第62話 人質になったら…

  はっきり言って龍麻は1匹のモンスターとでさえ、まともに戦えるだけの力がない。
「 このレベルだって戦闘時に皆にくっついてたお陰だもんな…」
  龍麻自身、自分の弱さくらい認識している。だからこんな多勢に無勢、どう考えてもピンチな状態を前にして、退路があるものなら素直に逃亡したいというのが本音だった。
  しかし外への扉は堅く封じられたままだ。
『 ギシャアア!!』
  じりっじりっと。
  モンスターたちは龍麻を取り囲むようにして、その鋭い爪と牙をちらつかせながら迫ってくる。龍麻はヒヤリと冷たい汗を流しながら、意を決して片手を挙げた。
  そう、こうなっては最早できる事はただひとつ。
「 ラリホー!」
  龍麻はラリホーを唱えた!!
『 ギシャ!? キシャ……zzzzzz…』
『 zzzzzzz……』
  モンスターAを眠らせた!!
  モンスターBを眠らせた!!
  その他もろもろ眠らせた!!
「 や、やった!! 効いたっ!!」
『 ギシャアアア!!』
「 ぎゃー!! 効いてないやつもいたー!!」
  龍麻、やけくその2連続攻撃!!
『 キシャアーーー!!』
  龍麻はモンスターに10のダメージを与えた!!
  モンスターは体勢を崩した!!
「 よっし、勝てる!!」
  龍麻はぎゅっと拳を握り締め、その手ごたえに思わず歓声をあげた。正直なところ、この間覚えたばかり(しかもたまたま)の魔法を唱えて成功する自信は皆無だった。龍麻は自らの貧相な拳以上に自分の魔法力というものに疑わしさを持っていたから。
  しかし今、全員には効かなかったものの、その魔法のお陰で形勢は一気に逆転。これは案外、いや元々自分は魔法が使えるタイプなのかもしれないと龍麻は思った。
「 も、もっと何か、唱えてみようかな…?」
  龍麻は調子に乗った!!
  龍麻は適当に魔法を唱えようとしてみた!!
「 何でもいいから攻撃魔法出ろー!!」
  すると。
『 シャアーーーー!』
『 キシャアアーー!』
  モンスターが現れた!
  モンスターが現れた!
  またしても続々と地下階段から魚人モンスターが姿を現した!!
「 わー!! 何なんだ一体〜!!」
  龍麻はモンスター寄せ、《口笛》を覚えた!!
「 またこんな使えないものを〜!」
  龍麻はだっと再びドアに向かってドンドンとパンチを食らわし、何とか脱出しようとした。けれどもやはり扉はびくともしない。どう考えてもあの水岐がこれに魔法をかけたとしか思えない。
「 くそーどうしたらいいんだ…っ!!」
  ピロリ〜。
「 !?」
  しかし、その時だった。
  不意に扉の向こう、外から怪しげな笛の音が…そう、あの水角が鳴らしていた笛の音が聞こえてきたのだ。
「 あ…?」
『 キシュウウー…』
『 シャー……』
  モンスターは眠りについた!!
  モンスターは眠りについた!!
  全てのモンスターが眠りについた!!
「 こ、これは…」
「 ほほほほほ…。緋勇の坊やは無事かえ?」
「 す、水角さんっ!?」
  龍麻が驚いた声をあげドアに耳をつけるようにして外の様子を伺うと、すぐそこからは楽しげな声が響いてきた。
「 ほほほ…。坊やがあんなおかしな鎧男をわらわにぶつけて行くから、ここへ来るのがすっかり遅くなってしまったよ…。でも、坊やが醜い魚人に殺される前に来られて本当に良かった…」
「 水角さん、あ、紅井は…!?」
「 ん…あのヒーローかぶれはお仲間と一緒に眠らせてやったよ…。ほほ、わらわ1人ではちとてこずったが、なあに、わらわたち5人衆が揃えば敵ではない…」
「 ご、五人衆…」
「 うおーい、ひーちゃん様無事かー!?」
「 イエッ! ひーちゃん様、助けに来たぜ来たぜ来たぜイエ!」
「 ひーちゃん様、雷角でございます。このような魚人の巣窟などに閉じ込められておかわいそうに…」
「 うおーひーちゃん様、腹減ったがー?」
「 き、鬼道衆さん…」
  忘れようにも忘れられないキャラの濃い5人の声を次々に聞き、龍麻はやや呆然としながらドアに身を寄せていた。
  そんな中、唯一人冷静らしい水角が1つ笛を吹いた後、龍麻に言った。
「 坊や…いえ、ひーちゃん様は…ここから出たいよねえ?」
「 う…うん…?」
「 それじゃあ…ちょいと協力してもらおうかねえ…?」
「 え、協力って…?」
「 わらわたちはね…」
  言いかけて水角は再び笛を吹いた。
「 !?」
  すると龍麻は自身が、否、小屋全体が何か不思議な力に囚われ包まれるのを感じた。
  奇妙な生温かさが龍麻を襲った。
「 な…これ、な、に…?」
「 ひーちゃん様、ごめんなあ。けど俺ら、いい加減任務を果たさないと御屋形様に怒られるんだよー」
  風角の能天気な声がぼうっとする龍麻の耳に微かに届いた。
  そして。
「 あの飛水の…玄武の鍵を奪う為に、ひーちゃん様には人質になってもらうよ…」
「 う…」
  水角の氷のように冷たい声がズルリと床に倒れ伏した龍麻の元に届いた。
  飛水。
  玄武。
「 き…さらぎ…?」
  瞼が重い。ここで眠ってはいけないと分かっているはずなのに、龍麻にはもう逆らえなかった。まだ何もしていない。それどころかこんな風に鬼道衆たちの人質になどなったら、また皆に迷惑をかけてしまう。
  このままでは。
「 如月……」
  龍麻は口元にその名を浮かべ、しかしその後はもう言葉を続ける事ができなかった。



  《現在の龍麻…Lv13/HP58/MP50/GOLD7490》


【つづく。】
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