第64話 退ける心 |
「 なあ岩角さん…だったよね? ねえ、お願いだからここから出してくれよ!」 「 駄目だどひーちゃん様、出せないど。そんな事したら、おで皆に叱られる」 「 君が俺を出してくれた事は内緒にしておくからさ! なあ頼むよ!」 「 駄目だど。その手には乗らないど」 「 う〜」 遠くの方から何やら凄まじい轟音が聞こえている。 龍麻は逸る気持ちを必死に抑えながら、先刻から見張りの岩角に向かってここを開けろと叫び続けていた。しかし、岩牢の前にズンと立ちふさがる岩角はまるで取り合おうとしない。 「 如月…本当に来てくれたのかな…。鬼道衆さんたちと戦ってる…?」 「 うん、多分戦ってるど」 龍麻の呟きに呼応して岩角がうんうんと頷いて腕組をした。 「 徳川の犬の飛水はおでたちの天敵。あいつはおでたちがしようとする事をいつも邪魔する嫌な奴なんだど!」 「 ……岩角さんたちがしてる事って何」 「 ん〜、徳川の国とがその近くの村に呪いをばらまいだり、地下神殿にある銀を運んだりしているど!」 「 す、凄い悪い事じゃないか!!」 ガチャガチャと岩牢の鉄柵を両手で揺らしながら龍麻は怒声をあげた。 九角国という豊かな国が昔徳川に滅ぼされたという事は、その九角の生き残りである天童に聞かされ知っていた。そのせいで彼らが徳川を怨んでいるらしい事も。 しかし、だからと言って彼らが今この土地に住んでいる徳川国の人々に呪いを掛け、世の中を混乱に陥れているというのなら、それは昔九角国を滅ぼした徳川と何ら変わらぬ非道な行為になってしまうのではないだろうか。 龍麻は眉をひそめ、思い切り責めるような目で岩角の背中に向かって怒鳴った。 「 なあ、そんな事やめろよ! どんな呪いを掛けているのか知らないけど、徳川の人たち困ってるんだろう?」 「 うん、いっぱい困ってるど! でも、元々はあいつらの王様が悪いんだど。おでたちの国を滅ぼした。おでたちの宝物も奪った!」 「 宝物…?」 「 おでたちの国、銀ぴかな石、たくさん出た。それ欲しくて徳川おでたちの国襲った」 「 ………だから今盗み返してるってわけか」 「 違うど! あれは元々おでたちの物だど!」 岩角はどしどしと地団太を踏んでから、やがて懐から何やらひどく底光りする金の勾玉を取り出した。 「 ……? 何、それ…?」 「 これあるど、おでたち元気になる! これでおでたちの物盗んだ徳川の役人、化け物に変えるんだど!」 「 ……!?」 ひどく禍々しいものを感じて龍麻は言葉を失った。 「 これで殺すど! 奴らを殺す!」 そしてそれを鬼面ごしに見つめる岩角の氣が不意に邪悪なものに変わった。先刻まで無邪気な子どものような話しぶりだったのに。 けれど、今は。 「 岩角さん、あの…!」 何だか今の岩角はコワイ。龍麻はじりと一歩後退し、興奮している巨体の背中をじっと見つめた。呼びかけたは良いものの、一体どうして話したら良いか分からない。 それでも自分の気持ちは言わなければと、龍麻は必死に言葉を継いだ。 「 ……俺、やめて欲しいんだ。そんな事…」 「 おでたち鬼道衆! 徳川を滅ぼす!」 「 ………」 しかし岩角はまだ叫んでいる。どこかおかしい。それは分かったが止められなかった。 「 徳川を殺す! 破壊! 壊す!」 「 〜〜〜!」 けれど殺伐とした言葉を叫ぶ岩角の声に、瞬間龍麻はカッと身体を熱くした。ほとんど反射的に叫んだ。 「 岩角さん、もうやめろってば!!」 ピカー!! 龍麻から陽の光が放出された!! 「 ……!!」 すると岩角はぴたりと口を閉じ、動きを止めた。 龍麻はこちらをゆっくりと振り向く岩角を恐る恐る見つめた。 「 岩角さん…?」 「 岩角!」 その時、戦闘の音らしきものが聞こえていた方向から、風角が切羽詰まった声と共にやってきた。 「 やべーぞ、やべー! 俺たち劣勢!」 「 ………」 「 ひー、もー一張羅が台無しっ。とにかくやべー!」 「 風角! おでたち、悪くないよな!?」 「 ん…何だよ急に。どうした?」 息せききって慌てまくっていた風角は、しかし突然自分に縋りつくようにして声を発した岩角を不審気に見やった。 岩角は何やら泣きそうな声で風角に訴える。 「 ひーちゃん様がおでの事怒ったんだ! おでたち、悪い事しでるって!」 「 ん……」 「 あ…だ、だって俺…」 風角が現れたからだろうか、先刻まであった岩角のオーラはいつものものに変わっていた。 心の中で安堵しつつ、しかし龍麻はすぐに改まって風角に向かって声を切った。 「 風角さん、お願いだよ! こんな事もうやめよう!? 徳川と九角が仲が悪いのは分かったけど、こんな風にして大昔からの因縁をずっと引きずって戦うなんて…。復讐からは何も生まれないだろ!?」 「 ……あん? 何か話が見えないが…」 ぽかんとしている風角に龍麻は焦れたように身体を揺らした。 「 だからー! 徳川への復讐で国に呪いばらまいたり、銀を盗ったりって事!!」 「 ああ…だって銀は元々俺たちの物だし」 「 呪いのことは!?」 龍麻が再び岩牢の鉄柵にしがみついて詰問すると、風角はまるで悪びれずに首をかしげて見せた。 「 だってあいつら悪者じゃん。悪者は淘汰されて然るべき!」 「 そ、そんな! だって…関係のない子どもやお年寄りだってあの国にはいるんだよ!?」 「 あうち〜。それ言われっと痛いけど〜。けど、んな事言うなら俺らの国の民だって戦えない奴らも何もかも、関係なしに皆あいつらに殺されたぜ。そう、だからそんな最悪な徳川一族を王に崇め奉ってるあの国の奴らも何も責任ないとは言えないよなあ、結局は同罪だ。ごめんな、ひーちゃん様」 「 ふ、風角さん…」 あまりにも平然と、そして当然のようにしてそう言う風角に龍麻は一瞬呆気に取られた。 そしてこの時はっきりと分かってしまった。 彼らとは決して相容れないと言うこと。 「 でも……」 それでも龍麻は最後の望みとばかりに声を出した。 「 でも俺…。鬼道衆さんたちとも、如月とも戦いたくないんだよ…?」 「 風角〜貴様何をしておるのだ〜!!」 その時、今度はボロボロに傷ついたような雷角が現れた。 ゼエゼエと息を切りながら恨めしそうな声を出す。 「 わしたちが放った魚人もほぼ壊滅状態…! 飛水め、どんな魔法を使っておるのか、そらもう恐ろしい強さだぞ! は、早くひーちゃん様をここからお連れして逃げないと…!」 「 あ、そうだったそうだった!」 風角はぽんと手を叩いた後、くるりとまた龍麻を見て明るい声で言った。 「 ならさーひーちゃん様。ひーちゃん様は戦わなくていいよ。俺たちのお城で御屋形様と一緒にいてくれればさ♪ な、戦いのこととかは俺らに任せておけって」 「 な…」 「 それより早く逃げねーとやべー! おい岩角、牢を開けろ。雷角、あとどれくらい持ちこたえられそうなんだ?」 「 分からん…! 今炎角が怪しい魅惑のダンスで奴をひきつけておるが…。水角は魚人を操作して大分疲れておる…。くそ、あの水岐め、こんな時に何処へ行ったのか…!」 龍麻がただ茫然と2人の会話を聞いている間に、岩角がガチャリと牢の鍵を開けた。 「 ……!?」 その時、ジャラリと岩角の腰元で揺れたその他の鍵群に龍麻ははっとして目を見張った。 そこには見紛う事なき白虎の鍵があった!! 「 あ…!!」 「 ひーちゃん様、開いたどー。出て出て〜」 「 ………」 「 どうした、ひーちゃん様?」 ぶちり。 「 取ったー!!」 「 あー!!」 龍麻は力任せに岩角の腰にぶら下がっていた白虎の鍵を奪い取った!! 龍麻は4神の鍵の1つを取り返した!! 「 ひーちゃん様、何するんだどー!!」 「 ひーちゃん様、何をなさいます!?」 「 ひーちゃん様、どうしたんだよー!!」 驚愕する岩角たちに龍麻は牢から飛び出すと距離を取り、じりじりと後退した。足枷が重いが何とか歩ける。 「 う、煩い! 風角さん、雷角さん! 貴方たちも4神の鍵を持っているね!? それを俺に渡して!!」 「 それはできないよひーちゃん様〜」 「 左様…。そのような事はできかねますな…」 「 そ、それなら、俺は…」 『 君たちと戦う…!』 龍麻がそう言葉を切ろうとした時だった。 「 ならば力ずくで取り返すまでだ」 突然投げられたその声に龍麻は驚いて振り返った。 「 如月…!!」 「 ……無事か、緋勇」 如月はちらと龍麻に視線を寄越しそう言った後、手にした剣を鬼道衆たちに掲げ再び口を開いた。 「 覚悟しろ。今宵の我来也はよく斬れる…!」 《現在の龍麻…Lv13/HP58/MP50/GOLD7490》 |
【つづく。】 |
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