第66話 君は何色? |
ゆっくりと陽が昇り始める。龍麻は徐々に明るくなる辺りに目をやりながら改めて大きく息を吸いこんだ。 そういえばずっと肩に力が入っていたような気がする。 「 一度あの宿に戻ろう」 如月が言った。 「 寝てないだろう? 少し身体を休めてから出発しよう」 「 あ、怪我…!!」 言われてようやく龍麻は如月の負傷した腕を思い出した。しかし慌ててその腕に触れようとして、如月に軽くかわされてしまう。 「 何すんだよ! よく見せてみろって!」 「 僕なら平気だ」 「 平気じゃな……あ」 「 ……? 何だい」 怒鳴り声をあげようとして思わず黙りこんだ龍麻に如月が不審な顔をする。 龍麻はそんな如月を恐る恐る見やりながらぽつりと言った。 「 もしかして翡翠って人に触られるのも駄目なのか」 「 え?」 「 よく考えたら昨日も洞窟で怪我してるって叫んだ時、自分でさっさと手当てして俺に触られるの嫌な感じだったし…」 「 ………」 「 食事も人からの食べられないって言うし」 「 何が言いたい」 別段怒った風でもなかったが、如月のぶっきらぼうなその言い方に龍麻はびくりと身体を震わせた。 しかしすぐに立ち直るとキッとした目を向け強い口調で言う。 「 な、何がって程の事もないけど! ……ただ、これからまた暫くは一緒にいるんだし…その、仲間なんだし…。俺に触られるのくらい慣れろよ。…それくらい」 いいだろ、と言おうとして龍麻ははっとして目を見開いた。 目の前の仏頂面がどことなく穏やかな、楽しそうな表情に変わっていたから。 「 な…何…?」 「 ………いや」 「 何だよ! きゅ、急に笑ったりして! 俺ヘンな事言ったか!?」 「 違うよ」 しかし如月は何も言おうとしない。くるりと踵を返すと龍麻に背中を向けてさっさと1人で歩き出した。龍麻は慌ててその後を追う。 「 何だよ、何なんだよ翡翠! こら、人の質問に答えろってー!」 後ろから必死に喚いているだけの自分は何だか如月よりもひどく子どもに思えた。けれど龍麻は、そんな自分でも如月が認めて共にいようと言ってくれた事が嬉しくて仕方なかった。 ××× 「 あ〜! 龍麻、お前無事だったかー!!」 村に戻って真っ先に龍麻たちをそう言って出迎えてくれたのは、同じ宿屋に泊まっていたコスモブラックこと黒崎隼人だった。だっと2人の前に駆け寄って大声をあげる。 「 良かった、マジで良かったぜ! 昨夜お前たちがヘンな奴らに攫われていなくなったって言うから、今この村周辺を探っていたところだったんだ!!」 「 さ、攫われたって…。誰がそんな事?」 龍麻が驚いて目を丸くすると、黒崎はフンと鼻を鳴らして大袈裟に拳を握り締め言った。 「 勿論、役立たずのレッドから聞いたのさ! あいつ仮にもヒーローを名乗っているくせに、敵に眠らされて龍麻を危険に晒すなんてとんでもないぜ! 奴のことはピンクと俺が責任を持って仕置きしておいたからな!」 「 え…そ、そうなの? で、紅井は怪我とかしてない?」 「 龍麻、お前は優しいな。あいつのせいでお前は…って、あれ? で、結局龍麻はその鬼面の女とやらに攫われたんじゃなかったのか?」 黒崎がきょとんとして問う。龍麻は如月を見やりながら苦笑して指先で鼻の頭を掻いた。 「 あ〜…まあ、そうだったんだけどね。でも、何でもなかったんだ。もう大丈夫」 「 そうなのか? 本当に? このブラックに隠し事はなしだぜ?」 「 う、うん大丈夫。心配してくれてありがとう」 龍麻が黒崎に笑いかけると、自称正義のヒーローコスモブラックは突然がっしと龍麻の手を握ると言った。 「 ついては、龍麻が無事に戻ってきたら俺たちお前に話したい事があったんだよな。聞いてくれるか?」 「 は、はあ……」 殊の外真剣な目をした黒崎に龍麻は戸惑いながらも反射的に頷いていた。 如月は何やら訳知り顔でため息をついていたのだが。 名もない村、宿屋。 「 お、おおおお、龍麻、無事だったのか〜!!!」 「 あ、紅井、その顔…! それにそのロープは…!?」 宿屋の2階、コスモたちが泊まっている部屋に通された龍麻と如月は目の前で今にも号泣しそうな勢いのコスモレッドこと紅井猛の姿を見て一様にぎょっとした。 紅井は床に胡坐をかいた状態で両腕は後ろ手に縛られており、顔は殴る蹴るの暴行を受けた後で痛々しく腫れ上がっていた。 「 ひ、ひどい…! まさか水角さんがこんな事を…!?」 龍麻がショックを受けたように手で口元を押さえると、紅井の隣に立っていたコスモピンク(本郷桃香)が首をかしげた。 「 水角さんって? あ、猛が見たって言う鬼面の女ね!?」 「 そ、そう…」 「 あーあー違うわよ。あいつはその謎の敵にあっという間に眠らされちゃってね! 全く役に立たないんだから! でも、本当龍麻君が無事で良かったわ。怪我とかしてない!?」 「 あ、俺は大丈夫、如月が…」 「 あー本当だ、如月さん! あんた大丈夫か!?」 「 ああ」 黒崎の大声に如月が嫌そうな顔をする。しかしそれには構わず今度は本郷が声を張り上げ、横にいる紅井の頭をべしりと叩いた。 「 ったく、全部コイツの不甲斐なさのせいよね! ごめんね、龍麻君たち!!」 「 そんなこと…」 龍麻が慌てて否定しようと首を振ったが、それは当の紅井自身の怒声に遮られた。 「 あのな〜! さっきから何回も言ってっけど! お前らなんかはじめっから奴の術中にハマッてそこらの村人と一緒に眠らされてただろッ。1人勇敢に戦った俺っちだけを悪者扱いでこの仕打ちは何だ〜!? な、龍麻、こいつらひどいだろ〜!?」 「 ヒーローがみっともなく弁解すんじゃねー!!」 「 そうよ猛、ごちゃごちゃとヒーローらしくないわよ!!」 「 ど、どっちがヒーローらしくねーんだ!!」 「 あ、あの…」 ぎゃーぎゃーと喧嘩をし始めるコスモたちに龍麻が困惑していると、如月が大きくため息をつく。ぽんと龍麻の肩を叩き、自分が一歩前へ出た。 「 それで君たちが龍麻に話したい事とは?」 「 あ、そうだった!」 「 そうだったわ!」 「 お〜そうだったな!」 如月の言葉に逸早く反応した黒崎、そしてばっと口喧嘩をやめた2人が一斉に龍麻を見る。 「 あのな龍麻」 そうして後から部屋の中に入って2人に並んだ黒埼が龍麻を前ににやりと笑って言った。 「 昨晩話し合ったんだけどな! お前はグリーンでいいか!?」 「 ……え?」 「 いや〜色々な案が出たんだけどよー。龍麻の魅力は汚れのない真っ白なホワイトだろとか、ピカピカのゴールドとかな! 色っぽい路線のパープルとかも捨てがたく…いやいや…」 「 あ、あの黒崎…?」 「 お、すまんすまん」 途惑う龍麻に黒崎は苦笑すると改めて龍麻に向かって口を開いた。 「 で、まあ色々悩んだ末。やっぱり平和の象徴・グリーン! これだろ! 自然を護ろう、野菜を食おう! …で、お前はグリーンに決まったってわけだ!!」 「 あの、それ一体何の話…」 「 だから! 俺たちの仲間なら名称が必要だろ!?」 「 え!?」 あんぐりと口を開いたまま絶句する龍麻に今度は本郷が言った。 「 龍麻君、昨夜の貴方は困っている私たちに自ら手を差し伸べてくれたり、とても優しかったわ。一緒の食事もとても楽しかった! 貴方は人を惹き付ける魅力がある! まさに真のヒーローたりえる素質を持っていると私たちは思ったの!」 本郷のその台詞の後を今度は縛られたままの紅井が続ける。 「 龍麻! お前、俺っちたちと一緒にこの世界を救うヒーローになろうぜ! 一緒に悪を倒すんだ!」 「 ちょ、あの、ちょっと話が…」 どんどん勝手に話を進めるコスモたちに龍麻はどうしてもついていけない。どうやら仲間になろうと言っているようだが、グリーンだの何だのはちょっと嫌だなあと思う。 それでも龍麻が自分たちの仲間になる事は彼らの中では既に決定事項のようだ。ワイワイと更に勝手な話し合いがもたれた後、本郷が2人を代表して言う。 「 それでね、私たち、おじいちゃんたちを徳川に送って行った後、秋月に行くって言ってたでしょ。あれ、少し延期させる事にしたのよ」 「 え…それはどうして?」 龍麻が訊くと本郷は再び拘束されている状態の紅井をぺちりと叩いて答えた。 「 だって昨晩の鬼面の事もそうだけど。色々調べる事ができたでしょ。幸い昨夜はこの村の人たちも全員眠らされただけで特に危害は加えられなかったみたいだけど、この辺りに何か悪い事が起きているのは確かよ。龍麻君たちもそれで昨晩色々と動いていたんでしょ?」 「 そうだぜ。そもそも龍麻、お前が無事で本当良かったけど、昨夜の鬼面の奴! ありゃ、お前を狙ってたんだろ? あれは何者なんだ? それにあいつらに攫われてたんじゃなきゃ、お前、昨晩は一体何処へ行ってだんだよ? そういえば何かを追いかけようとしてたよな?」 「 あ、うん…」 そういえばあの影は一体何だったのだろう。あの妖しげな影を追って走り始めたのが最初だったが、結局あれの正体はうやむやのうちに鬼道衆に連れて行かれ…。 龍麻が考え込もうとした時、今度は黒崎が言った。 「 如月さん、あんたは何か知っていそうだな? 良かったら俺たちにも話してくれないか」 「 あ、そうね。如月君は昨夜の鬼面の魔法にも掛からずに龍麻君を見つけられたみたいだし。一体どういう事なのか知っていたら私たちに話してくれない?」 「 俺っちたち、もう仲間だもんな!」 「 そうだぜ! 俺たちで出来る事なら協力するしな!」 「 そうね!」 「 ……そうか」 嬉々として言う3人を前に、如月は暫し口を噤んでいたものの、やがて静かに頷いた。 そして。 「 ならば是非協力して欲しい事があるんだが」 「 え…? ひ、翡翠?」 「「「 何なりと!!」」」 3人が声を揃えてそう叫ぶと、如月は驚く龍麻には構わず、氷のように冷たい、それでいていやに澄んだ声で言った。 「 僕たちは疲れているんだ。部屋で休ませてくれないか」 「「「 ………」」」 そのきっぱりとした発言に3人はしーんと黙りこくった後、一斉にこくこくこくと頷いた。 明らかに迫力負けしたようだった。 「 ぷっ!」 龍麻はそんなコスモたちと如月の一瞬のやり取りに思わず吹き出してしまった。どうにもこの4人が絡むと可笑しくて仕方ない。案外素晴らしいチームになるんじゃないだろうかと思ってしまう。 そうして龍麻は、如月にも新しいカラーをくれるなら本気でコスモ入りしてもいいかもしれないなどと考え始めていた。 コスモレンジャーこと、紅井猛、黒崎隼人、本郷桃香が仲間になった!! 《現在の龍麻…Lv15/HP58/MP50/GOLD7510》 |
【つづく。】 |
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