第145話 サクラ王国を語る者

  サクラ王国を建国したという王様の名前を聞いて、龍麻は本当に驚いた。
  何をかくそう、その王の名が、京一と同じ「ホウライジ」だったからだ。

「京一の御先祖様だったりして…」

 龍麻が呟くと、老人は不思議そうな顔を向けたものの、先を続けた。

「しかしホウライジ様の治世はわずか3年で終わりを告げました」
「え! 短い!」
「元より、世界を巡り、ご自身の剣の腕を磨くことに至上の喜びを見出されていた御方。 政事は向かないと、以前のお仲間に王位を譲り、ご自身はすぐに下野されたそうでございます」
「へ、へえ〜…。ますます何か、京一っぽい気がするけど…」
「………」

 龍麻の前のめりに話を聞こうとする様子に反して、壬生は黙して表情を陰らせたままだった。
 しかし龍麻はそんな壬生の様子には気づいていない。

「勇者様には、かつて4人の強力なお仲間がいらした。この言い伝えはご存知でしょうか」

 老人の問いかけに龍麻はすぐに頷いた。

「はい、少しですけど。世界が平和になった後、その仲間たちがそれぞれ世界に散って、自分たちの王国を造ったんですよね?」
「左様でございます。サクラ王国もそのうちの一つと言われております」
「あとは徳川国と九角国と…客家国、でしたっけ?」
「さすがは龍麻様、わたくしめがお伝えすることなどほぼありませんな」

 老人が嬉しそうに微笑み、頭を下げると、龍麻は恐縮してかぶりを振った。自分が知っていることなど、これまでの仲間たちが全て教えてくれたことだ。自分から調べたことなどほとんどないと言って良い。

「それで、そのホウライジ…王?の後は、誰がこの国を継いだんですか? 他の仲間たちは他の土地へ行ってしまったわけですし…」
「最終決戦に赴いたお仲間が勇者様と4人の強者と申しましても、勇者様には他にもたくさんの協力者がいらしたそうです。我が国の文献には、その様々な協力者様の伝記も多くございます」
「へえ…」
「旅の協力者様は多ければ多いほど後の戦いに有利になるとは、兵法のどの書にも記されております。今の龍麻様もそうでありましょう? 大勢の頼りになる、お強いお仲間様がいらっしゃるはず」
「あ、はい」
「ですから、後のサクラ王国を担ったのも、その時のお仲間のひとりでございます。二代目王は、その名をミサト様と…」
「ん!?」

 またしても聞き覚えのある名前で、龍麻はぎょっとした。「ミサト」と言って思い浮かぶ人間が、龍麻にはたったひとりしかいない。

「ホウライジ王とミサト王は、かつて恋人同士であったなどという逸話もありましてな。 ですから、本当はミサト王もホウライジ王と共に旅に出たかったのではないかと、まぁこのあたりは、国の女性たちが支持する恋物語に多く描かれております。 いずれにしろ、この二代目王・ミサト様が、以降サクラ王国の礎を築かれた。王は我が国の民のために、それはそれは素晴らしい善政を敷かれたのでございます」
「へ、へえ〜。善政を」

 何故かミサト王の話になった途端、老人の語り口調は熱を帯びた。どうやらミサト王の熱烈な「ファン」らしい。

「ミサト様は大変慈悲深く、女神様のような御方であったと、どの歴史書にも記されております。それゆえでしょうか、我が国は男性が王政を司ることも、ないわけではありませんでしたが、女王が治める時代の方が圧倒的に多いのでございます。……そして女王の御世は他国との戦もなく、平和であることがほとんどでございました」
「そうなんですか…。男の王様だと戦争になることが多かった…?」
「残念ながら。タカコ様の先代も…隣国に戦をお仕掛けになり、その後すぐに、御隠れになってしまわれました」
「おかくれに? え、何ですか、引きこもり?」
「先の王…正確には王子と聞いていますが、不慮の死を遂げたのでは?」

 壬生が始めて口を挟んできたので龍麻は驚いて振り返った。壬生はそんな龍麻を見ておらず、老人にのみ厳しい視線を向けている。
 龍麻はその壬生の顔を見ただけでぶるると震えてしまったけれど、老人は目が悪いのか、緩く首を振ってため息をついただけだった。

「他国ではそのように噂されているのですか…。王子はご病気だったのです。家臣たち皆が反対した戦をお仕掛けになられたのも、先々王が去られたことでお心が乱れ―」
「その先々王は何故戻らないのです? 存命なのでしょう? 姿を公に見た者は少ないと聞くが、この国の貴方たちなら、どのような人物かは勿論知っているはず」

 何故か壬生の追求が厳しい。ただの質問に思えない。龍麻がオロオロしていると、老人は逆にふっと微笑すらした。

「わたくしめには何とも…。ご自由な御方であったとうかがっておりますし、元々我が国の賢王はそのような御方である定めなのでしょう」
「貴方は先々代の王に会ったことがない?」
「ありませんな」
「長くこの城のこの仕事をしている者のように見えるが」
「わたくしめは、今年で18の、ぴちぴちギャルでございますよ…シシシシシ……」
「え!?」
「……やはりな。途中からおかしいと思った」
「え、何!? どういうこと!?」

 龍麻が老人と壬生とを交互に見やっていると、突然「ドロン!」という音と共に老人の周りが白い煙で覆われた。

「うわっ…何これ!」
「キシシシシ…。せ〜っかく、老獪なおじいさんの役を満喫していたのにぃ〜〜〜〜」
「う…裏密さんっ!?」
「ひ〜ちゃ〜ん。どうして壬生君とふたりきりなの〜〜? 京一君と来るかと思ってた〜〜。予想が外れて、く〜や〜し〜い〜」
「そ、それは…それより、こんなとこで一体何してんのっ!!」
「コスプレ&城内リサーチ〜〜〜」

 ミサちゃんこと、裏密ミサが現れた!!(※仲間です。)



 以下、次号…!!



  《現在の龍麻…Lv22/HP160/MP120/GOLD0》


【つづく。】
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