第146話 離れちゃだめ

  いろいろ忙しいから一緒に行けないとか言っていた「頼りがいのある仲間」裏密ミサちゃんは、王宮内でおじいさんに変装していた!

「裏密さん、ここで一体何しているの…!」
「だから〜コスプレと〜城内リサーチだってば〜〜〜」

 裏密はキシシシと不気味な笑いを浮かべた後、龍麻を指さしながらわざとらしく唇を尖らせて見せた。

「ひーちゃんこそ〜。どうして京一君と一緒じゃないの〜? これからこの国の呪いを断つお仕事しなきゃなのに〜」
「それは…こっちにもいろいろ事情があったんだよっ」
「どういう事情かは分からない〜というのは嘘で〜、分かるけど〜。勇者の選択ひとつひとつが、これからはより一層大事になるんだよ〜?」
「え?」
「各イベントでね〜どのお仲間を選んで行動するかは〜とっても大事なの〜。 だからミサちゃんだって、ひーちゃんと一緒にいたかったけど遠慮したし〜」
「え、そうなの?」
「前に〜ミサちゃんがあげたカード〜見てないね〜〜〜」
「え? カード?」

 一体何の話だろうと龍麻は首をかしげた。何せこの連載も3年以上もご無沙汰で、龍麻としても自分がどのようなアイテムを持っていたかなど、いちいち覚えていられるわけがなかった(ヲイ)。
 しかしそれを見越したのだろう、戸惑う龍麻にさっと近づくと、裏密は一流のスリさんよろしく、光の速さである物を龍麻の荷物から取りだした!

「あ、それは!」
「これは〜ミサちゃんがあげた〜【不思議なカード】〜。ひーちゃん、もう全然使ってくれなくてか〜な〜し〜」

 裏密はそう言うと、シャカシャカとたくさんのカードを器用な手つきで眺めていった。そうして、再び「キシシシ」とあの不気味な笑い声を上げた後、ある2枚のカードを取りだして龍麻に見せた。
 1枚は剣の絵柄が描かれた青のカード。
 もう1枚は―……。

「竜だ…。でも……真っ赤だ……」

 龍麻がそのカードを不安そうに覗きこむ一方、裏密はちらりと壬生の方を見やって竜のカードはすぐにしまい、剣のカードを投げつけた!

「うわっ」

 反射的に龍麻がそれを両手で受けとめると、裏密は「それは〜京一君のカード〜」と言った。

「このサクラ王国イベントはね〜。勇者様は、剣聖と行動を共にするのが吉と出ているの〜。つまり〜それは京一君のことでしょ〜?」
「そうなんだ…。でも俺、さっき京一のこと、怒らせちゃったんだ…」

 龍麻がションボリして言うと、裏密はずいと近づいてニヤリと白い歯を見せた。

「ひーちゃんは〜、自分が京一君に〜嫌われちゃったと思うの〜?」
「うん…たぶん。だって俺、京一と組まないって言っちゃったから。で、でもそれは、京一も悪いと思うんだよっ。自分か壬生か、どっちか選べなんて言ってさっ!」
「それでひーちゃんは〜壬生君を選んだ〜」
「うん…。だって壬生は呪いのことに詳しい賢者様だし…」
「壬生君はね〜。ミサちゃんと一緒よ〜」
「え? 何が?」
「化けるのが〜とっても上手って意味〜。ね〜〜〜?」
「……は?」

 龍麻が分からない様子で頭の上にハテナマークを浮かべるのを裏密は笑い、壬生は微かに眉をひそめた。
 しかし直後、くるりと踵を返してその場を去って行こうとする。

「え、壬生!?」

 龍麻が驚いてそんな壬生の後を追うと、壬生はすぐに立ち止まって「ごめん」と謝った。

「な、何だよ、どうしたんだよ、壬生?」
「彼女の言う通りだ。僕は少し調子に乗っていたみたいだ」
「え? 何が?」
「僕みたいな奴が、君の傍にいていいわけなかったのに」
「え?」

 壬生が呟く言葉をうまく拾えず、龍麻はただ混乱した。ただ、裏密の言葉で壬生が自ら身を引こうとしているのは分かったので、龍麻はとにかく壬生の手をぎゅっと掴んだ。
 壬生はそれに驚いた顔を向けたが、龍麻は構わず、敢えて強い口調で言った。

「カードはただの占いアイテム! 決めるのは俺!!」
「……龍麻、でも」
「でもじゃない、京一と喧嘩までして壬生に来てもらったのに、今さらどっか行くの!? ひどいだろ、それ!」
「この国だけじゃない、僕自身が呪いを…」
「そんなこともう知ってるし! 壬生が前話してくれたじゃん! だから、この国の呪いも解いて、壬生の呪いも解こうって言ったじゃん! だから一緒に来るの、壬生も!!」
「………」
「それで…。それで、でも、もし、京一に会えてさ…、京一が怒っていなかったら、今度は、ちゃんと3人で行動することを受け入れて。その方が絶対いいんだから」
「………」
「駄目なのかよ壬生! どうなの!?」
「……うん」
「何が『うん』なんだよっ!?」

 珍しく強気モードで龍麻が押すと、壬生はいよいよ観念したようになって小さく息を吐いた。
 そして言った。

「僕は龍麻に従うよ。彼とも…仲良くできるよう、努力する」
「……良かった」

 龍麻がぱあっと笑顔全開になると、壬生はその顔をまじまじと見つめた後、何故かまた小さく息を吐いた。
 それでも壬生は龍麻が握った手を振り払おうとはしなかった。
 そんな「賢者」の手の甲には、黒き龍の文様が薄っすらと浮かび上がっていた。



 以下、次号…!!



  《現在の龍麻…Lv22/HP160/MP120/GOLD0》


【つづく。】
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