第152話 イゾウのフィアンセ |
イゾウ・サクマと名乗った親分は、その凶暴な容貌には似つかわしくない青白い顔で龍麻を睨みつけた。 「呪いだ何だ、そんな戯言は信じちゃいねェが、俺がテメエら他所もんに用があったのは事実だ…」 「用…? 何ですか、それは…」 気づけば親分・イゾウは少し喋っただけだというのに、ハアハアと苦しそうに息を継いでいた。なるほど確かに壬生の言う通りだと龍麻は思った。周りの人間だけではない、このイゾウ親分も常軌を逸している。それが呪いにかかっているというのなら納得だった。 本人にはやはり自覚がないようだったが。 「俺は、ある女を探している」 「女…の人、ですか?」 「ああ…。俺のフィアンセだ…。数年前に行方知れずになった」 「フィアンセ…」 王侯貴族なら婚約者がいてもおかしくはない。しかし何とも似合わないセリフだと龍麻は思った(失礼)。 「全てはあいつが俺の元からいなくなってからだ…。それから俺の人生は…狂い始めた。何をやってもうまくいかねェ、俺はあいつを取り戻したい…何としても」 「行方知れずってどうして?」 龍麻が訊ねるとイゾウ親分はぎりりと歯軋りし、酷く悔しそうな顔を見せた。 「全ては勇者緋勇…テメエのせいだろうが…」 「えっ、俺!?」 「あいつは…正義感の強い女だった。ある時とつぜん、『世界がおかしくなりかけている』と言ってな…。この国の、世界の為に、伝説の勇者を探す必要があると言った…。それがサクラ王国にいる、この血筋を持つ者の務めだと…自らの危険も顧みず、あいつはこの国を出ていった。…俺は止めなかった。あいつの自由を奪う男ではいたくなかった…」 「へ、へえー…かっこいい…」 「あ!?」 「ひえっ! いや、その、親分のフィアンセって人も親分も…っ。カッコイイなと思って! だって、数年前にはすでにこの世界の異変に気づいて、勇者を探そうと思っただなんて! そうしようとするフィアンセさんを止めないで旅に送り出した親分さんも懐が大きいって言うか! すごいなって!!」 「………」 最初こそ睨まれてびびった龍麻だが、素直に感じたその気持ちを一生懸命吐露すると、イゾウ親分は黙りこみ、隣の壬生はなぜか「やれやれ…」という風に嘆息した。 暫ししんとした空気が3人の周りを漂う。 「おい、緋勇…」 「へっ、あ、はい!」 「俺は親分じゃねえ…。さっきも言っただろうが…んな俗な呼び方、今度しやがったらぶっ飛ばすぞ…」 「ひえっ、ごめんなさい! で、でもその喋り方がすでに…!」 「ああん!?」 「ぎえっ、睨まれると怖い! 妙に怖い!」 「龍麻、僕の後ろへ」 龍麻が異様にイゾウ親分に恐れおののくのを見て、壬生はさっと龍麻を隠した。それにぴくりと怒筋を浮かべたのはイゾウ親分だが、壬生は勿論構わない。龍麻を庇うようにさり気なく自らの背後へ彼を立たせ、それから毅然としてイゾウ親分へ向き直る。 「それが人に物を頼む態度かい? 何はともあれ、君は人探しで僕たちをここへ呼んだと?」 壬生の質問にイゾウは椅子に身体を寄りかからせた格好ながら「ああ…」と絞り出すように声を上げた。 「俺のフィアンセは慈愛の女神の加護を受けてる…。あいつがいなくなってから、俺の領地に棲まう人間は皆覇気がなくなり、血の気も失ったように生ッ白い顔になっちまった。この俺も含めてな…」 「ゾンビそのものですよね…」 龍麻の小さな呟きは、しかしこの時、幸いにも親分の耳には届かなかった。 「だがあいつが戻れば…俺たちは元に戻れる。あいつは治療魔法にも長けていたからな。お前が本物の勇者かどうかはどうでもいいが、噂の勇者様が現れたってんなら、もうあいつが旅をする必要もない。俺はあいつを連れ戻したい。何としても」 「でも…今は、どこにいるかも分からないんですよね…?」 龍麻が言うと、イゾウ親分は気分の悪さを払拭するようにぶるぶると頭を振り、それから絞り出すように口を継いだ。 「お前ら、世界各地を旅して来たんだろう。あいつの噂くらい聞いているはずだ。あいつは…アオイは、女神の化身…どこへ行こうが、嫌でも目立つはずだからな」 「え…? アオイ?」 「テメエ…俺の女を呼び捨てにしやがるか…!」 「いやっ、ちょっと待ってちょっと待って! え、えええ!? も、もしかして…!? その女神様の御名前、それって!!」 「…龍麻?」 壬生も不思議そうに首をかしげた。龍麻だけがその場でわたわたとしている。 「イゾウ親分、そのフィアンセのお名前、もう一度教えて!」 「……気安く呼ぶなよ。いいか、よく聞け。俺の運命の女…その女の名は、アオイ。…アオイ・ミサトだ」 何と前号と同様、名乗るだけで1話が終わってしまった! いいのかそれで!? 以下、次号…!!! 《現在の龍麻…Lv23/HP180/MP135/GOLD100》 |
【つづく。】 |
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