第148話 くさってる。 |
サクマ組の領地へ行く途中、何人かが顔面蒼白で走って来るところに遭遇した。龍麻が何があったのか訊ねると、皆が口を揃えて、「奴等の様子がおかしい」と言う。 「いつものようにショバ代を持って行ったら…何だか、おかしいんです!」 「変な呻き声をあげている奴もいて!」 「奥の方は、同じ組同士で言い争う声も聞いたし!」 「とにかくやばい!!」 あんた達、悪いことは言わない、あそこへは行かない方がいい! 皆がそう言い、足をもつれさせながらも街へ逃げ帰って行く。龍麻はそんな彼らをただ見送ることしかできなかったが、壬生はそのうちの一人を捕まえると、国の警備兵をサクマ組の領地一帯に配備すること、これは「タツマ」からの伝言であると王宮の兵士に伝えるよう手短かに指示した。 「あ、ありがと、壬生…。そうだよな、何か分からないけど、危なそうだし…。街の人が近寄らないようにしないと…」 龍麻があたふたしながら礼を言うと、壬生は「龍麻の名前があるから、こういうこともすぐに頼めるんだよ」と言い、改めて龍麻の姿を見つめやった。 「な、何…?」 その視線に居心地の悪いものを感じ、龍麻がもじもじすると、壬生は「いや…」と口元だけで返事をした後、「その指輪と靴…」と後を続けた。 「龍麻の装備って、龍麻の仲間の人が揃えてくれたんだよね」 「え? あ、うん、そうだよ。美里って凄い人が、自分で経営しているお店の武器・防具から適当に見繕ってくれたんだ。何か、別の仲間が言うには、この装備は、今の俺のレベルには勿体ないくらい最高のものらしいんだよね」 「その指輪と靴も?」 壬生が取り立てて指摘したその二つのアイテムに、龍麻は驚いて目を見開いた。 「これは…違うよ。あ、靴は、美里が用意してくれたものだけど、ここについてる石、あるだろ? これの力で、この靴って、沼地や毒の場所でも普通に歩けるんだって! 指輪も、美里じゃない別の仲間から貰ったんだ」 「そうなんだ」 「これ…、やっぱり有名なの? だよね、勇者の〜なんて名前がつくくらいだし。俺もまだちょっと分不相応っていうか、こんな良いもの身に着けているのに気が退けたりもして。壬生はその、知ってたの? このアイテムのこと?」 龍麻がどことなく不安そうに尋ねたからだろうか、壬生はすぐにハッとなり、笑みすら見せてかぶりを振った。 「そんなに詳しいわけじゃないけど、噂に聞いていたくらい。勇者用のアイテムだとは知らなかった」 「そっか。そうだよな」 「ただ、とても強い光を発しているから、気になっただけ」 「え? 別に光っていないと思うけど…」 龍麻が不思議そうに足下や指を交互に目を向けるのを、壬生は黙って見つめやっていた。 そうしてやがて、気を取り直したように言う。 「どちらにしても、そんな最強装備なら安心だよ。どうやらこれから向かう先は危険なダンジョンになっているようだからね」 「うっ、やっぱり…危険な感じ…するよね…。勿論行くしかないけどっ。はぁ、サクマ組の人たちの様子もおかしいらしいし、変な呪いにかかっていないといいけど―…」 「龍麻」 龍麻の言葉を途中でかき消し、壬生はさっと片手で制すると、先方に立って張りつめた声で言った。 「向こうから誰か…何か来る」 「え…あ、本当だ…。サクマ組の、人、たち…?」 前方数十メートル先から、いやにゆっくりとした動作で、しかし5人、6人、いやもっとだろうか? 後ろから次々と、何やら呻き声をあげる男たちがよろよろとこちらに歩み寄って来る。 「な、何か…いやに遅いね…。それに、何であんな…酔っぱらってるのかな」 「……龍麻。彼らは人じゃない」 「え?」 壬生が庇うように立ってくれていることに安心感を抱きつつ、しかしその不穏な言葉に、龍麻はより一層目をこらして、徐々に近づいてくるその集団を見やった。 一歩、一歩。 確実に近づいてくる。 そして距離が縮まるほどに、その声も鮮明に届いてきた。 まだサクマ組の、元大貴族の領地の入口に辿り着いたばかりだ。幸い、周囲にもう逃げてくる人の姿はない。ただ広い野原とぽつぽつとそびえ立つ細い木々が手入れもされず乱立されている殺風景な場所。 しかし、いくら戦闘には好条件と言っても、好き好んで戦いたいわけではない。 しかもこの「集団」は。 「な、何なの、あれ…!!」 その姿をはっきりと捉えた時、龍麻は半ば悲鳴にも近い声を上げた。 それに対して壬生の声はいたって冷静だ。 「あれは…くさった死体だよ」 「え…ええええええ!!」 くさった死体の集団が現れた!!! 以下、次号…!! 《現在の龍麻…Lv22/HP160/MP120/GOLD0》 |
【つづく。】 |
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