまった。思えば、こうして人から怒られることに慣れていない。人からマイナスの気持ちをぶつけられると落ち込んでしまう。 自分がひどく弱い人間に思えた。泣きそうにもなったが、壬生は手を放してはくれなかった。 その強く掴まれた手首と壬生の手を、龍麻は黙って見つめやった。 以下次号…!! 《現在の龍麻…Lv22/HP160/MP120/GOLD0》 |
【つづく。】 |
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