第65話 最後の鍵 |
「 如月!」 轟音鳴り響く地下洞窟の中、龍麻は自分の元に現れた如月の名を呼んだ。 どくんどくんと心臓の音が激しく鳴り響く。鍵を握った手のひらがじんじんと痛かった。 「 お、おのれ徳川の狗めが〜!!」(by雷角) 「 お、お前っ、おいしいとこ取り過ぎ〜!!」(by風角) 「 炎角と水角はどうしたんだど〜!」(by岩角) 「 雑魚は向こうで眠っているさ」 無機的な目で如月はそう言い、それから龍麻に目だけでこちらに来るよう促す。 龍麻は言われた通りダッと如月の傍へ駆け寄り、その後ろへすかさず隠れた。瞬間、ガシャリと音がして足首にまとわりついていた足枷が取れた。如月が刀で斬ってくれたらしい。 「 あ、ありがと…」 「 傍を離れるな」 「 うん…!」 しっかと頷く龍麻。 これに一斉に歯軋りし始めたのは勿論鬼道衆たちだ。 「 ああ〜ひーちゃん様、何故にそのような奴の所に〜!!」 「 ひーちゃん様、やっぱり玄武の愛人だったんじゃないかよ〜!!」 「 ひーちゃん様、鍵返しでぐで〜!!」 雷角たちは口々に龍麻に不平を述べ、同時に2人を取り囲むようにして接近してきた。 「 ……緋勇」 如月がそんな3人を前に張り詰めた空気を漂わせながら片手で龍麻を匿うような仕草を取った。 「 き、如月…?」 はっとする。 如月は腕から血を流しており、身体に幾分かのダメージを負っているようだった。 「 如月、怪我…っ」 思わず口走ったが、それを制するように如月の龍麻を押さえつける腕に力がこもった。視線は相変わらず鬼道衆たちに注がれている。 龍麻は息を呑んだ。 そうだ、おちゃらけているとはいえ、彼ら鬼道衆がただならぬ《力》を持っている事は龍麻にも分かる。そんな相手が3人もいるのだ。ましてや如月はたった今炎角や水角、そしてあの正体不明の魚人たちを相手に一戦交えてきたはずなのだ。疲弊していないわけがなかった。 それもこれも全ては自分を助ける為に。 「 ……如月」 固く唇を噛みしめてから、龍麻は如月の腕をぎゅっと掴んだ。如月は龍麻を見ない。片手に持つ刃の鋭い忍刀が妖しく光り輝いている。これで一体どれほどの血を流し、そして如月自身傷ついてきたのだろうか。 「 嫌だ…」 龍麻は呟いた。 「 もう…嫌だ…」 戦って欲しくない。如月にも、この鬼道衆たちにも。 「 覚悟しろ! 風角、岩角、いざ行くぞ!」 「 おー!」 「 いくどー!!」 「 やめ…」 しかし龍麻がそう強く思ったのと同時、雷角たちが一斉に如月めがけて襲いかかってきた!! 戦闘が始まった!! 雷角、風角、岩角が現れた!!(ババーン) 「 嫌なんだ〜!!」 しかし、3人が攻撃を仕掛けてきようとした時、龍麻はめいっぱいの声を張り上げ、叫んでいた。 龍麻の未知なる攻撃!! 「 ぐ…わああああ!!」 「 どわあああああ!!」 「 ぐおおおおおお!!」 雷角、風角、岩角に大ダメージ!! 雷角、風角、岩角は3人いっぺんに岩牢の方向へ吹っ飛ばされた!! 「 緋勇…!?」 「 もう…嫌なんだ…!」 龍麻は如月の驚いたような呼びかけにも応えない!! 龍麻は混乱している!! 「 ……封」 如月の攻撃!! 如月が魔法を唱えた!! ガッシャーン!! 岩牢の扉は固く閉ざされた!! 「 う…ぐぐぐ…?」 「 はっ…! し、閉まった、閉じ込められたぞ〜!!」 「 痛いど…何かお尻がじんじんするど…(涙)」 「 な…何と…!!」 雷角、風角、岩角は岩牢から出られない! おまけに立ち上がっても最早HPはゼロに近い!! 3人は戦闘不能に陥った!! 3人を倒した!! 経験値1500を獲得、13ゴールドを手に入れた!! チャラララッチャッチャッチャ〜!! 龍麻はレベルが上がった!! 龍麻はレベル14になった!! チャラララッチャッチャッチャ〜!! 「 え…!? 嘘…」 龍麻は更にレベルが上がった!! 龍麻はレベル15になった!! 龍麻はキアリーを覚えた!! 戦闘終了……。 「 ぐ、ぐおお、開かん…! どういう事だ〜!!」(ガシャガシャ!!) 「 何〜!!? もしかして、こ、ここれで終わりかよ〜!!!」 「 おで、何も戦ってないど…」 あまりの事態に3人は痛みに呻きながらも命に別状はないらしく、困惑し、しきりに喚き散らしている。 龍麻自身もボー然としてその様子を見やった。 「 お…俺…一体…」 「 緋勇」 すると如月がすかさず声を掛け、龍麻の腕を掴んだ。 「 考えるのは後だ。早くしないと…」 けれど如月が言い終える間もなく、「その2人」は再びよろりとしながら現れた。 「 イ…イエイエイエ〜。飛水、逃がさないイエ〜」 「 そ、そうだよ飛水…! さっきは油断をしたが、あたしら5人衆を前にしては、さっきのようにはいかないよ!」 炎角と水角が現れた!! 戦闘が始まった!! ………しかし。 「 邪魔だ」 如月の攻撃!! 会心の一撃!! 「 ぐお〜っ!? やられたいえ〜!」 「 きゃあああああ!!」 炎角と水角に徹底的なダメージを与えた!! 炎角と水角を倒した!! 経験地1000を獲得、7ゴールドを手に入れた!! 戦闘終了……。 「 あの…(汗)」 「 イエイエ〜痛いぜイエ〜。やっぱこいつ強いぜイエ〜」 「 うぐぐ、炎角…アンタ踊りで奴を引き止めなさいよ……」 「 駄目だぜイエ〜…」 「 行こう、緋勇」 足元に転がり呻く炎角、水角を完全に無視して、如月は龍麻のことをぐいと引っ張った。 「 う、うん…」 龍麻は後ろ髪を引かれる思いながらもそんな如月に従った。よくは分からないが、彼らとの戦闘はあっという間に終わってしまった。それならばすぐにここを立ち去りたい、そう思った。 しかし去る間際、岩牢に閉じ込められた風角がそんな龍麻の背中に向かって声を投げた。 「 ひーちゃん様…。ひーちゃん様自身で見てみれば分かるよ…。徳川の汚さをさ…」 「 ……っ」 龍麻がその声に反応した時、如月の龍麻を握る手には微かに力がこもった。 龍麻は謎の地下洞窟を後にした!! ××× 「 如月、さっきの魔法何…? 一気に地上に出ちゃって不思議だった…」 びゅうびゅうと吹きすさぶ風に身体を任せながら、龍麻は突如として目の前に現れただたっ広い草原で如月に聞いた。 「 リレミトだ。迷宮から脱出する時に使う魔法さ」 「 ふうん…。凄いんだね、そんな魔法が使えて…」 「 ………」 「 ………」 暫し2人はそれきり何も言わなかった。如月は出て来た地下階段の入口を何か強固な魔法で頑丈に封じ込めており、龍麻は龍麻でただぼんやりと永遠に続くかのような地平線を眺めていた。 けれどやがて作業を終えた如月が言った。 「 さあ行こう」 「 ……何処へ?」 龍麻が訊くと如月は無表情のまま答えた。 「 昨日の予定と変更はない。徳川まで行って君とはお別れだ」 「 何で…」 「 何で? そういう約束じゃなかったか」 「 約束なんかしてないよ……」 「 ………」 元気なくそう言う龍麻に如月はここで初めて眉間に皺を寄せた。龍麻はそんな如月を見ないようにしながらぽつりと言った。 「 俺…何が起きてるか知りたい」 鬼道衆たちのことも徳川のことも、そしてこの如月のことも。 自分は知らない事ばかりだ。それはもう嫌だと龍麻は思った。 「 俺…知りたいんだ」 「 そうか」 「 協力して」 「 人を頼るのはよしてくれ」 「 じゃあ何で助けに来たんだよ!!」 あくまでも冷静な態度の如月に龍麻は声を張り上げた。そして肩で息をしながらぐっと俯き押し殺した声で続けた。 「 俺、何なのか分からないまま色々な事に巻き込まれて、如月にも迷惑掛け通しだよ…。でも…なのに、如月は何で助けるんだよ。それも俺が九角のところに行くのはマズイから? 自分の使命の為?」 「 そうだ」 「 それでも…」 龍麻はごくりと唾を飲み込んだ後言った。 「 いや、それなら尚のこと…。俺のこと護れよ。俺にも何か力があるって言ったじゃないか。俺もそう思う…さっき、そう思った…。だから…俺もお前を利用するから、お前も俺を利用するといいよ…」 「 ………」 「 どうなんだよ」 「 ……利用、か」 「 そ、そうだよ…っ」 自分で言った言葉のはずなのに、如月に言われると実際胸が痛んだ。 それでも龍麻はそれをひた隠しにしながらじっと如月を見つめた。 すると目の前の如月は龍麻の手に何かを握らせると言った。 「 ……ならば今暫くは君と共にいよう。僕も確かめてみたくなった。君が本当に…あの扉を開けられる人物なのかを」 「 え…あ……!」 龍麻は自分の手に握られている物を見て目を見張った。 それは鬼道衆たちに奪われていた残りの鍵…朱雀と青龍の鍵だった!! 龍麻は4神の鍵3つを取り戻した!! 「 如月、これ…!」 「 こういう事が得意でね…。我ながら嫌になるが」 如月はそう言った後、不意に自らの首に提げていたものをそっと取り、それも龍麻に渡した。 「 あ…」 「 それも君の物だ」 それは玄武の鍵だった!! 龍麻は4神の鍵の全てを揃えた!! 「 き、如月…」 「 その鍵を手にする間は、君は僕の主だ……龍麻」 「 如月…?」 龍麻はただ困惑と驚きに満ちた目で如月のことを見つめた。当の如月もまだどことなく戸惑いの色を瞳に宿しているようにも見えた。 それでも龍麻は如月からの鍵をぎゅっと握ると頷いた。 「 ありがとう…翡翠」 如月翡翠が仲間になった!! 《現在の龍麻…Lv15/HP58/MP50/GOLD7510》 |
【つづく。】 |
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