第151話 カタカナにすると結構…? |
「そういえば、前に壬生と一緒に行ったのもお城だったね」 「そうだね。あの時の龍麻は、最初ちょっと頼りないと思ったけど、実際は凄かった」 「え、えーっ、何言ってんだよっ。俺、あの時は壬生や芙蓉さんに頼りっきりだったし」(村雨は) ……さきほどからイチャイチャカップルのごとく、お互いを誉めまくる龍麻&壬生。これを見ているゾンビたちも砂吐き状態である。 しかしいつまでも呑気にイチャコラしている場合でないことは明白だった。サクマ組のアジトであるはずのそこは、やはりくさった死体(ゾンビ)たちの巣窟と化していたのである。元・王族の城なだけあり、巨大な回廊が全てモンスターで占められることはさすがになかったが、ゾンビとのエンカウント率はとてつもなく高かった。生きている人間も見当たらず、どう考えてもサクマ組の者たちがこのゾンビになったとしか思えない状況だ。 つまり、事態は思った以上に深刻ということだ。 また城の中は、その奥へ進めば進むほど、薄暗くなっていく…。 「うう…っ。これじゃ横から突然リビングデッド佐久間が飛びかかってきても、直前まで見えないかも」 「大丈夫だよ、龍麻。君は僕が護るから」 壬生はそう言ってくれるが、龍麻としてはその言葉にただ甘んじるのは勇者がすたるというか、単純に抵抗があった。 「俺も戦うって言っただろ。壬生は俺を甘やかし過ぎ! 俺だって頑張らないと!」 「龍麻はいつでも頑張ってるよ」 「も、もーっ。だからそんな風に優しくされると嬉しいんだってば!!」(嬉しいんかい) 「おいテメエら…」 「ぎゃっ!?」 龍麻と壬生が第2弾イチャコラをかまそうとした、その時だ。 「な、何だ…? 誰!?」 突然通りの曲がり角からぬうっと姿を現してきたゾンビがいた。暗闇ではっきりとは見えないが、ゾンビは松明を持っている! のそりとその姿を半身まで現したゾンビは、壬生と、たじろいで壬生の陰に隠れた龍麻とをじろじろと見やった。 「かかか勝手に…俺らの、シマを荒らしやがって…。どどど、どういう…つもりだ…」 ゾンビはいちいちどもりながら、そしてだらだらと緑色の液体を口から垂らしながら龍麻たちを恫喝した。しかし声は限りなく掠れ、はっきりとは聴こえない。ゾンビが話しているのだから当然だろう。 「というか、くさった死体って喋れるの!?」 龍麻が驚愕して壬生の腕を揺さぶると、壬生はあくまでも前方のゾンビを見据えたまま、さすがに惑った風に首を振った。 「人語を操れるモンスターは初めて見るよ…」 「ひえっ…。じゃあ、新種のゾンビ!? あ、でも、よく考えたら、佐久間もカタコトだけど人語喋っていたよ!?」 「だだだ…誰がゾンビだ、コ、コラア〜〜〜…!」 どこからどう見てもくさった死体にしか見えないゾンビは、龍麻たちの「失礼」な発言にぷんぷんと憤った。 そうして、くいと顎をしゃくり、こちらへ来るよう示唆する。 「ま、まま、まぁいい…。おおお俺らの、ボスが、おおお呼びだ…。ついて、こここい…」 「え…ボス?」 龍麻が驚いて壬生を見上げると、壬生も事態が分からないという風に眉をひそめた。 けれどどうやら松明ゾンビは自分をゾンビとは認めていないし、「ボス」の所へ連れて行くと言う。それなら、それは龍麻たちにとっても願ってもない話であり、黙って後をついて行くことにした。 すると、あれだけ龍麻たちに襲いかかってきていたゾンビたちの姿は、ぴたりと見えなくなってしまった。 ****** 「お前が勇者・緋勇か」 真っ赤な玉座で足を組む男。果てしなく似合っていないが、男は豪華な貴族の服に身を包んでいる。 龍麻達が通されたのは、恐らく謁見の間。ここに棲んでいた元王族が万客を迎え入れたであろう、巨大で豪華な広間だった。 しかしそこにあるビロードの敷物や天幕はすでに薄汚れ、男が坐している玉座も古ぼけて見えた。柱も幾つかは折れて崩れているし、大理石の床にもヒビが入っている。荒れ果て、朽ち始めて何年か経っていることは明らかだった。 それでも玉座の男は龍麻たちを案内してきた「ゾンビ」とは間違いなく違う、「人間」と分かる風貌をしていた。目つきは恐ろしく悪く、口元も歪んでいるが…。そして小柄な身体はごつごつといかにも硬そうだが、やや固太りである。お世辞にも「王族」という風ではない。どこからどう見ても「ヤクザの親分」だ。 その親分が壬生を見ながら続けた。 「気に食わねえツラしやがって。勇者ってのはぁ、代々そういう見てくれになるものなのか? ケッ、面白くもねえ…」 「何か勘違いしているようだ。僕は勇者ではない」 そんな親分に壬生は自らの背後にいる龍麻を顧みながら堂々と言った。 「彼が勇者だ」 「……あん?」 「ど、どうも…。はじめまして…」 確かに、壬生と一緒に並んだら勘違いされるのも無理はない。しかし改めて「勇者に見えない」ことが白日の下にさらされて、龍麻はとても恥ずかしかった。そのため、余計おずおずとした様子で壬生の背後から小さく挨拶することしかできなかった。 親分の眉毛がぴくりと吊り上った。 「テメエが勇者だ?」 「は、はい…。親分さんは、サクマ組の組長さん…?」 「あぁ!?」 「ひえっ。 いやだって、ここはサクマ組の領地だって…!」 「組長なんて俗な言い方してんじゃねェッ! 俺ンとこの家はな…代々、この国を仕切ってきた由緒ある貴族の出だ。今の俺も立派な王侯貴族だ。勇者だか何だか知らねェが、頭が高ェんだよ」 「え…でもその割に、ここ…ゾンビの巣窟みたいになってますけど…」 「テメエ…殺されてェのか…」 「ひっ! ごご、ごめんなさいっ。でもっ。このお城もこの周りも大変なことになっているし! サクラ王国の人たちも驚いて逃げ帰ってたんですよ!? 俺たちも襲われたし! 貴方がやったのでは!?」 龍麻のまくしたてるような早口に、親分の不快に満ちていた表情がすうっと消えた。 それから、睨みをきかせているのは変わらないが、どことなく珍しいものを見るような目つきになる。 やがて親分は口を開き、淡々と答えた。 「確かに、ここのリビングデッドを俺は操れる…。だが、お前らがあいつらに襲われたんなら、そりゃあ、お前らが俺らの敵だと見なされたからだ。俺ァ、俺に逆らわねェ奴を襲えとは命じてねえ」 「は…はぁ…?」 「現に、俺の家臣どもは無事だろうが。テメエらを案内してきたのも俺の忠臣だ」 あのどこからどう見てもゾンビにしか見えなかった男が忠臣? 確かに松明を持ち、人語を操ってはいたが…。龍麻が男の姿を探すと、なるほどその忠臣は龍麻たちの背後に立ち、親分に目線を送られると、恭しく頭を垂れた。…口元からだらだらと緑の粘液を吐き零しながら…。 明らかに異常である。 親分はこの状況を何とも思っていないのだろうか? 「君は自分が呪いにかかっていることに自覚があるの」 壬生がぞんざいな態度で親分に問いかけた。玉座で頬杖をついていた親分は再び殺気だった眼光を過ぎらせて、壬生に剣呑な視線を向けた。 「何だと…?」 「このまま放っておけば、君の呪いはこの城だけでなく、サクラ王国全体にも広がっていく。その影響はすでに出始めている」 「………」 「自覚があるから僕たちをここまで呼びつけたのでは?」 「……王侯貴族であるこの俺様に、随分と無礼な口をきくじゃねェか。 テメエは勇者じゃねーんだろ? だったら何者だよ」 「呪いに名乗る名は持たない」 「あぁ!?」 「み、壬生…っ。この親分さんを逆撫でしない方がっ」 「大丈夫だよ、龍麻」 自分の袖口を引っ張りながら止めようとする龍麻には優しく微笑し、壬生はしかし親分には冷た過ぎる眼光を向けた。 「どうしても知りたければ、まず君が名乗るんだね。君が僕たちに助けを求める気なら尚更だ」 「…クソが…俺がテメエらみてえな下賎の民に助けを求める、だと…?」 「違うのかい」 「………」 「恐らく君の呪いを解けるのはここにいる勇者・龍麻だけだよ。さぁ名乗れよ」 「……いいだろう」 親分はふうと大きく息を吐き、ぐぐと玉座の肘掛を握りしめた後、勢いよく立ち上がった。それでもやはり「呪い」とやらに掛けられてどこか体調が悪いのか、すぐにふらりと倒れかけたのだが―…。 「あっ、大丈夫…!?」 龍麻がそれを見て咄嗟に駆け寄ろうとするのを、素早く壬生が押さえて止めた。龍麻はそんな壬生に焦った顔を向けたが、壬生は黙ってかぶりを振るだけた。 一方、親分の方は龍麻が自分にかけてきた優しい言葉に明らか戸惑ったような色を見せた。 しかし改めてその場ですっと背すじを伸ばすと、親分は威風堂々名乗ったのだった。 「俺の名はイゾウ……サクマ・イゾウだ……」 以下、次号…!!! 《現在の龍麻…Lv23/HP180/MP135/GOLD100》 |
【つづく。】 |
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