第144話 傍目からもそう見えるのね 

  壬生から問い詰められて、龍麻はまるで袋小路に追い詰められたような気持になりながら、渋々答えた。

「京一を好きかって、そんなの当たり前だよ。大好きだよ」
「………」

 壬生は表情を変えなかった。しかし心身に巨大なダメージを負った!
 龍麻はそんな壬生に気づかずに続ける。

「京一は旅を始めた時、一番に仲間になってくれて、その後ずっと一緒にいてくれた仲間…相棒なんだ」
「相棒」
「うん…。この間までは別々に行動していたけど、この国で偶然会えて。また一緒に来てくれて…俺はとても心強かった」
「なら彼を選べば良かった」

 壬生が冷えた声でそう言うと、龍麻は途端むっとして顔を上げた。

「壬生にもこんなところがあるんだな」
「…こんなところって?」
「何か…意地悪って言うか! 怖いって言うか! 俺、何でこんなことで責められているのか分からないから!」
「………」
「一緒にこの国の呪いを祓う手伝いをしてくれるって言ったのは壬生じゃないか。それなのに…。こんな…探索始めからさ…。何でこんな、壬生にも京一と仲良くしてほしいよ!」
「………」
「壬生だって京一のこと好きになるよ、一緒にいたら」

 壬生は答えなかった。ただ背後にちらりと視線をやる。と、壬生に視線を向けられたことに気づいた人間が、恐る恐る顔を出した。何となく気まずい雰囲気を察して声をかけることをためらっていた、それは城の官吏だった。

「あなたは…?」

 龍麻も彼女の存在に気づいて慌てたように声を改めると、その人物はいよいよ隠れていられないと思ったらしく、おずおずとその姿を現した。女王タカコの傍にいて、彼女の功績を力説していた側近だ。あの時はいやに強気な態度だったが、今はどうにも弱々しく見える。
 しかし彼女は2人が自分に注目したことで意を決したようにぴんと背すじを伸ばし、回廊の先を指さした。

「お声がけもせず、失礼致しました。タカコ様より、龍麻様たちを城内の書庫へお連れするようにと」
「書庫?」
「はい。我が国の歴史はもちろん、最近の事件などもそこでまとめている者がおりますので…。何か少しでも呪い解明の手がかりになるのではないかと」
「あ、ありがとうございます。それは助かります。ぜひ」

 龍麻がすぐさま言うと、官吏は安心したように頷くと一礼し、その先を案内するように歩き始めた。
 龍麻も何だかほっとして、その後をついて歩いた。背後に壬生の存在は感じる。壬生と二人きりにならないで済んで良かったと思った。
 書庫に着くと、官吏は中にいる人物へ事情を話すと、「私はこれで」と去りかけ、しかしやや惑ったようになった末、龍麻にこそりと耳打ちした。

「あの、龍麻様…。差し出がましいようですが…」
「え?」
「我が国では、その…。いわゆる、“三角関係”に陥った者たちには、必ず恐ろしい呪いが降りかかると言われております…」
「……は?」
「どうぞ…ですからどうぞ、お気をつけて…!」
「え? あの? ちょっと!?」

 龍麻は何のことかと官吏を呼びとめようとしたが、しかし彼女は逃げるようにその場をダッシュして消え去ってしまった!!

「な、何なんだ」
「失礼。勇者様…いえ、それは極秘事項でしたな。旅の御方。龍麻様ご一行殿」
「え」

 書庫にいる人間―初老の男だ。男が城内にいるのは非常に珍しい―が、龍麻たちに歩み寄り、礼をした。

「我が国の呪いを祓うお手伝いをして頂けるとか。ありがたいことでございます」
「あ…。えっと、いいえ。何か手がかりがあればってことで、連れてきてもらったのですが」
「お役に立つかは分かりませんが、私の知っていることをお話し致します」

 老人は龍麻たちを書庫の隅にあるテーブルへと案内すると、よろよろとした足取りながら、ひとつの巻物を持参して戻ってきた。
 そして開口一番こう言った。

「まずは、我がサクラ王国建立当初の歴史を綴った本書をご覧下さい。サクラ王国の初代王は、その名をホウライジ。勇者ヒユウの片腕として、過去、世界を闇に閉ざさんとする巨悪と立ち向かった、勇敢な剣士様であったと言われております」
「ほ…蓬莱寺!?」

 龍麻はあまりにも驚いて椅子から転げ落ちそうになった。
 その名を偶然と呼ぶには、あまりにも……。



 以下次号…!!



  《現在の龍麻…Lv22/HP160/MP120/GOLD0》


【つづく。】
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